選挙に連敗した台湾の国民党に未来はあるのか

選挙に連敗した台湾の国民党に未来はあるのか

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/01/15
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中正紀念堂の「蒋介石」の像。中国国民党の永久総裁として、現在の国民党をどう考えているだろうか(写真・skipinof/PIXTA)

2022年1月9日、立法院(国会)議員のリコールに端を発した選挙戦が幕を閉じた。結論から言えば、最大野党の中国国民党(国民党)は2つの選挙に敗北した。1つは2021年10月23日にリコールが成立した台中・陳柏惟氏(台湾基進党)の補欠選挙で、与党・民主進歩党(民進党)籍の林静儀氏が、地元出身で国民党籍の顔寛恒氏を8万8752対8万0912、7840票差(投票率58.26%)で破った。

もう1つは、台湾の人気ヘビメタグループ「ソニック」のボーカルで、立法委員(国会議員)でもあるフレディ・リムこと林昶佐氏(無所属)へのリコール投票である。リコール賛成票が5万4813に対し、反対は4万3340で、賛成が反対を上回ったが、有権者の25%にあたる5万8756票のハードルに届かず成立しなかった。

国民党は選挙に敗北しリコールで自滅

今回の選挙戦の性格を言えば、与党陣営が連勝したというより、民主政治における議員へのリコール制度を逆手に取って、現職を引きずり降ろそうとした国民党の敗退・自滅と言ったほうが適切かもしれない。リコールを要求したのは、正式には市民団体や無所属議員だが、両選挙で国民党が支持と応援を行っていること。また、党内急進派による「報復」的な要素が色濃いものだった。(東洋経済オンライン「台湾の人気ヘビメタ国会議員がリコールの危機」2021年12月28日を参照)

2021年9月25日に国民党の党主席に返り咲いた朱立倫氏にとって、過度の親中路線は台湾の民意と相いれず、人々の支持を得にくいことは理解しているだろう。目標とする2022年11月の統一地方選と、2024年の総統選挙で勝利して政権を奪還するには、少なくとも親中路線をぼかす必要がある。しかし党内では、元高雄市長の韓国瑜氏や朱氏と主席選を争った張亜中氏に代表される急進的な親中派の影響力が大きくなっており、党内をまとめようとすれば彼らの存在を無視できない。朱氏としては、台中の補欠選挙と台北のリコール投票の両方で勝利して指導力をアピールしつつ、その勢いで統一地方選と総統選挙の2つの選挙に臨みたいところだった。

ところが、結果は朱氏にとって最悪の状況になったと言える。この連敗で党勢の回復どころか致命的な状況に陥った可能性がある。敗戦から一夜明けた昼間に、記者らの前に現れ、敗北の責任は自分にあると語った朱氏だが、選挙当日夜に行われた記者会見には出席しなかったことから、朱氏らのショックの大きさがうかがえる。

まず、台中の補欠選挙から見ていきたい。

2020年、台中市第2選挙区で立法委員となった陳柏惟氏は、市民団体によるリコール要求が本格化した2021年6月から投票まで、和解済みの事件や生まれ育った環境に至るまで、人格を含む厳しい追及を受けた。彼が所属する台湾基進党は、もともと台湾独立に代表される台湾本位の政治を主張する政党だ。陳氏陣営は1つ1つ丁寧に回答していたが、有権者に積極的な投票を呼びかけるべきなのか、あるいは消極的に対処するべきなのか迷っているうちに選挙戦に入り、破れたのだった。

しかし、陳氏は結果を真摯に受け止めると同時に、有権者やメディアには、同じような基準で、補欠選挙の候補者らをチェックしてほしいと希望していた。多数の地域で選挙戦が繰り広げられる地方選などの大型選挙では、メディアはカバーする範囲が広すぎて、各選挙区で詳細な取材活動はなかなかできない。しかし、台中の補欠選挙と林氏のリコール投票の2つとなれば話は違ってくる。今回敗れた国民党の顔氏は、台中に強固な地盤を築いたマフィア的な存在である顔清標氏の長男だ。メディアは選挙戦の序盤から、顔氏一族の数々の疑惑や問題を、連日取り上げるようになった。

国民党候補に相次いだスキャンダル

例えば、台中市が児童遊戯施設を建設するために保有していた土地を顔氏一族に貸与したところ、当初申請した大きさをはるかに上回る建築物を建てて、ゲストハウスとして使用していたことが暴露された。メディアをはじめとする各界から違法性について糾弾されたにもかかわらず、違法建築の撤去は遅々として進まず、人々が納得できる誠意ある対応はなかった。あろうことか、「法に則り処理する」などの無機質な回答を繰り返す顔氏に、人々はさらに憤ったのは言うまでもない。

他にも台中港での倉庫事業の一族への利益誘導疑惑、顔氏一族と関係が深い人物が、顔氏が貸し出した建物で違法賭博を行っていたり、台中メトロの運行予定路線が一族が所有する土地周辺を通るように変更されていたなど、次々に噴出するスキャンダルに整理が追いつかない状況となっていた。これまで噂程度に思われていた顔氏一族の政財界での影響力と金銭にまつわる不明瞭なつながりが、白日の下にさらされたのだった。

さらに人々の追及は、候補者の顔氏だけとどままらなかった。監督すべき台中市とそのトップである市長の盧秀燕氏にまで波及したのだ。盧氏は2018年の統一地方選で、当時民進党籍で現職の林佳龍氏を、21万票の大差をつけて破った国民党内で中堅ホープの一人。次回選挙でも再選する可能性が高かった。

