アメリカザリガニは食べて駆除!? 子どもたちのアイドルは「最悪の外来生物」だった

アメリカザリガニは食べて駆除!? 子どもたちのアイドルは「最悪の外来生物」だった

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  • 更新日:2021/09/15
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アメリカザリガニの塩ゆで。千葉県・印旛沼のほとりにある「レストラン錦谷」で。この地域では昔からザリガニが食べられてきた。エビとカニを合わせたような濃厚な味で、女性にも人気(筆者撮影)

公園の池や水路など、身近なところに生息し、簡単な道具で釣りが楽しめるアメリカザリガニは子どもたちのペットとしても大人気だ。ところが先月、環境省の専門家会議はアメリカザリガニは最悪の外来生物として、積極的に防除を行う必要性がもっとも高く、対策の緊急性も高いとする提言をまとめた。すでに数十年前から子どもたちのアイドルだったアメリカザリガニがなぜ、いまやり玉に挙がっているのか? 規制や駆除をするにしても、もはや手遅れではないのか? 環境省に聞いた。

【写真】「うまい!」塩ゆでされたアメリカザリガニ

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そもそもアメリカザリガニは約90年前、食用ガエルのエサとしてアメリカ南部のニューオーリンズから20匹ほどが輸入され、神奈川県鎌倉市の養殖場で飼育された。 ところが、それが逃げ出し、東京や埼玉、千葉方面に拡散。その後、全都道府県に広まった。

■明らかになった深刻な被害

すでに1960年代にはほぼ全国に生息するようになったアメリカザリガニだが、その悪影響が問題視されるようになってきたのは近年のことという。

「貴重なトンボが絶滅してしまったり、生態系への被害が特に最近の知見でわかってきました」

そう語る環境省外来生物対策室の前田尚大さんによると、そもそも「外来生物」という言葉が知られるようになったのはここ10年ほどのことという。

「例えば、外来生物法(正式名称は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」)ができたのが2004年。そのころはまだ外来生物という概念すらあまりなかった。ですから、外来生物による影響が明らかになってきたのは比較的最近の話なんです」

さらに前田さんは長年、アメリカザリガニの悪影響が見過ごされてきた原因について、時代の空気もあったのではないかという。

「アメリカザリガニがこれほど広まったのは、自らやってきたわけではなくて、人が持ち運んで意図的に放ったから。もちろん、そのときはまさかこんなことになるとは夢にも思わなかったでしょう。そういった時代背景もあったと思います」

■将来的には根絶を目標とするが

アメリカザリガニは昔からあまりにも身近な場所に生息しているため、侵入以前の状況を知る人は少ないが、侵入前後を写した写真は衝撃的で、生態系が一変していることがひと目でわかる。

水面に豊かに生い茂っていた水草がまったくなくなり、池の水が濁り、泥色になっている。「専門家の先生は、この水の色を『ザリガニ色』というそうです」。しかし、これだけ生息範囲が広まってから対策に乗り出しても効果はあるのだろうか?「将来的には国内での根絶を目標とはしますが、なかなか難しい」としたうえで、「短期、中期的には、まだアメリカザリガニが入っていない地域、水系に拡散することを防ぐ。あるいは、世界自然遺産や国立公園など、特に守るべき地域へ広まるのを防止したい」と説明する。「規模が小さい湖沼であれば、防除の取り組みによって根絶にいたれば元の自然を再生できると思う」

現在、基本的に外来ザリガニは「特定外来生物」に指定され、飼育、運搬、販売、譲渡、野外に放つことなどが規制されている。

しかし、その唯一の例外となっているのがアメリカザリガニだ。

■法規制は進むのか?

「緊急対策外来種」の筆頭に挙げられているアメリカザリガニはなぜ特定外来生物に指定されないのか?

「実は以前から特定外来生物に指定すべきだ、という意見はありました。では、なぜ、指定されないのかというと、アメリカザリガニはとても身近な種で、多くのご家庭や学校で飼われているからなんです」

推定では約65万世帯で、540万個体ほどが飼育されているという。

今後、仮にアメリカザリガニが特定外来生物に指定されたとしても申請すれば飼い続けることができる。

「けれど、そういう周知が行き渡らず、『飼えなくなっちゃったな』と、野外に捨ててしまう。あるいは、『面倒くさい』と、放してしまうことが想定される。規制の効果よりも、まだザリガニが入っていない水域に放出されてしまうリスクのほうが高いのではないか――そういった判断でこれまで特定外来生物への指定は見送られてきました」

では今後、法規制は進むのか?

「8月の専門家会議で、『規制の仕組みを検討するように』と、提言いただきましたので、それを踏まえて環境省中央環境審議会で引き続き検討、議論を行います。ただ、具体的にどうなるかは未定です」

■外来魚に食べられて激減

ちなみに、「アメリカザリガニは生きた状態で放されてしまうのが問題であって、食べていただくぶんには別にかまわないというか、特にそういった考え方は示していないですね」と、前田さんは言う。

「例えば、北海道に生息している外来種にウチダザリガニというのがいるんですが、これはロブスターみたいな味でけっこうおいしい。駆除活動の一環で、食べるところまでやりましょう、ということが行われています」

環境省のホームページによると、千葉県北部から茨城県南部の利根川水系周辺ではアメリカザリガニを食べる習慣があるという。

インターネットで検索すると、ザリガニ料理を出す店はすぐに見つかった。その一つ、千葉県・印旛沼のほとりにあるレストラン錦谷を訪ねた。すると、支配人から意外な話を聞かされた。

「昔は『マッカチン』っていうデカいのがいっぱいいましたよ。ザリガニ釣りをすると、すぐにバケツいっぱいとれた。でも、いまは、いないです」

実は筆者は子どものころ、親に連れられて印旛沼に遊びに行ったとき、沼から引き上げられた網の中に巨大なアメリカザリガニが大量に入っていたのを目にして、とても驚いたことがある。しかし、それは昔話という。

「田んぼの水路がコンクリートになって生息地が減った。農薬でもだいぶやられた。あと外来種の魚、バスとかに小さいときにみんな食べられちゃう」

同じ外来生物に捕食されてアメリカザリガニが激減していたとは、皮肉な話だ。

■中国人バイヤーもやってくる人気食材

店で出されているザリガニは利根川付近で漁師がとったもので、「いまでは高級品ですよ」。 そんな話を聞いているうちに塩ゆでにされたザリガニの皿が運ばれてきた。 殻全体が鮮やかな赤色に茹で上がり、なかなかインパクトがある。インスタ映えしそうだ。

身のほとんどは尻尾の中に詰まっており、濃厚な、エビとカニを合わせたような味がする。胴の部分にはミソが入っている。

「うまいですね」

「でしょう。女性にも人気で、好きな人はエラまでしゃぶる。そこにもミソが少しついているんですよ。地元の人はけっこうニンニク醤油で食べる。甘酢で食べる人もいますね」

中国では人気の食材だそうで、最近は中国人バイヤーがここまでやってくるという。

ザリガニを料理する際は泥抜きをしてくさみをとることが肝心で、しばらくきれいな水で飼い、十分に泥を吐かせてから、加熱調理する。

ただ、飼っているうちに情が移ってしまいそうな気もする。そこで先の前田さんの話を思い出した。

「外来種だけでなく、飼った生きものは最後まで責任を持って飼っていただきたい。それが大原則です」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

米倉昭仁

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