【小寺信良の週刊 Electric Zooma!】InterBEE 2021で見えた“映像技術のクラウド化”

【小寺信良の週刊 Electric Zooma!】InterBEE 2021で見えた“映像技術のクラウド化”

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  • 更新日:2021/11/25
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会場45分前、緊張感が高まる展示会場

久しぶりの幕張メッセ

日本で行なわれる映像機器関連のイベントとして最大規模なのが、例年11月に開催されるInterBEEである。幕張メッセのホール1~8すべてを貸し切っての大掛かりな展示で、会場内でやれない音出しのイベントなどは隣接するイベントホールでも実施される。またスイート展示や基調講演などは国際会議場でも行なわれるなど、会期中の3日間は幕張メッセ全体が映像・音響機器一色となるイベントだ。

ただ世界規模で見れば、2019年の来場者は4万人強と、他国の展示会に比べると半分以下であり、インターナショナルというよりはローカルな展示会に近い。さらに昨年はオンラインのみの開催であったが、バーチャル来場者が1万人程度にまで減少した。

今年はリアル開催であることは早くから告知されていたが、海外メーカーは出典を見送るところも多く、規模としてはホール5からホール8の途中までと、例年の半分以下となった。また各社のブースも一様に小さくなり、「あれもこれも出す」のではなく、かなり絞り込んだ展示となっていた。

また今年の来場者は、18,308人と発表された。会場面積比率で考えれば、密度感は2019年とほとんど同水準の数字となった。今回はInterBEE 2021で見つけたトレンドを押さえて、今後の映像業界の行方を考えてみたい。

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開場後は以前と変わらぬ賑わいを見せた

ライブ配信のクラウド化に進出したソニー

ソニーは例年最大規模のブースを構えるが、今年も規模としては最大であった。ただ混雑を避けるために、時間を区切っての登録入場制となっており、気軽に立ち寄って中が見られるという格好にはなっていなかった。

ソニーブースでの目玉は、シネマカメラ「VENICE」の後継機、「VENICE 2」の登場だろうが、筆者的な注目ポイントはクラウド中継システム「M2 Live」である。M2とは「マルチポイント to マルチポイント」という意味で、ライブカメラからストリームをクラウドに上げ、クラウド上に仮想で構築したスイッチャーに入力、切り替えをおこなったのち、一般的なライブ配信サービスへ直接配信する。

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パブリッククラウド上で動作するソフトウェアスイッチャー 「M2 Live」

ソニーでは過去、ファイルベースの映像制作でのクラウド利用を積極的に推進しており、今回発表された「C3 Portal」ではカメラとXperiaを直接USBで接続し、自動的に撮影ファイルをクラウドに上げるというシステムを構築している。そして5Gの普及を睨んで、カメラの映像をHDMIでXpreriaに入力し、ライブストリームをクラウドにアップする「XDCAM pocket」もサポートする。

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カメラとXperiaを接続し、ライブストリームをクラウドにアップロードできる

現在のM2 Liveは、1M/E + 2キーヤー、DSK 2キーヤーのシンプルなシステムで、PinPなどの合成機能はあるが、DMEのようなエフェクト機能は搭載されていない。また現在はマウス操作およびタッチスクリーン操作のみで、ハードウェアのコントロールパネルがない。来場者からはコントロールパネルは必要という声も多く聞かれたことから、今後ハードウェアも登場するかもしれない。

今年9月より発売が開始されているハードウェアのライブスイッチャー「XVS-G1」も面白かった。従来のように専用プロセッサを使って画像処理を行なうのではなく、汎用のCPU・GPU・FPGAを使って画像処理を行なうという、中身的にはソフトウェアスイッチャーである。

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今年9月より発売されている新コンセプトのライブスイッチャー「XVS-G1」

オプションのGPUパックを追加するとできることが増えたり、ソフトウェアのアップデートで特殊効果が増えたりと、従来のスイッチャーにはない特徴を備えている。またメニューへのアクセスもWi-Fiに接続したタブレットのブラウザで可能になっている。

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GPUを追加すれば機能が増える

また価格も、2M/E-16クロスポイント仕様のコントロールパネルも付いてHD標準システムで450万円程度と、従来機の半分以下となっている。汎用CPU・GPUの機能向上には凄まじいものがあり、ついに放送機器のリアルタイム映像処理にまで採用されるようになったのは感慨深い。

もう一つ見逃せない動きは、今年9月より発売が開始された空撮用ドローン「Airpeak S1」だ。ソニーのαシリーズが搭載できる大型機である。コンテンツ向けの空撮で利用されるのはもちろんだが、実は公共インフラの点検や国土保全に関わる業務は国産ドローンに限るという制限があり、純国産ドローンであるAirpeak S1の引き合いも多いという。DJIで十分なのになぜソニーが、という答えがそこにある。

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空撮用ドローン「Airpeak S1」

スイッチャーを超えてプラットフォーム化へ走るパナソニック

パナソニックブースのメインステージでは、ソフトウェアスイッチャーの「KAIROS」による2元中継をデモしていた。KAIROSは2020年に販売開始されたオンプレミス、すなわちローカルのサーバ上で動く大型ソフトウェアスイッチャーシステムだが、昨年はInterBEEやNABといった映像機器展が開催されなかったため、広くお披露目できなかった。今回始めて見たという人も多いだろう。

