「全裸監督」の鬼才が見た草なぎ剛の予測不可能な魅力

「全裸監督」の鬼才が見た草なぎ剛の予測不可能な魅力

  • シネマトゥデイ
  • 更新日:2020/09/17
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近年もダメな父親、エゴイストの長男、クールな変わり者(声優)など、さまざまなキャラクターに変幻自在に成り切ってきた草なぎ剛。9月25日公開の映画『ミッドナイトスワン』では、ネグレクトされた少女を預かるトランスジェンダーの主人公に挑み、ナイーブで物哀しい魅惑のキャラクターを演じた。草なぎを「憑依型」と評する内田英治監督が、彼が本作で見せた驚くべき魅力について語った。(取材・文:編集部 石井百合子)

敬愛する撮影監督の巨匠・山本英夫が絶賛

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『ミッドナイトスワン』で草なぎが演じたのは、新宿のニューハーフショークラブで働く凪沙。いつか性別適合手術をするためにと、つましい生活をしている。「子供は嫌い」だった彼女だが、育児放棄された親戚の少女・一果(服部樹咲)を、養育費を目当てに預かったことから人生が一変していく。「この役のキャスティングはものすごく難航しました。正直草なぎさんに出ていただけるとは思わず、受けていただけると聞いた時にはびっくりしました。草なぎさんほどのスターが、これだけ作家性の強い作品に出る必要はないだろうと思っていましたし。でも台本を気に入ってくださって、出演が決まってからはものすごいスピードで製作決定に至りました」と当時を振り返る内田監督。

2016年のインディーズ映画『下衆の愛』で高い評価を受け、近年はNetflixドラマ「全裸監督」(2019)やテレビ東京の深夜ドラマ「Iターン」(2019)などで注目を浴びたが、これほど規模の大きい映画は初めてで、内田監督にとっても転機となる勝負作だ。草なぎの作品にあまり触れる機会がなかったという監督を後押ししたのは、ある人物の言葉だった。

「特にテレビは普段あまり見ないので、この作品に限らず他の役者さんも前情報がない状態でキャスティングに臨むことが多いんです。ですので草なぎさんも、お芝居のイメージは正直わからなかったんですけど、僕が撮った「全裸監督」のカメラマン・山本英夫さんが、草なぎさんの主演映画『任侠ヘルパー』(2012)を撮られていた。彼は草なぎさんを『日本を代表する役者』だと。特に『目がいい』とおっしゃっていて、山本さんにそこまで言わせるとはどんな方なんだろうと、すごくお会いしたくなりました」

衣装をまとった途端キャラクターに“同化”

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草なぎが主演とあって、意気込んだ内田監督は当初、入念に準備するつもりだったというが、衣装合わせで草なぎと対面して、いい意味で一気に計画が狂ったという。

「クランクインする前に脚本を読まれた後と、衣装合わせの時にお話をしました。最初はお互いの凪沙のイメージをすり合わせるつもりで、『よーし! しっかり話し込むぞ』と意気込んで衣装合わせに向かったんですけど、徐々にそんな必要はないなと思い始めて。もちろん下準備として、僕が取材した資料などはお渡ししました。脚本を書くにあたって30人程のさまざまな職種のトランスジェンダーの方に取材させていただきました。生い立ちからジェンダーを意識し始めた頃について、仕事にまつわるエピソードなど、かなり細かくお話をうかがっていて、その取材データをお渡ししたのと、『女になる』という2017年のドキュメンタリー映画を観ていただいたり。(クラブのステージで踊る)『四羽の白鳥』だけは何度か練習していただきましたが、それ以上の凪沙のキャラクターを作るための作業、リハーサルなどはストップしました。草なぎさんは同化するタイプの役者で、衣装合わせの時に衣装をまとった途端、すでに凪沙だったので、僕が一方的に『ああだこうだ』というのは違うなと」

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凪沙は、胸まであるロングヘアのウイッグ、トレンチコートに赤いブーツというのが基本のスタイルだが、これらはヘアメイクやスタイリストの意見を取り入れて試行錯誤のうえ作り上げていった。

「トレンチは割と映画の世界ではオーソドックスなアイテムで取り入れたいと思っていたんですけど、草なぎさんによく似合って。赤いブーツはスタイリストさんの提案です。ウイッグは結構大変でした。ありものではなく、元から作っています。初めにかなり長さのある状態で作って、凪沙のイメージに合わせて切っていきました。長さに関してはメイクさんの提案もありつつ、凪沙が美意識の高いキャラクターであること、草なぎさんの顔に合った長さを、ああでもないこうでもないと決めていきました」

