コロナ禍の中学受験、開成が追試を行う意味、麻布が濃厚接触者断る事情

コロナ禍の中学受験、開成が追試を行う意味、麻布が濃厚接触者断る事情

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/01/14
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今年も中学入試シーズンが始まった。新型コロナウイルス感染拡大の脅威のなかでも安心して入試を受けてもらえるように、各校もさまざまな対策を講じている。しかし一方で、「追試があるのか」「別室受験は可能なのか」といった点で各校の対応には違いも多く、戸惑っている保護者も多いだろう。

そこで、教育ジャーナリストのおおたとしまささんが、2020年末時点での約230校の学校の新型コロナ対応方針を踏まえたうえで、緊急事態宣言下の中学入試で保護者が知っておくべきことをまとめてくれた。

「状況は非常に流動的で私にもわからないことが多い。おそらく学校の先生たちだって不安だらけ。しかし、各校がどういう観点から何を判断基準にして方針を決めているのかを知っておけば、余計な不安や噂話に振り回されにくくなるはず」とおおたさんは言う。

今回の中学受験は前回とは違う

中学入試本番がいよいよ始まった。しかしコロナ禍により、いつもとは違う緊張感が、受験生側にはもちろん、学校側にもある。

入試当日、校門で受験生たちを待ち受けるのは、塾の先生たちのうるさいほどの激励ではなく、非接触型体温計の「ピッ」というかすかな音になる。張り詰めた空気のなかで掲示板に合格者の受験番号が貼り出される合格発表の場面も、今年は見られない。

ただし、受験生にとってはこれが最初で最後の中学受験であり、「そういうものだ」と認識されるだけだ。まわりの大人は騒ぎすぎないほうがいい。今回初めてわが子の中学受験を経験する保護者にとっても同じである。むしろ、上の子で中学受験をすでに経験している保護者ほど、その経験が思い込みや油断の原因になりかねないので、「今回の受験は前回とは違う」と意識して気を引き締めてほしい。

たとえば保護者控え室が用意されない場合、どこかで時間を潰さなければいけない。学校の近くに喫茶店があったとしても、同じことを考える保護者で満員かもしれない。であるならば、いっそ1〜2駅離れたところにもっと快適な場所を見つけておいたほうがいいかもしれない。

午前の入試を終えてから午後入試に向かう場合、例年であれば午後入試の学校が昼食をとる場所を提供してくれることが多かったが、今回はそれが中止されているケースもある。だとすれば、どこで昼食をとるのかを決めておかなければならない。

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飲食はできるだけ避けたい状況下、昼食も考えてしまう Photo by iStock

面接中止を表明している学校も

すでに面接の中止を表明している学校も多い。受験者数と教室数の兼ね合いによっては、ソーシャルディスタンスを保つために、学校外の会場を借りて入試を行う学校も出てくるだろう。別会場での受験を割り当てられた場合にはそこへのアクセスの確認ももちろん必要になる。

一方で、いくら完璧なシナリオを用意していても想定外やミスはいつだって起こり得る。ましてや今回のコロナ禍である。完璧なシナリオを用意しておこうとすればするほどそれが少しでも狂ったときの動揺は大きくなるので、あまり神経質になりすぎないように自分に言い聞かせる冷静さも必要だ。

何があっても子どもを不安にさせないことが入試当日の保護者のいちばんの役割である。もし自分でも信じられないような想定外が発生してしまった場合には、咄嗟に「わっはっは!」と笑い出して動揺する本心を隠す練習をいまのうちに10回くらいしておいたほうがいい。そしてそっと深呼吸をして「困ったねえ。でもなんとなかるよ。これも人生」と呪文のように唱えてほしい。気持ちが落ち着くはずだ。

1992年の2月1日には記録的な大雪が降り、都心の交通網は麻痺した。さらに翌2日午前4時ごろには東京を震度5の地震が襲った。それでも各中学校は入試開始時間を繰り下げるなどして対応した。1995年には、阪神・淡路大震災の爪痕が残るなか、兵庫県の中学入試は1カ月後ろ倒しで実施された。コロナ禍だって、乗り越えられる。

