「姑息すぎる」コロナ便乗リストラ&賃金カットは許されるのか

「姑息すぎる」コロナ便乗リストラ&賃金カットは許されるのか

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2020/11/20

コロナの感染拡大が止まらない中、「人件費削減目的」ともとれる働き方改革を実施する大企業が増えている。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「ジョブ型の賃金制度導入など表向きは多様な働き方を提案する改革でも、実のところは賃金ダウンやリストラと会社に都合のいい形になっているケースが見受けられる」という――。

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写真=iStock.com/erhui1979※写真はイメージです - 写真=iStock.com/erhui1979

「コロナのどさくさ紛れ」働き方改革に名を借りた賃金カット&リストラ

新型コロナウイルスの影響で9月中間決算が赤字ないしは減収減益に陥った企業も多い。そんな暗いニュースの中で、これまで遅々として進まなかった「働き方改革」がなぜか加速している。だが、この動きはビジネスパーソンが素直に喜べる内容とは言えない。

働き方改革の本来の趣旨は、労働時間の削減などワークライフバランスの確保や多様な働き方を可能にすることで個人の能力の最大化と生産性向上を実現することだ。

国は、働き方改革により「中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現する」(首相官邸Webサイト)という、いわば賃金の底上げを目指している。

ところが、今進んでいる働き方改革の中には、その趣旨とは逆行するものばかりだ。とりわけ「人件費削減目的」の改革が横行しているようだ。

下記は、そのおかしな働き方改革の典型例だ。

①ノー残業に名を借りた残業代カット
②週休3日制の導入
③副業容認企業の増加
④テレワーク推奨の裏で推進するオフィス費用のカット
⑤「ジョブ型」賃金制度導入に伴うリストラの実施

例えば残業代、会社の「固定費削減圧力」が増している

①から順番に解説していこう。

コロナ禍の業績悪化による残業代削減圧力が高まっている。コロナ前はノー残業を推進するために、残業しなくても従来の残業代に見合う一定の手当を支給する先進的な動きも見られたが、今では残業代削減が至上命題になっている。

業績悪化に陥ると固定費で最も大きい「残業代」「採用費」「広告宣伝費」「交際費」を削るのが常套手段となっているが、建設関連会社の人事部長は「すでに中途採用を中止し、定時終業を原則とし残業代の削減も進めている。大手も下半期から残業代の厳格化をはじめ採用費、広告宣伝費などの削減を行っている企業が増えている」と指摘する。

実際に所定外労働時間(残業時間)は今年4月に前年同月比マイナス30%に落ち込んで以来、徐々に回復しているものの9月もマイナス12%となっている(一般労働者、厚生労働省「毎月勤労統計調査」)。

もちろん残業が少なくなることはよいことだ。しかし、労働組合の連合のテレワーク調査(6月上旬)によると……。

「通常勤務よりも長時間労働になることがあった」と答えた人が51.5%。

「残業代の対象となる時間外・休日労働を行った」人は38.1%(そのうち「勤務先に申告しなかった」人が65.1%、申告したのに「勤務先に認められないことがあった」人が56.4%もいた)。

本来支払われるべき残業代を申告しない、あるいは支払わないのは会社の固定費削減圧力が増しているとも考えられる。

週休3日、4日制は人件費カット目的という見方がもっぱら

②の週休3日制はどうか。

みずほフィナンシャルグループが2020年12月から銀行や証券、信託銀行など主要6社に勤める計4万5000人を対象に週休3日・4日制を導入することを発表し、話題になっている。

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写真=iStock.com/winhorse※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

希望者による選択制で増えた休日を生かし、資格取得や大学院に通うなど自分磨きに利用することが期待されている。

過去にも佐川急便、ユニクロ、ヤフーが週休3日制を導入している。ただし、休みが増えるといっても週の労働時間は変わらない。もしくは休みが増えた分、給与が減るだけだ。

佐川急便やユニクロは週40時間の労働時間は変わらず、変形労働時間制を使って1日10時間働くことによって1日の休日を捻出する。ヤフーは1日の労働時間は変わらないが、休みが1日増える分、2割程度給与が減額される仕組みだった。

どの企業も週休3日制といっても、1日8時間、週5日勤務という働き方の大枠を変えてはいないということだ。

みずほもヤフーと同じ仕組みであり、1日の休みにつき給与を20%削減し、週休3日の社員は月給が8割、週休4日だと6割まで減ることになる。

いかに給与が高い銀行員といえども、家族を抱えている世代で給与が2割、4割減ってもビジネススクールに通う余裕がある人はそんなにいないのではないか。

それでも休みが増えることで「多様な働き方」という働き方改革の趣旨には沿っているが、業績悪化のこの時期に導入することに疑念を抱く声もある。

住宅関連メーカーの人事部長は「みずほが発表した週休3~4日などの制度の導入は、表向きはいろいろな働き方を提案する改革だと思うが、実のところは賃金ダウンであり、人件費カットという見方もでききるのではないか」と指摘する。

