真山仁が描くおすすめ社会派小説ベスト7!経済小説「ハゲタカ」シリーズ作者

真山仁が描くおすすめ社会派小説ベスト7!経済小説「ハゲタカ」シリーズ作者

  • ホンシェルジュ
  • 更新日:2021/11/25
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実写化もされ大人気を博した『ハゲタカ』。実は作者真山仁の作品はどれも、経済や社会学にあまり興味がないという人でも、読み始めたら止まらない面白さです。その面白さの秘密を知ることができるおすすめの作品をご紹介します。

社会派エンタテイメントにおける真山仁の存在

1962生まれの真山仁は、新聞記者を経てフリーランスとして独立したのち、2003年に香住究名義でデビュー、2014年には真山仁としてのデビュー作である『ハゲタカ』が大ヒット。以来ますます面白い作品を出し続けています。

その記者経験を活かした取材力と探求心で、どの作品も読者に問題提起をします。一方で著者は「面白い小説というジャンル」を書くことにもこだわりがあり、その結果幅広い層に好まれているのも特徴です。専門用語などがストーリーの中で上手く説明され、その出来事の何が問題なのかを取りこぼすことなく読ませる書き口は見事です。

もちろん、その業界に携わる人や経済に明るい人ならより面白く読めます。細かい描写には、そうそう、あるある、と思わずにんまりしてしまうこともあるでしょう。圧倒的なリアリティでどれも面白く、ファンの信頼はとても厚いです。

社会派、経済小説と言うととっつき辛い印象を持たれがちですが、真山仁の作品はどれも問題提起とストーリーの面白さとが両輪をなしており、読者を限定せず広く受け入れられています。

7位:絶望の中にも、必ず希望は、あるということを。『そして、星の輝く夜がくる』

『そして、星の輝く夜がくる』は、6篇の短編が収録された連作短編の形をとっている小説です。

2011年に起こった東北大震災をテーマとして、それをめぐって引き起こされる人間のドラマを克明に書き記した内容となっています。

真山仁自身がインタビューでも語っていることではあるのですが、被災者の感情をリアルに描写するため、かなり踏み込んだところまで描いています。

それが出来たのも、著者自身が阪神淡路大震災という震災を経験しているから、ということは無視できない要因としてあるでしょう。震災を実際に経験しているからこそ、その苦しみは誰よりも実感を持って描くことができたのではないか、と考えられます。

文章からは現実味のある重さを伴って感情が迫ってくるように感じられるのです。また、その感覚は、フィクションであることを感じさせないようなリアルさを伴っています。

しかし、だからと言って悲壮なだけの物語ではなく、むしろこの小説は、明るい未来へ向かうための原動力としての役割を持っています。

そして、星の輝く夜がくる (講談社文庫)著者真山 仁 出版日2015-12-15

『そして、星の輝く夜がくる』。このタイトルをもう一度見てみてください。人は絶望しているとき、空の星に心を向けることができるでしょうか。その星の輝きを喜ぶことができるとき、きっと人は上を向いています。前を向いています。希望を、持っているのです。

地震大国である日本。それがいつ襲ってくるのかはわかりません。過去の悲劇を遺物として忘れるのではなく、そのことを振り返ることは必要になるでしょう。

でも、決して後ろに向いたまま止まってはいけません。前へ、前へ。そう思わせてくれる力が、この小説にはあります。

6位:食の安全と農業問題をスピード感で読ませる『黙示』

農園を見学に来ていた小学生の集団の中に、農薬を散布するラジコンヘリが墜落します。ラジコンヘリで撒く農薬というのは、人が撒くものの100倍以上の濃度です。それを直接浴びてしまった54人の子供たちは、体をこわばらせ、痙攣してもがき苦しみます。

事故に巻き込まれた子供の中には、農薬メーカーの社員である平井の息子も含まれていました。急いで病院に駆けつけると、その農薬が自社の商品だったことを知ります。他の被害者家族や世間からは、農薬メーカーが悪の原因のように見なされ、平井は難しい立場に立たされるのでした……。

