カズレーザー「パイナップルですよ」現代アートの境界線とバラエティ

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2021/07/20

テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(7月11~17日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。

カズレーザー「ケースという側があると、先入観で作品だと思ってしまいがちですよね」

東京では代々木公園の上空に巨大な人の顔が浮かんだり、大阪では「表現の不自由展かんさい」が開催されたり。現代アートをめぐるニュースがいくつか報じられた先週、12日の『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)で現代アートが取り上げられていた。5日と12日の2週にわたる企画だ。

同番組は、授業形式のバラエティ番組。生徒役の出演者が先生役の出演者の授業を受講し、人生の教訓などを学んでいく。

今回の先生役はカズレーザー(メイプル超合金)だった。彼が昨年10月に同番組で担当した「ガセネタに惑わされないための授業」は、良質なテレビ番組に与えられるギャラクシー賞(放送批評懇談会)の月間賞を受賞。私たちはなぜデマやフェイクニュースに引っかかってしまうのか、その理由を平易かつ面白く説明したカズレーザーによる授業は、コロナ禍の誤った情報でトイレットペーパーが買い占められるといった時世の中で、まずもって教育的な価値のあるものだった。

と同時に見事だったのは、デマに引っかかる心理を説明する際にカズレーザーが紹介してた「ガム・ミルク理論」「もう1つの月理論」「いびつなアルマジロ理論」といったそれっぽい理論は、すべてデマだと授業の最後に明かされる構成。デマに騙される人を傍観者的に笑っていた側が、騙される当事者になっている反転。賞を獲るのもうなずける放送だった。

で、そんなカズレーザーの今回の授業のテーマは現代アート。しばしば高額で取り引きされるにもかかわらずその価値が一般にはわかりにくい現代アートについて学び、物事の本当の価値を見極める方法を知ろうという趣向だ。生徒役にはレギュラー陣の若林正恭(オードリー)、吉村崇(平成ノブシコブシ)、澤部佑(ハライチ)のほか、高山一実(乃木坂46)、金村美玖(日向坂46)、そしてインスタグラマーの亀井佳代だ。なお、番組は京都芸術大学大学院の小崎哲哉教授の監修のもと製作された。

番組は、現代アートに価値が生まれる3つの要素をカズがレクチャーする構成で進んでいく。5日の放送で1つ目の要素として挙げられていたのは、「インパクトのある話題性」。いまやアートの評価軸は見た目の美しさだけではない。特に現代アートと呼ばれる作品では、今まで誰もやっていないような表現が評価される。そこでは目に訴えかける美的なものというよりも、脳に訴えかけるインパクトこそがアートになる。よって、いままで見たことがない”新しさ”を受け止めるのが現代アートの楽しみ方だ、と授業は進む。

とはいうものの、そのインパクトの評価は簡単ではない。カズレーザーは授業の中で生徒たちにワークをさせる。示されたのは3つの写真。ショーケースに展示されたパイナップル、床に置かれたメガネ、壁に貼り付けられたバナナだ。実際に美術館に飾られたことのあるこれらの評価額と理由を、それぞれ予想させる目利きクイズのようなもの。

で、パイナップルに日向坂の金村やインスタグラマーの亀井が1億円の価値をつけてしまったりするわけだけれど、実際にはこれは学生のいたずら。評価額は0円。学生が美術の展示場にパイナップルを置いたまま帰ったところ、いつのまにかケースが被せられ、それを作品と勘違いした見学者が続出するという”事件”があったらしい。傍目に見るとトンチキな出来事だけれど、さて、自分が実際にこの展示場にいたとして、ただのパイナップルだと疑うことができるか。カズは次のように補足説明を加える。

