気候変動関連投資が日本浮上の最後のチャンス

気候変動関連投資が日本浮上の最後のチャンス

  • JBpress
  • 更新日:2021/04/08
No image

MAプラットフォームの森章会長(写真:村田和聡、以下同)

デジタル化の加速とそれに伴う「業界」の消滅、米中摩擦を背景にした地政学上の変化など、今は数年先を見通すことも難しい時代だ。その中にあって、一流の経営者や専門家は寸暇を惜しんで情報を集め、思索し、仮説検証を繰り返す中で来たるべき未来に対応しようとしている。そんな未来を見通す目を持つ人々との対話を通して、日本の今後を考えていく。1回目はMAプラットフォームの森章会長(森トラスト会長)に話を聞く。(聞き手、植村公一:インデックスコンサルティング社長)

──本日はご多忙のところ、お時間をいただきありがとうございます。足元の経営環境を見れば、米中対立やデジタル化の加速、コロナ禍など不透明感が高まっており、先を見通すのも難しい時代です。その中にあって、一流の経営者が何を考えているのか。今日はいろいろとお聞きするのでどうぞよろしくお願いいたします。

森章会長(以下、森):どこまでお役に立てるか分かりませんが、よろしくお願いいたします。

──まず、新型コロナウイルスの感染拡大の影響をどう見ていますか。

森:緊急事態宣言は解除されましたが、新型コロナはなかなか収まりそうにありませんね。私は「Go To トラベル」や「Go To イート」といった妙なキャンペーンにお金を使うより、医療関係にお金を使った方がいいと思っています。経済を重視すれば感染者数は増加します。キャンペーンをしないことによる経済的な損失と、感染者数の増加に伴う医療体制の逼迫、医療崩壊の経済的影響を比較すれば、マクロでは後者の影響の方が大きいでしょう。少なくとも、ワクチンが行き渡るまでの間は妙なことはやらず、医療崩壊を防ぐ方に重点を置くべきだと思います。

──森会長はリゾート開発も手がけています。インバウンドの落ち込みについてはいかがでしょうか。

森:インバウンドは2019年が最高でしたが、実は国内の旅行消費額を見れば、インバウンド比率は2割に満たない。つまり国内旅行が8割を占めているということです。もちろん、インバウンド需要はほぼ蒸発してしまったので、海外からの飛行機需要やホテルなどインバウンドに関わる事業者は大変な影響を受けています。ただ、コロナ問題が片付けば、インバウンドは自然に回復していくでしょう。逆に、2割に満たないインバウンド需要を意識するあまり、適切な感染対策をせずに海外旅行者を受け入れるということはすべきではありません。

──ワクチンが普及すれば、観光業などは元に戻ると考えていいのでしょうか。

森:時間の問題ですが、元に戻ると思います。コロナ以前に人の移動が容易になっていたことを考えると、むしろコロナ後の方が人の移動は増えるのではないでしょうか。人の移動が増えれば、それに伴って観光業も復活するでしょう。

──これまで、ビジネスパーソンは都心のオフィスで働くことが当たり前でしたが、コロナの感染拡大によってリモートワークも広がりました。これは、都心のオフィスビル市場にとってはネガティブなインパクトだと思います。今後、オフィスビル市場についてはどう見ているでしょうか。

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

今後のオフィス需要には基本ポジティブ

森:オフィスビルを建てる場合、一番高いのは借金の利払い、つまり金利です。東京の都心部のように地価の高いところにビルを建てる場合、賃料収入だけで投資をするのは難しいので借り入れが増えます。成長すればするほど借金が増えるので、多くのデベロッパーは借金体質になる。ところが、今は最もコストがかかる金利がタダみたいなものですからね。今後、リモートワークの進展や5Gの活用など、オフィスのあり方は大きく変わるでしょう。ただ、どう変わろうとも、金利コストが大したことないのでどうにでもできる。

働き方の変化に合わせて自ら需要をつくり出すのか、別の需要が出てきた時に対応するのかなどやり方はいろいろあると思いますが、デベロッパーとしてオフィスについては何も心配していません。仮に金利が上がっても、金利が上がる時は基本的に景気がいいわけですから、オフィス需要にはポジティブです。

──森会長は投資家としても著名です。今後、注目している成長分野はありますか?