黙示 (新潮文庫)著者真山 仁 出版日2015-07-29

本作品は食と農業の安全について問題提起をしています。日本の農業はどこへ向かうべきなのか。実社会でも十分起きうる展開だけに、日頃の安全について考えずにはいられなくなってしまいます。

農薬開発者、農水省、代議士、テレビ局、記者、市民運動家、県職員など、それぞれの主張や価値観が入り交じり、本当の問題は一体どこにあるのか読者に問います。こうあるべき、という結論は本書では提示されません。食や農業の安全は簡単な問題ではないですが、今一度、考えるきっかけになります。

実は安全とは、一つ歯車が狂うと簡単に壊れてしまうものだと気付かされます。普段、現実には考えづらいことも、作品を通すとかえって現実味を帯びて感じられるはずです。読んだ後は、日常に潜む危険をそれまでより敏感に考えられるでしょう。

5位:報道とバラエティ。テレビマンの模索と苦悩『虚像の砦』

テレビ局でニュース番組のディレクターを務める風見は、ある日、イスラム共和国での日本人誘拐の情報を入手しました。しかし事なかれ主義の上層部は、結局そのスクープを見送ってしまいます。前例のないニュースが次々起こる中、あるべき姿を追い求める風見は、報道の本当の役割を見出せるのでしょうか。

一方、バラエティ番組で無敵の視聴率を誇るプロデューサーの黒岩は、視聴率を気にして自分を見失ってはいないか苦悩するようになります。黒岩の番組は最高視聴率を誇るかたわら、子供に見せたくないランキング1位です。弱い立場のタレントをいじめるような笑いを続けていていいのか、とは言え今のテレビでどうやって理想が貫けるだろうか、と真摯な笑いを求めるようになります……。

虚像の砦 (講談社文庫)著者真山 仁 出版日2007-12-14

我々の生活に密着している、テレビという巨大メディアが迷走していく様子を描きます。実際にあった出来事を彷彿とさせる事件が次々起き、まるで現場に立ち会っているかのような緊張感です。

テレビ業界でもまた、一般企業のサラリーマンと同じように、社内政治や仕事への姿勢に悩まされます。目の前に手柄があれば欲しいし、リスクがあれば逃げたい、それでいて理想の仕事への憧れは簡単に捨てられない矛盾を共感できる方も多いのではないでしょうか。

テレビの社会に対する影響力はあまりに大きく、慎重な姿勢とスピードが問われ、しかしながら視聴率は必要です。局のそれぞれのセクションとの折衝、経営陣からの指示、番組への広告会社からの口出し、総務省との密約、地検特捜部の目論見、命を絶つ者、逮捕、と次から次と事件が起こり、息をつかせません。

物語を通して、テレビで一つの情報だけを得てそれが真相だと鵜呑みにしてはいないか、それが唯一の正しい価値観だと思い込んでいないか、読み手自身のメディアとの適切な付き合い方について考えさせられる作品です。

4位:傑作『ハゲタカ』の続編『レッドゾーン』

鷲津政彦はサムライキャピタルの社長です。サムライキャピタルは国内有数のバイアウトファンドであり、これまでいくつもの企業を再生し、株を売り飛ばして利益を得てきました。鷲津の新たなる取引はなんと中国が大きく絡む取引でした。

山口県に本社を置く日本有数の自動車メーカーであるアカマが、中国の投資会社から買収の提案挨拶を受けるところから物語は始まります。買収防衛策は施していても、外国から買い取られるわけがないと思い込んでいたアカマ経営陣を中国投資会社は揺さぶり続けます。一方、鷲津は同じく中国国家投資ファンドからのファンドマネージャーの就任要請を受けるのです。

レッドゾーン(上) (講談社文庫)著者真山 仁 出版日2011-06-15

日本を代表する巨大自動車メーカー、中国共産党や太子党と深い関係をもつ投資ファンドがからみ合うだけでなく、それぞれのお家事情も深くからみながら、鷲津を包囲していきます。

