「日本にはまだ磨いてない玉がたくさんある」コロナが暴いた日本の“実態” 危機をチャンスに変えるには...

「日本にはまだ磨いてない玉がたくさんある」コロナが暴いた日本の“実態” 危機をチャンスに変えるには...

  • 文春オンライン
  • 更新日:2020/09/22

〈コロナとの闘いによって世界経済は大打撃を受けている。今やっておくべきこととは?〉

コロナで分かれた日本人の働き方

ロバート 新型コロナウイルスは収束しませんが、日本経済や日本人の働き方に、さまざまな変化を及ぼしていますね。

ちきりん リモートワークが普及して無駄な通勤が減ったり、用もないのに「とりあえずご挨拶に」などと会いに行く、みたいな生産性の低い仕事が減ったのはよかったと思います。

ロバート 富士通は、社員の出勤率を最大25%に抑えて、国内のオフィススペースを3年で半減させるそうです。このような企業は増えています。

ちきりん パソコンに向かう仕事は、ネットとセキュリティーさえ確保できれば、自宅でもできますからね。

ロバート 会社に「少し家賃を払って」とお願いする人もいるでしょう。

ちきりん 家賃は無理でも、光熱費を補助する会社はでてきています。昼間のエアコン代は、オフィスに行って働くなら要らないお金なので。

ロバート 通勤定期代を支給しなくてすみますしね。

ちきりん ただ日本の家は狭いので、急に在宅勤務を命じられても手狭で困った、という人も多いと思います。

No image

ロバート リモートワークができない仕事もあります。たとえば理髪店は、感染防止のため席に間を空けています。単純計算すれば、席が半分になったら単価を2倍にしないと、売り上げは維持できません。私はちょっと高い4100円の理髪店に行ってますけれども、一回8000円も払うなら、頻度を減らすしかないでしょう。さまざまな物価体系に、これからコロナの影響が出てくると思います。

「多極」集中型への転換が地方再生の秘訣

ちきりん レストランや映画館、劇場も、今後はギュウギュウ詰めにはできません。利益率が高い業種ではないので、それでは利益がでない。

エンタメに関しては、感染収束後もオンラインとオフラインのチケットを同時発売するのが当たり前になるでしょう。座席数が減った分、オンラインチケットの売り上げで埋め合わせるという形で。リモートワークやオンラインエンタメが定着したら、東京に住んだり、何度も来たりしなくてもすむし。

ロバート 東京に住まなくても、いろいろなことができるから、地方再生にもつながるでしょう。

ちきりん 実は私、地方の再生は、東京一極集中と結びつけるべきではないと思っています。すべての町や村に人が増えることを目指すのではなく、福岡や名古屋、仙台といった地方の中核都市が東京と対抗できる選択肢になるのを目指すべき。一極集中を多極集中型に変えることが、地方再生の秘訣だと思います。

ロバート 1960年ぐらいまで、企業の本社は東京と大阪の2カ所にあったんです。それがジェット機と新幹線の登場で、東京だけになりました。しかし、人が直接動いてビジネスをする時代はまもなく終わりますから、地方は頑張り時です。

残されたままの年金問題

ちきりん 地方都市は、東京とは違う独自の文化を持つ必要があります。ニューヨークが金融や芸術の街なのに対して、列車で数時間の距離にあるボストンはアカデミック。ハーバードにMITという大学を街のアイデンティティとして差別化する、という都市戦略ですよね。

大阪と福岡はわりと頑張ってる気がしますけども、そうした戦略が、新潟や仙台、札幌にも必要だと感じます。

ロバート 国に目を移すと、コロナ対策でたくさんお金を使ったので、財政の健全化がさらに遠のいてしまいました。老後の資金が2000万円足りない、という年金の問題も残されたままです。すべてを解決する策は、ひとつしかありません。国民みんなが、もっと長く働くことです。

私の結論は、2040年までに、企業の退職年齢を段階的に76歳へ引き上げる。引退から寿命がくるまで、どのくらい残っているかを計算した結果です。

ちきりん 余命から逆算して、年金支給開始年齢を76歳にするということですね。

ロバート そうです。大人たちは、若い人の負担になってはいけません。

ちきりん 働く期間が長くなると、「楽しく働ける仕事に就いていない人」はつらくなりそう。

ロバート ちきりんさんの考えでは、退職年齢はどうすればいいですか。

ちきりん 私は、年齢による退職を企業が一律に決めるのは、もうやめたほうがいいと思っています。年をとればとるほど、人は多様になります。経済的な成功の度合いも違ってくるし、ずっと働き続けたい人と、あまり働きたくない人に分かれてきます。なので「この年齢だからこうしなさい」と一律に決めるのは、無理がある。

