「子供が巣立った途端、気力が...」高齢主婦に潜む脳の危険信号

「子供が巣立った途端、気力が...」高齢主婦に潜む脳の危険信号

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  • 更新日:2021/10/14
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近年の研究では、脳の寿命も身体と同じように健康な働きを維持したまま延ばしたり、知的活動で活性化できることが明らかになっています。本記事では、高齢者の「意欲の状態」から推察できる健康不安について、アルツハイマー病の基礎と臨床を中心とした老年精神医学の専門医が解説します。※本記事は、新井平伊著『脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法』(文春新書)から抜粋・再編集したものです。

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脳の機能維持には「取り組みへの意欲」が不可欠

脳の老化は、次の4段階に分けて仕組みを知り、それぞれに予防方法を考えます。

身体全体の老化

脳の血管の老化

脳の神経細胞の老化

メンタルの老化

脳の神経細胞の老化──「楽しみ」を見つけてカバーする

脳の寿命と密接な関わりがあるのは、脳を構成する神経細胞(ニューロン)(注1)とグリア細胞(神経膠細胞)(注2)のネットワークです。

(注1)神経細胞(ニューロン):脳内の細胞は、神経細胞と、その働きを支えるグリア細胞の2種類に分類される。神経細胞は情報の伝達に関わり、脳全体で一千数百億個、寿命は150年あるとも言われる。

(注2)グリア細胞(神経膠細胞):中枢神経の内部でニューロンの間を埋めるような細胞要素、つまり星状膠細胞、稀突起膠細胞、小膠細胞、上衣細胞を総称する語。

神経細胞は情報処理の主役で、グリア細胞は神経細胞を保護し、栄養を与えたり老廃物を排除するのが役目です。ニューロンと血管を繋ぐ役割も担っています。

神経細胞の老化には、いくつかパターンがあります。

まず、数が減っていく老化です。加齢に伴い、神経細胞一つひとつの働きは低下しますが、全体の数も減ってしまうのです。その数は、毎日10〜20万個に達するという説もあります。もっとも、脳の神経細胞は1千数百億個もありますから、みるみるうちに機能が衰えていくわけではありません。

しかし、神経細胞が減るにつれ、脳は萎縮して、シワが深くなっていきます。高齢者の脳をMRIやCT(X線コンピュータ断層撮影)の画像で見れば、認知症ではなくても萎縮している様子がわかります。正常な老化でも、神経細胞の減少によるダメージは受けるのです。とはいえ、物忘れのような症状が50代くらいから現れるケースは少ないといえます。

記憶を司っているのは大脳辺縁系にある海馬(かいば)(注3)ですが、海馬が衰えるのは、もっと高齢になって正常老化が進んだ場合が多いからです。

(注3)海馬:大脳辺縁系の一部で、側脳室の近くにある部位。古皮質に属し、本能的な行動や記憶に関与する。

老廃物が溜まるのも、脳の老化現象です。神経細胞の中だけでなく、神経細胞と神経細胞の隙間やくも膜の下などに、いろいろな老廃物が溜まってきます。リポフスチンという色素が沈着して作られる球体は、皮膚にできるシミと同じ性質のものです。神経細胞の減少や老廃物が溜まっていく様子は、顕微鏡や画像診断で確かめることができます。

神経細胞が減ると新しく生まれてくる機能もあるのですが、ごくわずかにすぎません。代わって神経細胞を保護してくれるグリア細胞が増えるほか、補完するネットワークも働きます。

神経細胞の老化を防ぐには、こうした代償機構やネットワークの働きを高めることが大切です。

いわば、衰える部分の周りを強化するので、筋肉がいいモデルになるでしょう。筋肉も使わなければどんどん衰えますが、鍛え続ければ70歳や80歳になってもある程度は維持できます。

