呼吸の専門家が教える『鬼滅』トレーニングでコロナに負けない体

呼吸の専門家が教える『鬼滅』トレーニングでコロナに負けない体

  • WANI BOOKS NewsCrunch
  • 更新日:2021/05/02
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『鬼滅の刃』で注目された「全集中の呼吸」。超人的な技に思えますが、きちんとトレーニングすれば誰にでも身につけられるそうです。イチロー氏や宮里優作選手はじめ多くのスーパーアスリートのトレーナーを務めてきた森本貴義氏によると「最大のポイントは横隔膜を使うこと」だと言います。24時間、横隔膜をしっかりと動かす呼吸こそが「全集中の呼吸」なのです。

※本記事は、森本貴義:著『入門!「全集中」の呼吸法 -自宅ですぐ始められる最強エクササイズ-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

トレーナーから見た「全集中の呼吸」とは?

この何年か、さまざまなシーンで「呼吸」に注目が集まっています。アスリートのパフォーマンス向上、ビジネスパーソンの集中力・効率アップ、そして日常生活での健康維持、体調管理などに「呼吸」の重要性が少しずつ知られるようになってきています。

そして、さらに2020年末には流行語大賞を受賞するほどのヒットとなった『鬼滅の刃』の影響で、小さな子どもから総理大臣までが「全集中の呼吸」で盛り上がりました。

『鬼滅』が大きな話題になるとともに、多くの人から「全集中の呼吸ってどんな呼吸のこと?」「炭治郎がやっていたトレーニングってほんとに効果があるの?」「呼吸法で強くなれるんですか?」といった質問をされるようにもなりました。

私はアスレティックトレーナーとして長年仕事をするなか、10数年前から呼吸を改善することが、アスリートのパフォーマンスや集中力のアップに非常に有効で、しかもケガの予防や疲労の回復などにも必須であることに注目して、多くの選手や若手のトレーナーたちを指導してきました。

正しい呼吸を身につけることは、トップアスリートだけではなく一般の人にも非常に重要なことですから、この数年はもっと広く多くの人に知ってもらうための努力を続けてきたのですが、これほど多くの人に「呼吸」「呼吸法」についての質問やメディアの取材を受けたのは初めてです。

思わぬ反響に私もアニメを見てみましたが、主人公の竈門炭治郎たちのさまざまなトレーニングはとても興味深く、ストーリーや美しいグラフィックも十分に楽しませてもらいました。

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▲トレーナーから見た「全集中の呼吸」とは? イメージ:PIXTA

科学的にも納得できる点が多い『鬼滅の刃』

当然ながら『鬼滅の刃』はトレーニングの教科書や医学書ではありませんから「いくらなんでもこれはムリだろ」というもののほうが多いのですが、呼吸トレーニングの専門家の私から見ても「あ、この部分は作者が呼吸法のことをよく勉強して描いているのだろうな」「これは科学的にも正しい」という部分もありました。

たとえば「呼吸法によって細胞まで酸素がゆきわたる」「長い呼吸を意識」「自然治癒力を高め、精神の安定化と活性化を目指す」といったセリフは、まさにその通りです。

しかし、どんなスーパーアスリートであっても、息を吹き込んでひょうたんを割るのはもちろん不可能で、炭治郎は「貧弱な肺が強くなればできる」と訓練に励むのですが、これは半分間違いです。イメージとしては「肺活量を大きくすればよい」ということなのだと思います。確かに肺活量が大きいことは悪いことではありませんが「とにかく肺活量を大きくすれば体が強くなる」ということはないのです。

訓練の途中で「全集中の呼吸を続けることで血の巡りと心臓の鼓動が速くなり、体温が上がって鬼のように骨も筋肉も強くなる」というセリフもあります。「全集中の呼吸」がどんなものなのかはさておき、ここも一部正解です。呼吸法によって血液による細胞への酸素供給量を上昇させ、心臓の拍動を速め、体温を上げることは可能だからです。

とはいえ、それが「強い」ことにつながるとは限らず、また骨と筋肉が強くなるかといえば、そうは言えません。

最適な呼吸法を自然に選択できる体を作る

そして話題の「全集中の呼吸」ですが、「24時間、朝も昼も寝ている間も全集中の呼吸」というのは、不可能です。「全集中の呼吸」がどんなものなのかはさておき、どんなに優れた呼吸法であっても、シチュエーションに関わらず、つまり寝ているときも戦っているときも、まったく同じ呼吸を続けることはできませんし、またそれが「体にいい」「活動時のパフォーマンスが上がる」ということではないのです。

「いつもこの呼吸法でいい」という「正解」は、実はありません。呼吸の仕方を変えることによって人間の体、脳は変化し、集中力が増したり、リラックスしたりしますが「24時間興奮状態」も「24時間リラックスしっぱなし」も、どちらも、けっしていいことではないからです(炭治郎たちは、とにかく鬼と戦わなくてはならないのですから「体に悪いですよ」などと突っ込んでも仕方がないのですが)。

呼吸というのは、自分の意志でコントロールできるものですが、無意識のうちにも変化するものです。ところが悪い呼吸法が習慣になってしまうと、本来は状況に合わせて変化しなくてはならない呼吸が、常に悪いものに固定されてしまいます。

つまりコントロールしようとしても、リラックスすべきときにも緊張状態を招く呼吸になってしまう、あるいは集中して力を出すべきときに注意力が弱まる呼吸になってしまう、ということです。

