8月だけで20件もの被害が。ソロキャンプブームに陰を落とすクマ襲撃増加。肉食化の可能性も

8月だけで20件もの被害が。ソロキャンプブームに陰を落とすクマ襲撃増加。肉食化の可能性も

  • ハーバービジネスオンライン
  • 更新日:2020/09/15

8月に長野県のキャンプ場でクマがテントを強襲し女性がケガをする事件が起きた。クマが人に襲いかかる獣害事件はたびたび報じられてきたが、「ソロキャンプ」がブームになるなか、その危険性について専門家に話を聞いた。

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木に登ってクリを食べるクマ。米田氏撮影。クマは木登りも上手なので、木に登って逃げようとしても無駄。木は登らず、陰に隠れる

◆キャンプ場でテントごと引きずられる事件が発生

8月9日の深夜、長野県松本市の上高地にあるキャンプ場でクマが出没し、テント4張りを襲った。このうち、ソロキャンプをしていた50代の女性がテントごとトイレの奥まで引きずられ、足に10針を縫う大ケガをしたという。

近年、クマによる人身被害は増加傾向にある。今年に入ってからも、8月だけで下のように20件近くの獣害事件が発生している。キャンプ場などレジャー施設に乱入したケースもあった。

【8月に起きた主なクマの人身被害】

▼8月1日 福島市飯坂町の竹林で「クマに襲われた」と70代男性が警察に通報

▼8月2日 三重県大台町の河原でバーベキューをしていた男女2人が襲われて負傷

▼8月3日 岩手県久慈市の山林でキノコ狩りをしていた70代男性が襲われてケガ

▼8月5日 岩手県野田村の山林でキノコ狩りをしていた男性が襲われてケガ

▼8月8日 長野県長野市で犬の散歩中に2頭のクマと遭遇した女性が襲われて顔にケガ

▼8月9日 長野県上高地のキャンプ場でテント4張りが襲われ、女性1人がケガ

▼8月10日 長野県大町市のキャンプ場近くで散歩中の女性が頭を噛まれて軽傷

▼8月10日 福井県小浜市の旧国道を歩いていた59歳男性が襲われてケガ

▼8月14日 岩手県二戸市の60代男性が農作業中に襲われて顔などに計7針縫うケガ

▼8月17日 三重県大台町の登山道で下山中の30代女性2人が襲われて軽傷

▼8月19日 岩手県北上市の80代女性が畑で野菜を採っていたところを襲われてケガ

▼8月19日 岩手県久慈市の宇部町内に住む80代女性が畑で作業中に襲われてケガ

▼8月20日 岩手県北上市の80代男性が自宅近くの畑で作業中に襲われてケガ

▼8月20日 福島県南会津町で畑作業をしていた78歳の女性が襲われて軽傷

▼8月22日 広島県庄原市でイノシシの罠にかかっていたクマに襲われた男性がケガ

▼8月23日 群馬県みなかみ町月夜野の町道で散歩していた米国人が襲われて重傷

▼8月24日 北海道士別市の山林に銃を持って入った猟友会の会員が襲われて大ケガ

▼8月29日 秋田県鹿角市の市道で自転車に乗っていた男子高校生が襲われてケガ

◆人間のエゴが招いた「人災」

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米田氏撮影のツキノワグマ。もともとはサケも食べていたがダムなどができて遡上できなくなり、ドングリ中心の食性になったという

なぜ山奥に住むクマが人里まで下りてくるのか。ツキノワグマの生態を研究している東京農工大学大学院准教授の小池伸介氏が話す。

「今年は梅雨が長かったことで植物の生育が遅れて、本来なら食べていた木の実が採れなかった可能性はあるかもしれません。それとは別に、キャンプ場へ行けば食べものがあるというのを学んでいたクマもいたのでしょう。最初は人間が怖かったけど、勇気を出して行ったら簡単に食べものにありつけたといった成功体験の積み重ねがクマを大胆にさせている。すなわち食べものや生ゴミを放置した人間がクマを呼んだことになります。これは人災でもあるのです」

自然環境を乱す人間のエゴが、獣害事件が多発する温床になっているということだ。

◆重大な人身被害は10月がピーク

冒頭で触れた女性は10針を縫うケガを負ったが「8月だったからまだマシだった」とツキノワグマ研究家の米田一彦氏は言う。

「8月に出るのは病気やケガをしていたり、老齢のクマなんですよ。若いクマや大きなクマがいる山ではエサにありつけないから人里に出てくる。9月になると若いクマ、10月になるとメスのクマというふうに弱い順で出てきて、奥山のエサが少なくなってきた10月下旬あたりに巨大なクマが登場するのです。だから重大な人身被害は10月末がピークになります」

前出の小池氏によると、クマは1年の8割くらいのエネルギーを秋に蓄えるという。そのため、この時期にはブナやミズナラの実などのドングリを食べまくる。豊作であれば山から出てくることはないが、不作で早めになくなれば別の食べものを求めて出てくる可能性も高くなる。ドングリが凶作ならば巨大クマの出没も早まり、人身被害に遭う危険性が高まるのは必至だ。