プロ野球ロッテのエースだった村田兆治さんは、引退から30年が過ぎて70歳になっても、始球式に登場すると現役時代を思わせるようなマサカリ投法で速球を投げ込んでいます。60代以降も毎日、腕立て伏せ500回、腹筋と背筋を各1000回などのトレーニングを続けてきたそうです。何もしないか、鍛えるか。その差は大きいのです。

身体の筋肉を鍛えれば強く太くなるのと同じように、代償機構とネットワークを働かせることによって、脳の神経も機能を維持できます。筋肉と異なるのは、腹筋や背筋だけに絞るようなトレーニングができないことです。

つまり、脳全体の機能を高めるような工夫が必要です。そのためのキーワードは何かというと、自分自身の「意欲」です。何事にも貪欲に取り組もうという意欲こそ、脳の機能を維持する最大の秘訣です。

意欲を持たねば、感情は動かず、知能も駆使できず…

●「意・情・知」の大切さ

「知情意」という言葉があります。人間の精神活動の基本で、普通は「知性・感情・意志」を指します。ドイツの哲学者カント(注4)の唱えた「知情意」は、情と意が右と左で知が上にある、三角形の概念です。

(注4)カント:エマヌエル・カント。1724~1804年、ドイツ観念論の起点となった、近世哲学を代表する最も重要な哲学者。主著に『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』。

私は「知性・感情・意志」ではなく、「知能・感情・意欲」と捉えています。知能とは、人間が道具を使ったりコミュニケーションをとったり、社会生活を送っていく上での認知機能のことです。

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[図表1]カントが考える精神構造

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[図表2]筆者がイメージする精神構造

●土台は意=意欲

この中で土台となるのは、意欲です。一番下に意、その上に情、一番上に知が乗っているタテ並びの「意・情・知」です。

まず意欲を持たなければ、感情は動かず、知能を駆使するような活動に至らないからです。脳の健康は、意欲がどのくらい強いかに左右されると私は考えています。

身体のコンディションと血管の健康が、そこへ影響を及ぼします。身体が不調のときは、何をするにもやる気が湧きません。身体の調子がよければ、前向きにも貪欲にもなれます。

人間の活動にとって最も重要な意欲を、脳の中で司る部分は前頭葉です。ところが血管性の障害が起こったとき、真っ先に機能が衰えるのは前頭葉なのです。するとたちまち、意欲が失われてしまう。繰り返し述べている血管の大切さに、やはり話は戻るわけです。

意欲が活発になると、脳の神経細胞は活性化します。ニワトリが先か卵が先かのような話ですが、神経細胞がたくさん働いている人は意欲が旺盛で、意欲があれば代償機構やネットワークも維持されるのです。

意欲には、自分から進んで取り組むことによって出てくる場合と、周囲から期待されることによって出てくる場合があります。

仕事そのものが生きがいだと感じる人は、自分の目標を達成することに意欲が湧くでしょう。仕事は客観的な成果を要求されますから、たとえ気が進まなくてもやらざるを得ない面があります。でもその時にも、課せられた責任を果たすとか顧客のために尽くすという点で、やりがいを感じる人もいるでしょう。

定年間近になった会社員が窓際へ追いやられたり、再雇用で給料が下がったために意欲を失くしてしまうのは、脳にとってもったいない話です。

若い社員に伝えるべき経験や、ベテランにしかできない仕事もあるはずです。好きなことや新たなやりがいをセッティングしてあげられれば、脳の神経細胞が活性化され、ネットワークも活発になります。そこでもうひと働きできれば、会社にとってもプラスになるはずです。居場所を与えられることや他人から得られる評価は、受け身の意欲だとしても脳を刺激するのです。

定年退職した途端、生気をなくしてしまう人がいます。主婦の方から「子供が小さいときは頑張っておかずをいっぱい作ったけど、独立してしまってダンナだけになったら、もう作る気がしない」というお話を聞くこともあります。

こういう方々は、意欲をもてる対象を新たに探す必要があります。たとえば、働くのはお金を稼ぐためと割り切っている人は、やりがいのある趣味を見つけなければいけません。

意欲は、生物として本能的に備えている睡眠欲や食欲、性欲と結びついています。人によって低かったり、病的に高い場合もありますが、多くの人間は理性や道徳観によってその度合いをコントロールしています。