「追試を行う」意味と、「追試を行えない」事情

受験生親子にとっていま最も怖いのは、受験生本人が新型コロナウイルス(以下、コロナ)に罹患してしまうことや濃厚接触者になってしまうことだろう。

開成は2020年11月14日、新型コロナウイルス罹患者または濃厚接触者になってしまったために2月1日の入試が受けられない場合の追試を、2月23日に実施することを発表した。開成は現在校舎の建替中で、施設的な制約が大きいことも勘案しての判断だとは思うが、それにしてもこの判断に私はメッセージ性を感じた。

コロナという社会的災難によって受験機会が奪われる不幸を少しでも防ぎたい、そのために学校としてできることは無理を承知で最大限にやろう、それがコロナから子どもたちを守るためにいま大人がとるべきスタンスであるという意思表示である。

前代未聞の追試を行うには、実務的には多くの課題があるはずだ。まずもう1セット、入試問題を作成しなければならない。そしてその異なる問題で行われる2回の試験の合格基準に整合性をもたせなければならない。通常通りの受験者にも追試受験者にも不公平感を残さないオペレーションは至難の業になろう。

それでも、チャンスが与えられたことに対する受験生の納得感は大きいはずだ。仮に不合格になったとしても、追試の機会が与えられたこと自体が、未来を歩み出すための励ましになる。関西では、たとえば大阪星光、甲陽、四天王寺、東大寺学園、灘、西大和学園、洛星なども追試を行うと発表している。

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東大に多くの合格者を出している開成がいち早く追試を決断した影響は大きいといえる。2月1日の入試に出願していた人がコロナ陽性もしくは濃厚接触者になった場合、その証明書を提出の上、追試を受けることができる仕組みだ Photo by Getty Images

一方で、神奈川県私立中学高等学校協会は11月24日に、「入試実施に向けてのガイドライン」を発し、県下の私立中学は追試を行わないことになった。一見冷たい対応ではあるが、責められない。

開成のようなトップ校であれば、「追試合格=入学」と判断できるが、似たような偏差値帯の学校が前後して多くの追試を行えば、追試のなかでの第1志望、第2志望、第3志望という選択が生じ、各中学校としては、募集定員に対して何人に合格を出せばよくて、いつまで入学手続きを待てばいいのかが判断できない事態になりかねない。そういった実務的な混乱を回避するための判断と考えられる。

東京都では追試を行う学校と行わない学校がある。もともと4回5回と多くの入試回を設定する学校では追試も行うケースが多いが、2月1日に1回しか入試を行わないような学校では追試を行わない場合が多い。

ちなみに関西では、大阪星光も甲陽も東大寺も灘もそろって1月31日に追試を行うことになっている。なんらかの調整が働いたのだろう。通常であれば東大寺は他校との併願が可能だが、追試ではどちらかを選ばなければいけなくなる。洛星は追試を2月7日に設定しており、追試では他校との併願が可能になるが、追試受験の条件に、合格したら必ず入学することを掲げている。

同様に、首都圏で2月1日に1回きりの入試を行う学校がこれから追試を行うと決めるなら、開成と同じ2月23日にそろえない限り、開成との併願が可能になる。コロナによって受験機会が減ってしまった受験生のチャンスを広げる意味では良いが、一方で各校が設定する追試日程に幅がありすぎると、神奈川県の例で説明したような混乱が生じる可能性もある。

わが子の志望校が追試を行わない学校ばかりだった場合、一度も入試を受けられない「コロナ全滅」もあり得る。ひとまず素直に志望校を選んで、そのなかに追試を設定している学校があればいいが、もし1つもなければ、追試を設定しておりかつわが子の学力で合格が見込める学校を「保険」として志望校に加えて願書だけでも出しておくという現実的な判断も、今年に限っては必要かもしれない。

