トランプはどんな「敗北宣言」をするのか?

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  • 更新日:2020/11/21
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(REUTERS/AFLO)

今回のテーマは、「トランプ敗北宣言『5つのシナリオ』」です。2020年米大統領選挙で、過半数の選挙人「270」を獲得できなかったドナルド・トランプ大統領は、投票機械の選挙管理ソフトウエアに不具合が生じたために、同大統領の票がジョー・バイデン次期大統領に流れたと主張しています。

トランプ大統領は敗北宣言をせずに、いつまで具体的な根拠のない抗議を続けるのでしょうか。最終的に敗北宣言を行うのでしょうか。本稿では、トランプ氏の敗北宣言の可能性に焦点を当てます。

敗北宣言の意味

米大統領選挙における敗北宣言の始まりは1896年の選挙でした。この年に実施された選挙で敗れた民主党のウィリアム・ジェニングス・ブライアン候補が、共和党のウィリアム・マッキンリー候補に投開票日の2日後に送った電報からです。

敗北宣言は法律及び合衆国憲法で明文化されたもではなく、慣習ないし伝統ですが、選挙プロセスにおいて極めて重要な地位を占めています。敗北宣言により大統領選が「ノーサイド」になり、米国を1つにするという意味が含まれているからです。その役割を果たすのが敗れた候補です。

オーストラリアにあるアデレード大学のポール・コロラン教授は敗北宣言の目的に関して、「敗北を認める」「国民に団結を求める」「民主主義を祝う」「戦いの継続を誓う」の4つを挙げています。「戦いの継続を誓う」とは、選挙に敗れても、政策の実現に向けて戦い続けるという意味です。

コロラン教授は敗北宣言は重要な政治的機能を備えていると強調しています。

敗北宣言の日数と位置づけ

1980年以降の米大統領選挙をみますと、敗れた11人の候補の内、6人が投開票日に敗北宣言を行いました。翌日に宣言をした候補はヒラリー・クリントン氏を含めて3人です。

敗北宣言が投開票日の翌日以降になった例を挙げてみましょう。2000年米大統領選挙で南部フロリダ州の再集計を求めたアル・ゴア氏は、投開票日から36日後に敗北宣言を行いました。投開票日から17日が経過しましたが、トランプ大統領は依然として敗北を認めていません(11月20日時点)。トランプ氏はゴア氏の記録を破るかもしれません。

2008年米大統領選挙でバラク・オバマ前大統領に敗れた故ジョン・マケイン上院議員(共和党・西部アリゾナ州)は、同前大統領に電話を入れて「おめでとう」と伝えたと、支持者の前で語りました。この言葉に反応した支持者がブーイングを飛ばすと、マケイン上院議員は即座にそれを制止したのです。この映像は、敗北宣言の「手本」として残っています。

16年米大統領選挙ではトランプ大統領に敗れたヒラリー・クリントン元国務長官は敗北宣言で、「我々は平和的な政権移行に敬意を示すのみならず、(移行を)大切にしてきた」と語気を強めました。しかも、クリントン氏は襟が紫色のスーツを着用して登場しました。

周知の通り、民主党のカラーは青色であるのに対して、共和党は赤色です。青色と赤色を混ぜると、紫色になります。同氏は服装という非言語コミュニケーションを通じて、米国民に対して「団結」のメッセージを発信しました。

敗北宣言は民主主義のプロセスの1つに位置づけられています。

「トランプ・バージョン」の敗北宣言

仮にトランプ大統領が敗北宣言を行うならば、これまでの大統領の宣言とは異なったバージョンになるでしょう。いわゆる「トランプ・バーション」の敗北宣言です。

第1に、トランプ氏は敗北を臭わせるような演説をして、明確に認めることはしないはずです。スピーチライターは、トランプ氏の気持ちを推し量って、明確な敗北だと解釈できる演説を書かないでしょう。

