296GTBは電動化時代を翔けり回るピュア・フェラーリである(前編)

296GTBは電動化時代を翔けり回るピュア・フェラーリである(前編)

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  • 更新日:2022/11/30
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フェラーリのミッドリアエンジン2シーター・スポーツベルリネッタ『296GTB』。市販モデルのフェラーリで、ICE(インターナル・コンバスチョン・エンジン=内燃機関)に電気モーターを組み合わせ、車外の電源からバッテリーを充電できるプラグインハイブリッドヴィークルとしては『SF90』に次ぐ2代目にして、初の6気筒エンジン搭載モデルである。

フェラーリのほとんどのモデルがそうであるように、このクルマも現代性を歴史化する存在であるのは間違いないがゆえに、JBpress autographは、そのステアリングを『NAVI』、『ENGINE』と自動車雑誌編集長を歴任したベテラン 鈴木正文に預けた。

しかし、ステアリングを握る前に、話しておくことがあるのだった……

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発明と発見の条件

第1次大戦後の1919年、「パリ講和会議」で締結されたヴェルサイユ条約によって、ドイツはエンジン付きの飛行機の製作を制限された。このことに触れて、寺田寅彦は1922(大正11)年、俳句雑誌の『渋柿』に、次のような短文を寄せた。

平和会議の結果として、ドイツでは、発動機を使った飛行機の使用製作を制限された。
すると、ドイツ人はすぐに、発動機なしで、もちろん水素なども使わず、ただ風の弛張(しちょう)と上昇気流を利用するだけで上空を翔(か)けり歩く研究を始めた。
最近のレコードとしては約二十分も、らくらくと空中を翔けり回った男がある。
飛んだ距離は二里近くであった。
詩人をいじめると詩が生まれるように、科学者をいじめると、いろいろな発明や発見が生まれるのである。
(寺田寅彦『柿の種』岩波文庫)

こうして、ドイツでグライダーが発祥した。それからおよそ1世紀ののちの2015年、「パリ講和会議」ならぬ気候変動にかんする「パリ協定」によってCO2排出量の削減目標が示され、自動車のEV化への流れが一気に加速した。自動車エンジニアたちは、フェラーリに拠る者たちをふくめて、電気自動車(EV)のみならず、内燃機関(ICE)と電気モーターとの混成による「発動機」によって、路上を自在に「翔けり回る」ハイブリッド・カーを生み出すことにも腐心するにいたった。

そうして、ここに、1台のプラグイン・ハイブリッドのフェラーリが誕生した。それは、果たして、逆境に追いこまれた(いじめられた)詩人が生み出した1篇の詩のような自動車なのか……。「パリ協定」なかりせば、けして誕生しえなかった2人乗りの、ミド・エンジンのスーパー・スポーツカー、296GTBとは、どんなクルマか──。

250LMを語り直す

マラネロみずからが述べるように296GTBのスタイリングは、1964年から1966年にかけて32台がつくられたにすぎないプロトタイプ・レーシング・カーの250LMにオマージュを捧げたものである。ピニンファリーナがデザインし、スカリエッティがボディを叩いた250LMは、スポーツカー・レース全盛期の1965年のル・マン24時間のウィニング・カーであるとともに、1963年のスポーツカーレースを席巻したオープントップのスポーツ・プロトタイプ、250Pにルーフをかぶせたものでもあった。

ラップアラウンドしたヴァイザー風のウィンドシールド、リア・フェンダーの峰の始点に穿たれた巨大なサイド・ヴェント、後付け物件のようにも見えるカンチレバー風のルーフ、さらにはボディ後端のカム・テイルまたはコーダ・トロンカの形状などは、250LMとの類縁性の、動かぬ証拠だ。

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296GTBのスタイリングは、その意味では、250LMを意識的に語り直したものである。栄光のルマン・カーは、かくして、過去から現在に呼び出され、未来が過去の「語り直し」によってつくられうることを、身をもって示した。

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では、心臓は、どうか? それはどう語り直されたのか?

なににせよ、296GTBは、「パリ協定」のおかげで、もはや無邪気に内燃機関だけを追いかけられなくなったスーパーカー・メーカーが、かつて、ドイツ人が「グライダー」を発明したように生み出したものだ。それゆえのプラグイン・ハイブリッド・カー(PHEV)である。「しかたなく」つくられた電動フェラーリであるともいえる。3.3リッターの60度V12を搭載し、ル・マンを制するために誕生した250LMが戦闘機とするなら、296は「グライダー」か──。

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3リッター(2992cc)の120度V6に2基のターボと1基の電気モーターを付加した296GTBは、2019年に発表されたSF90 につぐ2台目のフェラーリ製PHEVであり、そのセミ・オートマチックの8段ダブル・クラッチ・トランスミッション(DCT)をSF90用とシェアしている。とはいえ、バック・ギアを持たずに、電動機の逆転によって後退する仕組みになっていたSF90にはなかった後退ギアが追加されるとともに、前進用の各ギアもショート化されているというちがいがある。そのギアリングは、瞬発力を重視したものだ。