普段はテキパキ仕事をこなし、家庭も大事にする女性政治家というイメージが強かった。ところが、顔氏の一連のスキャンダルでは自ら進んで対応する姿勢が見られず、よりによって子どものための土地が不正に利用されていたことがわかると、「子どもにやさしい政治家」というイメージは完全に地に落ちてしまった。

さらに、スキャンダルの火の粉を避けようとするあまり口数が減ったことで、問題に向き合おうとせず逃げているという悪印象も与えてしまった。一部では、「台中の真の主は顔氏一族で、盧市長ではなく盧秘書(顔家の秘書)だ」とまで揶揄する声も聞かれる。今では、盧氏の再選に黄色信号が灯った。

このような国民党のダークなイメージの典型例として、顔氏一族のような党内の本省人(戦前から台湾にいた人々)地方勢力と金の問題が有名である。一部では、故・李登輝元総統が、外省人(戦後台湾に渡った中国人)勢力を党内から追い出すために、このような人々を引き入れたと言われている。

以下は筆者の考えだが、今回の選挙戦を見ると、李元総統はいずれ民主化された台湾の有権者が、これら負の部分も一掃することを見越したうえで、顔氏一族のような人物を引き入れたのではと感じるようになった。時間はかかるが、民主社会では社会正義は確かに存在する。台中の補欠選挙では、台湾の良心が見えた。

リコール乱発に国民党急進派の存在

次に林氏のリコール投票について見てみる。

林氏のリコールを要求した団体には、以前から質問をしていたがコメントは得られなかったが、台北市選挙管理委員会が公告した資料からリコールの概要は次の通りである。

(1)万華地区の人々が、感染拡大した理由を知りたいにもかかわらず、与党と結託し『3プラス11』(航空乗組員らに対する隔離措置として、3日間の完全隔離と11日間の自主健康管理を課したものを指す)がどのように決定されたのか、その会議記録の公開に反対した。
(2)飼料に成長促進剤を混入して飼育した食肉や遺伝子操作で飼育した食肉を学校現場に入れない「学校衛生法」の改正に反対し、学生の食の安全を脅かしている。
(3)戦後、国民党による台湾人虐殺事件である二二八事件を記録する二二八財団の理事就任したものの、在任中に15回開催された会議に1回しか出席せず、遺族の思いを踏みにじった。
(4)中正万華地区選出の議員として、地元住民の要求を代弁する立場にありながら、与党におもねり、台湾中央感染症指揮センター(台湾CDC)指揮官の陳時中・衛生福利部長が万華地区の視察に来た際には、わざわざ車両まで出迎えに向かった。行政機関を監督する立法委員の立場と尊厳を著しく傷つけた。
(5)台湾独立を高々に唱え、中華民国の立法委員にもかかわらず国家の主権と憲法を無視している。

公告ではこれらの理由に対し、林氏は一つ一つ丁寧に回答し、反論している。東洋経済オンラインへの回答でも、リコールを要求するまでもなく説明が得られるものだ。一見、理不尽とも言えなくもないリコール要求に、多くの人々が呆れてしまったのは想像にたやすい。そもそもリコールが乱発される背景に、国民党内で影響力が増している急進派の存在がある。リコールされた韓氏のあだ討ちにも似た行動が続いているのである。

韓氏の人気を表す興味深いエピソードがある。朱氏が大衆の前に現れても人々は冷静なままで礼儀正しいのだが、韓氏が現れると途端に熱狂の渦が形成されるという。2022年1月2日、自著を紹介するために久しぶりに支持者らの前に姿を見せた韓氏に、会場は熱気に包まれた。

選挙後、朱氏のソーシャルメディア(SNS)では、国民党支持者らによる主席辞任と韓氏の就任を要求するコメントがあふれた。党主席として大局的に判断したい朱氏からすれば、急進派の存在と扱いは非常に厄介であることは間違いないだろう。

林氏のリコール投票では、国民党は真剣に対応しなかったとの指摘がある。実際に、リコールに同意した票数は反対よりも上回っており、2期連続当選した林氏といえども、選挙区は依然として国民党の力が強いことが改めて証明された。しかし、仮にリコールが成立したとして、その後の補欠選挙で誰を推し、どう選挙に挑むのか、そして来る統一地方選との兼ね合いはどうするのか。これら党の戦略を考えた結果が、リコール投票に力を注がない、だったというのだ。

「中国統一」が台湾人の猜疑心を招く

しかし、2021年12月に実施された住民投票では民進党が完勝し、さらに今回の2つの選挙でも勝利した勢いは明らかに無視できない。また、党全体で選挙に臨む民進党の姿勢は、迷走を続ける国民党のそれと完全に対比して人々の心に残った。

最後に最近の台湾の選挙におけるエピソードを2つ紹介したい。

1つは、民進党に関するもので、頼清徳副総統が選挙応援に立てば立つほど、その候補者は大勝するというジンクスだ。実際に、今回の補欠選挙では、林氏が立候補を正式表明してから10回以上応援に立ったという。住民投票でも100回以上全国で説明演説に立つなど、カリスマ性とともに献身的な働きが有権者の心をつかんでいるのだろう。次の総統選に出馬すると言われる中、頼氏の動向にも注目したい。

もう1つは、中国が国民党の応援をすると、民意が離れ、選挙で敗退することが、まことしやかにささやかれていることだ。中国からすれば、形は違うが中国統一を志向し、最大野党の国民党を応援するしか選択肢はないのかもしれない。しかし、表立って支持を表明することで、多くの台湾人の猜疑心を招き、中国との距離がさらに離れているのが実情だ。

台湾社会に寄り添う改革を進めるのか、敗北を続ける国民党に引き続き注目したい。

(高橋 正成:ジャーナリスト)

高橋 正成

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