ロバート 退職する年齢を自分で決める、ということですね。

日本は「自己決定しないまま人生を終えられる国」

ちきりん 欧米では、大学卒業後に少し遊んでから就職するのもありだし、働いている途中で一回辞めて勉強するのもありだし、自分の人生をどう組み立てるか、それぞれが自己決定しますよね。

でも日本は、何も自己決定しないまま人生を終えられる国なんです。進学とか就職とか、すべて年齢によって国がレールを敷いています。そのせいで、自分の人生がうまくいかなかったら国が補償すべきだ、みたいな感覚があるんです。

もし「いつ就職してもいいし、いつ退職してもいい。何歳まで働くかは自分で決めなさい」と言われたら、自分はどうしたいか、誰もが考え始めるはずです。

会社と個人が話し合って、好きな時期にバラバラに退職する制度になったら、自分の人生に対する日本人の自己決定意識が高まると思うんですよね。

ロバート 本当は「老後の資金を誰が払うんですか。自立しなさい」と政界、労組が言うべきなのに、誰も言いません。

ちきりん 選挙がありますからね。

年金は社会保障ではない

ロバート 年金制度についても同じです。私は公的年金に100%賛成ではありませんが、自分が何歳まで健康で生きるか、世の中がどう変わるかわからない以上、必要だと思っています。人間は、目の前のことしか考えない動物ですから。

ちきりん 年金は老後保障のための福祉といったイメージがありますが、実際はアメリカの401kと同じで、個人の貯金に近い制度です。給料が高い人ほど、払う年金保険料は高く、もらえる額も大きい。反対に若い頃のお給料が安い人は保険料も低い代わり、もらえる額も少ない。

大企業で定年まで勤めたら、けっこうな額の年金がもらえます。そういう人は現役時代の貯金と退職金もあるので、実は年金なしで暮らせる人も多いんです。一方、ずっと非正規で働いてきて貯金も退職金もない人は、年金も少ない。

つまり今の年金は社会保障ではなく、事実上、個人の資産形成プログラムなんです。そこを理解せず、国が個人を助けてくれる社会福祉制度だと誤解している人が多いのも問題です。

「運」が大きい新卒一括採用

ロバート 新卒一括採用は日本独自のシステムですが、運に左右されますね。たまたまバブル期だった人はラッキーですけれども、突然コロナのパンデミックで不景気になって、採用人数が絞られてしまう年もあります。その年の新卒はみんな非正規雇用で低賃金のまま働き、老後にもらえる年金も少ないのでは、あまりに不公平ですよ。

ちきりん 新卒一括採用は弊害も大きな制度ですよね。だからこそたまたま新卒就職時が不景気で、その後もギリギリの生活が続き、年金を払えてこなかった人にこそ給付を増やさないといけない。でもそうすると、たくさん払ってきた人は不公平だと感じるでしょう。この点についてはどう思われますか。

ロバート 私は基本的に、ベーシックインカムに賛成なんです。「非正規の人たちは貯蓄しなかったのがいけないんだ」と、正規の人たちが言うのはおかしい。

ちきりん あと、非正規で働く人の貧困や、老後の生活資金不足について考えると、少なくとも都市部での最大の問題は、住まいにかかる費用が高すぎることです。家賃を払うにしろ、マイホームを買うにしろ家が高すぎる。

高齢になって孤独でお金がない人も、みな一人ずつ6畳のアパートに住んで、5万円とか7万円といった家賃を生活保護や年金から払っています。これは壮大な無駄だと思います。

ロバート 家賃や住宅ローンの負担は、大きいですからね。

70歳を超えて働ける「学び直しシステム」が必要

ちきりん こうした人たちが集まって住めるような、高齢者用シェアハウスか集合住宅を増やせば、家賃はある程度安くできるでしょう。孤独だとパチンコやお酒で浪費しがちになるけれども、みんなで朝からワイワイ話していれば、孤独にもならないしお金もかからない。

