【小説】神様に「ひとつだけ願いを叶えよう」と言われたが...

【小説】神様に「ひとつだけ願いを叶えよう」と言われたが...

  • 幻冬舎ゴールドライフオンライン
  • 更新日:2022/08/06
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三、男の欲

「見えたよ! ピンク色で刺繍が入っていた……信じられない」

純一は神と名乗る老婆に瞠目した。彼のなかで老婆が少し神へ近づいた瞬間だった。

「信じていただけましたか。神ならこの程度のこと、簡単にできるんですよ」

「でもどうやって?」

「ちょいと、少年の体を借りた。あの子は女性の年の離れた弟だ。体に乗り移ったときにその者の人生がわかるんじゃ、信じてもらえたかな」

「……まぁ、信じるというより驚きましたよ」

「なんと! まだ信じていただけないみたいですね」

「信じてあげたいですけど、そう簡単には……」

「そうだ、ここで会ったのもなにかの縁かもしれません。なにか願いごとをひとつだけ、叶えて差しあげましょう」

純一は「ん~」と困った表情で、「ドラマでのありきたりのパターンですね」と言った。

「でも、それが叶えば、本当に私が神だったということでしょう。ただし、死んだ者をそのまま生き返らせるとかは無理じゃからな」

純一は驚いた。

「えっ! 神様ってなんでもできるんじゃないんですか?」

「そこじゃ! 人間の図々しいところは。だから人間は愚かなんじゃ!」

なぜだかこのとき、老婆は怒りを込めた語気とは対極の、悲しい表情をしていた。

「すみません。たしかに人間は困ったときの神頼みって神社に行きますからねぇ。困ったときに『あー神様』って言うし」

老婆は急にスイッチがオンになったように笑いだした。

「ハハハハ、たしかによく聞こえてくるわ。そういう奴はまだ自分でなんとかできるものよ。バカらしいから無視するがのぉ」

純一はなんとなく感じた。老婆は人間に呆れている。それを察したのか老婆はよいよいと微笑んだ。

「で、どうじゃ。なにかあるか?」

「急に言われても、いっぱいありすぎて思いつきませんよ」

「それもそうか、失礼した。では、こうしよう。今度会ったときにその答えをいただこうかのぉ。そして、願いを叶えよう」

純一は半信半疑の「本当ですか?」を老婆にかえす。

「本当じゃとも。私も神としての誇りがあるから、信じてもらえないままこの国を去れん。ただし、願いごとを叶えるのに、条件があるがのぉ」

純一は咄嗟に新手の商法だったのか! 条件と言ってなにかを売りつけるつもりか! と勘ぐるが条件は意外に簡単なことだった。

「信じようとする素直な心をもっていただく、それだけじゃ。私が神だということ、すべてはそこから始まる。最初から信じないぞ、という心では願いごとは叶えられないし、私を見ることはもうないじゃろ。そう、願いごとは私を神と信じていただいた、ご褒美ということにしよう。そうなれば、私も気持ちよくこの国を去れるし、あなたも満足するじゃろう。そして、願いごとが叶ったときに私が神ということを確信する」

純一は、言いくるめられているような気がしたが別に嫌ではなかった。

(たしかにパンティは見えたし嫌いじゃない。でもそれだけで神と信じていいものか。もしかしたら、すべてがやらせかもしれない。でも、婆さんの前で足を止めたのは僕だしなぁ。まぁ、待てよ、仮にこのお婆さんを神と信じて害はあるか? ないよな。もしも信じるだけで本当に願いごとが叶ったら、こんなラッキーなことはないよな。――よしっ、どうせいつも時間はあるし、暇つぶしになるか)

純一は固い表情を解くと老婆に言った。

「信じますよ。お願いします、願いごとをひとつ」

「本当に信じているのか? まぁ、よい。それでは、次に会ったときまでに、願いを考えといてくださいよ」

「今度はいつ会えますか?」

「さあ、私も気まぐれなもんでな。でも大丈夫じゃ、神は約束を守る。約束は大事だからな。私を神と信じたら、必ず近いうちに会える。前回この国へ来たときも、サムライという人種の、名のある一人の願いごとをちゃんと叶えてやったしのぉ。サムライというのは、変わった奴が多かったなぁ」

「サムライ? 一体、どんな願いごとですか?」

「どんな? 彼の願いごとは難しくて悩んだ。出会ったときは子どもだったが、鷹のような鋭い目をしたいい面構えだった。表情に生気があふれていたよ。今のあなたたちとは比べものにならない」

「面目ない次第で」

「彼は天下を取りたいと言った」

「天下! ですか?」

「それだけなら願いを叶えてやらなかったかもしれないが、彼は天下を取って人々を笑わせたいと、本気で思っていたわ。いい顔だったなぁ」

【前回の記事を読む】「彼女のパンティを見せてあげますよ」神を名乗る老婆の力は…

井田 素

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