カズの存在が横浜FCの勝因になっている。背中で語る53歳の美学

カズの存在が横浜FCの勝因になっている。背中で語る53歳の美学

  • Sportiva
  • 更新日:2020/09/15

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もう14年も前のことだから、細かい記憶はあいまいだが、猛烈にビビったことだけは覚えている。

横浜FC・瀬沼優司「カズさんに感謝」

2006年当時、サッカー専門誌のサンフレッチェ広島担当記者として、グアムキャンプを取材したことがある。目的はもちろん、広島の選手たち。ジーコジャパンにも選ばれていた佐藤寿人や駒野友一、キャプテンに就任した森崎和幸をインタビューすることだった。

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名古屋戦でベンチ入りを果たした三浦知良

広島の練習場のある施設では、当時J2だった横浜FCもキャンプを張っていた。前年のJ2でも下位に沈んでいたこのチームのことはあまり知らなかったが、せっかくグアムまで来たんだからと、そちらの練習場ものぞいてみることにした。

お目当ては、三浦知良である。

前年の夏に電撃加入した当時39歳のレジェンドが、シーズン前にどのような状態にあるのか。しばし練習を眺めていると、クラブの広報が寄ってきて、「カズさんのコメント、取りますか?」と尋ねてきた。

「もちろん!」と即答してみたものの、内心は気が気ではなかった。取材者は筆者以外おらず、マンツーマンで話を聞けることになったからだ。

うれしさよりも緊張が上回った。なにせ、高校時代から憧れていた選手である。

仕事である以上、浮ついた気持ちではいられない。サッカー界のスーパースターに1対1で話を聞けるチャンスなど、めったにないことだ。練習が終わり、カズがロッカールームに戻ってくる間、何を聞けばいいのか必死に頭を巡らせた。

しばらくして、カズはやって来た。さっと手をさし出され「よろしく!」と、力強く握手してくれた。その瞬間、頭の中が真っ白となり、用意していた質問内容が完全に吹っ飛んでしまった。

後にも先にも、これほど緊張した取材はない。結局、たいしたことは聞けなかった。「コンディションはどうですか?」とか「今シーズンの目標は?」とか、その程度のことしか投げかけられなかった。しかし、そんな杓子定規的な質問にも、カズは真摯な姿勢で答えてくれた。

最後に聞いた質問も、なんとも失礼なものだった。

「この年齢になってもサッカーを続けられる理由は?」

捉え方によっては、「なんでサッカーを辞めないんですか?」と聞こえなくもない。しかも、新たなシーズンに向けてコンディションを高めている時期に、だ。

これまでにも、いろんなメディアから聞かれてきた類(たぐい)の質問でもあっただろう。タイミング的にも、内容的にも、「しょうもないことを聞く記者だな」と思われたかもしれなかった。それでもカズは、どこまでも神対応だった。

「やっぱり、サッカーが好きだから、ですかね」

それがすべてである。コンディションさえ保つことができれば、好きなことをやり続ける。それがカズの生き様であり、答えだった。

その年、横浜FCFはシーズン途中から指揮を執った高木琢也のもとで快進撃を続け、J2優勝を達成。カズも39試合に出場し、6得点を挙げる活躍を見せ、J1昇格に大きく貢献した。

翌年、40歳となったカズはJ1でも衰え知らずのプレーを見せ、24試合に出場し、3得点をマーク。チームは1年でのJ2降格となったが、カズ自身はシーズン最終戦で浦和レッズの連覇の夢を断つ決勝アシストを記録した。これがカズにとって、現時点でのJ1最後の試合となっている。

そして迎えた2020年。13年ぶりにJ1に復帰した横浜FCの11番は、いまだカズの背中にある。53歳にして現役を、しかもトップリーグで続けているのは、奇跡というほかないだろう。

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ここまでルヴァンカップ2試合に出場しているものの、リーグ戦での出番はなし。ところが9月13日に行なわれた名古屋グランパス戦で、カズは今季初めてリーグ戦のベンチ入りを果たしたのだ。

ピッチに立てば、もちろんJ1最年長記録となる。世界的に見てもギネス級の出来事だろう。試合中、横浜FCのコーチが交代カードを持って第4の主審のところに走るたびに客席は色めきだったが、結局カズの出番は最後まで訪れなかった。

それでもピッチに立たなくとも、カズの影響力は絶大だった。試合は横浜FCが3−2と打ち合いを制し、連敗を3で食い止めている。下平隆宏監督は、勝因のひとつにカズの存在を挙げた。

「ウォーミングアップや円陣も、いつもと違った雰囲気があった。カズさんがいるから、ピッチの中でポジティブな声が飛んでいた。そういったことが苦しいゲームを勝利に導いた要因かなと思います」

決勝点を決めた瀬沼優司も、カズの影響を受けたひとりだ。今季、出番が限られるなかで、カズの言動に励まされてきたという。

「いつもまったくネガティブなことを言わず、黙々と努力する背中を見ている。カズさんが毎日努力しているのに、弱いところを見せている場合ではないなと、となりにいるだけで感じられていた。カズさんの背中を見ながら準備していたことが、今日の結果に結びついたと思っています」

試合前やハーフタイムに、ウォーミングアップをするカズの姿を見て感じたのは、想像を絶するような「準備」の時間である。試合に出られるかわからないなか、出番が訪れるその瞬間のために、黙々と準備を進めていくのだ。

年齢を重ねるごとに、身体のメンテナンスにかかる時間は間違いなく増えているだろう。なにも、この日だけではない。シーズンが始まってからの半年間、J1でプレーできなかった13年間、もっと言えばブラジルでプロ契約を結んだ1986年からの34年間、カズは試合に出るために準備を続けているのだ。

もっとも、その時間もカズにとっては、苦しいものではないのかもしれない。

なぜ、そこまで続けられるのか。

「サッカーが好きだから、ですかね」

あの時の言葉が、頭の中でリフレインした。

原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei

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