平成ギャルがトレンドになっている昨今。見た目だけではなく精神性にも注目が集まり、ポジティブに自分らしさを貫くマインドが支持されているという。そうした再ブームで気になるのは、かつて渋谷センター街を賑わせていたギャルたちの今だ。10代・20代を謳歌していた彼女たちは、年齢を重ねてどのような女性になっているのだろう。

元『egg』モデルのゆまちさん(35歳)<撮影/藤井厚年>
ギャル雑誌『egg』で人気を博したゆまちさんは、今年35歳を迎えた。2020年には結婚と出産を経験し、現在では一児のママとして幸せに暮らしている。そんな第二の人生を歩む彼女だが、eggを卒業してから約10年……今に至るまでどのような進路を辿ってきたのだろうか。
◆悩みが尽きなかったeggモデル時代

読モ時代の写真。「ゆまち&愛奈」として歌手デビューした経験も<提供写真>
eggの表紙を飾るほどの人気を誇っていたゆまちさんは、アパレルブランドのプロデュース、さらには「ゆまち&愛奈」として歌手デビューを果たすなど、ギャルカルチャーを担う存在でもあった。当時はさぞかし楽しい日々を過ごしていたのではないかと想像するが、本人に話を聞くと意外な答えが返ってきた。
「ずっと怖かったです。周りには可愛い子なんてたくさんいるし、若い子もどんどん入ってくるじゃないですか。eggに呼ばれなくなったらどうしようっていつも不安でした」
さらに彼女は当時をこのように振り返る。
「私って超ネガティブなんですよ。悩んでばっかりでしたね。eggのファンイベントがあったときも『誰も来なかったらどうしよう』とか考えちゃうし、親友の愛奈(元eggモデル)と一緒に撮影現場に行けなかっただけで『私のこと嫌いになっちゃったんだろうな』とか思っちゃうし(笑)。マイナス思考になりがちでした」
葛藤の連続だったとか。それでもeggが大好きだったゆまちさんは、いくら同期が巣立っても辞めることを選ばなかった。どれだけ悩んでもやはり自分の居場所はここしかない。悩みながらも、在籍歴6年9ヶ月の最年長モデルとして休刊直前まで雑誌を支えた。
◆人生を変えた離婚と独立という経験

そんなゆまちさんが、次の進路として選んだのはパチスロ演者の仕事だ。元々店に通い詰めるほどのパチスロ好き。これなら興味を持てるかもしれない。美容室の受付をしつつ、“元eggモデル”のブランド力を活かして、パチスロ系番組の出演や来店イベントなどパチスロ関連の仕事を増やしていった。
「しばらくスムーズに仕事をいただけました。それも“元eggモデル”っていう肩書きがあったからこそだと思います。卒業しても雑誌の存在は大きかったですね」

パチスロ関連の仕事も<提供写真>
大好きなパチスロに関われて仕事は充実していたという。その頃、ゆまちさんは20代後半を迎えていた。何かと将来に対する心配事が増える年齢でもあるが、彼女はどうだったのだろうか。
「27歳になってすぐ離婚したんですけど、その時期は本当に大変でしたね」
実はegg在籍期間中に結婚していたゆまちさん。本誌では珍しい主婦モデルとしても知られていた。
「離婚することにはなったけど、稼ぎも住まいも元夫に頼ってたところがあったから、一人で自立していかなきゃいけないのが大変で……。あの時期は友達にほんっとに助けられました。『うちに来なよ!それでお金貯めて土台作りな』って声かけてくれた子がいて、同居させてもらいながら貯金していました」
お金を貯めるべく仕事にも精を出した。美容室の受付とタレント業という二足の草鞋は大変だったが、それでも仕事自体は楽しめていたという。しかし、そんな中で独立したいという気持ちも徐々に芽生えていった。
好きだったパチスロの仕事からもしばらく離れてしまうかもしれないが、それでもフリーランスとして自力で活動してみたい。ゆまちさんの思いは強かった。
事務所と話し合いを重ねた末、契約満了で退所することに。その頃には友人の家を離れて、独り立ちできるほどの蓄えもあった。晴れて再スタートを切ることができた当時をこう振り返る。
「もう将来の心配はなかったですね。ようやくいろんな悩みから開放されて、これからは自分のために生きようと思えました。やりたいように生きる、これが自分の人生なんだって」
◆コロナ禍に訪れた転期

