1DK高層マンションで孤独死、死後1ヶ月が経過した男性の部屋に「存在しなかった」もの

1DK高層マンションで孤独死、死後1ヶ月が経過した男性の部屋に「存在しなかった」もの

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/04/08
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今年2月、内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」が設けられた。政府は、新型コロナウイルス感染拡大のなかで深刻化する孤独・孤立問題に本格的に取り組む方針だ。

また、厚労省の発表によると、昨年1年間に自殺した人は全国で合わせて2万1000人を超え、2009年以来の増加に転じた。その背景には、新型コロナによる社会不安や対人関係の変化があるとされる。

本記事では、新型コロナ禍における孤独死の現場と、孤独死者と向き合う特殊清掃のリアルに迫る――。

コロナ在宅死の恐怖

「次の物件、死因は、餓死か、凍死だと思う」

寒さも本格化した今年の二月下旬、特殊清掃業者から一本のLINEが入る。

その言葉に私の心が一瞬、ヒヤッとして、縮み上がる。10年以上のキャリアを持つe-遺品整理代表の上東丙唆祥(じょうとう・ひさよし)さんからだ。

私は特殊清掃の現場に6年以上に渡って取材密着を行っている。幾度となく餓死や凍死、熱中症死、衰弱死などの凄惨な現場を訪れ、自身も清掃作業を手伝うこともある。しかし、何回聞いても、その死因である餓死や凍死という言葉に慣れることはない。

上東さんによると、手元にある死亡診断書は、新型コロナでないことを現しているという。

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photo by iStock ※写真はイメージです

コロナ禍に突入した昨年から、多くの特殊清掃人たちが、コロナ在宅死を恐れるようになった。悪質な大家や、管理会社は例え住人がコロナで亡くなっていたとしても、清掃業者はめったに教えてくれることはない。近隣住民たちから、「臭い」「さっさと片づけろ」などと理不尽に罵倒されるのも日常茶飯事だ。

そうなると、自分の身は自分で守るしかない。だから、上東さんのように厳重を期す業者は死亡診断書を要求する。特殊清掃が入る孤立死の場合、警察による司法解剖が行われても、死因はほとんどが不明だ。要するに時間が経ちすぎていて、警察ですら死因がわからないのだ。これが孤独死の現状で、当然ながら現場は痛ましい状態となっている。

部屋にはエアコンがなかった

当日、上東さんと一緒に現場に足を踏み入れた。関東某所の古びた高層マンションの1DKの一室。

すでに鉄の扉に閉ざされたドアの隙間から、うっすらと甘ったるいような死臭が漂ってくる。管理会社に渡されたカギを差し込み、ドアを開ける。ギギッと、鈍い音のその先は真っ暗で、床も見えないほどの荒れ果てたごみ屋敷が広がっていた。

亡くなったのは、70代の男性で死後一か月以上が経過していたという。

「ねぇ、見て。この物件はエアコンが、どの部屋にもないでしょ」

上東さんが、各部屋の上部を指さす。確かに、この部屋にはエアコンがない。夏の灼熱地獄も、冬場のかじかむような寒さも、住民は耐え忍んでいたのだ。

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70歳男性が孤独死した室内の様子

床は長年掃除していないのか、どこかしも埃まみれで、数分その場に居ただけで、気分が悪くなるほどだ。いたるところがカビがはえ、コンビニの袋が転がっている。暖房器具を探したが、リビングにかろうじてあったのは、小さな電気ヒーター式のストーブのみ。部屋全体を暖めるにはほとんど意味をもたないだろう。

奥の部屋に足を進めると、木製のシングルベットが目に入った。しかし、掛け布団は無く、赤茶けた薄いタオルケットがあるだけだ。毛布すらも見当たらない。

男性にとって、寒さをしのぐ手段は、洋服とジャンバーだけだったはずだと上東さんは私に告げる。冬の極寒の中、男性はエアコンもなく、ただ部屋で凍えた日々を過ごしていた。そう思うと、苦しくなってくる。

上東さんが男性が亡くなった場所を指し示す。そこはこげ茶色の体液は干からびた状態になっていて、一段と匂いがきつくなっている。

絶叫したくなるときがある

男性は、ベッドと、キッチンの間に崩れるようにして亡くなっていたらしい。

そんな逡巡した私の様子を見ながら、マスクの下から上東さんがふと、つぶやく。

「孤立死の現場では、玄関を開けた瞬間に殺伐とした、まるで感情のない部屋が広がっていることが多いの。生命エネルギーが低いというか、生きていることに喜びや、苦しみすら感じていないんじゃないかと感じるお部屋なんだ。特殊清掃業者である僕にとって、それは日常の風景なんだ。こういう部屋を見ると、いっそのこと、ベランダに出て、『ここに人が死んでいました!』と絶叫したくなるときがあるの。今の日本って、本当に平和だと言えるのかなって、いつも考えちゃうんだ」