そんな複雑な関係のなか、鷲津は自身の豊富な人脈や会社の有数なスタッフと協力しながら、ディール(取引)をまとめていくんですね。

大胆な金融取引や、莫大な金額のやりとり、プライベートジェットなどを活用した世界を股に掛けたスケールの大きいストーリーに仕上がっています。一方で物語の中心部分は鷲津がターゲットと直接対面したときの交渉シーン。鷲津の交渉術を支えているのは、実は「大義」や「道義」であり、それらが自信の源となり有利に交渉を引っ張っていけるのです。

中国からの投資事情やアカマ社内の動きに加え、サブストーリーで町工場の活動にも触れられています。モノづくりの現場が抱える後継者問題や大企業に翻弄される零細企業の苦しみの中に、未来への光がみえる場面もあるのです。その光が大企業アカマや中国の自動車関連産業と結びついて、本書の幅をもう一段押し広げています。

『レッドゾーン』のストーリーは、大きな振れ幅を見せながら、結局また中国に収れんしていきます。しかしその結末は先進的な金融の世界とは正反対の世界でした。この世界で新たな富と人脈を得た鷲津はどこにむかっていくのでしょうか。

3位:真山仁がエネルギー問題の再考と選択を迫る『マグマ』

外資系投資ファンドに勤務する妙子が2週間の休暇を終え出社すると、所属する事業再生部のデスク全部がなくなっていました。妙子以外は既に全員3日前に解雇です。ひとりだけ解雇を免れた状況が解せないものの、少なくとも自分の立場も非常に危ういということは感じ取りました。

その4日後には、九州にある地熱発電会社の事業再生を任され、現地でCEOに就任することになります。妙子はこの企業を見事再生させ、ファンドに戻ることができるのでしょうか。そして、妙子以外の部全員が解雇された真相とは……。

マグマ (角川文庫)著者真山 仁 出版日2009-08-25

近い将来枯渇すると言われる原油に代わって、地熱発電に火山国日本の活路を見出す女性の物語です。たったひとりで、懸命に仕事にあたる様子は胸を打ちます。

破綻した地熱発電会社を蘇生させるには、従業員、経営陣、温泉組合、電力会社、議員たちとやり合って、感情など捨てなければいけません。しかし妙子は、つい人に同情したり、道理を通したくなったりするので、ストーリーに感情移入しやすいと思います。

地熱発電の仕組みや困難を一から学んでいく妙子とともに、エネルギー問題について基礎から分かりやすく知ることができます。破綻した企業を再生させることにどういう困難があるのか、若い妙子の視点から学ぶこともできるでしょう。

電力問題について詳しくなくとも、ストーリーは読者を結末まで力強く連れて行ってくれます。ハードルを下げて、まずは楽しく読み始めてみてください。

2位:中国を舞台に世界最大の原発建設に挑む『ベイジン』

原発建設会社の技術顧問、田嶋は、赴任先の中国で、世界最大の原子力発電所の運開の責任者を命じられました。病院に担ぎ込まれた先任者からは、行くな、あの国に殺されるぞ、俺みたいになるな、と忠告を残されます。

江南省の片田舎で育った鄭(テイ)は、兄が天安門事件に連座したことから将来が閉ざされますが、どんな仕事でも遂行して、いまや中国共産党のエリートに昇りつめました。国家の維新をかけたこのプロジェクトを、何としても成功させねばなりません。

北京オリンピックの開会式までに建設し運開するというミッションを、見事果たせるのでしょうか……。

ベイジン〈上〉 (幻冬舎文庫)著者真山 仁 出版日

2008年の出版ですが、その後に東北大震災を経験した私たちには、当時に増してリアリティと恐怖が感じられます。まるで予言のような物語で、著者の先見の明が話題となった作品です。

