“推し”選手をファンが支援できる「スポーツギフティング」 コロナ禍でアスリートとの新たな関係を構築

“推し”選手をファンが支援できる「スポーツギフティング」 コロナ禍でアスリートとの新たな関係を構築

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  • 更新日:2021/04/08
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スポーツギフティングで集まった資金でアイスリンクを貸し切り開催された練習会。西山選手は「支援をしっかり活用したい」(写真:西山さん提供)

コロナ禍で、スポーツの試合の中止や観戦の制限により好きな選手に声援を送りにくい。ファンが選手の活動やビジョンを支える新たな応援の形に、いま注目が集まっている。AERA 2021年4月12日号で取り上げた。

【写真】プロサーファー須田那月選手も「スポーツギフティング」Unlimを利用

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都内のアイスリンクに昨年12月のある晩、10代のフィギュアスケート選手が集まった。全日本ジュニア選手権アイスダンスで2連覇している西山真瑚選手(19)が呼び掛けた練習会だ。アイスダンスはリンクを広く使うことなどの理由から、練習の際にはリンクを貸し切らなければならず、都内のリンクは1時間3、4万円かかる。全国的にアイスリンクが不足し、予約を取るのも難しい。

「参加したみんながとても感謝してくれて、それだけ練習場所に困っているんだと思いました。アイスダンスを日本でメジャー競技にするためにも貸し切りの機会を作りたい」(西山選手)

貸し切り練習会の費用は、ファンがアスリートに直接金銭的支援ができる「スポーツギフティング」で集めたものだ。

新型コロナウイルスの感染拡大で、ファンは会場で熱狂を共有できなくなった。スポンサー離れも進み、アスリートは逆境に立たされている。そうしたなか、ファンとアスリートが新たな関係を築き始めている。

■低額から気軽に寄付

アスリートフラッグ財団が運営するスポーツギフティングサービス「Unlim(アンリム)」はホームページを開くと、スキージャンプの高梨沙羅選手(24)やバドミントンの奥原希望選手(26)ら150以上の選手やチームの写真がずらりと並ぶ。

応援の方法は簡単で、選手を選び、贈りたい応援ポイント数を選択。1ポイント1円分で、10ポイントから寄付できる。集まった寄付金額の67~83%が選手、チームに贈られ、残りは公益性のあるスポーツ振興団体や財団の運営費などに配分される。

自らの活動資金への支援を呼び掛けている選手が多いが、「(コロナで大会が中止された)中高生の活躍の場、育成の場を提供したい」(奥原選手)、「女子スキージャンプの環境整備等に活用したい」(高梨選手)といったように、スポーツ振興や社会貢献などのビジョンを掲げ、そのための資金を呼び掛けている選手も目立つ。

Unlimを立ち上げたのは、SNSやスマホゲームを手掛けるミクシィだ。2017年に同社がBリーグの千葉ジェッツふなばしとスポンサー契約を結ぶと、「私も支援してもらえないか」と選手たちからの問い合わせが相次いだ。同社スポーツギフティング部長の武本泰伸さん(45)は言う。

「思った以上に選手たちの競技環境が厳しいことを知り、人と人とのつながりを大事にしてきた企業として、アスリートとファンをつないで応援を形にできないかと考えました」

■絶えず届くメッセージ

クラウドファンディングのような支援者への返礼のシステムはなく、試合での活躍や掲げたビジョンの実現が応援への対価となる。財団の事務局長の松崎貴宏さん(40)は言う。

「これからは、選手たちがSNSなどで積極的に自分のメッセージを発信していくことも大事になってくると思います」

寄付の際には、選手にメッセージを送ることができる。前出の西山選手は言う。

「試合以外のタイミングでファンの方から直接応援の声をもらうことがすごくうれしくて。自分の気持ちを奮い立たせてくれるシステムです」

昨年8月からUnlimを利用する、サーフィンショートボード女子の19年国内グランドチャンピオン、須田那月選手(25)もこう話す。

「コロナで大会もなくなり、活動資金も厳しい中、半年間絶えず届く応援メッセージがすごく励みになっています」

サーフィンは東京オリンピックで新競技として加わることになったが、まだ認知度も低く、多くのプロサーファーが活動資金集めに苦労している。国内ツアーを転戦するには年間約150万円、海外ツアーなら年間600万円程度の遠征費がかかるが、国内ツアーの優勝賞金は数十万円が相場で、女子は男子よりも低く設定されていて、さらに厳しい。

■コロナで契約が白紙に

須田選手は海外のツアーに出場するため、19年は日本一にこだわり、目標を達成。だが、年明けからコロナの影響が表れ、途中まで進んでいたスポンサー契約の話が白紙になった。

そんな折、知り合いを通じてUnlimの存在を知った。さっそく登録すると、ファンの一人から「資金集めを頑張っているなら力になりたい」と連絡があり、3カ月ほどUnlimを通して支援を受け、その後、スポンサー契約を結んだ。

須田選手は当初、活動資金の支援を呼びかけていいのか、葛藤もあったという。

「オリンピックを目指してサーフィンを始める子どもたちが増えてきているなかで、国内チャンピオンになった私が活動資金に困っていると発信することは、その子たちの夢をつぶしてしまうのではないかとも思いました。でも、次世代の子どもたちに自分のような苦しい思いをしてもらいたくないから、正直に伝えることでサーフィンを取り巻く状況を少しでも改善できたらと思うようになりました」(須田選手)

■小口の支援をたくさん

東京オリンピック・パラリンピック後には、今結ばれているスポンサー契約やアスリート雇用が解消される選手も少なくないと言われている。前出の武本さんはこう話す。

「企業からの資金提供がシビアになっていくなかで、企業からの大口の支援ではなく、たくさんの個人が少しずつ支援してアスリートを支える仕組みが選択肢の一つになればいい」

こうしたファンとアスリートの新たな関係について、筑波大学体育系教授の菊幸一さんは「寄付文化が根づいていない日本で、真のボランタリズムやドネーション(寄付)文化を育てていく一つの突破口になる可能性がある」と興味を示す。

スポンサー契約は、ユニフォームなどに企業ロゴをつけ、その広告の対価として資金を提供してもらうのが一般的だ。一方、スポーツギフティングはファンが、たぐいまれなる能力を「ギフト」された人にほれ込み、その能力を発揮してもらうための資金を提供する。いわば「無償の愛」だ。

「アスリートは、常に自分を見守ってくれている何かに対してきちっと応えられているか、と自分に問うことで、活躍し続けるモチベーションを保つことができます」(菊さん)

多くのアスリートが直面するセカンドキャリア問題にも、スポーツギフティングサービスが有効ではないかと指摘する。

「選手がサービスを利用することで、ただ競技をしているだけでなく、自分は社会に対してどういうメッセージを訴えることができるのかを考え、自らをブランディングする機会を持っておくことは、引退後にも生きてきます」(同)

(編集部・深澤友紀)

※AERA 2021年4月12日号

深澤友紀

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