共産党結党100年式典は人工晴天、翌日から関東・東海では豪雨

共産党結党100年式典は人工晴天、翌日から関東・東海では豪雨

  • JBpress
  • 更新日:2021/07/23
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7月1日、中国共産党結党100周年記念式典が行われた天安門広場は降雨もなく、後半は晴れ間が垣間見えた。事前に雨雲を消す「人工降雨」技術が使用されたという(写真:新華社/アフロ)

(ジャーナリスト 吉村 剛史)

雨や雪を意のままに降らせ、特定の地域・日時を晴天にする――。近年の中国の気象改変技術の躍進は目覚ましいが、同時に近隣国・地域への気象や環境への影響の有無も懸念されている。

中国国務院は2020年12月、各省庁と地方政府に対し、人工降雨などの気象改変プログラムの実施対象地域を2025年までに550万平方キロメートルに拡大するという政策方針を示した。これは中国全土の57%に相当し、インドの総面積の1.5倍以上に相当する広大さで世界最大規模だ。

だが、これによる地球規模の気象、環境に対する影響について日本社会の関心は低く、関係省庁での研究も進んでいない。2008年の北京五輪開会式当日を、事前の人工降雨で晴天にしたことで知られる中国に対し、東京五輪開会式や開会期間中の荒天に対する日本の備えは果たして万全だろうか。

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7月1日式典は「人工晴天」

中国共産党100周年記念式典が開かれた今年7月1日の北京・天安門広場。この日は降雨が予想されていたことから、中国当局は式前夜と、当日早朝、上空の積乱雲に向けて数百発の降雨ロケットを打ち上げたという。降雨を早めることによって、式典開会中の降雨を避けるのが狙いで、実際に式典の最後のころには晴れ間も広がっていった。

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7月1日、天安門の楼上から式典を見守る習近平国家主席。雨の予報は気象改変技術で回避された(写真:新華社/アフロ)

13年前の北京五輪開会式の際と同様、国家の威信をかけた重要行事で、自国の気象改変技術の高さを内外に誇ったことになる。弱い毒性を持ヨウ化銀だが、中国当局は「使用量はわずか」だとして人体への害も否定しているという。

一方、日本の東海から関東の太平洋側では、翌7月2日夜から発生した記録的な豪雨により、3日午前には静岡県熱海市で大規模な土石流が発生。多くの人命が失われた。

ただし、この2つの出来事の関連の有無は不明だ。

環境省、気象庁もノーマーク

「中国の気象改変プログラムによるわが国への影響に関する担当部署はありません」

気象庁の広報担当者は、筆者の取材に対し、こう回答した。

環境省の水・大気環境局大気環境課の越境大気汚染担当者も「オゾンやPM2.5等の粒子状物質、酸性雨などは観測の対象となっていますが、気象改変技術に関わるヨウ化銀などは観測の対象外なので、その影響の有無などは全く不明です」という。

中国共産党結党100周年記念式典で重要演説を行った習近平国家主席は、従来「核心的利益」「不可分の領土」としてきた台湾に関し、「祖国の完全統一は決して志を変えることのない党の歴史的任務」と強調した。

その台湾では、2020年1月、中国と距離を置き、台湾の独自性を重視する民主進歩党の蔡英文総統が総統選で圧倒的な支持を得て再選を果たした。だが総統選の直前に中国・武漢で確認された、人工物の可能性も指摘される新型コロナウイルス感染症の水際防疫に追われる一方、元来豊かなはずの台湾の降水量が目に見えて減少するという異常気象にも悩まされた。各地のダムの貯水率は軒並み過去最低を記録。今年前半まで50年に一度とされる大干ばつに見舞われ、農業にも多大な影響が出たが、果たして偶然なのだろうか。これまた関連は不明だ。

軍事技術から出発した気象改変

中国国務院が昨年末、各省などに示したのは「人工気象改変作業の高品質開発推進に関する意見」。気象改変プログラムは、「クラウド・シーディング」(雲の種まき)という技術が中心だ。氷とよく似た結晶構造を持つヨウ化銀や液体窒素、ドライアイスなどを、ロケットや航空機などで雲の中に散布し、雲の水分と結び付けて降雨を促す手法だ。気温が低い場合は雪になる。