もともとメガバンク各行は2017年に将来を見据えたビジネスモデルの転換や省力化によって大規模なリストラ計画を発表し、みずほFGも1万9000人の人員削減を発表していた。

さらに2020年の9月中間決算の連結純利益は前年同期比25%の減益、21年3月期の通期も約22%の減益を見込んでおり、人件費カット目的の週休4日制という見方もあながち的外れとはいえないだろう。

「生活は保障できないので副業で稼いでください」

一方、政府の副業推進策もあり、③の副業容認企業がここにきて増加している。副業を容認する政府や企業の表向きの理由は、個人のキャリアやスキルの幅を広げることで成長意欲を高め、自社の仕事にも良い効果をもたらすことが大きな目的だった。

しかし、コロナ不況で残業代カットやボーナス削減が相次いでいるなかで、収入補てんのための副業解禁も目立っている。その典型例はANAだ。

冬のボーナスゼロや基本給の引き下げなど人件費削減を打ち出しているANAは、従来も認めていた個人事業主での副業から他社と雇用契約を結ぶ副業を認めることを検討している。その理由として「年収が平均3割減となり、社員に理解を求めるために副業を拡大した」と報道されている。

つまり、会社としては今までの生活は保障できないので副業で稼いでくださいというメッセージだ。ANAのように個人のキャリアやスキル云々とは関係のない、収入補てん・生活費補てんを目的とした副業容認が増えてくる可能性もある。

企業は在宅勤務のパソコン、ワークスペース環境の整備の負担をしない

じつは④のようにテレワーク推進の裏で人件費を含む固定費の削減も進んでいる。テレワークは通勤時間の分だけ自由な時間が増え、自由度の高い働き方として官民を挙げて推奨されているが、一方で従来のオフィススペースを削減し、フリーアドレス制(自席がない)を導入する企業が増えている。

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写真=iStock.com/kohei_hara※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

当然、会社にとってはオフィス賃料が少なくてすむ上に、通勤定期代の支給を廃止し、実費精算に切り替えるなどコスト削減効果も大きい。

一方で社員は負担増になる。テレワークの長期化によって在宅勤務に必要なパソコンや機材、机や椅子などワークスペース環境の整備の負担だけではなく、通信費や暖房を含む光熱費などのランニングコストも負担しないといけない。

そのための費用として「在宅勤務手当」を支給する企業もあるが、まだ一部の企業にすぎない。労働基準法では、労働者に情報通信機器、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合は就業規則に規定する必要がある(89条第5号)。就業規則は労使で話し合って決める必要があるが、じつはそうした規定がないままに社員に負担を強いている労基法違反企業が多いのが実態である。

「テレワーク・ジョブ型」という働き方に反対の人は辞めてほしい

希望退職者募集など⑤のリストラは人件費削減効果が最も大きい。リストラは退職費用など当期だけの“特損”(特別損失)で処理すれば、来期に人件費削減分の利益を生み出すための常套手段として一般化しているが、最近では大手企業のリストラが本格化している。

じつはリストラと同時に構造改革と称する賃金制度改革を実施する企業が多いが、とくに今回注目を集めているのが、年功賃金制度から職務給型(ジョブ型)賃金への移行だ。ジョブ型は職務範囲や評価基準が明確なためにテレワークと相性がよいとされるため、まさに働き方改革を前面に掲げて導入する企業も少なくない。

企業にとってジョブ型は固定費である年功的賃金から脱却できるだけではなく、職務の見直しによる降格・降給も発生するなど人件費をコントロールできるメリットがある。一方、社員は年功的な昇進・昇格などの人事異動がなくなるので、給与を上げるには努力して職務レベルを上げるなど主体的なキャリアの構築が不可欠となる。そのジョブ型導入とリストラを絡めて実施したのが三菱ケミカルだ。

同社は10月に管理職にジョブ型人事制度を本格的に導入したが、一方、11月4日に50歳以上の管理職と再雇用者の2900人を対象に希望退職募集を実施すると発表した。親会社の三菱ケミカルホールディングスのCFO(最高財務責任者)はジョブ型導入の狙いを「活力の高い会社にしたい」と述べ、希望退職募集の理由について「主体的に自分のキャリアを決めてほしい。ご賛同いただけない方には転身を支援する。入社した時はそうじゃなかった、という人のミスマッチを金銭的に解決する」と述べている(『朝日新聞』11月5日付朝刊)。

つまり、テレワーク・ジョブ型という新しい働き方に反対する人は、退職割増金を支払うので会社をやめてほしいと言っている。これも働き方改革に名を借りた人件費削減策と呼べるだろう。

こうした一連の働き方改革は、賃金削減ありきで個人の働きがいや幸せにつながるものとは思えない。ましてや冒頭に紹介した「中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現する」という国の目標にも逆行し、中間層の減少と格差の固定化を促進していく危険性もはらんでいる。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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溝上 憲文

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