フロイト(注5)の精神分析学では、自分を抑えるスーパーエゴ(超自我)という心の領域があって、意欲や欲望や本能と、道徳心や社会性のバランスを取っていると考えます。

(注5)フロイト:ジグムント・フロイト。1856~1939年、オーストリアの精神科医、精神分析の創始者。主著に『夢判断』『精神分析入門』。

脳科学から見ると、睡眠欲や食欲も含めた本能的な欲求は大脳辺縁系が司っていて、左右の大脳半球に挟まれている間脳が中継しています。その欲求をコントロールしているのは、人間にとって司令塔に当たる前頭葉です。本能を理性で制御しているわけですから、フロイトの説は脳科学的に見ても正しい部分があるといえます。

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[図表3]フロイトの人格構造の模式図 自我は広大なエスにつらなり、前意識的なものと、なかば無意識的なものとに分かれながらもつながっている。超自我は自我ともエスとも連絡があるが、一応の独立性をもっている。

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[図表4]脳の構造 本能を理性で制御するのが前頭葉。

脳の健康には「前向き」なほうが望ましい

●「情」で大切なのは「楽しい」という感情

意欲を高めることの次に大事なのは、情です。感情にもさまざまありますが、脳の健康のためには、悲しみや辛さを感じるより、前向きなほうが望ましいのです。

健康な人でも年齢を重ねるにつれ、意欲は自然と落ち、社会的な活動も減ってしまいます。それは正常な老化ですから、どうやって意欲を湧きたたせていくかが大切。

意欲を支えるキーワードは、「楽しい」という感情です。「好きこそものの上手なれ」という言葉の通り、楽しむことは大切です。ゴルフやカラオケが好まれるのは、仲間に勝つのが快感だったり得点で上達を感じられたりするなど、楽しさがあるからです。楽しくなければ意欲は薄れ、何に取り組んでも長続きしないものです。

楽しむことには、意欲も高める相乗効果があるのです。鍛えた筋肉が衰えないのと同じように、神経細胞も活性化し、ネットワークの働きも維持できます。

意欲がなければ、喜怒哀楽の感情も湧きません。もっとも、喜と楽がよくて怒と哀はダメと割り切れるわけではなく、怒の感情をプラスのエネルギーに換えて頑張れることもあります。何事もバランスが肝心です。

しかし、感情の起伏が激しすぎる人は、神経細胞を維持しやすい代わり、ストレスを溜めたり寝不足になりやすいというマイナス面があるかもしれません。

怒ると頭に血がのぼると言われる通り、イライラすると、戦いの神経である交感神経が速やかに働き、血圧を上昇させます。血圧が下がった状態では戦えないので、目がカーッと開かれ、のどが渇きます。しかし血圧が上がり過ぎると、脳の血管が切れてしまう場合もあります。極端なケースが腹上死というわけです。

●「知」を鍛えるゲームは?

「意・情・知」の一番上に位置するのが知能です。認知症というのは、脳の老化のうち知の部分の破綻です。

知能そのものの衰えを予防する方法としては、計算ドリルや漢字パズルなどの脳トレが有名ですが、学術的にはあまり効果はないとされています。

数字が変わるだけで、やることは同じ計算やパズルだからです。集中力はつくかもしれませんが、脳の一定の部分しか使いません。同じ作業を繰り返していると、使われない部分の脳はさぼってしまうのです。

巷にあふれている脳トレは、脳機能の一部分を捉えた鍛え方にすぎないと思います。もちろん、意欲をもって楽しんでいればいいのですが、義務のようになって苦痛に感じながらやるのでは、意味がないと思います。私のお勧めは囲碁や将棋、トランプやマージャンなどの対人ゲームです。

新井 平伊

順天堂大学医学部名誉 教授

アルツクリニック東京 院長

新井 平伊

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