手取り18万、派遣社員女子の 恋愛マンガが「わかりみが深い」わけ

手取り18万、派遣社員女子の 恋愛マンガが「わかりみが深い」わけ

  • CREA WEB
  • 更新日:2020/09/15

『明日、世界が滅びるかもなので、本日は帰りません。』ふせでぃ インタビュー

「派遣社員、彼氏なし、忘れられない元カレ&セフレあり」の女子を描いたマンガが、「わかりみが深い」「めちゃくちゃ私で死にそう」など、 SNSを中心に若い女子たちの共感を集めている。

そんな「CREA WEB」で連載中の『明日、世界が滅びるかもなので、本日は帰りません。』が、このたび最終回を迎えた。

インスタグラムのフォロワーも14万人を超え、SNSでも話題の漫画家・ふせでぃ氏に、この「わかりみ」のワケを聞く。

「会ってごはんはいいけど、年収低いんだよねー」とかって言葉は、ちょっとやだ

――『明日、世界が滅びるかもなので、本日は帰りません。』のアキちゃんは28歳のOL。どうしてこういう年齢設定になったんですか。

ふせでぃ 自分と歳が近いほうが描きやすいんです。

それと、同世代の恋愛に悩んでいる女の子たちから聞いた話や私自身の話がヒントになっているところもあって。この年齢を選びました。

読んでくれる皆さんも同じようなことで悩んでるんじゃないかなーって。

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――恋愛の悩みって、年齢によって変わってきますものね。

ふせでぃ ネットとかでアラサー女子の話とか見ると、恋人を選ぶのにスペックで判断する人がいて。

「会ってごはん食べたりするにはいいけど、年収低いんだよね」とか言う人いるじゃないですか。そういうのやだなって思っていて。そういうことで恋人選ぶのってなんか違うよなと。

――それに対するアンサーのような気持ちで本作を描いたのでしょうか。

ふせでぃ そういうところはあります。「幸せはもっと身近にあるはずだよ」って。この作品ではそれを言いたかったんです。

――幸せにはいろんな形があると。その一例としてこのストーリーを描いた?

ふせでぃ そうですね。書籍のあとがきにも書いたんですけど、たまたまこのお話は恋愛マンガになってますけど、本当は「幸せ=恋愛」とかってわけではなくて、精神的な意味で、自分の幸せってどこにあるのかを探すうえでの考え方の助けになるようなお話にしたかったんです。

――アキちゃんは彼氏なし。セフレの夏樹くんという存在はいるけど、恋人ではない。「彼氏ってどうやってつくればいいんだっけ…」というモノローグはアラサーならではの感じです。

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ふせでぃ 20歳くらいの頃は経験がないぶん、なんでも新鮮に感じて先入観を持たずに受け入れて、順応できる。失恋しても切り替えるパワーがある。

でも、20代も後半になると疲れてきちゃうっていうか。前ほど簡単に動けなくなるんですよね。新しいことにも挑戦しづらいし、環境を変えるのが面倒になる。そういう葛藤を描きたいなと思いました。

――なんともせつないのが、アキちゃんの学生時代の元カレ・冬也くんとの回想シーンです。

ふせでぃ あ、「トラウマに勝つ」というのもこの作品のテーマなんです! 自分がけっこうしつこい性格というか……恋愛に限らず友人関係や仕事とかでうまくいかなかったことを何度も思い出してしまうタイプなので。

「あの時、どうしてあんなことしちゃったんだろう」とか「なんではっきり言えなかったんだろう」とか。

――幸せだった頃の冬也との日々。この回想シーンはついアキちゃんに思い入れてしまいます。

ふせでぃ 冬也くんとピザを取って食べるシーンは気に入ってます。お金がない学生時代、好きな人と小さな贅沢をする。そういう思い出って美しいんですよね。

――その2人の幸せいっぱいな描写があって。でも、カメラマンを目指す彼に浮気が発覚して……。ほんとクズですね!

ふせでぃ 冬也くんってクズだけど私はこの作品に登場する3人のうちで一番好きなんですよね(笑)。かっこいい。めちゃくちゃ正直だし。このマンガを男性が読んだらどんな感想を持つのか、知りたいですね。

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――男性にもぜひ読んでほしいです。かわいい絵から「甘々な話なんだろ」とか思いこんでたら大間違いだから(笑)! 勉強になると思うんですよ。

ふせでぃ 私もそう思います(笑)。

――女の子は、相手の負担にならないようにとかいろいろ気をつかってるんで、その上にあぐらかくんじゃないよ、と! ちなみに冬也くんは「思い出」の中でしか登場していないですね。

ふせでぃ アキちゃんと成長した冬也くん再会させようかなと考えたりもしたんですけど。「いや、こんなクズとはもう会っちゃダメだ!」という親心でやめましたけど。アキちゃんは恋愛によってキズつくけど、いろんな経験を踏まえて前に進める子になってほしかった。アキちゃんの成長を描く物語だと思っています。

入り込んで描く私と 客観的にチェックする「ふせでぃさん」の運営の私

――絵はとてもかわいい一方、ストーリーやモノローグは非常にクールでシビア。それがふせでぃ作品の特徴だと思います。たとえばアキちゃんが女子会の後に「ひとり5千円か…人の幸せを聞くだけなのに痛い出費だった」とつぶやく時に、ガッカリした表情ではなく真顔なんですよね。このクールさがリアリティだと感じます。