呼吸力が落ちることは、集中力の低下、体力の低下、体調の悪化、姿勢の悪化はもとより、免疫力の低下にもつながり、さらにうつ病などの発症にも関わることがわかっています。

悪い呼吸がクセになってしまえば、意識的にリラックスできる呼吸をしようとしても「できない体」になってしまうのです。呼吸と自律神経、ホルモン分泌、脳の働きは非常に密接な関係にありますが、意識してコントロールできるのは呼吸だけです。

しかし、その呼吸がコントロールできないのは、呼吸に関係する筋肉などが衰えている、うまく動かせない状態になってしまっているためで、その理由は日常の呼吸の悪いクセや姿勢、さらにはストレスや食生活などさまざまです。

特に新型コロナウイルスの感染拡大によるマスク生活で、口呼吸になってしまう人が非常に増えています。さらに外出自粛による運動不足、そしてリモートワークでのパソコン作業が増えたことから常に背中が曲がりがち、さらに肥満による睡眠時無呼吸症候群も増えています。

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▲最適な呼吸法を自然に選択できる体を作る イメージ:PIXTA

大切なのは、状況に応じて最適な呼吸を自在に選択できる「体」を作ることです。それが、私が考える「全集中呼吸法」と言っていいのではないかと考えています。

『鬼滅』の「全集中の呼吸」は、交感神経を非常に高い状態に保ち続け、常に心身ともに闘争・興奮状態に置くことを目指しているようですが、いわばアスリートの世界でよくいわれる「ゾーン」をイメージし、それを作者は「全集中」と呼んだのではないかな、と思います。

たしかに呼吸法によって一時的に心身を興奮状態にすることは可能です。しかし、「ゾーン」とは、単なる興奮状態ではありません。ゾーンに入った状態のアスリートは、集中力は非常に高いけれど、呼吸数は少なく、心拍も遅い状態で競技に入り、競技中は状況に応じて適切に心拍数や呼吸量が増えたり、戻ったりということをしているのです。

これは意識的にもできますが、ほとんど無意識に選択することも可能になります。そのためには、やはり日常的なトレーニング、それによる習慣づけが非常に大切です

「全集中の呼吸」とは横隔膜を動かす基本の呼吸

私は「全集中の呼吸」とは、すべての呼吸法の基本になるもの、と言い換えていいと考えています。ただそれば、常に興奮状態を保つものではないのはもちろん「常に何秒吸って何秒吐けばいい」「常に深呼吸」といったものでもありません。

もっとも大切なことは「横隔膜」をきちんと動かし「胸郭」(肋骨全体)を動かせることです。これができないと、どんな呼吸法を試しても効果は出てきません。

横隔膜と胸郭を正しく使うには、呼吸にともなう筋肉の強化、正しい姿勢、正しい日常習慣が大切になります。姿勢や筋肉の動かし方と呼吸法は常に相関関係にあり、姿勢が悪ければ呼吸が悪くなる、呼吸が悪ければ姿勢が悪くなる、という悪循環も招きます。

逆に、姿勢がよければ呼吸はよくなり、意識的に正しい呼吸を続ければ姿勢もよくなっていきます。

横隔膜はイラストを見ていただくとわかる通り、肋骨の下に、クラゲの傘のような状態で存在しています。

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▲『入門!「全集中」の呼吸法』(小社刊)より

息を吸うとき、横隔膜は下に下がります。息を吐くとき、横隔膜は上に上がります。(正確には横隔膜が上に上がる、というよりは横隔膜が緩み、縦に伸びると言ったほうが正確です)

ここをしっかり理解して、意識できるようにしてください。つい「思い切り息を吸ってーーー!」と言われると、あごを上げ、胸を反らせて肩を上げるようにしがちです。

なんとなく胸全体を上に持ち上げようとするため、肋骨の下の横隔膜もいっしょに上に上がっているように感じるかもしれませんが、これは逆です。実際には、横隔膜は肺に息が入ってくるとき、下に下がり肺を減圧することで空気を取り込むのです。

たとえば、水鉄砲に水を入れるときのことを思い出してください。水の中に水鉄砲の先を入れて、ポンプを手前に引くと内部に水が入ってきますが、仕組みはこれと同じです。ポンプ(横隔膜)を手前に引く(下に下ろす)ことで、水鉄砲の中(肺)の圧力が外部より下がり、水(空気)が入ってくるのです。

もっと単純に言えば、横隔膜を下に下げて空間を広くしなければ空気が入ってこない、というイメージです。息を吐いて内部の空気を押し出すのは、水鉄砲のポンプを押して(横隔膜が上に上がって)水を飛ばすのと同じです。

そして横隔膜の下には胃・肝臓・膵臓・大腸・小腸・子宮などの内臓があり、下部を骨盤底筋群が支えています。人間の内臓は筋肉や腱で固定されているわけではなく、腹腔の中をかなり自由に動くようにできているため、横隔膜が下がれば内臓も下がり、横隔膜が上がれば内臓も上がります。

つまり重心も呼吸にともなって上下するのです。息を吸って横隔膜が下がれば、内臓とともに重心が下がります。息を吐いて横隔膜が上がれば、内臓とともに重心が上がります。

だからこそ、呼吸の使い分けで重心を移動させ、スポーツや日常のさまざまなシーンで有利な状況が作れるということになるのです。

森本 貴義

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