ここ数年の間にクローズアップされる機会が増えてきた「8050(はちまる・ごうまる)問題」(※1)。高齢の親が中高年となった子どものひきこもり生活を支える状況を指し、近年における日本の社会的課題となっている。このたび、神戸市福祉局相談支援課の担当者とともにひきこもり経験者2人がラジオ番組に出演し、自身の経験について語った。
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1人目の経験者・餅屋さん(仮名、男性)は、3年ほどのひきこもり生活を経験。約3年勤めた会社を退職したあと、再就職がうまくいかなかったことがきっかけだという。“燃え尽き症候群”と言える症状もあり、「何もやりたくないな」「ボーッとしていたい」という日々が続いた結果、貯金が少なくなり、徐々に外出することもなくなっていったという。

餅屋さん(仮名)
そんな餅屋さんがある日突然、両親の声がけにより訪れることになったのは、神戸市が設置している公的なひきこもり相談窓口『神戸ひきこもり支援室』だった。
「ほかの人に迷惑をかけるわけにはいかない」という使命感から通い始めたものの、「就職はしたいが、誰に相談すればいいのかわからない」という本音を相談員に打ち明けたことから道は開けたという。ハローワークへの同行や悩み相談をはじめとした支援室のさまざまなサポートを受けながら、就職へと一歩一歩進んでいる最中だと語った。
2人目に紹介されたトシさん(仮名、男性)は、約10年にわたってひきこもり生活を送っていた。餅屋さん同様に一度は就職したものの、退職。再就職につまずいたことや体の不調なども重なり、働く意欲が失われていくうちに気づけば時間が経過していた。

トシさん(仮名)
トシさんも、両親から後押しされる形で支援室へと赴いた。当初は「行くしかない」という諦めにも似た思いを抱いていたが、「ひきこもり当事者の会」で自身と似た境遇の人たちと交流したことで「こんな人もいるんだ」という新たな発見に出会えているという。
神戸市ひきこもり支援室では、今年9月から11月の3か月にわたってひきこもりへの理解を深めるためのオンライン講習会を実施中。神戸市福祉局相談支援課の加島さんによると、講演会は好評を博しているという。専門家として神戸市看護大学の船越明子教授が登壇するほか、ひきこもり経験者も出演。自身の経験談や社会参加に至るまでの経緯などが紹介されている。
同講演会の開催にともない、ひきこもり経験者の餅屋さんとトシさんはそれぞれこのようにメッセージを送った。
「皆さんが思っているよりも、“ひきこもり”という自覚のないひきこもり当事者は多いと思う。少しでも『つらいな』『しんどいな』と思ったら、『周りの人のほうがつらい思いをしているかもしれない』『自分はまだマシだ』とひとりで悩まずに、気楽に支援室に相談してみてはどうでしょうか。話すだけで楽になることもありますし、新しいことをしてみるきっかけにもなるかもしれません」(餅屋さん)
「人の話を聞くことによって、『(悩んでいるのは)自分だけではないんだな』と楽になれました。たくさんの人と出会うほどに自分の状態を確認することができて、“これから自分はどうしていくべきか”が見えてくると思います」(トシさん)
なお、講演会の視聴は無料。オンライでの予約が可能で、詳細については神戸市の公式サイトで確認できる。「経験者から学ぶひきこもり」と検索しても出てくる。講演会は11月30日(木)までの開催となるため、当日までの申し込みが必要。

写真後列:左から神戸市福祉局相談支援課の加島英義さん、トシさん、餅屋さん 写真手前右:ラジオ関西パーソナリティの羽川英樹氏、同左:大森くみこ氏
※1 「8050問題」“80代の親が50代の子どもの暮らしを支える”ことから。
※ラジオ関西『羽川英樹ハッスル!』2023年11月9日放送回より
ラジオ関西