ゴーン事件裁判 日産幹部ら14人の証言で見えたもの

ゴーン事件裁判 日産幹部ら14人の証言で見えたもの

  • テレ朝news
  • 更新日:2021/05/03
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証人の言葉から浮かび上がったのは約20年にわたる“ゴーン体制”で“統治不全”に陥った日産の姿だった。

〈“主役不在”で進む裁判〉

日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン被告が2017年度までの8年間のゴーン被告の報酬について、日産の有価証券報告書に91億円余り少ない嘘の記載をしたとして起訴された事件。

ゴーン被告自身についてはレバノンに逃亡したことで裁判に向けた手続きが中断していて、共犯者とされる元代表取締役のグレッグ・ケリー被告と法人としての日産の裁判が“主役不在”の状態で進められている。

これまでに48回の裁判が開かれ、4月23日までに当時の日産幹部らを中心に合わせて14人が出廷し、証言した。

〈双方の主張〉

検察側はこう主張している。

▼ゴーン被告は役員報酬の個別開示制度が導入されたことをきっかけに、高額な報酬に対する批判を避けるため、2017年度までの8年間、毎年報酬の総額の一部を隠し、有価証券報告書に記載していなかった。隠した報酬は支払いを延期された“未払い報酬”として1円単位で管理され、蓄積されていた。ケリー被告はゴーン被告の指示を受け、未払い報酬分を開示せずにゴーン被告に支払う方法を検討。未払い報酬が蓄積されていたことも把握していた。

これに対してケリー被告の弁護側は、このように主張する。

▼報酬が少なくなったことから、ゴーン被告が日産を離れてしまうリスクがあると考えていた。ゴーン被告をつなぎ止めるため、退任後に“特別顧問兼名誉会長”に就任してもらい、その報酬を支払うことなどを検討した。しかし、その時点では確定した話ではなく、提示した金額はあくまでもゴーン被告が“退任後に”“特別顧問兼名誉会長”などとして日産に提供する業務の対価を示したものであって、取締役である間の“未払い報酬”の後払いではない。

一方、法人としての日産は、起訴内容を認めている。

〈“司法取引”に合意した2人の証人〉

検察側の立証の鍵を握る2人の証人がいる。10年以上にわたり、ゴーン被告の側近だった大沼敏明元秘書室長と、ケリー被告の後任としてCEO(最高経営責任者)オフィスの室長などを務めたハリ・ナダ専務執行役員である。

2人はいずれも検察の捜査や裁判に協力する代わりに不起訴処分となった。いわゆる日本版“司法取引”に合意したのである。

〈“未払い報酬”を管理せよ〉

「ケリーさんは方法を考えるんだ。大沼さんはお金を管理しなさい」。

ゴーン被告からこう告げられたことがあったと大沼元室長は証言した。

元室長は公判のなかで、ゴーン被告の各年度の“確定済の報酬の総額”、“実際に支払われた報酬額”、“延期され、未払いとなっている報酬額”、それぞれを管理して報告するようゴーン被告から指示されたと説明した。ゴーン被告は大沼元室長が作成した各年度の報酬を記載した文書のなかで、“未払い報酬”を“Postponed=延期された”という言葉を用いて記載するよう念押ししてきたという。

そのうえでゴーン被告からは、その金額を記載し、取締役退任後に相談役報酬などの名目で未払い報酬を支払うなどとした“合意文書”の作成を指示された。つまりゴーン被告が報酬の一部はあくまでも支払いが延期されているだけで、最終的には全額を受け取ることができると認識していたのだと感じさせる。

その際、ケリー被告にも内容を報告したうえで、ゴーン被告の署名を入れた状態の文書を作成したという。実際にその文書は大沼元室長から検察側に提供されたほか、捜査の過程でゴーン被告の関係先から同じものが押収されている。

元室長はまた、ケリー被告とともに未払い報酬を開示せずにゴーン被告に支払う方法を検討した過程についても、時系列に沿って証言した。ケリー被告からは「ゴーン被告に対する支払いが延期されている報酬は今どれくらいなのか」などと問われることもあり、未払い報酬の額を1円単位で記載した書面を示しながらおおよその金額を伝えたと述べた。

