パイロットの技量は大丈夫か? コロナで離着陸激減した航空業界

パイロットの技量は大丈夫か? コロナで離着陸激減した航空業界

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  • 更新日:2022/08/06
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外国人観光客の受け入れも再開し、利用は回復しつつあるが・・・(写真:つのだよしお/アフロ)

(杉江弘:航空評論家、元日本航空機長)

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IATAは2024年までの旅客数回復を予想も

新型コロナウイルスは多くの産業に影響を与えてきたが、とりわけ航空業界の経営は惨憺たる状況が続いている。

世界のエアラインを見ると、地域を問わず多くのLCCが倒産し、タイ国際航空のような国を代表する大手の航空会社もいくつかが経営破綻している。

日本人にもなじみのお隣、韓国では大手の大韓航空とアシアナ航空が政府の後押しによって合併を決めるといった驚きの事態も起きている。

いったいいつになったら航空業界はコロナ前の活況に戻れるのか?

IATA(国際航空運送協会)は航空業界全体の旅客数について、2024年までにコロナ前の水準を超えるとの見通しを示しているが、回復の度合いは地域によっても異なる展開が予想される。

北米での航空旅客は米国内市場の力強さを背景に、他地域に先駆けて2023年に全面回復を遂げると見込まれる一方、欧州では2024年に持ち直す見通し。アジアでは2025年にまでずれ込むと予想されている。

コロナの感染「第7波」もあり雲行き怪しく

日本では大手のANAホールディングス(HD)と日本航空(JAL)の2022年3月期連結決算を見ると、ANAが1436億円の最終赤字(前の期は4046億円の赤字)、JALは1775億円の最終赤字(同2866億円の赤字)だった。コロナ禍の影響が残り厳しい状況が続いたが、旅客需要が回復基調、国際貨物が好調だったことから、過去最大の赤字だった2021年3月期に比べると大幅に改善している。2023年3月期は両社ともに黒字を見込んでいる。

8月1日には、2022年4~6月期でANAが四半期として3年ぶりの黒字に、JALも赤字幅が大幅に縮小した。JALでは国内線旅客需要は通年でコロナ前対比で90%程度、国際線旅客需要は同45%までの回復を見込んでいる。

だがしかし、ここにて我が国ではコロナの感染「第7波」の拡大によって雲行きが怪しくなっている。

ANAが2022年1~3月期にオミクロン株の感染拡大により旅客需要が当初の想定を大きく下回り、売上高が減少したと発表したように、新たな感染拡大によって先行き不安が再燃し始めたのである。

コロナ禍で世界の航空会社は人員整理をはじめとする、ありとあらゆる合理化策を推進してきたが、先に述べたように、大手同士の合併・統合、そして大手による中小航空会社の吸収など、航空業界の再編が進んでいる。

そのような中、我が国でも韓国のように大手のANAとJALが合併あるいは統合するのでは、という話もまことしやかにささやかれる。

2020年12月、当時の菅義偉首相のブレーンを務める竹中平蔵氏が「週刊ダイヤモンド」誌のインタビューに答える形で「一度経営に失敗したJALは国内線に特化し、国際線はANAHD1社に統合するというのが再編の在り方だ」とコメントしたことから、再編論がにわかにヒートアップした。

安全運航に影響与えかねないコロナ禍

現在は表立ってこの話は出ていない。増資などによる資金調達でJALでは2022年3月末の現預金は4942億円、加えて未使用のコミットメントライン3000億円も維持して、十分な手元流動性を確保している。こうした財務状態から再編論が出ていないのだろう。

しかし、今後さらなる変異などでコロナ禍の長期化やウクライナ情勢による燃油費の高騰など、不確定要素がある。そのため合併や統合話が再燃しないとは言えないだろう。

2004年にJALとJAS(日本エアシステム)の経営統合が行われ、それを経験した私の考えを述べると、企業文化が大きく異なる航空会社の合併や統合は安全性に直結するので、慎重であるべきだ、ということだ。