モデルの今福歳生さん(左)と結婚<提供写真>
ようやく第二の人生を歩めると思っていたのも束の間、2020年にコロナ禍が訪れた。主な収入源は美容室の受付だったため、緊急事態宣言に伴う営業自粛などは大きな打撃だった。
これからどうしようかと考えていた最中、ゆまちさんの体に異変が起こる。現在の夫となるモデルの今福歳生さんとの子どもを身ごもっていたのだ。
「仕事を休まざるを得ない時期だったのですごいタイミングでしたね。彼とは結婚前提に付き合っていたこともあって、子どもができて嬉しかったです。妊娠したことを伝えたら、彼からプロポーズしてくれました」
その後、無事に出産したゆまちさんは、“ママにならなくては”と思い始める。まだまだギャルママは少数派。それに年齢だってもう若くない。いつまでもこのままでいいのだろうか……葛藤の末、落ち着いた見た目になろうと考えるように。育児で忙しくなれば美容院にも行けなくなるだろうと、髪を切り、色を暗くし、トレードマークだったハイトーンのロングヘアをやめた。すると印象はガラッと変わり、そのままのメイクでは顔が浮いてしまうようになったとか。髪に合わせてメイクを薄くしていくうちに、これまでの姿ではなくなっていった。
◆好きな自分でいることを諦めない!ママとギャルを両立するために
大好きだったギャルから離れかけていたゆまちさん。愛おしい子どもの育児にすっかり夢中になり、以前よりも自身に関心を持たなくなっていた。そんなある日、写真に写った自分が別人のような姿だったことから、このままではダメだと思い直すようになる。
「やっぱりハイトーンの髪色が好きなんですよね。そうじゃない自分を好きになれないし、人生も楽しめない。だって写真を見返したときに自分が全然盛れてないんですもん。別にいけないことをしてるわけじゃないし、それよりも我慢せずに自分のありたい姿でいた方が、子どものためにもいいだろうなって」
吹っ切れたゆまちさんは、再び元の姿に戻っていく。とはいえ現状は、育児で自宅にいる時間が長く、メイクをせずに過ごすことも多い。そこで、すっぴんでも可愛い自分でいようと、眉毛のアートメイクやマツエクを施し、さらには美容クリニックにも行くように。託児所付きの店を選び、子どもと一緒に過ごしながら美容に費やす時間も作った。好きな自分でいることを諦めなかったのだ。
「“普通”からずれるとバッシングされることもあります。でも子どもは『ママかわいい』って言ってくれるし、夫もギャルの私を認めてくれている。この二人がわかってくれたらそれでいいかなと思うんです。周りにとやかく言う人はいても、その人たちはわたしの人生に責任とってくれないじゃないですか」
◆「自分らしく生きていく」先輩ギャルから学んだ信念

離婚、独立、再婚、妊娠……自分らしく生きる道に進むべく、一山も二山も超えてきたゆまちさん。若くして様々な出来事を乗り越えてきた経験があるからか、ネガティブだったというかつての姿はない。
「誰かに自分の道を決めてもらってたら、上手くいかなかったときにその人のせいにしちゃうかもしれない。そんなの嫌じゃないですか。だから自分の足で人生を歩んでいきたいです」
そして最後にこう語ってくれた。
「私が好きだったギャルってみんな芯が強いんです。見た目で偏見をもたれていたからこそ、軸がぶれない。そういう先輩たちに憧れたし、私もそうでありたいなって。今も小さな悩みやストレスはいっぱいあるけど、自分らしくいられてるから幸せです」
<取材・文/奈都樹、撮影/藤井厚年>
―[“ギャル”のその後]―
【奈都樹】
1994年生まれ。リアルサウンド編集部に所属後、現在はフリーライターに。『リアルサウンド』『日刊サイゾー』などで執筆。またnoteでは、クォーターライフクライシスの渦中にいる20代の声を集めたインタビューサイト『小さな生活の声』を運営している。