ただでさえ難しい原発建設を、中国でやるというのですから、田嶋にはただでは済まない困難が待ち受けています。建設までに、技術トラブルや、利権問題、日本人への反感など、いくつもの障壁を越えねばなりません。田嶋は必死ですが、日本と中国では理想とする上司像の違いなどがあり、良かれと思うことを身を挺してやっても、かえって反発すら招くこともあります。

また、鄭という登場人物も魅力的です。侮蔑され、物を投げられ流血しても、ストを起こす従業員たちに囲まれても、ひたすら耐えて笑顔を保ち、決して状況に屈しません。普段は激しい性格ではありませんが、いざという時は勝負強く、牽制、罠、だまし合いのうごめくアルティメットな戦いに、逃げずに挑む姿には応援したくなる人も多いでしょう。

同じ目的を持つふたりが、この状況を通して、お互いの立場を理解し、やがて協力するようになっていく過程は、いまの日中の抱える問題に希望を投じるかのようです。怒涛の展開の中で、気が付けば絆ができていたことを実感する様子は感慨深いものがあります。

1位:外資ファンドから見る日本。真山仁の代表作『ハゲタカ』

アメリカで有力投資ファンドに在籍していた鷲津政彦は、不景気の日本に帰国します。日本法人を立ち上げその代表となり、次々と容赦のない企業買収を仕掛けていくのでした。

一方、都銀勤務である芝野は、ニューヨークに赴任していた時から、日本も企業再生の土壌の整備が急務だと考えていました。やがて帰国して不良債権処理を担当することになり、鷲津と出会います。そして、旧態依然とした日本で理想を実現するという難しい闘いを強いられるのでした……。

新装版 ハゲタカ(上) (講談社文庫)著者真山 仁 出版日2013-09-13

バブル崩壊後元気をなくした日本に、外資系企業再生ファンドの鷲津政彦が、次々買収を仕掛けます。しかし、一度破綻した企業を再生するのは簡単ではなく、その道のりは様々な利権が絡み合い複雑化を極めます。

外部から入った人間が覇気を無くした企業で再生を果たすには、理屈や資金力にものを言わせるだけでは足りません。従業員たちの落胆と恐れ、命を懸けてでも会社を再生させたい経営者、自治体や政府、銀行の立場など、様々な思惑を収めながら結果を出さねばらない、高度なビジネスの様が描かれています。

ピアニストを夢見る青年だった鷲津が、その夢を諦めてファンドビジネスの世界に入ったきっかけは、母からの1本の電話でした。企業買収に携わる人たちは、本当に冷酷なハゲタカばかりなのでしょうか?他の猛者たちも仕事ぶりこそクールですが、人間性が細かく描かれていて、そのキャラクターに思わず愛着が沸いてしまうでしょう。

『ハゲタカ』上・下巻では度々、新渡戸稲造の『武士道』の一説が引用され、ストーリーを串刺しています。外資系ハゲタカファンドの恐ろしさ、といった単純な話ではなく、それを通して、日本古来のスピリットを思い出させてくれるストーリーです。

実写化された作品ですが、原作はより細かく深い描写が多く、別の面白さがありますので、ドラマを観たことのあるかたも、改めて読んでみると発見があると思います。また、第一部『ハゲタカ』上下巻の舞台は1998年~2004年で、実際の出来事がいくつもモデルにされているので、ストーリーを通して経済の流れを知ることもできますし、記憶や思い出のあるかたは改めて思い返して楽しめるでしょう。

もっと読みたいと思ったら、シリーズの『ハゲタカⅡ』、『レッドゾーン』、『グリード』、『スパイラル』は全てお薦めです。せっかくなら、シリーズ全部を楽しまないともったいないです。鷲津もさることながら、脇を固めていた人物たちをも、予想だにしない波乱の展開が待ち受けています。

難しそうだとイメージだけで読まず嫌いをせず、まずはぜひ楽しんで読んでください。勉強になり、常識を疑うきっかけになりますが、何よりどれも面白い作品ばかりです。

しじま こうろ

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