二宮清純「菅首相、コロナ対策だけでなく障害者の安心・安全にも万全を」#東京オリパラ開催なら

二宮清純「菅首相、コロナ対策だけでなく障害者の安心・安全にも万全を」#東京オリパラ開催なら

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/02/24
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東京オリンピック・パラリンピックの議論が国内外でさらに広がっている。重要な局面を迎えているこの時期に、ネガティブな話題も相まって、なかなか議論をその先へ進められずにいる。

開催か、中止か──。

どのような決断が下されるにしても、一つでも多くの何かを遺すため、あえて開催の是非自体を直接的に問うのではなく、「開催ならば、どんな東京オリ・パラにするべきか」をともに考えることにした。

スポーツジャーナリストの二宮清純に訊く。1988年のソウル五輪以来、夏冬合わせて8度の五輪・パラリンピックを現地取材している二宮から出た提案は、感染防止策と同等に大事な、基本的な視点だった。

毎日新聞と日本盲人会連合(現・日本視覚障害者団体連合)が2016年12月8日から16日にかけて共同で行ったアンケートによると、回答した視覚障害者(222名)のうち実に31.5%が駅ホームからの転落を経験していることが明らかになった。

回答者の約3人にひとりという数字に驚愕する。2010年から2020年にかけての死者数は18人に上る。

2020年11月29日には視覚に障害を持つマッサージ師の60代の男性が、東京メトロ東西線東陽町駅で線路に転落し、死亡した。

毎日新聞の記事には、こうある。

──ホームドア工事は終わっていたが、来年2月の稼働に向けた調整のためにドアは開いたままだった。駅員は、改札を通る男性が持つ白杖(はくじょう)が見えなかったという。駅には工事中であることを知らせる張り紙はあったが、視覚障害者に知らせる対応は取られていなかった──(2020年12月6日付)

2012年ロンドン・パラリンピック競泳(100メートル背泳ぎS11=全盲)金メダリストの秋山里奈さんは、現役引退後、都内にある外資系の製薬会社に勤務している。パンデミック以降はテレワークに変わったが、それまでは都心の本社に通勤していた。交通手段は地下鉄である。

彼女から以前、こんな話を聞いた。

「特に注意が必要なのはホームの端。白杖で慎重に確認するのですが、よほど深く探りを入れないと階段と間違えてしまうことがある。『ここは階段かな』と思って前に出ようとした瞬間『そっちは線路ですよ。危ないですよ』と駅員さんに止められ、ヒヤッとしたこともあります」

自らの経験を踏まえ、次のような提案も。

「これは視覚障害者じゃないと気が付かないかもしれませんが、実は階段の前の点字ブロックも線路の前のそれも、同じなんです。でも階段を踏み外した時と線路へ落ちた時とでは全然リスクが違う。できるなら分けた方がいいかもしれません」

転落防止策として最も有効なのはホームドア・ホーム柵の設置である。しかし国土交通省が2020年を目標に優先設置を求めていた10万人以上が利用する285の駅で、ホームドア・ホーム柵が設置されているのは、2019年末の時点で154駅にとどまっている。

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Ned Snowman / Shutterstock.com

「駅のホームでは風船ガムを噛みながら歩いている」

こう語ったのは、障害者陸上(T11クラス=全盲)で2016年リオデジャネイロパラリンピックに出場した高田千明である。風船ガムを噛む理由が、最初私にはわからなかった。

「一番困るのがホームの点字ブロックの上に人が並んでいたり荷物が置いてあること。そのため、私はひとりで歩いている時には白杖を強めに叩いている。『自分はここを通りますよ』とまわりに知らせるためです。しかし、地面を叩く音が同じリズムになると、なかなか気づいてもらえない。そこで考えたのが、風船ガムをふくらませ、パチンと割って鳴らすこと。中には大きな音に驚かれる方もいますが、お互いケガをするよりは、その方がいいと思ってやっているんです」

かくいう私も、大きな音にハッとするひとりかもしれない。申し訳ない。

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Photo by Andreas Dress on Unsplash

高田同様、2016年リオデジャネイロパラリンピックに出場した女子視覚障害者柔道の半谷静香は、身長156センチと小柄である。彼女によると、「男の人たちが操作しているスマホがちょうど私の眉間の位置になる」のだという。

「移動中に困るのは、駅で『歩きスマホ』をしている人たち。勢いよくぶつかってこられると、とても痛いんです。謝りもせず、そのまま無言で歩き出す人もいます」

だが、「そのくらいは、まだいい方」だと彼女。「中には『逆ギレ』する人もいる」というから始末に終えない。

「どこ見てんだ!と、怒鳴られることもしばしばです。私は怖くて、心の中で『どこも見てねェよ』て言い返すのが関の山です。ハハハ」

菅義偉首相は今夏に予定されている五輪・パラリンピックを「安心・安全な大会にしたい」としばしば口にする。新型コロナウイルス対策が念頭にあるようだが、障害者にとってのリスクはそれだけではない。仮にパラリンピックが開催されるのであれば、障害者の「安心・安全」にも万全を期してもらいたい。切にお願いする。

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二宮清純(にのみやせいじゅん)◎スポーツジャーナリスト。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。1960年、愛媛県生まれ。五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

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