スカウト注目の日大藤沢・柳澤大空は新井貴浩を彷彿する強打者。「技術は三流、体は超一流」から大成なるか

  • Sportiva
  • 更新日:2021/07/21

── 「ウサギとカメ」で言えば、カメのタイプでしょうか?

日大藤沢の山本秀明監督にそう尋ねると、力強いうなずきとともに、「完全にカメですね」という言葉が返ってきた。

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日大藤沢の主砲で、今秋のドラフト候補に挙がる柳澤大空(おおぞら)のことだ。

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日大藤沢の主砲・柳澤大空

柳澤の名前が知れ渡ったのは今春だった。神奈川県大会準決勝・東海大相模戦。春のセンバツで優勝し、錦を飾った王者から柳澤は2本のホームランを放った。チームは5対14で敗れたものの、柳澤に対する「糸井嘉男(阪神)並みのポテンシャル」というスカウト評が広く報じられた。

だが、もしかしたらコメントをしたスカウトは、相当にポジティブな見方をしたのかもしれない。本人には失礼ながら、現時点での柳澤に一世を風靡したアスリート型外野手の姿を重ねるのはなかなかハードルが高い。

自他ともに認める「不器用」な選手だ。体に馬力はあり、足も速い。だが、山本監督は「回路がつながっていない」と独特な表現で柳澤を評する。つまり、類まれな身体能力を野球に生かしきれていないのだ。技術指導に定評のある山本監督からアドバイスを受けても、言われたとおりに体を動かせないことが多いという。

今夏の神奈川大会初戦・鎌倉戦で、柳澤は「4番・ライト」で出場した。緩いボールを引っ張りすぎて、レフト線からどんどん遠ざかる大ファウルを打った直後。フォロースルーを終えた柳澤は三塁側ベンチ方向に向いた顔を、グルリと逆に回して元の位置に戻した。顔以外はバットを振り切ったフィニッシュの体勢だっただけに、奇妙な行動に映った。

なぜ、そのような顔の動きをしたのか試合後に尋ねると、柳澤はこう答えた。

「顔があの方向(三塁ベンチ側)に向くと、体も開いてしまうので。開かずに打とうと思って顔を戻しました」

その行動と言葉から、柳澤の不器用さと真面目さが伝わってくる。この日の柳澤は犠牲フライを1本放ち、死球を1つ与えられたものの、2打数0安打と打撃面で目立った活躍はできなかった。

それでも、「バッティングでチームに貢献できなかったので、なんとかカバーしたかった」とライト前方のライナーをダイビングキャッチ。守備面で存在感を見せた。試合は10対0の6回コールドで、日大藤沢が完勝した。

バックネット裏には複数人体制で柳澤をチェックするNPBスカウトの姿もあった。今のプロ球界は右の強打者の需要が高いだけに、柳澤の注目度は否応なく高くなる。

だが、柳澤はこれまで華やかなスポットライトとは無縁の選手だった。牧原巧汰(現・ソフトバンク)というプロ注目捕手を擁した昨年のチームでは、「7番・ファースト」で出たり、出なかったり。「今年に入って急激によくなってきた」と山本監督が言うように、最近になってようやく注目されるようになった。

高校通算19本塁打という数字も、コロナ禍で実戦機会が限られた事情を加味しても多くはない。現時点では、柳澤よりも技術的に優れた高校球児は他にもいるだろう。

それでも柳澤に大きな可能性を感じる理由は、ハードな練習に耐えられるだけのタフな肉体の持ち主だからだ。

山本監督は言う。

「体の強さ、練習に取り組む姿勢は最高です。ケガに強く、痛みに強い。たくさん練習できるのは、彼の一番の強みです」

これまでの故障歴を聞くと、柳澤は昨冬に肋骨を疲労骨折した件を挙げた。原因はバットの振りすぎによるもので、早期に完治させた後は再び猛練習に励んでいる。

広島の大ベテランスカウトの苑田聡彦スカウト統括部長が、かつてこんなことを言っていた。

「高校時点での実力で通用すると思ったのは、清原和博のバッティングと立浪和義の守備くらい。あとはプロに入って、いかにうまくなれるかですよ」

広島でいえば、プロ入り時に「技術は三流、体は超一流」と評され、尋常ではない努力で主砲まで登りつめた新井貴浩の例もある。強靭な肉体、しかも高い身体能力を秘める柳澤なら、これから信じられないような進化を見せる可能性は十分にある。

現段階で柳澤は「プロ志望届を出したい」と語り、山本監督も「できるだけたくさん練習できる環境に入れてやりたい」とあと押しする。

「今年に入って成長した部分は?」と聞くと、柳澤は少し考えてからこう答えた。

「今まで監督から『下半身を使って打って』と言われてきたんですけど、どうしても上体の力でバットが先に出て、ワンバウンドの変化球を振っていました。でも、監督に打てない時もずっと試合に使ってもらって、少しずつできるようになってきました」

何事も習得するまでに時間がかかってしまうかもしれない。だが、時間をかけて手に入れたものは、簡単には手放さないものだ。

その名のとおり、柳澤大空の可能性は青天井に広がっている。ゆっくり着実に、一歩一歩進んでいけばいい。おとぎ話のカメだって、最後はウサギを抜かしていくのだ。

菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

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