第2に、演説の代わりに自身のツイッターで敗北宣言をする選択肢もあります。ただし、この場合も玉虫色の内容の投稿をする公算が高いです。

第3に、バイデン陣営に「敗北宣言と恩赦」のディールを仕掛けても、全く不思議ではありません。民間人になるトランプ氏には様々な疑惑が存在するからです(『トランプ最後の悪あがきとは?』参照)。

第4に、敗北宣言を行わないで、ホワイトハウスを去ります。しかも、来年1月20日の大統領就任式に参加しないで、支持者にバイデン氏が不正で勝利をしたという印象を与えます。

ただ、トランプ氏がこの選択肢を選べば、民主党員、無党派層のみならず、一部の共和党員からも非難を浴びることは必至です。従って、逆効果になる可能性が高いと言えます。

「支持応援と恩赦」のディール

第5に、敗北宣言に代って2024年米大統領選挙への「出馬宣言」を早々と行います。

このメリットは、次の大統領選挙の候補と目されている共和党候補をけん制できます。候補には、南部アーカンソー州のトム・コットン上院議員、ニッキー・ヘイリー元国連大使、マイク・ペンス副大統領及びマイク・ポンぺオ国務長官等の名前が挙がっています。彼らはトランプ氏の今後の言動に注視していくに間違いありません。

加えて、トランプ氏は出馬宣言をすることで、同氏に投票した7200万人の士気を維持できます。仮に、24年に出馬しない場合、トランプ氏は上の候補と「支持応援と恩赦」のディールをする公算が高いです。

一方、デメリットは、敗北宣言をせずに出馬宣言をすれば、無党派層及び一部の共和党員がトランプ氏から一層離れていくでしょう。

選挙人「306」を獲得したバイデン氏の勝利が確定したのにもかかわらず、トランプ大統領は「私が勝利をした」と複数回にわたって自身のツイッターでつぶやきました。トランプ氏が、今のところ公の場で敗北宣言をする姿は想像できません。

共和党内の支持率低下

ロイター通信とグローバル世論調査会社イプソスの調査(20年11月6~10日実施)によれば、トランプ大統領の支持率は39%です。投開票日前と比較すると約5ポイント低下しました。同調査では共和党内のトランプ氏の支持率は84%で、こちらも選挙前の調査(同年10月23~27日実施)と比べると4ポイント下がりました。逆に同党内の不支持率は15%で、4ポイント上がっています。

トランプ大統領が敗北宣言を行わないために、バイデン新政権への円滑な権力委譲ができません。トランプ政権とバイデン新政権の間で、特に新型コロナウイルスに関するワクチン開発情報及び、国家安全保障問題に関する機密情報の共有ができない状況が続いています。

その背景にはワクチン開発をバイデン氏ではなく、自分のクレジット(手柄)にしたいというトランプ大統領の思惑があるからです。加えて、アフガニスタンとイラクの駐留米軍を縮小して選挙公約を果たそうという狙いも存在します。率直に言ってしまえば、来年1月の退任までに、トランプ氏は最後の「レガシー(政治的遺産)作り」をしているのです。

ただ、米国民にはトランプ氏が意図的に、バイデン氏への平和的な政権移行を阻止していようにみえるでしょう。その結果が、上の数字に現れているのかもしれません。

寛容なリーダー

オバマ前政権のファーストレディであったミシェル・オバマ氏は、自伝の中で夫のオバマ前大統領をアフリカで生まれたので、大統領の資格がないと主張して、偽情報を拡散したトランプ大統領を「決して許さない」と明記しました。トランプ氏の偽情報のために、2人の娘たちに危険が及んだと言うのです。トランプ支持者の中には、武装集団や狂信的なQアノンの信者がいることは事実です。

にもかかわらず、オバマ夫妻は16年米大統領選挙後、トランプ夫妻をホワイトハウスに招き、スムーズな政権移行を行いました。共和党のジョージ・W・ブッシュ元大統領が民主党のオバマ新政権への移行に協力的だったからです。

オバマ夫妻は非常に寛容なリーダーだと言えます。

海野素央

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