森:それはもう圧倒的に気候変動対策、CO2の排出削減です。日本は2050年までにCO2排出量の実質ゼロを表明しました。国際公約ですから、政府は実質ゼロを目指して国内投資を加速するでしょう。これは日本にとってはプラス材料です。これからの日本には、これしか楽しみがないのではないかとさえ思います。

産業革命以降、日本は工場や設備などの製造業に投資してきました。こういった第二次産業は設備投資額が大きく、それによって国内経済が拡大しました。ところが、AI(人工知能)をはじめとした最近の情報革命は製造業とも言えるし、サービス産業とも言える、いわば第2.5次産業です。そして、基本的にソフトウェアの世界なので設備投資額が大きくありません。

それに対して、CO2削減は国内での設備投資です。再生可能エネルギーや蓄電池などへの投資は膨大な金額になるでしょう。日本はもの作りが重視されますが、製造拠点の海外流出が続いており、設備投資という面ではかつてのような貢献度ではありません。1990年代初頭のバブル崩壊以来、30年ぶりの大規模設備投資ですから、日本経済にとっては千載一遇のチャンスだと思います。

──建設・不動産という視点で見ても、CO2の排出削減を進めたCO2ゼロのオフィスビルを建てれば、経済の活性化につながります。企業もSDGsにつながるようなビルであれば、賃料が高くても借りるでしょう。

森:その通りです。ホテルにも言えますが、リモートワークの進展もあり、これからオフィスビルは過剰になるでしょう。過剰になれば、新しいビルほど競争力が上がる。デベロッパーとしては、過剰になればなるほど新しいビルを供給しなければならないということです。ホテルも同様で、過剰になるのであれば、競争力の高いホテルを造らなければ負け組になってしまう。過剰が新陳代謝を生むわけです。

そもそもコロナ以前から、テクノロジーの進化に伴う情報革命によってオフィスのあり方が変わりつつありました。その変化がコロナによって加速しています。そこに来て、CO2削減というエネルギーの問題が出たことで、CO2削減に資するビルが必要になってきた。ビル自身がエネルギーを生成し、電力会社と連携しながら安定供給を実現する。そういったビルが増えるのではないでしょうか。

──気候変動対策の他に、注目している分野はありますか?

森:エネルギーに関して言えば、矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、「石炭」に注目しています。

──石炭ですか?

日本にとって重要なのは石炭の実質CO2ゼロ

森:今はCO2排出の根源として石炭が悪玉になっています。ただ、石炭は比較的手に入れやすいエネルギー源です。石炭から生じるCO2を液状化して地中深くに埋める、CO2を回収して別の何かに分解するなどして、石炭から出るCO2をゼロにできれば、資源の少ない日本にとって大きなメリットではないでしょうか。今はお金が余っていますから、石炭の実質CO2ゼロを実現しうるスタートアップもたくさん登場するでしょう。

もう一つは農業ですね。世界では食糧不足が叫ばれていますが、日本はどちらかというと余っていますよね。また、オランダが植物工場によって野菜の輸出国になっていますが、日本もそういった工場化は得意でしょう。今の農業という概念を取っ払って集約化すれば、日本も輸出国になれるかもしれない。今後の魅力を感じるのはCO2の削減と農業革命ですね。

また、投資からは少し離れますが、格差をどう解消するかという点にも関心を持っています。既に情報産業が経済成長を牽引していますが、情報産業は回転が早く、情報産業にキャッチアップできるかどうかで格差がついてしまいます。それを防ぐには、教育や医療、年金などの提供を通して所得を再分配していく必要があります。

ただ、今のように格差がついてしまうと、なかなか機会均等にはできません。特に、教育は教育機関によって教育の内容が異なり、先進的な学校はカリキュラムや教え方、設備などさまざまな面でどんどん進化していきます。そういう学校は往々にして教育費が高いですから、お金のあるなしで差がついてしまう。これはもう、本人の地頭だけではどうにもならない問題です。その格差が親から子へと固定化すれば、それは階級です。質の高い教育を、誰もが受けられる体制にしなければなりません。

──日本でも正社員と非正規社員の格差が深刻な問題になっています。

森:やはり年功序列や正社員という日本的な雇用慣行をなくし、会社に勤めるのではなく「仕事に勤める」という形にしていかないと立ちゆかなくなると思います。

例えば、日本では博士課程修了者をうまく活用できていません。その理由はさまざまでしょうが、経営者の立場から言えば、日本的雇用慣行の下では当てはめる先がないというのが正直なところです。専門性が高いことは利点ですが、一方でその業務がなくなれば他に移すのが難しく、流動性に欠ける。そうなると、正社員で雇うのはどうなのか、という議論にならざるを得ません。それに対して、「仕事に勤める」という形になれば、その仕事がなくなれば別の会社に移ればいいだけです。

