高学歴親子は「困難を乗り越える力」が低い?「お金をどんどん渡す親」の悪影響

高学歴親子は「困難を乗り越える力」が低い?「お金をどんどん渡す親」の悪影響

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2023/01/25
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「レジリエンス」とは「困難を乗り越える力」のことを指す。生きていく上で正解がないことばかりで、問題や困難があるのは当然のこと。そこで心折れず、乗り越えていくことは最も重要な力の一つだと、成田奈緒子医師と山中伸弥教授が共著『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』でも語っている。

しかし、時には親が子どものレジリエンスを邪魔するような子育てにも遭遇するという。特に高学歴偏重の親にみられる実例をベースにまとめたのが、成田奈緒子医師の『高学歴親という病』だ。

本書より特別抜粋掲載をする2回目前編「「神童」家族が崩壊…医学部・弁護士・五輪、高学歴親「リベンジ型子育て」の恐怖」では、医師や弁護士、五輪など、親が目指していて挫折したような高い目標値を子どもに目指させる「リベンジ育児」の弊害をお伝えした。「自分だけの力で結果を出さなければ価値がない」とすら感じさせてしまうリベンジ育児は、まさにレジリエンスを低下させかねないという。

後編では「お金」をキーワードに、その理由をお伝えする。

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前編「「神童」家族が崩壊…医学部・弁護士・五輪、高学歴親「リベンジ型子育て」の恐怖」はこちら

金銭感覚がズレている高学歴親の実例

米国では、子どもの誕生日に祖父母などの親族が株を買ってあげる慣習があります。よって、子どもにとって投資は身近なものです。お金を自分の力で増やしていくことなど、早くから経済教育を受けます。そうやって金銭感覚が養われていくため、大学に行きたい高校生は自分で奨学金を獲得すべく良い成績を取ろうと必死です。

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自分が学びたいことのために奨学金を獲得する、お金を節約する。それでも学びたい。そういう学生の多くは学びの時間を無駄にはしない Photo by iStock

一方、日本の子どもは「お金はほしいときにほしいだけ親からもらう」「大学は親が行けというから行くけど、特にこれを勉強したいというものはない」などと平気で発言します。塾代や習い事にかかる費用など、月に数万円ものお金を親に払ってもらっている自覚はまったくありません。わがまま勝手に「今日は行きたくないから休む」と言ってしまう子どもは、その習い事1回分の料金を稼ぐための労働がいかほどのものか理解しているようには見えません。

こうなってしまうのは、お金の有り難み、つまり「お金の価値」を、親が子どもに叩き込んでいない、それをやる煩わしさを避けているからです。にもかかわらず、なぜか「これだけ子どもにお金をかけているのだから、見返りとしていい大学・いい会社に入って高収入になってほしい」と期待しています。

この様子は、大きな歪みに映ります。子どもにお金の価値を理解させなくてはいけないのに、高学歴家庭では適切な経済教育をほどこさない傾向があります。親が高収入で金銭的に余裕があるからです。

「子どもに苦労させたくない」

そんな人たちが口にするのは以下のような言葉です。

「自分が受けた恩恵を子どもには受けさせたい」
「自分は塾に通わせてもらって中高大と私立を卒業したから、子どもにもそれを味わわせてやりたい」

このように自分の良かった経験を子どもにさせたい人もいれば、自分自身が富や学歴を手にするのに苦労した高学歴親のなかには、貧しかったことがトラウマになっている人もいます。彼らはこう言います。

「子どもに苦労させたくない」
「お金の苦労はさせたくない」

前者、後者ともに、子どもの塾代は惜しみません。経済教育を受けなくても成功する子どもはいるのでしょうが、私のところにやってくる親子は明らかにつまずいています。子どもにお金をつぎ込んだことが裏目に出ています。

お金は湧いてくるもの――そう子どもが思ってしまうかもしれないという戒めが、特に足りないようです。

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ただでさえプリペイドカードや携帯マネーで「お金」のありがたみは感じにくい環境になっている Photo by iStock

具体的な話をすると、こづかい制を敷いていない家庭が多いのです。子どもが何かほしい、これが必要なんだと言えば、お母さんはその内容をあまり精査せずお金を渡してしまいます。もっと言えば、たとえば3000円ぐらいのものが欲しいと言われると、5000円札1枚を渡して終わります。おつりの2000円はバックしなくてもよいことになります。

百歩譲って必要なものを買ってあげるのは良しとしても、対価交換できる以上のお金を与えるのはいかがなものでしょう。

ゆるゆるの経済観念は伝播する

このゆるゆるの経済観念は、そのまま子どもに伝播するようです。私が出会った子どもで、親の財布からお金を盗んだり、万引きするといった金銭トラブルを起こしたケースのほとんどが、こづかい制ではありませんでした。いわゆる「大人の引きこもり」と言われる成人男性で「親のすねがなくなるまでかじる」と言い放つ人もいます。私が「親のすねがなくなって、お金がなくなったらどうするの?」と言うと、黙り込んでしまいます。
端的に言えば、経済教育の失敗が大きいと思います。

上述したように高収入世帯が多いため、いわゆる「子ども費」が無限大に膨らんでしまうのです。子ども費とは、子ども一人を成人させるまでにかかるお金を指します。「インターネットによる子育て費用に関する調査報告書」(Like U)によると小学生にかかる子育て費用は食費、教育費などを含め月平均約10万円だそうです。年間にすると120万なので、世帯年収400万なら子ども費は約30%と幅を取ります。

ところが年収1000万なら家計に余裕があるため、どんどんお金を使ってしまう傾向があります。そういった親御さんたちは「子どもの幸せのためにも、お金で苦労させたくない」とおっしゃいます。