「ケースという側(がわ)があると、先入観で作品だと思ってしまいがちですよね。なかなか疑いづらい」

流れの中でカズが自然に発したこの言葉。なるほど、翌週の授業の展開は、少なくともこの時点ですでに予告されていた。

12日の放送では、現代アートに価値が生まれる3大要素の2つ目と3つ目が解説された。2つ目の要素は、作品の歴史。作品の背後にはストーリーがある。

たとえば、先ほどの3つの写真のうちの3つ目、美術館の壁に市販のテープでバナナを貼り付けた作品は立派な現代アート。高額の値段がついてやり取りされていたりする。なぜただのバナナがアートになるかというと、それはこの作者が現代アート市場を皮肉る挑戦的な問題作を作ってきたという文脈があるから。過去に作者は、現代アートで金を儲けるギャラリーのオーナーをテープで壁に貼り付けた作品などを発表してきた。その延長線上にある本作は、美術館にただのバナナを貼り付けるだけの作品に高値がつくアート市場を皮肉るものだと解釈できる、と番組では説明された。

なお、ハライチの澤部がこのバナナの作品について、アンディ・ウォーホルによるバナナの絵をふまえたものではないか、「ウォーホルを捉えた」という意味があるのではないかと解釈していた。この発言、「それっぽいことを言っている」みたいな感じで番組内ではネタにされていたけれど、同作品の参照先のひとつがウォーホルではないかとの解釈は、今回の番組監修を務めた小崎教授の著書(『現代アートを殺さないために』河出書房新社、2020年)でも示されている。専門家のお墨付きがあれば正しいわけでもないのだろうけれど、いずれにせよ、番組内で語られた澤部のいくつかの作品解釈は聞いていて面白かった。

現代アートの3つ目の要素は、視点を変えればさまざまな解釈ができるということ。ひとつの作品から複数の意味が読み取れるのが、現代アートだという。草間彌生の水玉作品も、一方で作者が幼少期から悩まされてきた幻覚の象徴であるとの見方がある。他方で、水玉は一つひとつが生命の象徴との見方もある。さらには、性の象徴との見方もある。作者はひとつの作品に複数のレイヤーを重ねている。そのレイヤーをいかに読み取り、どのような意味を汲み取るか。鑑賞者がその解釈を語り合うこと、議論を楽しむことも現代アートの楽しみ方だという。

「作品のインパクトを感じて、背景を知って、自由な解釈を議論する。その結果、自分の中に生まれる心の動きを楽しむ。これが現代アート」

授業のまとめとして、カズレーザーは上のように締めた。そもそも現代アートとは何か。どう見て、どう楽しめばよいのか。一般にあまり知られていないからこそ“騒動”ばかりにニュースバリューが出てしまう、そんな現代アートの世界の入口に立たせてくれるような両番組だった。

――が、番組はこれでは終わらない。番組の最終盤、ゲストの告知のタイミングで、この日のゲストであるインスタグラマーの亀井佳代が語り始める。

「お知らせがあります。みなさん、私のことタレントだと思ってると思うんですが、実は、ただの会社員です」

話題のインスタグラマーとして生徒席に座っていた彼女は、実はただの会社員。番組ADの友だちで、名前も仮名(亀井佳代=仮名かよ)だった。カズが言う。

「ここに座ってるだけでみなさん、タレントさんだと思ってましたよね。だから、パイナップルですよ」

振り返れば、今回の授業の始め、彼女が「体のホクロを目に見立ててペンギンを描いて遊んでいたら、布団にそれが写ってペンギンだらけになった」とエピソードを話すと、ノブコブ・吉村が「絶対ウソでしょ、その話」とツッコんでいた。が、ウソはさらに根本的なところに仕組まれていた。ケースに収められたパイナップルがいたずらだったように、テレビのフレームに収められた女性もフェイクだった。

これまでも『しくじり先生』は、他の番組ではあまり見かけない雑誌モデルやインスタグラマーなどをゲストに多く起用してきた。その歴史的な文脈をフリにしたインパクト。芸能人と一般人の境界線がますます曖昧になってきた現状への皮肉や、編集を通せば誰でもタレントとして成立してしまうテレビというメディアの性格の暴露など、さまざまに読み解ける多層性を備えているといっていいかもしれない――と、それっぽい解釈を誰かに話したくなる。

とてもキレイな現代アート的なオチだった。

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