上東さんの言葉が私の胸に深く突き刺さる。確かに孤立死の現場では、何かしらの挫折をきっかけに、日々命をつなぐのに精いっぱいだったという痕跡をかなりの割合で遭遇する。

キッチンの蛇口は、劣化して根元から折れて水道は使えない。洗濯機は40年~50年製のもので茶白く変色していて、こちらも長期間使われた形跡はなく、冷蔵庫も半世紀も前のもので、電源は入っていない。

「部屋の状況と体液の量から推測するに、彼は、栄養の行きわたらない身体で徐々に衰弱して、最後はこの冬の寒さで凍死したんだと思う。晩年は、熱さ、寒さなどの感覚すら無くなり、彼の目には季節さえ灰色に染まっていたんじゃないかな」

上東さんが目を伏せがちにして、私に伝える。

男性は、かつては個人事業主として働いていたが、妻が病気となり、若くして死別。その後、この部屋で一人暮らしをしていたらしい。女性に比べて男性は妻との死別や離婚後に不摂生となり生活が荒れて結果、孤独死というケースは多い。妻を介してかろうじて繋がっていた地域社会や、仕事という社会との接点すらなくなると、心身に起こった自分の窮状を訴える術もなく、孤立し、崩れ落ちしてしまう。そして、ごみ屋敷や医療の拒否などのセルフネグレクト(自己放任)に陥っていく。

トイレには補助式の新しい手すりがあったことから、男性は晩年、腰か足を悪くしていたことが窺える。しかし、医療や介護などの福祉サービスと繋がっている形跡はなかった。

感情を無くせば、心は平穏でいられるから

キッチンを見ると、栄養ドリンクとはちみつ梅干のパック、即席めんが無造作に転がっていた。それが最近、彼が口にしたものだった。しかし、その他には、何ひとつ栄養となるものがない。上東さんは、そんな体の状態だったからこそ、体液の量も少なくなったのだろうと予測する。

「これは想像だけど、奥さんが亡くなった後、自分の心の傷の痛みを感じない方法を彼は見つけたのかもしれないよね。それは、感情を無くすことなのかもしれない。自分の感情を無くせば、心は平穏でいられるから。毎日をただ生き延びるのに精いっぱいで、なんとか、一日一日ただやり過ごそうと、諦めに似た境地だったのかもしれない」

上東さんが、遺品整理を始めた。奥の箪笥に手をつけると、赤や黄色など、色とりどりの女性の物の衣類が出てくる。これは、かつての奥さんの持ち物だろう。それは、薄ぼんやりとした暗く閉ざされた視界に突如現れた鮮やかな色彩で、ごみ屋敷のこの部屋には不釣り合いだったが、唯一の温かみを感じるものでもあった。衣類をゆっくりと引き出しながら、上東さんは、故人に思いを寄せる。

「彼は死を迎える最後の最後の瞬間まで、ストーブをつけることもなく、暖かな掛け布団に包まることもなかった。目を閉じ、寒い部屋の中、身体だけが凍えて亡くなったと思う」

上東さんは、そういうと悲しそうに奥さんの遺品に目を落とす。私は寒さに凍える男性の最後の姿を想像する。それは、想像を絶するものだった。

「それでも彼が亡くなる前には、あっちの世界の奥さんが目の前に現れて、彼に温かい手を差し伸べてくれたと僕は思いたい。エゴかもしれないけど、最後ぐらいはこれまで頑張ってくれてありがとうと誰かが彼にほほ笑んでくれたって思いたいんだよ。だってこの社会で、彼の存在に寄り添う人が1人もいなかったならば、これは大問題だと思うから」

上東さんの優しさが私の心に突き刺さる。

冬に凍死という結末

ここまで生活インフラが整った日本社会において、餓死や凍死、そして衰弱死が溢れる環境に確かに私たちは身を置いている。そして、その背景には、社会的孤立の問題が横たわっている。それは、この社会での生きづらさを抱えている筆者の私自身も自分ごとで、けっして他人事ではない。

不用品回収や特殊清掃などを手掛ける株式会社グッドサービスが2021年に特殊清掃、遺品整理などの業者を対象に行った調査によると、特殊清掃の稼働時期は、夏の35.3%を凌いで、38.5%と冬が最も高いという結果になっている。この男性のように、この冬に凍死という結末を迎えた人も多くいるはずだ。

そして、警察がひっそりと遺体を運び出し、部屋は特殊清掃業者によって処理され、通常目に入ることはない。ピカピカにリフォームされた部屋には、また何も知らされていない住民が入る。その繰り返しだ。そうして日本社会、それでも経済活動は滞りなく回っている、ように思える。しかし、本当にそうなのだろうか。その最後を引き受ける人たちが、叫び出したくなる日本社会は、いびつで、実は水面下で沈没が始まっているのではないか。

真冬の孤立死現場は、本当に我々の社会はこれでいいのかという現実を私たちに問いかけている。

後編を読む:コロナ禍で遺体が見つからない…死後半年経過した風呂なし賃貸アパートの壮絶孤独死現場

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