麻布と桜蔭「濃厚接触者」対応の違い

たとえば麻布も桜蔭も少なくとも2020年末時点では追試は行わないとしている。ただし、麻布と桜蔭では、濃厚接触者への対応が違う。麻布は、罹患者だけでなく濃厚接触者も受験できないとしているが、桜蔭は「濃厚接触者(無症状)の場合は、文科省のガイドラインの要件を満たした場合に限り、ガイドラインに従った別室での受験を認めます」としている。これはどういう意味か、桜蔭を受験しない親子も知っておいたほうがいい。

「文科省のガイドライン」とは、文部科学省が2020年6月19日に決定し、10月29日に改訂した「令和3年度大学入学者選抜に係わる新型コロナウイルス感染症に対応した試験実施のガイドライン」のことである。大学入試でのコロナ対応のガイドラインだが、文科省は、高校、中学校、小学校の入学者選抜においても「同等以上の対応策を講じた上で、同様の扱いを取ることが可能」としている。

ガイドラインでは、無症状の濃厚接触者は、
(1)初期スクリーニング(自治体等によるPCR等検査)の結果、陰性であること
(2)受験当日も無症状であること
(3)公共の交通機関を利用せず、かつ、人が密集する場所を避けて試験場に行くこと
(4)終日、別室で受験すること
の4条件を満たせば受験できるとしている。

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濃厚接触者のみならず、受験でも席間の距離を取るなどの対策が取られていることもあり、限られた場所に苦慮する学校もある Photo by iStock

桜蔭以外の学校でも、濃厚接触者の別室受験を認めるとしている場合には、このガイドラインに沿った条件を提示している場合が多い。麻布は「隔離教室を設けることができませんので受験をお断りいたします」としている。

麻布の入試には特殊な事情がある。入試時間が長く、途中で試験会場内での昼食の時間をはさむため、ただでさえソーシャルディスタンスの確保には並々ならぬ注意が必要なのだ。さらに緊急事態宣言下で今後どれだけ増えるかもわからない濃厚接触者を受け入れるとなると、あの狭い校内では収容能力に限界があるのも事実だろう。

教員たちが抱えるジレンマ

コロナの罹患者や濃厚接触者になることは避けられたとしても、ただでさえ体調を崩しやすい時期である。例年であれば、少々の風邪症状ならば解熱剤を飲んで試験会場に向かう受験生が圧倒的に多いだろうし、インフルエンザであっても保健室での受験を認める学校は多い。しかし今回はコロナのせいで、やっかいな状況になっている。10月の時点で取材に訪れたある学校でのこと。教員たちのこんな会話の現場に出くわした。

教員A 「当日の検温で発熱が認められたからといってその場で『お帰りください』と言うことが本当にできるかどうか……」

教員B 「別室受験の検討に際しては試験会場にカメラを設置して遠隔的に試験監督を行うという案も出たが、それも違う気がする」

教員C 「そんなことするくらいなら私が試験官をやりますよ。そのあと2週間自宅待機していいというのなら」

同時期、ほかの学校の教員たちも似たようなジレンマを口にしていた。せっかく志望校に選んでくれた受験生になんとか安心して入試を受けてもらいたいという思いは、多くの学校の教員に共通である。しかし何より受験生から受験生への感染があってはならない。施設的また人的な制約があるなかで、十分な感染拡大防止策なくして不用意に受験生を受け入れるわけにもいかない。

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受験したいと思って出願してくれた受験生全員に受けてほしい。すべての教員がその思いを抱いていることだろう Photo by iStock

一方で、追試も別室受験の道も用意されていないのに検温による問答無用の門前払いを厳格化することは、結果的に通常の試験会場のなかに解熱剤を飲んだ感染者が紛れ込む可能性を増すことにもなりかねず、感染拡大防止の観点からは実効性に乏しいのではないかと私は思う。文科省のガイドラインの「試験入場前の対応」の項目のなかにも「(検温については)必ずしも全員に一律に行う必要はない」と書かれている。

