理系トップ「東工大」出身女優が語るわが母校 “新名称”と“女子枠”創設への思い

理系トップ「東工大」出身女優が語るわが母校 “新名称”と“女子枠”創設への思い

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  • 更新日:2023/01/25
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山崎丹奈さん(撮影/加藤夏子)

2024年度の統合を目指す東京工業大学(東工大)と東京医科歯科大学の新大学の名称が「東京科学大学」となると発表された。東工大は、同年に女性のみが出願できる「女子枠」を創設することも決まっており、大学改革を進めている。国立理系トップの東工大は女子学生が13%しかおらず、「男女差」が課題となっていた。その一方で、女子枠創設には、入試の平等性が損なわれるのでは、など疑問も上がっている。大学統合や女子枠創設について、卒業生はどう感じているのか。東工大環境・社会理工学院を卒業後、女優として活躍する山崎丹奈さんに大学への思いを聞いた。

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「統合や女子枠の一報を聞いたときには、本当に驚きました。大学側が課題を感じた上で、新たな一歩を踏み出そう、改革しようという意識を感じました。東京科学大学、という名称については、シンプルで覚えやすいと思います。自分が両大学を知っている歴史以上にこれからの大学の未来は長いと思うので、新名称がなじむように、これからも変わりなくその専門性を磨いていってほしいです」

こう話すのは、2013年に東工大環境・社会理工学院(土木・環境工学系)を卒業した、女優の山崎丹奈さん(31)。学士課程(学部)の女子学生が約13%しかいないと言われる東工大において、“貴重”な女性の卒業生だ。さらに卒業生の多くが理系分野の研究職、技術職に進む中で、俳優として芸能界に入った山崎さんの経歴はかなり異色と言える。そんな山崎さんからみて、母校の改革はどう映っているのだろうか。

「確かに、入り口の入学者数を増やせば、出口も増えるわけで、女性の研究者や技術者も増えるでしょう。ただ、その仕事をするにあたって女性が働きやすい環境が整っているかといえば、受け入れ先の組織や企業で変わってくると思います。もちろん女性枠は大学ができる対応の一つだと思いますが、女性の人生をどう考えるか、という意味でソフト面でもっとやれることはあるのではないでしょうか。女子学生が増えても、たとえば、大学内の研究環境が改善しなければ、状況が良くなったとは言えないと思います」

実際、山崎さんは過酷な研究環境に直面したことが、将来を考えるきっかけになった。山崎さんによると、当時の東工大では学部生の“ほぼ全員”が大学院に進学していたという。土木・環境工学科(当時)でサンゴ礁の勉強をしていた山崎さんも、最初は大学院で研究を続ける道を選んだ。

だが、明確な終わりがなく、突き詰められるだけ突き詰められてしまう研究という仕事は、山崎さんにとってハードだった。夜通し大学にいることも日常茶飯事だったという。さらに、女子学生は山崎さん1人だった時期もある。研究室に泊まることは避けたいと思い、徒歩で通える場所に引っ越したほどだった。深夜まで研究室に残る生活を強制されたわけではないが、研究を突き詰めようと思えば、“自己判断”でそうせざるを得なかった。

「女子が1人で周りがすべて男性で研究室に徹夜という状況は、今振り返ると、疑問に思うところはあります。課題に時間がかかったことは私の要領の悪さもあると思いますが、もし男性だったら引っ越さなくて済んだのかもしれないなと思います。社会に出てからは、よく『もったいない』という言われ方をされました。専門分野に進まないなんてもったいない、芸能界に入るなんてもったいない、という意味なんだろうと理解しています。ただ、この挫折があったから、自分が研究に対するストレス耐性が足りないことに気づき、女優という別の道に進むきっかけにもなったので、全てがマイナスだとは思っていません」

東工大が「女子枠」の創設を発表したのは、昨年11月のこと。25年度までに学校推薦型選抜と総合型選抜(AO入試)で計143人の「女子枠」を創設する。これにより、現在は学士課程(学部)に約13%しかいない女子学生の比率を20%以上に高めるという。女子枠は24年度入試から物質理工など4学院(学部)で先行的に開始する。総募集人数は変更せず、女子を増員した分は、一般選抜枠の人数を縮小することで調整するという。

大学側は公式HPで「女子枠」創設の背景について「ダイバーシティ&インクルージョン(編集部注・多様性と受容)の取り組みの一環」「理工系分野における女性研究者・技術者を増やすこと」などとしている。日本の大学学部の女子学生の理工系分野の入学者は7%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国(同15%)に比べて、極端に低い。こうした状況を是正しようと、名古屋大学など他の国立大学でも「女子枠」を設ける動きはある。

だが、これに対してSNS上では「女性の方が受験で有利になるのは逆差別だ」「女性の社会進出とは別の問題」など疑問視する声も上がっている。

大学側の意図や世間の反応について、山崎さんはどう思っているのだろうか。

「入試は受験生にとって、命がけといっても過言ではありません。推薦枠とはいえ女子限定で入試を行うことで、男子の一般受験生がないがしろにされていると感じないかは心配です。また、女子枠で入った生徒たちに対して、『男なら落ちていたのに女子だから受かった』など心無い言葉を投げかられないかという不安も残ります。大学側が強調する“多様性”というのも、すごく難しい言葉で、どのようにも使えてしまう。多様性は性差だけではありません。性差以外の“多様性”についても配慮しているのか、という点は考えるべきだと思います。制度を作ったら終わり、ではなく大学側はその後のフォローも必要なのではないでしょうか」

山崎さんは大学院を1年で中退し、芸能事務所に所属しながら旅行系の一般企業に就職。会社員を1年経験した後、俳優に専念して活動してきた。最近では、東京理科大卒の三浦透子さんなども活躍し、「リケジョ女優」という言葉も生まれた。山崎さんが東工大で学んだことで、俳優として生かされている部分はあるのだろうか。

「正直言って、研究内容という点ではないですね(笑)。ただ、勉強に対する姿勢だったり、課題に直面したときの精神面だったりは、大学で鍛えられたことは大きいと感じています。ムチャぶりのスケジュールになっても、何とかなるとか(笑)。あと会社員を経験したことは、組織や社会の仕組みを知ることができ、社会で生きる一人の人間として成長させてもらいました。これは演技をする上で役に立っています。女性の働き方、と言ってもそれこそ多様です。東工大の女子学生には、将来の道はひとつではないことも伝えたいと思います」

女子だから、理系だから、ということは本質ではない――唯一無二のキャリアを歩んできた山崎さんだからこそのメッセージだろう。

(AERA dot.編集部・作田裕史)

◎山崎丹奈(やまざき・にな)
1991年生まれ。幼少期は米ペンシルベニア州で育つ。桐蔭学園を卒業後、東工大土木・環境工学科(当時)に入学。2009年に「ミス東工大グランプリ」に輝く。2012年に女優デビュー。17年に映画「トリノコシティ」で主演。その他、「母になる」(日本テレビ系)、「マザー・ゲーム」(TBS系)など多くのドラマに出演。一児の母として育児にも奮闘中。

作田裕史

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