博士課程を終えたドクターは、本来は国の宝です。専門的な知識を持つドクターが大学や企業で活躍しなければ、国の国際競争力は上がりません。バブル経済の頃の日本は多くの分野で世界一でしたが、平成の30年間で並みの国に成り下がりました。彼らを活用するとともに、教育をできる限り無償化して機会の均等を図らないと、日本はこのままズルズルと落ちていってしまうと思います。

──少子高齢化の中、こういった課題を打開するのは相当なチャレンジですね。

森:とても難しいと思います。しかも、現在進行している情報革命は労働力を減らす方向の革命だから、舵取りを間違えると、かえって経済が縮小してしまうかもしれない。CO2削減という国際公約を天恵として、どこまで少子高齢化と情報革命の中で国と企業の競争力を高めるか。

これまでも勝ち組と負け組は出ましたが、これからは勝ち組もあっという間に負け組に転落します。仮に勝ち組になったとしても、その勝ちが長く続かないので、次から次へと回転していかなければならない。これからの経営者はなかなか厳しいと思いますね。

「ぽつんと一軒家」をやめることが過疎対策

──先ほど世界的なカネ余り、過剰流動性について言及されていました。既に、世界には名目GDP総額を上回る金融資産が存在します。この状態は固定化するのでしょうか。

森:現状のカネ余り状態を巻き戻していくのは難しいと思うので、将来的にはインフレになるのではないでしょうか。日本は公的債務が膨大にあるので、インフレになれば国債は暴落するかもしれません。ただ、日本は対外資産も多く、財政的な信用がある。また、日本円は国際通貨で、日銀による国債買い入れも続けるでしょうから、しばらくは大丈夫だと考えています。いずれにしても、低金利を前提に経済を回しているので、一番怖いのがインフレなのは間違いありません。

この過剰流動性の中で企業をどのように経営するかということはいつも考えています。例えば、ソフトバンクは通信企業から投資企業になりました。それについてさまざまな意見が出ているようですが、今の時代は世界の名目GDP総額よりも金融資産の方が何倍も大きいわけです。投資対象の方が事業対象に比べ大きいと考えれば、孫(正義)さんの選択は正しいのかもしれない。ここら辺はどういう世界観を持つかによって変わるでしょうね。

No image

「過疎対策という言葉がありますが、本来は過疎地域で暮らせるようにする対策ではなく、過疎をやめる方向の対策であるべき」と語る

──「五輪後に火を噴く老朽インフラ、誰の金で直すべきか」という記事でも触れましたが、少子化に伴う税収減や財政問題もあり、今後は社会インフラの維持管理や更新が難しくなっていきます。社会インフラについてはどのようにお考えでしょうか。

森:田中内閣の時の列島改造論以来、広くあまねくという考え方の下、日本は今も道路などのインフラを造り続けています。その意味では、日本のインフラは過剰だと思っています。

インフラではありませんが、日本は住宅も3割ぐらい余っていますよね。軽井沢のような別荘地も均等相続によって空き家が増えています。こういった別荘地やリゾート地を社会インフラ整備の名の下に集約化、立体化することで里山や森林などの自然を残していくというような考え方が今後は必要になると思います。もちろん、インフラの整備や更新の際に民間の資金やノウハウを活用するのは不可欠です。

ただ、インフラは広くあまねくではダメです。過疎対策という言葉がありますが、本来は過疎地域で暮らせるようにする対策ではなく、過疎をやめる方向の対策であるべきです。1軒だけぽつんと住んでいては困るわけですよ。日本は民主主義をはき違えています。

平成の30年間で競争力を落とし続けた理由

森:日本は、バブル崩壊前では世界2位の国際競争力があったのに、平成の30年でズルズルと競争力を失っていきました。当時は日本の1億2000万人の中での競争に勝てば世界一でした。自動車、電機などあらゆる業界で世界を席巻しました。ところが、グローバル化が進み世界での競争にフェーズが変わったのに、相変わらず狭い日本で過当競争を繰り広げた。世界は変わり、日本が負け組になりつつあるのに、プレイヤーの数が多いものだから輪をかけて弱体化したわけです。

AIを含めたこれからの情報革命では、勝ち組はさらに強くなっていきます。その競争に参加していくために、日本国だけでなく国民自身がキャッチアップしていかなければなりません。少子高齢化で人口が縮小していくことを考えれば、極めて厳しいチャレンジだと思いますが、それをしないことにはどんどん競争力を失っていくでしょう。

植村 公一

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加