非接触が求められるコロナ禍で、自販機業界が元気だ。以前のように飲料やタバコだけでなく、様々なものが自販機で販売されるようになった。飲食物のバリエーションはもちろん、それ以外の商品も様々展開され始めている。今回はその中から、珍自販機3選をご紹介する。
◆マッチングアプリの自販機版?
大田区蒲田。JRの蒲田駅から京急蒲田駅へ抜ける通りの途中に、自販機が密集している地帯がある。甘酒50円や、清涼飲料水80円などかなりの廉価でドリンクが販売してあり、地域の人や周辺に勤める人々には重宝されているようだ。

蒲田駅付近にある、さまざまな自動販売機が密集している地帯。この裏にまさかの「婚活自販機」がある
しかし、それらの自販機の裏に回ってみると空気が一変。湿気が淀んだようなゾーンに、ピンク色をした自販機が並んでいる。

明らかに他とは異なる空気感の自動販売機がある
これは「婚活自販機」。一つ一つの商品を見ると「結婚したい34歳男性です。年収500万程度。給与明細あります」や「結婚したい29歳女性です」などの文字。

「結婚したい◯◯歳女性です」と書かれた何かが、3000円で販売されている
一部、売り切れになっている商品も見られるが、やはり年収1000万や900万など、高給なものから売れていくようだ。
◆3000円で繋がれるわけではない
こちらを設置しているのは、同地の2階に事務所を構える結婚恋愛相談所。購入金額はどれも3000円で、購入すればすぐにお目当の相手と繋がれるわけではない。3000円はアドバイザーとの面接費用で、その面接に合格するとお目当の相手とセッティングしてくれるという。自販機の注意書きをよくよく読むと、セッティング費用として別途9000円かかるらしい。世の中そうそう甘くはないようだ。

男性はクマのぬいぐるみのイメージ写真がつき、年齢と年収とともに「給与明細あります」と書かれている。この自販機から給与明細が出てきたら面白いが、さすがにそんなわけない
◆本格的!ホルモンの自販機
福岡市博多区、昭和な風情を醸し出すお店も数多く残る「美野島商店街」は、知る人ぞ知る珍自販機のメッカ。焼鳥や生麺、丼ものやドッグフードまで自販機で売られている。

今回利用したのは「生ホルモン」の自販機。購入以前に、生ホルモンのリアルな食品サンプルが目を引く。

こちらがホルモンが売られている自動販売機
この自販機が設置されているのは、株式会社ベネフィットフーズという会社の目の前。同社の代表取締役である佐伯氏に話を聞くと「福岡市南区の食品サンプル会社にお願いして作ってもらいました。なるべく中身を想像してもらいやすいよう、本物の生ホルモンを持って行きましたよ(笑)」という。
その成果もあって、通りすがりでも立ち止まって確認したくなるほど目立っている。商品のラインナップは大腸や小腸やミノなど様々だが、スーパーで売ってあるような200〜300gのものではなく小さめのパックで、近隣に多い単身世帯にはちょうどいい。
筆者は小腸(タレ)と、大腸(塩)を購入。フライパンで炒めていただいてみた。それぞれプリップリの食感で、噛むほどに口の中に広がる脂と肉汁が美味い。またその脂もしつこさがなくライトで臭みも全くない。

筆者が購入した小腸のタレ(360円)
タレは九州人が好む甘めで、肉の味わいを引き立てていて美味しく、ちゃんとした焼肉屋でこれが出てきても文句はない味わいがある。
それもそのはず。実は株式会社ベネフィットフーズは食肉卸の専門業者なのだ。厳選された良質なホルモンを、肩肘張らずに自販機で気軽に購入できるのは魅力的で、前出の佐伯代表も「設置前に予想していた額の4倍以上の売り上げになっていて驚いている」という。まさに「近所に欲しい1台」だ。
◆思いやり?ママチャリの自販機
富山市の「運転免許センター」にも珍自販機がある。しかしそのフォルムは、自販機としてイメージされる四角い箱型ではなく、プレハブ小屋のよう。そこで売られているのは自転車(ママチャリ)だ。

こちらでママチャリが売られている。隣で免許の証明写真も撮影できるようだ
小屋の中を覗くと、両替機を思わせるような購入用の機械とチェーンでつながれた8000円のママチャリがある。

左の自動販売機にお金を投入することで、右の自転車を購入することができる
設置したのは、元々隣接する証明写真機のオーナーをしている白石氏という人物。ここに自転車の自販機が設置されたのには訳があるそう。
「ここは試験場なので、免停の人もくるんですよ。その人たちが試験に落ちたら、バスなどで帰らないといけないでしょ? でも田舎だからバスの本数もあまり多くなくて、ある時バス停の前を通ったら大行列ができていたので、ここで自転車を販売すれば買う人が多いだろうと思ってつくったんですよ」

「自転車で70分」を掲げているが、これを見て購入する人はいるのだろうか……
しかし、自販機に掲げられた看板には「すぐ帰れる魚津なら70分程です」との文字。ママチャリで70分はかなりヘビーであることは想像に難くない。どのくらい需要があるものか聞いてみると「いやぁ、もう10年以上経ちますけど1年に1台も売れなてないですね(笑)」と同氏は話す。
あらゆる分野に広がりを見せる自販機の世界。店舗を開店するよりも設備投資が抑えられ出店のハードルが低い上に、デッドスペースの活用としても注目されるため、今後さらなる「珍」な自販機が誕生してくるはずだ。
取材・文/Mr.tsubaking
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。