しかし、それが良いことだと私には思えません。どんなにお金があってもリミッターを設定し「子どもにはそれ以上は使わない」と決めておくほうがいいと考えます。そのリミッター設定のひとつの方法が「こづかい制」です。

月々決められたお金しか使えない。大きなものを買いたかったら貯蓄する。そんな当たり前のことを子ども時代から経験させることが大事です。そういった経験を積んでいない子どものなかから、カード破産をしたり、サラ金地獄に陥る大人が生まれるのだろうと想像します。

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自分の持っているお金を考えず使ってしまう。それは「お金には限りがある」という当然のことが学べていないのかもしれない Photo by iStock

高学歴親子の「レジリエンス」が低い理由

現代において重要視されるレジリエンス。つまり「ピンチを乗り越える力」は、自己肯定感、社会性、ソーシャルサポートという3つのパーツから構成されています。

1)自己肯定感=自分は何があっても大丈夫だと思える力

2)社会性=周囲の人と協力しながらいろいろな問題を解決する力

3)ソーシャルサポート=周りの人に助けられていることを実感する力

高学歴親家庭における子どもの自己肯定感の低さは、ここまでさまざまお話しさせていただきました。2つめの社会性も乏しい印象です。少子化の今、きょうだいがいたとしても2人が一般的で、ひとりっ子が多いようです。このため、周りの人と協力して問題解決をする機会が減少しています。その方法論やコミュニケーション力が身についていないようです。

3つめのソーシャルサポート。これが最も問題だと考えます。高学歴の親御さんたちは、自分ひとりで何もかもできるようになることが自立だと思い込んでいます。自分でお金を稼いで、自分で住居費、光熱費、食費とすべて払ってもまだ「余裕がある生活」ととらえがちです。つまり自立のイメージが、お金に紐づくものです。

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自立とは自分一人の力だけで歩くことではない Photo by iStock

たとえば、高学歴の親たちに「自立とは何ですか?」と尋ねると、多くの方が「自分で何でもできることです」と答えます。それもあって保険をかける意味で高学歴にさせたいと思うのかもしれません。しかし、すべて自分で賄えるぐらいの収入を得られるかなど、誰にも保証はありません。そのうえ「自分ひとりですべてが賄えるように」は、自己責任に近いイメージです。この自立のイメージ、歪んでいないでしょうか。

経済的な自己責任が自立の大きな要素である。

そう親から伝えられるため、子どもたちは他者に助けを求められなくなるのかもしれません。助けてもらうのは恥。他者に下に見られたくない。弱い自分を見せたくない。無駄なプライドが邪魔をし、ソーシャルサポートを受けられません。手を差し伸べられたくないと思っている間は、自分が周囲の人たちのおかげで生きていることを実感できません。

何かがうまくいかず、こころがポキッと折れたとき誰にも頼れない。これではレジリエンスを発揮できません。

「人に頼り、感謝する」ことの大切さ

若者に、このレジリエンスのなさが響いているのではないかと感じることが多々あります。

医学生が解剖実習を嫌がって不登校になってしまう話を聞きます。解剖実習は必修です。医学部を卒業するためには受けなくてはいけません。ご遺体はもちろん、検体してくださった遺族にも感謝しながら、勉強させていただく。ご遺体と向き合い、対話する。命の尊厳に触れることで、私たちは医者の道の入り口に立つことができるのです。

恐怖やショックが伴うかもしれませんが、それは医学に携わる者として姿勢の基本です。医学部に入るということは、ご遺体も含め、人間の体、命と向き合うことになります。

したがって、実習に対するネガティブな気持ちが生まれた時点で、「助けてください」と周りの人に言えば解決方法はあるはずです。が、そこで上述したように無駄なプライドがあると、助けを求められません。結果的にピンチを乗り越えられないのです。

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医師とは、ただ稼げるとか、名誉とか、そういう仕事ではない。命を向き合うとても重要な仕事だからこそ、学びも必要だし、報酬も高額なのだ Photo by iStock

悪くすると、長期欠席、退学にまで発展してしまいます。そうなってしまう背景には、医師という職業ではなく、高学歴を目指すための医学部入学というケースが少なからずあるようです。

看護科にも、実習を理由に途中退学するケースはあります。私が知っているだけでも数人いました。実習がハードすぎる、というのが理由です。卒業して就職した後は、「いろいろな患者さんとしゃべらなきゃいけないのが苦痛」と言って辞めてしまいます。

しかし結局は、どんな仕事も人と向き合わなければできません。研究職はチームで協力し合う側面が必ずあります。フリーランスはクライアントなど他者とかかわって仕事を獲得します。社会性を身につけ、適切なソーシャルサポートを受けることは、人生を成功させる大きな要素でもあるのです。

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高学歴親という病
高学歴な親はなぜ子育てに失敗するのか? 高学歴家庭に「引きこもり」が多いのはなぜなのか?山中伸弥氏との共著『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』がベストセラーになった子育ての第一人者・成田奈緒子医師が具体的事例から「傾向と対策」を見つけ、高学歴親のための「育児メソッド」を提供する。

FRaU web 成田奈緒子医師『高学歴親という病』抜粋記事
#1副支店長の息子がかわいそう…80万円オレオレ詐欺に騙された母にみる高学歴親の闇
#2-1目標は医学部・弁護士・五輪…「神童」家族を崩壊させた「リベンジ型子育て」の恐怖
#2-2高学歴親子は「ピンチを乗り越える力」が低い?「お金をどんどん渡す親」の勘違い

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