ロバート 貧困から抜け出せない原因のもうひとつは、教育です。リカレント教育、つまり社会に出てからの学び直しが十分になされないため、知識やスキルが上がらずに稼げない。たとえ勉強したくても、お金がなければできません。そこで私は、生活保護のような補償で、技術面で遅れてしまった中高年を国がサポートすべきだと思います。

ちきりん 確かに、自分の稼ぎだけでは生活に目一杯という人でも、追加で10万円もらえたら自分に投資できますよね。22歳までに学んだことで、70歳までずっと働き続けるなんてもはや無理ですから。

ロバート 76歳まで生産性高く働けるための、学び直しのシステムが必要です。私は2017年から、東京理科大大学院の経営学研究科で、社会人を相手に教えています。

今年の学生の平均年齢は43歳で、60代の人もいます。最近はZoomで授業をしてますけど、学び直そうという意欲はみなさんすごいですよ。

ちきりん かつては「安定した大企業に22歳で入れるかどうか」によって人生が決まっていました。いまは大企業でも、50代半ばの役職定年で給料をバーンと下げられ、60歳の再雇用でさらにドーンと下げられます。

だから私は繰り返し、「個人としての稼ぐ力が必要だ」と言っています。キャリアの途中で学んでまた働ける欧米型がベストだと思いますけど、最近はオンラインでも新しい勉強ができます。年代ごとに学び直しができるよう、社会的な仕組みができるといいですね。

努力が報われる制度に

ロバート その通りです。日本の労働市場は、二重構造です。終身雇用も日本独特で、「壁のない刑務所」です。正規雇用の人たちは、居心地がいいしお金も残るから居続ける。けれども、スキルアップやキャリアアップができません。

ちきりん 教育の本当の目的は、貧しい家に生まれた子どもが貧しさを引き継がなくて済むようにすることだと思うんです。ところがいまの日本では、塾に通うお金がなければいい学校に入れず、いい仕事にも就けない。この貧困の連鎖は、絶対に断ち切らなければいけません。

ロバート いい解決策がありますか。

ちきりん 私の提案は、英語でも中国語でもインドネシア語でもいいんですけど、他国の言語を一定レベルまでマスターしたら、それ以降の教育費は全部タダにするといった制度を作ることです。

たとえば小学校6年生でTOEICの最高点を取ったら、中学校以降の学費はすべて国が負担するんです。大学も、早慶だろうと医学部だろうと全部タダ。もし2カ国語をマスターしたら、給食費や修学旅行や制服代もタダ。さらに3カ国語をマスターした子には、2年間の海外留学の費用も国が出しましょう、といった制度です。

ロバート 努力すれば誰でも報われる仕組みですね。

35カ国中、最下位の日本の教育予算

ちきりん 我が家にはお金がないけれど、英語さえマスターすれば一円も払わずに慶應の医学部でも行けるとわかったら、勉強を頑張る小中学生はいっぱいいるはずです。語学に限らず、コンピューターのプログラミングで一定レベルになったら、といった他の条件でもいいでしょう。

これだと国も損はしません。その子が将来発揮してくれるリーダーシップ、納めてくれる税金、生み出してくれる雇用を考えれば、お釣りが来ますよ。一方、大学を無償化しましょうという案には賛成できません。勉強したくない人まで大学に行かせても意味はないと思うからです。

ロバート その通りですね。あと、財政の構造がおかしいと思います。社会保障に使っている国の予算は年間130兆円なのに、教育はわずか15兆円ですよ。

社会保障費では、年金と並んで問題なのが医療費で、年に43兆円です。

ちきりん 医療費は、もっと予防に使ったら生産性が高くなります。歯の治療でいえば、年に一度クリーニングと虫歯チェックに行く人が虫歯になったときの治療費の負担額は一割。でも過去一年間、虫歯チェックに行ってない人は3割負担。予防努力に応じて負担率を変えるだけで、みんな予防に努めるはず。

教育の話と同じで、努力すれば払うお金が減って、もらえるお金が増える仕組みをすべての社会福祉に組み込んだら、税金はもっと生産性の高い形で使われます。そこが設計できないというか、マーケット感覚がないというか。行政は、頑張った人も頑張らなかった人も同じという、一見平等に見える不平等な制度に固執しすぎですよね。

ロバート 厚労省の方にそういう話をしたことがありますが、答えが面白い。「それだと、国民皆保険じゃありませんよ」。何を言ってるんだ、と思いました。自動車保険だって、事故を起こしてない人は安いのに。