気象改変技術は1946年、米国が世界に先駆けて開発。ベトナム戦争において米軍は実際に北ベトナム軍の動きを封じるため、戦場に人工的に雨を降らせる「ポパイ作戦」を極秘に展開している。この作戦は1972年、米紙報道がきっかけで明るみに出たため、米国内外の懸念を招き、1978年には「軍事的またはその他の敵対的な気象改変技術の使用の禁止に関する国際条約」が発効された。

半世紀以上の研究実績持つ中国

一方中国は、1960年代から気象改変の研究に取り組んできたとされ、北西部の乾燥地での降雨増などを目指してきた。2003年にモロッコ・カサブランカで開催された第8回WMO(世界気象機関)気象改変に関する科学会議には大挙24人もの研究者らを送り込み、気象改変プロジェクトに国家的規模で取り組む姿勢を参加各国に印象づけたという。

2005年には、ようやく先述の「軍事的またはその他の敵対的な気象改変技術の使用の禁止に関する国際条約」を批准したものの、自国内の災害の7割を占めるという干ばつや洪水などに対処するためとして、巨額の資金を投じ、研究を継続していった。

2008年の北京五輪開会式で国際社会に一定の技術力を誇示した後もさらに研究を重ね、2017年には約170億円以上もの予算を投じ、3年計画として、4機の航空機購入、既存の航空機8機の改良、897基のロケット打ち上げ装置建造などの計画を打ち出した。中国気象局では今年1月にも中国各地で人工降雨を実施したことを明かしており、現在は人員3万5000人体制で2035年までにこの分野において世界最先端になることを目指しているという。

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2009年2月、中国の国有企業・中国航天科技集団(CASC)傘下のロケット製造会社で人工降雨ロケットのチェックを行う従業員(写真:アフロ)

資金力で世界最大規模のプロジェクト

ただ、気象改変に関する研究自体は現在、世界50カ国以上が取り組んでいるとされ、中国以外でも、ロシアが旧ソ連時代の1986年、チェルノブイリ原発事故発生直後、モスクワが降雨によって放射能汚染されることを避けるために人工降雨技術を用い、2000年の第二次大戦終結記念式典でも同技術で会場を晴天にしたことはよく知られている。

このうち1986年のケースでは、モスクワを放射能汚染から守るために降雨させた周辺地域で深刻な被害が出たとされている。

いずれにせよこの20年、経済的に急成長した中国は、現在その豊富な資金をもとに、世界的にも突出した規模のプロジェクトを計画しており、その技術力がチベット高原や黄河、長江、東北地方の森林帯の水資源確保をはじめとする農作物の増産や、気象災害の抑制といった範囲にとどまるかどうかは、近隣国・地域にとっても重大な関心事のはずだ。

中国の「気象兵器」警戒、研究を

中国国内では一連の気象改変プログラムの実施で、2006年から2016年までの10年間で降水量が550億立方メートルも増加した実績があるといい、その後も計画は進捗していると思われる。ただし、昨年夏、中国南部は大洪水が発生。長江流域では三峡ダムが2009年の建設以来の最高水位を記録し、地元メディアは「ダム崩壊目前」と報じた。今年も7月1日の共産党結党100周年記念式典を前に、中国の東部と南部の地域を中心に21本の河川で洪水が発生し、コメの収穫への影響が懸念されている。また東北部の黒竜江省では5月下旬に大雪が降るという現象も起きており、この分野の計画がどの程度効果を発揮し、どのような副作用が起きているのかの検証が待たれるところだ。

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『アジア血風録』(吉村剛史著、MdN新書)

一部報道によると中国社会科学院の専門家は「天気に人工的な影響を与えるのは短時間」などとして、世界規模の気象、環境への影響を否定しているというが、中国の取り組み規模の大きさは前代未聞であるため、日本の研究者の中には、「気象兵器にもなり得る技術。意図的かどうは別として、中国側の言い分を鵜呑みにせず、周辺国・地域の気候や環境、農業などに影響を与える可能性も研究、警戒すべき」との声もあがっている。

先述の通り中国は共産党結党100周年記念式典を7月1日に挙行したが、実際の結党記念日は東京五輪開会式と同じ7月23日。サイバーテロや新型コロナ変異株の蔓(まん)延に加え、東京大会期間中の荒天などにも、充分に警戒したいところだ。

吉村 剛史

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