〈“ヘアカット”を開示せず支払いたいと…〉

ナダ役員は「ケリー被告は“ヘアカット”を開示することなく秘密裏に支払いたいと考えていた」と証言。

ケリー被告との間ではゴーン被告が個別開示制度の導入をきっかけに報酬を減額したと見せ掛けることを髪を切ることになぞらえて“ヘアカット”などと呼んでいたのだという。毎年度報酬を減額することで“ヘアカット”の金額は積み重なっていったと説明した。

ナダ役員はケリー被告の指示のもと、ゴーン被告の退任後にヘアカットを開示せずに支払う方法の検討に関与したと証言。“顧問料”や“競業避止”の名目で支払うための契約書を起案したという。この契約書にはケリー被告と西川廣人前社長が署名した。

ケリー被告はナダ役員にCEOオフィスの室長などの役職を引き継いだ後、アメリカに帰国したにもかかわらず代表取締役にとどまった。「ゴーン被告への支払いが完了すれば自分は完全に退任する」。ケリー被告はそう語っていたという。

弁護側は“司法取引”に応じた大沼元室長とナダ役員の証言について、「信用性を慎重に吟味すべき」としている。

一方、検察側は「この事件は物証がありすぎるくらいある事件」と、立証の柱になっているのはあくまでも大量に残る文書やメールなどの物証であって証言はその補強に過ぎないと自信を見せる。

〈ゴーン被告の“暴走”を止めることはできなかったのか〉

法廷には志賀俊之元COO(最高執行責任者)、小枝至元相談役ら日産の当時の最高幹部も出廷し、証言した。

志賀元COOはゴーン被告からの指示で「“本来得べかりし報酬”と“毎年開示して受け取る金額”との差額を、開示せずに退任後に受け取る方法」を検討し、小枝元相談役とともに提案したと証言した。指示を受けた時点で、「間違いなく開示制度の趣旨に反している」と感じたという。

それでも止めることができなかったのはなぜか。志賀元COOは「コーポレートガバナンスの不全があった」と述べ、その背景には「ゴーン被告が、徐々に人の話も聞かない、絶対君主的に強くなっていったこともある」と説明した。ゴーン被告は意見を言う監査役を毛嫌いしていて、「モノを言わない監査役を探してこい」と具体的に指示を受けたこともあったという。

かつてゴーン被告とともに共同会長を務めた小枝元相談役も、ゴーン被告に対して「やめるべき」などと伝えることはなかった。

その理由について、「日産に来て十数年経ち、ルノーのCEOも兼ねていて、絶対的な権力を握っている。何を言ってもゴーン被告は言うことを聞くわけがないと感じていた」と語った。

〈「地検が必要だった」〉

証言台の前に立った日産関係者らは、ゴーン被告が1999年に日産に来てから業績を回復させたことに触れ、ゴーン被告について「素晴らしい経営者」と口をそろえた。そして「ゴーン被告は変わっていった」と複数の証人が語った。小枝元相談役は「ゴーン被告は長年の経験と成功体験により自信過剰になっていた」と振り返る。

「ゴーン被告は『これはできません』『無理です』という回答を毛嫌いしていた」

「取締役会のメンバーは全員ゴーン被告が選んで指名した人だった」

「ゴーン被告は日産の最大の株主である会社、ルノーのCEOでもあった」

ー証人の言葉から浮かび上がったのは、約20年にわたる“ゴーン体制”で“統治不全”に陥った日産の姿だった。

最終的に、一連の問題は東京地検特捜部の手によって事件となった。日産での内部調査を主導した川口均元副社長は、こう証言した。

「日産の当時のガバナンスの状態で、ゴーン被告にすべての権限が集中されていた。内部から糾弾することは非常に難しく、地検が必要だった」。

〈今後の裁判は〉

次回5月11日の裁判ではゴーン被告の捜査当時の供述調書が朗読される予定となっている。関係者によると、ゴーン被告は検察側が“確定していた”と主張する“未払い報酬”の額について「参考数値にすぎず、もらう予定もない」などと主張していたという。

そして、12日からはケリー被告の被告人質問が始まる。証人尋問が続く間、終始落ち着いた様子でメモを取りながら聞いていたケリー被告。自らの口で何を語るのか、注目される。

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