一例を挙げれば、ANAとJALではコックピット内でのオペレーションや呼称も違う。加えて、ヒューマンエラー防止に必要なCRM(クルー・リソース・マネジメント)のプログラムも異なる。

そして何よりも会社創立以来の人間関係など、企業文化が違いすぎるのだ。それらを調整してひとつの企業文化にすることは何年もかかる大事業と言っていいだろう。

したがって、当面の経営状況だけに目が行きすぎて、性急な合併や統合を急ぐと航空事故の原因にもなりかねないと心配するものである。

コロナ禍が安全運航に影響を与えている現実の問題も指摘しておきたい。

コロナで乗務機会が激減、技量管理が課題

あまり表に出ないが、コロナ禍による大幅な減便によって世界のパイロットは、大手、新興の航空会社、それにLCCでも乗務機会が減った。それによる技量の低下が懸念され、安全運航が危うくなっていると言えよう。

月間のフライトが大幅に減って、離着陸の機会がコロナ前の10分の1程度にまで少なくなるパイロットもいるようだ。JALでも月に日帰りフライトが2回程度、国際線は1回のみ、といった乗務頻度の低下によって、機長、副操縦士ともに離着陸は、月に1~2回ということもあると聞いている。

IATAも「航空機が空港に近づく際に機体が不安定になる事例が2020年に急増していて、こうした問題はハードランディング(硬着陸)や滑走路を越えて走行する事態のほか、墜落事故にもつながる恐れがある」とコメントしているのである。

これに対して航空会社や国土交通省は、パイロットの技量維持について、シミュレーター訓練を適宜行うことで補う考えであるが、私に言わせると不十分である。

路線での実運航では毎回、空港や航路上の天候も変わり、空港への進入方式や使用滑走路も異なるので、実乗務機会が少ないのであれば、コックピットに添乗する「オブザーブ」と呼ばれる慣熟訓練を積極的に行うべきであろう。

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パイロットの技量維持にシミュレーター訓練だけでは不十分だ。(イメージ写真:アフロ)

つまり実際に操縦桿を握らなくてもコックピット内にあるジャンプシート(2席)に座り、実運航経験を維持することによって「運航の勘」が鈍くなることを防ぐのである。

このオブザーブフライトは航空会社にとって大した経費にもならない。交通費と弁当代、それに宿泊する場合にはホテル代程度で済む。安全運航の最後の砦であるパイロットの技量維持のためには、惜しんではならないコストである。月に1度や2度の離着陸では、運航の安全が危険水域にあると考えるべきだろう。

技量不安の中、羽田着陸の新ルートには疑問

長い間、車を運転していなかった一般の方が、たまに運転すると勘が戻るのに時間がかかる経験をすると思うが、それと同じことなのである。

航空会社と国土交通省は、コロナ禍で航空会社が経費削減に力を入れている中にあっても、安全運航の維持のためには必要な経費を惜しんではならない。

そして最後に付け加えておきたいことがある。東京都心の上空を羽田空港への進入着陸に使うコースの安全問題である。もとはといえば、東京五輪・パラリンピックなどを前提に、2020年にインバウンド客を4000万人に増やすためとの理由で使われ始めた。だが、コロナ禍で大幅な減便になり、その必要性には疑問がある。

これまで述べてきたように、羽田空港に着陸するパイロットは内外問わず離着陸の機会不足の状態である。万が一、そのような技量不足のパイロットが事故や重大インシデントを起こしたら、取り返しのつかないことになるのではないか。

私自身、「ボーイング747」やハイテク機の「エンブラエルE170」の操縦経験もあるが、この都心上空を進入着陸に使うRNAV(広域航法)という航法は、進入急降下を伴うもので、決してやさしいものではない。

コロナ禍がこのようなところにも影響を及ぼしていることを忘れてはいけないのである。

杉江 弘

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