【事実隠ぺいの代償】国益に反する厚労省のリスクコミュニケーション失敗《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義29》

【事実隠ぺいの代償】国益に反する厚労省のリスクコミュニケーション失敗《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義29》

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  • 更新日:2020/09/16

なぜ、日本の組織では、正しい判断は難しいのか。
なぜ、専門家にとって課題との戦いに勝たねばならないのか。
この問いを身をもって示してくれたのが、本年2月、ダイヤモンド・プリンセスに乗船し、現場の組織的問題を感染症専門医の立場から分析した岩田健太郎神戸大学教授である。氏の著作『新型コロナウイルスの真実』から、命を守るための成果を出すために組織は何をやるべきかについて批判的に議論していただくこととなった。リアルタイムで繰り広げられた日本の組織論的《失敗の本質》はどこに散見されたのか。敗戦から75年経った現在まで連なる問題として私たちの「決断」の教訓となるべきお話しである。

■情報を隠した代償——国際的な信用失墜

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【大本営発表「転進」のウソ】ソロモン諸島ガダルカナルの戦いで壊滅した第2師団(1942年10月25日)。翌43年より大本営発表では「転進」「玉砕」の言葉が頻出する。すなわち「敗北」「殲滅」を求めない失敗の本質が「記録」として残されている/写真:パブリック・ドメイン

日本国内だけの問題であれば、「みんな一致団結して頑張ってるんだから、つべこべ言うな」といういつもの日本の論理でも納得してくれますよ。

でも、世界は絶対、それでは許してくれない。みんなが頑張ってる? だから何? というのが世界の見方です。BBCやCNNといった海外メディアは、そう見ている。日本の論理なんて関係ない。

だから、厚労省たちはリスクコミュニケーションに失敗したんです。

ぼくがYouTubeで船内の状況を話したことに対して「コミュニケーションが失敗した」と批判する人がいましたけれど、それを言われるのは日本だけで、コミュニケーションに失敗してるのは、じつは厚労省のほうなんです。

なぜなら、コミュニケーションで大事なことは、事実をちゃんと公表することだからです。情報公開と透明性が何より大切だからです。

二次感染が拡がるダイヤモンド・プリンセス船内の状況は、海外ではインキュベーター、つまり卵を孵す装置にたとえられるほど悲惨なものでした。それなのに、厚労省は「ちゃんとやってる」という言い方をしてしまった、それこそが大失敗なんです。

あれで、日本の信用はガタ落ちですよ。ちゃんとできてないときは、「ちゃんとできてない」と言うべきだったんです。

大変な数の感染者を出しているイタリアやイランは、「ちゃんとやってる」なんてひと言も言いません。

ちゃんとできてないこと自体は、ここでは問題ではない。新型コロナウイルスの問題は、もはや世界中で起きていますから、その意味ではちゃんとできてる国なんてひとつもないですよ。

でも、ちゃんとできてないにもかかわらず、「ちゃんとできておりますよ」という日本の国内では通用する論法を、世界に向けてやっちゃったのが、厚労省の何よりの失敗ですよ。それこそが国益に反することです。

政府が最も避けたかった、日本の信用をガタ落ちさせる事態をつくり出したのは、ぼくではなくて厚労省なんです。

◼︎あれは本当なのか。事実を隠蔽してないか

そして、ダイヤモンド・プリンセスの情報を矮小化しようとして変な前例をつくっちゃったので、これからずっと「日本は本当のことを言ってるのか」って言われ続けるでしょうね。事実、これを書いている(2020年3月21日の)時点では日本の感染者数は欧米の多くの国より少ないままですが、「あれは本当なのか。事実を隠蔽していないか」という海外のジャーナリストの問い合わせがぼくのところにどんどんやって来ます。ぼくは日本政府が露骨な感染者隠しをしているとは考えていませんが、クルーズ船で「ちゃんとやっている」と言ってしまった以上、そういう疑われ方をするのは当然です。

ぼくが船の中に入って、問題点を指摘していたら追い出されたこととも根底は一緒です。言うことを聞かないやつは出ていけ、とやったのは、要するに現実から目を背けて自分たちの物語に固執したかったわけですから。

ぼくが外国のメディアとの記者会見で、「これが事実で、こういうことがあったんだ」と話したときにも、国内ではものすごい数の非難が来ました。「日本の悪いところをBBCとかCNNとかに言うなんてひどいやつだ」って匿名の手紙が来ましたけど、これは日本にとって都合の悪い事実を外に知らせるのが良くないという発想の仕方ですね。

それって考え方が逆じゃないですか。日本にとって不都合なこと、日本が間違っていたことをちゃんとオープンにすることこそが、リスクコミュニケーションなんです。

だから、あれは本来ぼくがやることじゃなくて、厚労省がやるべきことなんです。クルーズ船の対応ではこういうところで失敗しました、ということをちゃんとオープンにしていれば、日本はクルーズ船でしくじったかもしれないけど、あんな大変な状況だからやむを得ないよねって、ある程度の同情を得られたはずなんですよ。

ところがぼくが「こことここはできてない」と話したのに対して、厚労省はそれでもなお「いやそんなことはない。ちゃんとできてますよ」って言っちゃったから、外国の人たちはみんな「ああ、日本政府は信用できないな」と思ったんです。

そこが理解できない日本人も多くて、「岩田は外国人の記者クラブに英語であんなことを言っちゃって、国賊的な奴だ」って怒る人もいるわけだけど、逆なんですよ。中国は新型コロナで海外メディアへの情報開示を積極的にやっています(ただし、その内容がどこまで本当かはぼくには分かりません)。これは戦略です。国際社会での信用を得るには透明性と開示性が大事だと中国は知っているのです。だから、うまくいかなかったことはうまくいかなかったと認めることが、信頼性を高めるために本当は必要なことなんです。

うまくいってないにもかかわらず「うまくいってます、大丈夫です、ちゃんとできてます」という大本営発表をする。本当は負けているのに「転進してます」とか「あれは想定内だったんです」みたいに言う東大話法を続けているから、もう信用してくれない。

優しい日本のメディアならそれで許してくれますけど、外国のメディアは厳しいので許してくれない。先日もBBCの取材を受けたんですが、彼らは日本政府の言ってることを全然信用してないですよ。「日本政府はすぐに話をいい感じに持っていこうとする」と思われている。一回失った信用を元に戻すのは大変なんです。

ダイヤモンド・プリンセスの感染対策は失敗した、というのが、世界的にほぼコンセンサスの取れた評価です。「あれはうまくいってたんじゃないの」と考えてる国は一つもない。そしてうまくいかなかったこともさることながら、それ以上に、日本政府が失敗を認めなかったことが世界の心象を害したんです。
(「新型コロナウイルスの真実㉚」へつづく)

岩田 健太郎

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