日本の偉い人はITをわかっていない

ちきりん ほんとにそうです。あと、今回の新型コロナの騒ぎを機に考えるようになったのは、公共の利益のために個人の自由をどこまで制限していいのか、ということでした。これ、国によってものすごくレベルが違いますよね。

中国や韓国は、すべての行動履歴を政府に握られることを、国民が受け入れています。中国は共産主義だからですけど、韓国も準戦時体制が続いているので、国家が情報を握って当たり前だと国民は受け止めている。ああいうことは、日本では絶対できないと思います。

ロバート なぜ韓国はできて日本ができないのかという理由は、もうひとつあります。韓国のトップの人たちはITがわかっていますが、日本の偉い人はわかっていない。

ちきりん それも大きいですね(笑)。その一方、アメリカではマスク着用を義務付けるかどうかで国論を二分するような議論になりました。それくらいつけりゃいいじゃんって思うんですけど。

ロバート 私も思いますよ。言動が合っていなかった。ようやく7月中旬になってからマスクをつけることになりました。

ちきりん トランプ大統領がなかなかマスクをつけなかったのは、強いアメリカをアピールするための選挙対策ですよね。

香港の人に日本の永住権を

ロバート しかも「私は、マスクに反対だとは一回も言ってない」と。男性は、自分が強いところを見せたがりますけど、周りの人たちがそれを支持していることが理解できません。

ちきりん アメリカ国民にとってマスクをつけない自由とは、たぶん銃を持つ自由と同じなんでしょう。自分の身は自分で守る。つまり自己責任だから、強制される必要はない。最大限の自由を確保するというのは、アメリカの憲法の精神でもありますよね。

ロバート ある程度ね。米国では、自分の自由な行動が他人に悪影響を与えることを無視する人が、いっぱいいます。日本では他人に迷惑をかけないのが大人ですが、米国は自分の権利が中心です。おとなげないな、と思います。

ちきりん 人種差別問題も浮き彫りになったいまのアメリカを見ていると、新型コロナ感染が収まっても、留学したり働きに行くのは躊躇してしまうような雰囲気があります。

ロバート このままだと国の力が落ちてしまいます。ちょっと怖いですよ。

ちきりん そういえばここ5、6年、少なくとも東京では外国人が増えて、どこに行っても周りから外国語が聞こえていました。ところが4月以降は、また日本人しかいなくなった。

それを見て気付いたのは、たくさんいた外国人の大半が旅行者だったということです。フェルドマンさんみたいに、日本に住み、働いたり子どもを育てたりしている人はまだまだ少ない。

ロバート いま香港で起こっている問題に、日本がどう対応すべきか。私の答えは、香港の人に日本の永住権を与えることです。「家賃も半年分払います」くらいのサービスをして、高い知識やスキルを持つ人たちに移民してもらうべきです。東京は国際金融都市を目指しているのですから、香港のIT産業、工学業界、金融業界、さまざまな業界で働いている人をごっそり連れて来られる機会ですよ。

日本経済にはまだ「磨いてない玉」がたくさんある

ちきりん 彼らからすれば、生命が保障されて安心して暮らせるなら、税金が少々高くても問題ないですよね。今回の新型コロナ問題は大きな被害をもたらしましたけど、何とか少しでもチャンスに変えていかなければいけませんね。

ロバート 私は明治神宮が好きで、よくお参りしておみくじを引くんです。明治神宮のおみくじには吉凶がなくて、明治天皇と昭憲皇太后の和歌が書いてあります。この前引いたのは、〈おこたりて 磨かざりせば光ある 玉も瓦にひとしからまし〉。

ちきりん 放っておくと玉も石になっちゃうよと。

ロバート 日本経済には、まだ磨いていない玉がたくさんあります。それを見つけて磨きましょう、ということがポイントです。

構成=石井謙一郎

ちきりん
関西出身。証券会社で働いた後、米国の大学院留学を経て外資系企業に転職。社会派ブログ「Chikirinの日記」は日本有数の人気ブログとなり、ツイッターのフォロワーも30万人を超える。

Robert Feldman
1953年、米国テネシー州生まれ。マサチューセッツ工科大学大学院卒。著書に『フェルドマン式知的生産術』など。最新刊『フェルドマン教授の未来型日本経済最新講義』が8月27日に発売。

(ロバート・フェルドマン,ちきりん/週刊文春 2020年8月13日・20日号)

ロバート・フェルドマン,ちきりん

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加