予想もしないような演技

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撮影現場では、草なぎの予測不可能な演技に圧倒されたという内田監督。徐々に変化していく凪沙と一果の関係が作品の肝となり、台本上では凪沙の母性が芽生えていく瞬間など、いくつかの変化のポイントが組み込まれていたというが……。

「草なぎさんはカメラが回ると、ご本人も気づかないまま動いてしまう。例えば、冒頭で凪沙が新宿駅で初めて一果に会うシーン。その時、草なぎさんが予測しないような歩き方をされて。めちゃくちゃ速いんです。初めは疑問に思うんですよ、なんでこんなに速いんだろうと。だけど、そこには草なぎさんが感じた凪沙なりの理由があるわけで。凪沙は子供が嫌いですし、一果を引き取ったのも養育費目当てだった。だから、一果から早く離れたいと思ったのかもしれません。カメラが回ると彼は思いがけない芝居をされるので、一果への感情の変化についても草なぎさんに任せようというふうに僕の中でも変わっていった」

台本にない即興シーンでさらなる輝き

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そんな草なぎの予測不可能な演技に合わせて、監督自身も臨機応変に対応していくこととなり、台本にはなかったシーンも多く加えられた。

「5分の2ぐらいはアドリブで入れたシーンだと思います。今回に限らず、映画では自分で脚本を書くことがほとんどなので、突然シーンを継ぎ足すというのはよくやっています。こういうシーンを足しませんかという提案や、草なぎさんが役に同化するための場は設けたんですけど、『こう演じてください』というような指示はしませんでした。場というのは例えば、凪沙の近所にある石階段の上で、凪沙が一果に『わたしにもバレエを教えなさいよ』というシーン。最初は座っているだけのシーンだったんですけど、何かしゃべっている姿が見たくなって。だったら一果がバレエを教えるシーンにしようと。あとは、凪沙がアパートでひとしきり泣いた後に金魚を見ながら鼻歌を口ずさむところ。ちなみに、金魚の水槽を置いたのは美術の我妻弘之さんの提案によるものです。草なぎさんに即興のシーンをリクエストすると、一瞬考えるんですけど憑依型というか、すーっと入っていってしまうんです」

目で語れる稀有な俳優

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「なるべく近くで草なぎさんの芝居を見たかったので、カメラの近くにモニターを置いてもらいました」という内田監督が、とりわけ魅せられたのは草なぎの「目」だ。

「日本映画の演技は基本的にオーバーアクション気味で、それに我々は慣れている。どうしても目よりも体全体を注視しがちなんですけど、草なぎさんは目がいい。じっと見ていると感情が読み取れて面白いんです。國村隼さんなんかもそうだと思うんですけど、セリフを言わなくても目を見ているだけで引き込まれるような奥深さがあるというか。目で語ることができる、数少ない役者の一人だと思います。例えば、タイの病院で待っているときの顔のアップとか、好きです。そういった、何でもないシーンの方が感情を作る必要がなくて素が出るので難しいんですよね」

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劇中、凪沙はしばしば泣くが、内田監督はリハーサルを行わない主義で、すべてぶっつけ本番だったという。

「一果役の樹咲は、演技未経験だったので随分リハーサルをしましたが、基本的にはあるがままを撮りたい。リテイクも好きじゃないので、草なぎさんのシーンはすべて本当に一発勝負という感じです。なので、涙は極端な話、目薬でもいいんです。本物の涙にこだわる方もいると思うんですけど、僕からすると涙そのものは重要ではなく、涙が出るに至るまでの過程が重要で。もちろん、草なぎさんは涙も鼻水も出ていましたけど」

本作の製作発表時「台本を読んだ時、とても感動し涙がとまらなかった」と語っていた草なぎ。「変えられない運命、逃れられない運命の悲しみ、切なさといったものを人は誰しも抱えていると思う。それを作品のなかで表現できたらと思いました」と言い、「今までで一番大挑戦の役」とも。来年は、徳川慶喜を演じる大河ドラマ「青天を衝け」が控えている。

(C) 2020「MIDNIGHT SWAN」FILM PARTNERS

『ミッドナイトスワン』予告編

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