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ふせでぃ 電車のなかってのもあるんですけど、怒ってるわけでも悲しいわけでもないんですよ。

――こうした抑制的な表現作法はどこから来ているんでしょうか。

ふせでぃ 基本の自分が虚無だからかな(笑)。悪いことがあっても「ふーん」っていう。悲しいことも「そっか」って。いわゆる悟り世代なのかな。悲しいことが起きても受け入れるしかないみたいな。税金が上がっても「そうですか」と思っちゃうところがある。ダメだと思うんですけど。だから「ほかに好きな女子ができた」って言われても「そうなんだ」ってなっちゃう。

――世代による考え方の傾向って、実際ありますよね。

ふせでぃ 正確には悟り世代ってちょっと私より下かもしれません。でも、私の世代も「抵抗しても変わらない」みたいなところがあるんです。

今起きたことに対してどう対処するか、冷静に考えはするけど。基本は否定できないのか、変えようと思えないのか。えーと……たぶん反抗心がないんですよ。先生がそう言ったら、そのとおりにする。

――自分も含めて、そういう空気感をすくい取って描いているということでしょうか。

ふせでぃ そうなんでしょうね。私の中では「ふせでぃさん」という空想上のイラストレーター・ポエマー・漫画家がいて、私はそれを運営する人という感覚があって。

――その人格を2つに切り離した方が自由に描ける?

ふせでぃ 入り込んで描いてる「ふせでぃさん」と、それを外から客観的にチェックする「ふせでぃさん」の運営の人の両方がいる感じです。

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――そんな目線で見た時、同世代の人たちに思うことはありますか?

ふせでぃ 印象としては病んでる子が多いかなと。同世代の子には「前に進んでほしい」と思っています。

――病んでいるというのは、何が理由になっていると思いますか?

ふせでぃ 閉塞的になっているからかな。他者とのコミュニケーションが苦手で、諦めていたり、めんどうくさがっている子が多いと思います。人と関わって傷つくのが嫌なんじゃないかな。

――作中にも「心を開くのが怖いんだよ」というモノローグがありましたね。

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ふせでぃ 私自身は人と話すのが好きで。知らない人と話すと新鮮だし、「そんな見方があったんだ」とハッとすることがめっちゃあるんで。

コミュニケーション推奨派です。現時点で好きなものが一致する人とだけ付き合うとか、ネットの世界だけで交流するのでは世界が狭くなる。楽なようで自分をどんどん縛って、窮屈にしていくことになるんじゃないかなと。

「王子さまは最初に登場している」 はりめぐらされた「仕掛け」にも要注意!

――ハッピーな結末にならないかもとハラハラしながら読んでいたので、このラストはうれしかったです。

ふせでぃ あの結末には「年下の男は対象外」みたいな思いこみを払拭したいという意図もありました。かつては自分もそうだったんですが。

――思い込みのせいで出会いを減らしていることってあるんだと。

ふせでぃ ところで……アキちゃんと結ばれる男の子が最初に登場してるの、気がつきました? 「王子様は一番最初に登場すべし」。これは少女マンガを読んで学習したことなんです(笑)。

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――あっ。気がつかなかった! こんな冒頭に出てきてたとは。

ふせでぃ 「答えはいつも身近にある」ってことで。ずっと後で結ばれる相手と、じつはすでに出会っていた……と。なんかご都合主義的にラストで急に登場してきたように見えるんですけど、ずっといて、ラストでアキちゃんの視界に入ってくる、ということなのかもしれません。

――アキちゃんの視界に彼は入ってないけど、「彼はアキちゃんを見ていた」ことが描かれてるわけですね。

ふせでぃ ずっとそばにいたんですよ。タイミングのいたずらで噛み合わなかっただけで。そのことは巻末のおまけマンガに描いてます。

――先生は最初から「彼」に決めてたってことですか?

ふせでぃ うーん、じつは適当に描いた男の子だったんですけど。決めてたのかな?

――ラストは迷ったとおっしゃってましたが。キャラクターとしては作ってあった?

ふせでぃ 「いた」んですね。

――これはしてやられました!

ふせでぃ よく読み返さないと気づけないでしょうね。おまけマンガを読んだらわかる、お楽しみです。

あと小ネタでいうと、今連載中の『全部失っても、君だけは』のキャラがちらっと出てるページがあるので探してみてください。後ろ姿ですけど。ちなみにあっちの作品にもアキちゃんが出てきます。そのうち。

「愛し合いたい――普通の人みたいに」
Instgramフォロワー 15万人! ふせでぃの描き下ろし長編コミック。派遣社員、彼氏なし、アキの恋のゆくえ――。「CREA WEB」での連載に加え、主人公・アキのその後を描いた描き下ろしおまけマンガも収録。
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ふせでぃ

七夕生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学卒業後、イラストレーターとして活動する。切ない恋愛に葛藤する女の子のイラストをSNS上で発表し、多くの支持を得る。現在は漫画を中心に活動中。漫画作品に「君の腕の中は世界一あたたかい場所」(KADOKAWA)、「全部失っても、君だけは」(講談社、漫画アプリ「Palcy」連載)がある。

コミックエッセイルーム 「ふせでぃ」さんのページ
https://crea.bunshun.jp/list/comic-essay/author/ふせでぃ

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『明日、世界が終わるかもなので、本日は帰りません。』

文藝春秋
著者 ふせでぃ

取材・文=粟生こずえ
撮影=鈴木七絵

粟生こずえ

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