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多くの人が立ち寄ったパナソニックブース

だがメインステージの裏側の展示こそが今回の目玉であった。これまで専用サーバで動いていたKAIROSを、パブリッククラウド上でも動かせるサービスが開始される。つまりユーザーは、ハードウェアとしてのサーバを含めたシステムを購入するのではなく、必要なときに利用契約を結んで時間単位のサブスクリプションで利用するという仕組みになる。

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オンプレミスのシステムをパブリッククラウドでも展開

専用サーバに比べると入力数が半分の16となるだけで、できることは同じだという。現時点でも映像のスイッチング以外にもリモートカメラの操作が可能だが、さらにオーディオコンソールや照明のコントロールなどもKAIROS上に一元化していく。単なるスイッチャーではなく、すべてのコントロールが可能というプラットフォーム化していく方向性が示された。

すでに専用コントロールパネルも用意されており、ボタンには映像ソースだけでなく、仕込んだシーンを1ボタンで実行できるマクロボタン的な使い方もできる。映像・音声・照明が連動する動きを、スイッチャーパネルだけでテイクするといった使い方も想定される。

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すでに専用ハードウェアも用意されている

そしてパナソニックも、国産ドローンへの道を模索している。天井に釣ってあったために気がついた人は多くないかもしれないが、日本のドローンメーカー「プロドローン」と共同で開発している、空撮用大型ドローンが展示されていた。これまでプロドローンは、防災・消防や物流、測量、点検といった分野で実績を上げてきているが、パナソニックとの協業で空撮分野がより強化されていくことだろう。

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プロドローンと協業でドローンも開発中

なにもかもスイッチャーになる時代

マルチカメラ、マルチソースによるライブストリーミングの人気が高まるにつれ、ビデオスイッチャーがこれほどまでに世間に認知されたことはかつてなかった。もはやスマホ1つのお気軽1カメストリーミングの時代は終わったのかもしれない。

そんな時代を象徴するかのような2つの新製品をご紹介しておく。ライブストリーミングの黎明期を支えたCerevo「LiveShell」の新モデルが来春に登場する。「LiveShell W」は、HDMI2系統を付属のコントローラによってスイッチングできる、スイッチャーと配信エンコーダが一体となったモデルだ。切り替えだけでなくPinPによる2画面同時出力も可能。HDMI出力も1系統備えており、リアルタイムでのモニターも可能になった。またUSB端子も備えており、USBカメラなどを入力することで、これもソースとして利用できる。

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Cerevoが開発中の「LiveShell W」

まだ開発中ということもあり、すべての機能が動作しているわけではなかったが、10万円を切る価格を予定しているという。Cerevoは2015年当時、10万円を切る価格で4入力切り替えのスイッチャー「LiveWedge」を商品化しているが、久々のスイッチャー再参入といった格好だ。

モニター付きフィールドレコーダで知られるAtomosは、「NINJA V」シリーズ専用の拡張モジュール「AtomX CAST」を出展した。これはNINJA Vシリーズ背面のバッテリー端子を使って連結することで、HDMI 4入力、HDMI 2出力、USB-C 1出力を備えるスイッチャーとなる。

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NINJA Vの拡張モジュール「AtomX CAST」

NINJA Vのディスプレイ部はそのまま入力モニターとなり、画面タッチでも切り替えが可能。またPinPのプリセットも可能など、「レコーダがスイッチャーになる」というユニークな製品である。

元々SUMO 19といった大型ディスプレイ機では4入力切り替え機能は付いていたが、5インチサイズの小型モデルでスイッチングできるとなると、現場の様相も変わってくる。何もかもがスイッチャーとして機能してくる、そんな時代を予感させる。

総論

InterBEEは元々放送機器展としてスタートしているが、昨今はネット向け製品の展示も増えている。来場者の傾向を見ても、以前は朝から詰めかける感じでもなく、お昼すぎから徐々に徹夜明けの技術者が集まってきて、終わり頃が一番混雑するという、スタートの遅いショーだった。

だが今は朝10時の開場から来場者が列を作って待機しており、スーツ姿の人も増えてきた。また女性の来場者もかなり多く、年齢層も若返っているのを感じる。やはり今のネットを担う人たちが、映像機器を見に来ているという印象だ。

新しいカメラや4K・8Kを期待していた人には肩透かしとなった格好だが、今年のトレンドはやはり「映像技術のクラウド化」ということになるだろう。最終アウトプットがHD解像度でネット、というコンテンツが増えるに従って、ローカルで処理してネットに上げるのではなく、素材の時点でネットに上げてあとは全部クラウドでやるという、クラウドプロダクションの夜明けを感じさせる。

どんどんハードウェアとしての実体がなくなっていくのは寂しい気がするが、人が触ってコントロールする部分や、カメラやマイクがまだまだハードウェア必須の世界であり、メカ部分はそちらのほうに集約されていくのかもしれない。

小寺 信良

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