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テントが襲われたキャンプ場。クマは単独行動で他のクマにエサ場情報を伝えないという。襲ったクマは駆除されているので一安心か

◆鹿や猪の死体を食べるクマの肉食化が進んでいるのか

’16年に発生した「十和利山熊襲撃事件」ではクマが人の遺体を食べたとされている。だが、ここで気になるのは、クマが自ら食欲を満たすために人間を襲うのか?という点だ。小池氏は「現状では、多くのクマが人間は怖いものだと思っていますので、人を食べものだという認識はまったくありません。人を食べようと思って山から下りてくることはないですね」という。ツキノワグマは雑食だが9割は植物を食べて、残りの1割はハチやアリ。鹿や猪の死体が目の前にあれば肉として食べるが、死体を探す労力を考えれば植物をたくさん食べるのだとか。一方で、不穏な徴候も見て取れる。米田氏の分析によると、近年、クマの肉食化が進んでいるというのだ。

「三陸海岸で海猫の卵や雛を食べるクマが出没しており、周辺では家畜の鶏が食害を受けている。昔は棲息地が限られていた鹿や猪も、今では本州のどこでも見られます。駆除も進んでいますが、原発事故のあった福島では食用にできないので、例えば鉄砲で撃たれたまま放置されているケースもある。こうして山野に散らばった鹿や猪の死体をクマは食べているわけですから、肉食化が進んでいるというのは間違いないですね」

食べようとして襲うのか、襲った結果、食べるのか。いずれにしても遭遇したら襲われる危険性がある。クマにはできるだけ遭わないようにすべきなのに、それでもクマの棲息地である山につくられたキャンプ場へ行くということならば、下に書かれている対策が必要不可欠となる。

特に重要なのは「1人は危険なので、2人以上で行く」ということ。1人が襲われても、もう1人が助けを呼べば死亡が重傷に、重傷が軽傷になる可能性は高い。つまり、ソロキャンプは非常に危険ということだ。あと生ゴミなどの食べものを放置するのはクマを餌付けするのと同様。クマの被害は人間の怠惰がもたらす人災という認識を強く持つべきだろう。

◆ツキノワグマが人の死骸を食べた!?「十和利山熊襲撃事件」とは?

ここで、改めて前出の「十和利山熊襲撃事件」について説明しておこう。

「十和利山熊襲撃事件」とは、クマを追いかけて49年の米田氏が「私の人生の中で最も怖い事件でした」という、’16年の5月から6月にかけて秋田県鹿角市の十和利山で起きたクマの襲撃事件を指す。タケノコ採りに来ていた人をクマが次々と襲撃し、4人が死亡、4人が重軽傷を負った戦後最悪の獣害事件である。5月21、22、30日に60~70代の男性が相次いで遺体で発見。6月10日に70代の女性が遺体で見つかったが、いずれも遺体はクマに食べられた痕があったという。

女性の遺体発見現場の近くにいたメスのクマを猟友会員が射殺。遺体を解剖したところ、胃の中から人体の一部が見つかっている。しかしクマ社会ではメスよりもオスが優位にあることから、このメスのクマが主犯ではないはずと周囲を捜索したところ、大型のクマを発見。主犯と推定し、鹿角市の頭文字をとって「スーパーK」と名づけて行方を追った。他にも複数のクマが食害したとの見方をする米田氏は「人を襲いやすい危険なクマの系統があるんじゃないかと」考え、毎年鹿角市に1か月程度行って生態を調査し続けているという。

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米田氏が撮影した「スーパーK」の写真。人間を食害したクマはこのクマを含めて5頭いて、うち3頭は駆除が確認されていない

◆キャンプや登山などで山に入るときのクマ対策

①1人は危険。2人以上で喋りながら歩くこと

②クマスプレーは必ず所持していつでも使えるように

③鈴やラジオもできれば携帯して鳴らしておく

④こちらに気づいて逃げてもらうという対策が大事

⑤台風などの悪天候予報日の2~3日前は危険

⑥万が一、遭ってしまったらまっすぐ後ろに下がる

⑦できるだけ左右に動かずまっすぐ下がって逃げる

⑧近くに木があれば後ろに身を潜めて動かない

⑨襲われそうになったらうずくまって首を隠す

⑩テントの外やBBQ後に生ゴミを放置しない

⑪ブナやミズナラが凶作の地域にはなるべく行かない

【小池伸介氏】

東京農工大学大学院准教授。野生のツキノワグマを中心に森林の動物の生態を解析。研究目的で捕らえたクマは100頭以上。NGO『日本クマネットワーク』副代表。

【米田一彦氏】

ツキノワグマ研究家。NPO法人『日本ツキノワグマ研究所』理事長。クマに遭遇すること3000回以上。襲われたこと8回。2000件近くの人身被害例を研究。

<取材・文/上野充昭 写真/朝日フォトアーカイブ 米田一彦氏提供 kumagai>

※週刊SPA!9月15日発売号より

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