「37.5度」の意味するもの

実際の各校の対応はどうか。首都圏模試センターの協力を得て、2020年末時点で各校が発表している新型コロナウイルス対応について、220校以上の方針を見比べたところ、学校によってスタンスがかなり違うことがわかった。しかも説明の表現が学校によってバラバラで、どう解釈すればいいのか戸惑う保護者も多いだろう。

たとえば、入試当日の朝に自宅での検温を求める学校は多いが、「発熱・咳などの症状がある場合は受験を自粛してください」と書かれている学校もあれば、「37.5度以上の発熱がある場合は学校にご相談ください」と書かれている場合もあれば、さらっと「37.5度以上の発熱がある場合には受験できません」と書かれているケースもある。

入校時の検温でも、「37.5度以上は入校できません」と記している学校もあれば、「37.5度以上の場合でも状況を見て、別室で受験してもらえる可能性があります」とする学校もあるし、「37度から37.5度の場合は別室受験が可能です」としている学校もある。

各校の対応はここでも「令和3年度大学入学者選抜に係わる新型コロナウイルス感染症に対応した試験実施のガイドライン」を参考にしていると考えられるので、この文書を一読しておくことを強くおすすめする。各校のコロナ対応方針の趣旨をより正確に読解する助けになるはずだ。

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すべての受験生がこの数字を下回ることを心から願うしかない Photo by iStock

「37.5度」という体温が一つの目安になっているケースが圧倒的に多いのも、このガイドラインに沿ったものと考えられる。ガイドラインの「受験生に対する要請事項」の例として、「試験当日における対応」という項目のなかに、「試験当日の検温で、37.5度以上の熱がある場合は受験を取り止め、追試験等の受験を検討すること。また、37.5度までの熱はないものの、発熱や咳等の症状がある受験生は、その旨を試験監督者等に申し出ること」とあるのだ。

できるだけ追試を設定するなどの配慮をして、無理して受験しなくてもいい環境を整えることで、ささいな体調不良でも正直に申告できるようにすべしというのがガイドライン全体の趣旨であることは、文書全体を読めばわかるのだが、中学入試の各校対応では、追試設定がないのに「受験を取り止め」の部分だけが流用されているように見えるケースも少なくない。それぞれの学校におけるさまざまな制約のなかでの現実的な判断と受け止めるしかなさそうだ。

各校の対応をおおまかにパターン化すると、下図のようになる。すべてのケースを網羅できているわけではないかもしれないが、頭の整理として参考にしてほしい。

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「中学受験コロナ禍での学校の対応」作/おおたとしまさ

入試当日平熱だったら第一関門通過

いずれにしても状況は非常に流動的であり、いつどんな方針転換があるかもわからない。志望校のホームページは頻繁に確認してほしい。また、SNS上に広まる噂話には振り回されないように、くれぐれも気をたしかにもってほしい。

かような社会的混乱のなかにありながら、入試当日の朝に自宅で検温して平熱だったらそれだけで第一関門通過である。無事に入試会場に入ることができたら「コンディションもバッチリだ!」と思えばいい。

そしてくり返すが、もしなんらかの想定外に見舞われてしまったら、子どもの前では意地でもニコッと優しく微笑んで、「これも人生。なんとかなるさ」と言ってみせよう。そういうときこそ親の器の見せ所。最悪なのは、保護者のほうが落ち込み、子どもまでをもダークサイドに引きずり込んでしまうことだ。なんとかその最悪の状況だけでも避けられれば、子どもは親が思うより早く笑顔を見せてくれる。

全国一斉休校に始まり、塾ではオンラインでの受講を余儀なくされ、楽しみにしていたイベントはすべて中止になり、この1年ただでさえ例年以上に強いストレスに耐え続けたうえで、さらに緊急事態宣言のなかでの中学入試という前代未聞の状況に挑む<2021年の中学受験生>全員の「必笑」を願う。

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