イラン、イスラエル〝影の戦争〟激化、紅海で革命防衛隊軍用船に吸着機雷 イスラエル海軍のエリート特殊部隊「フロティラ13」

イラン、イスラエル〝影の戦争〟激化、紅海で革命防衛隊軍用船に吸着機雷 イスラエル海軍のエリート特殊部隊「フロティラ13」

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  • 更新日:2021/04/08
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イラン革命防衛隊の軍用船が6日、紅海上でイスラエルによると見られる機雷攻撃を受けた。両国はこのところ、中東の海域で互いの船舶を攻撃する“影の戦争”を展開してきたが、一気にエスカレートした格好。この日はウィーンでイラン核合意の再建をめぐり、米国とイランが間接協議しており、攻撃激化は「交渉をつぶすため」との指摘も出ている。

(petrovv/gettyimages)

居座っていた〝スパイ船〟

中東のメディアや米ニューヨーク・タイムズなどによると、攻撃を受けたのはイランの貨物船サビズ。同船は、実際には革命防衛隊が軍事転用していた船舶で、数年前から紅海の出入り口であるバブエルマンデブ海峡付近の公海上に停泊していた。

革命防衛隊は停泊の理由について、海賊からイラン船を護衛するためとしていたが、アジアと欧州をつなぐ大動脈である紅海の航行の情報を収集する〝スパイ船〟だったと指摘されている。イランのタスニム通信はサビズが吸着機雷による攻撃を受けたと伝えた。サビズの甲板には何隻かの武装高速艇が積まれており、革命防衛隊の前線基地だったとの報道もある。

ニューヨーク・タイムズが米当局者の話として報じたところによると、イスラエルから米国に対し、同日午前7時半にサビズを攻撃したとの通告があったという。理由として、イランによるイスラエル船攻撃への報復、と説明した。イスラエルの自動車運搬コンテナ船が3月25日、ホルムズ海峡近くのアラビア海で、イランからと見られるミサイル攻撃を受けていた。

イスラエルによるイラン船の攻撃激化は最初、米ウォールストリート・ジャーナルが特ダネで報じたもの。その後、ニューヨーク・タイムズなどが後追いした。それらの報道によると、イスラエルは2019年以降、少なくとも10隻を超えるイラン船を攻撃した。イラン石油省当局者は攻撃を受けたのは20隻よりも多い可能性に言及した。

標的になったイラン船のほとんどはシリア向けの石油タンカーだったが、2隻はイラン配下のレバノンの武装組織ヒズボラなどへの軍事物資を運搬していたという。今月初めにもイスラエル沖80キロの海上で「スペインに向かっていたイラン貨物船がテロ攻撃を受けた」(イラン国営メディア)事件が発生したが、イスラエル高官は同船がシリアへの軍事装備品を運んでいたとしている。

ベイルートの情報筋はイスラエルがイラン攻撃を激化させている狙いとして、①ヒズボラへの武器輸送、とりわけ精密ミサイル部品の搬入②米国の経済制裁をすり抜けるシリアへの石油売却③シリア駐留の革命防衛隊やヒズボラへの武器送付―を阻止するためであることを指摘している。

シリアへのイラン石油タンカーは紅海からスエズ運河を通って地中海に出る航路を取るが、通常の場合、地中海側にはシリアを支援するロシア艦船が待機し、イランタンカーを護衛するという。ニューヨーク・タイムズによると、石油不足に悩むシリアのアサド政権はイランからの石油購入代金を現金、ないしはシリア駐留の革命防衛隊への補給支援で肩代わりするとされる。

イスラエル海軍のエリート特殊部隊「フロティラ13」

同紙がイスラエル当局者2人と米当局者の話として伝えるところによると、イラン船への攻撃を仕掛けているのは、イスラエル海軍のエリート特殊部隊「フロティラ13」。同部隊はイスラエル建国後の早い段階から数々の秘密作戦を実行してきたという。イスラエルは従来、空爆でシリア駐留の革命防衛隊の基地などを攻撃してきたが、一連の船舶攻撃により、海上を舞台に新たな戦線が開かれた様相となっている。

イラン核合意については、トランプ前米政権が2018年に離脱し、イランに厳しい制裁を科してきた。これに対し、イランは核濃縮度を核爆弾製造に近づく20%に上げるなど合意破りに出て、両国の緊張が高まった。核合意への復帰を掲げて登場したバイデン政権は2月、イランとの直接対話を呼び掛けたが、イラン側が拒否。先月末になって欧州連合(EU)の仲介で両国が間接協議をすることで合意し、4月6日のウィーン交渉につながった。

間接協議では米国による対イラン制裁解除の手順と、イランの核開発制限に向けた措置に関する2つの専門部会が始動。イラン側は「前進があった」と評価したと伝えられている。9日には全体会議が開催される予定。米国の核合意復帰と制裁解除が容易に進むとは考えられないが、イスラエルのネタニヤフ政権は交渉が進展することに懸念を深めている。

イスラエルは核合意におけるイランの核開発の規制が2030年までしかなく、制裁が解除されれば、イランが再び核開発に出るのではないかと恐れている。このため、イスラエルとしては米国の核合意復帰をなんとしても阻止したいのが本音だ。

ベイルートの情報筋は「イスラエルが核合意の復帰交渉をつぶすためにイラン船攻撃を激化させている可能性がある。イランの報復を誘い、海上の“影の戦争”が激化すれば、米国内でイランの脅威論が強まり、バイデン政権の合意復帰にブレーキを掛けられると踏んでいるからだ」との見方を示している。

刑事被告人であるネタニヤフ首相が政権維持のためにイラン船舶への攻撃を強化する可能性があるとの指摘もある。先月実施されたイスラエルの総選挙では、どの党も過半数を獲得できなかったが、現在、ネタニヤフ氏が大統領から組閣を要請され、連立工作に入っている。

だが、連立工作が成功する見通しは明るくない。このため「ネタニヤフ氏がイランとの緊張を高めて、各党の支持を集めるという政治的な賭けに出ようとしているかもしれない」(同筋)。“影の戦争”が本格的な衝突に発展する恐れがある。

佐々木伸

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