そして、SF90 が3基の電気モーターを搭載して前輪をも駆動する4WDであったのにたいして、296GTBは後輪のみを駆動する。120度の広いバンク角を与えられたV6は、SF90の90度V8(F154系)とはまったくの別物の新開発エンジンでもある。

エンツォ・フェラーリはかつて、12気筒以外のエンジンをフェラーリのロード・カーに載せるつもりはないとうそぶいていた。おかげで、フェラーリのエンジニアが設計したV6やV8のエンジンをミドに積んでも、ディーノ246GTや308GT4は当初、「フェラーリ」のブランド・ネームを与えられることはなかった。しかし、246GTの事実上の後継車となった1975年デビューの、V8搭載の308GTBは、はじめからフェラーリ・ブランドとして発売された。V6ハイブリッドの296GTBも、デビュー時からフェラーリを名乗る。遠くディーノ246GT一族、そして308GTBを祖先として。

ちなみに、フェラーリのエンジニアたちは、296GTBのV6を「ピッコロV12」といっているという。気筒数こそV12の半分ではあるけれど、120度V6はV12とおなじく等間隔爆発を実現しており、その点では、SF90 などのV8族よりも、250LMや250GTなどの古典的なV12族に近い。時代の要請にしたがって、現代の技術でV12を「語り直し」たのが、このV6である、といってさしつかえない。

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296GTBとは──より詳しく

296GTBのアルミニウム製のシャシーは2名分のシートをかかえる。その背後に完全新設計の2992ccのV6DOHCをマウントするのだが、Vバンクの角度を120度にしたのは、ひとつには重心を低めるためであり、もうひとつには等間隔爆発を実現するためであった。くわえて3つめに、この2つのバンクの間にIHI製ツインターボを押し込み、スペースを有効活用して、ターボ・ラグを最小化したのである。このV6と8段DCTギアボックスとのあいだには、フライパンほどのサイズの電気モーターがサンドイッチされてパワー・トレインを形成している。シート背後のフロア下部に設置された重量70kgのバッテリー・パックは、167psの最高出力と315Nmの最大トルクをモーターに与え、いっぽう、V6ターボは663psの最高出力を8000rpmで、そして740Nmの最大トルクを6250rpmでそれぞれ発生して、電気モーターと合わせた296GTBのトータルの最高出力を830psにいたらしめる。

296GTBのボディ・サイズは、全長✕全幅✕全高=4565✕1958✕1187mmと、兄貴分のSF90の4710✕1972✕1186mmより145mm短く、2600mmのホイールベースは、SF90の2650mmを50mmアンダーカットする。車重はSF90の1570kgにたいして100kg減の1470kgというから、トン当たりの出力は564.6ps(SF90は636.9ps)。SF90には及ばないとはいえ、このおどろきの馬力荷重にふさわしく、0-100km/hを2.9秒で駆け抜け、330km/hの最高速をうたう。ちなみに、4リッターV8ツインターボ+3モーターを載せたSF90の総出力はきっかり1000psで、それぞれ2.5秒と340km/hという数字が公表されている。

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もひとつ大事なことがある。296GTBの2600mmのホイールベースは、全長4611mmと、296GTBより26mm長いボディのF8トリブートよりも、SF90比同様、50mmも短い。フェラーリの現行ラインナップ中、ホイールベースは、この296GTBが最短なのだ。そして、前後重量配分は、フロントが40.5、リアが59.5と、ぐんと後車軸寄りだ。296GTBは、「ファン・トゥ・ドライヴ」を定義するクルマである、とフェラーリが主張するだけのことはあるスペックである。

こうしてみると、つい先ごろ発表されたスパイダー・ボディもふくむ296シリーズは、すでに受注停止になっているF8トリブートに代わるフェラーリのミドシップ・スポーツの「エントリー・モデル」のようにもおもえるけれど、マラネロはそれを否定している。3710万円からという価格帯もかんがえると、将来、296GTBよりさらにコンパクトなミド・エンジン・スポーツ・モデルが追加されるかもしれない、と期待したいが、そういうものが発売されるという確証はない。

いずれにせよ、SF90のように前輪を駆動するモーターをフロントに備えない296GTBは、フロント・フードの下に、ふたり分程度の小旅行用の荷物ぐらいなら収容できそうな、この種のスーパースポーツとしては広々としたカーゴ・スペースを有している。走り出してすぐにわかる見切りのよい視界もふくめて、日常用途にも使えそうなフェラーリなのである。

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後編に続く

鈴木 正文

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