新宿二丁目の深夜食堂・クイン、取材Dが語る“適当な感じ”の魅力「すごく心地いい」

新宿二丁目の深夜食堂・クイン、取材Dが語る“適当な感じ”の魅力「すごく心地いい」

  • マイナビニュース
  • 更新日:2023/03/18
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●ビール瓶20本空けて取材交渉

新宿二丁目・クイン、名物ママは満身創痍で…夫「店を辞めようか」

フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)で、12日に放送された『新宿二丁目の深夜食堂 前編 ~人生を奏でるビール瓶~』。LGBTQの人々が集う東京・新宿二丁目で53年続く深夜食堂「クイン」を営む夫婦と客の人間模様を約7カ月にわたって追った作品で、19日には『後編 ~名物夫婦 53年の物語~』が放送される。

日付が変わった午前0時に開店し、飲食店をハシゴしてやってくる会社員や同性愛カップル、自身の店の営業を終えた“二丁目の住人”など、営業時間の午前9時まで客足が絶えないクイン。名物ママのりっちゃん(77)と、厨房を担当する夫の加地さん(77)が50年以上にわたり切り盛りしてきたこの店に感じた魅力を、取材した田渕慶ディレクター(ライド)に聞いた――。

○■お客さんが「サンサーラ」を歌い出す

AD時代から新宿、六本木、銀座、すすきの、中洲と、いわゆる“夜の街”を取材してきた田渕D。クインとの出会いは、今から約20年前にさかのぼる。

「『スーパーテレビ』(日本テレビ)という番組で僕は歌舞伎町を題材にしたネタを担当していたのですが、“逆ナン”という言葉もなかった時代に女の子に声をかけられて行った先がとんでもない料金を請求されるぼったくりバーだったとか、そういうのをずっと追っていたんです。当時、キャバクラ嬢を取材していたのですが、まだ風営法が緩かったので朝5時まで営業していて、その取材終わりにご飯を食べに行っていたのがクインでした」(田渕D、以下同)

それから年月が経ち、昨年7月にプライベートで二丁目を訪れると、クインがまだ営業を続けていたことを確認。「久しぶりに行ってみたら、りっちゃんが前よりもパワーアップしてたんです(笑)。『うるせぇ!』とか口の悪い感じは前にもありましたけど、ビール瓶を叩きながら歌うということはなかったので、これは面白いと思って」と、今回の取材がスタートした。

この界隈では有名な店だけに、たびたび取材を受けているが、ここまでの長期取材でりっちゃんと加地さん夫婦にスポットを当てるドキュメンタリーはなかった。どのように密着取材を進めていったのか。

「嫌われてしまったらもうアウトなので、最初に行ったときは『テレビなんです』と言わず、りっちゃんと2人でビール瓶を20本空けたんです。それで最後に『ところでおまえ、何者なんだ?』って言われて、『テレビをやってるんですよ。ちょっとりっちゃんを取材したいと思ってまして』と説明したら、『好きにしろ』『いつでも来いよ』って言ってくれたんですけど、7カ月も取材されると思ってないから、1~2カ月経つと『おまえ、いつまでやるんだ?』と言われて(笑)。日曜日も朝9時まで働いているので、『ザ・ノンフィクション』を見たことない人だったんですけど、お客さんが『ザ・ノンフィクション』の取材だと知ると、みんなあの番組テーマソング(『サンサーラ』)を歌うんですよ。そしたら、りっちゃんも『そんな有名な番組なんかい』って見るようになって、長期取材というのも理解してもらいました」

○■りっちゃんをひと言で表すと“妖怪”

そんなりっちゃんをひと言で表すと、「“妖怪”ですかね?(笑) 77歳でこんなに飲む人、初めて見ましたよ」と驚くが、とりわけ“家族”の話になると、親身に相談に乗ってあげるのだという。前編では、涙ながらに絶縁した親との関係を打ち明け、「自分には帰る場所がない…」と語る葵さん(25)に、りっちゃんは「いつでもここに来い」と優しい言葉をかけていた。

その背景には、「りっちゃんは、お母さんが早く亡くなって親戚をたらい回しにされていたそうで、戦後のあまりいい環境で育っていないというのがあるみたいです」という過去が。田渕Dは取材中、直接りっちゃんに何か相談に乗ってもらうことはなかったが、自身も母親との関係が希薄になっているというだけに、「りっちゃんを通して、自分の母親もこういうことを思ってるのかなと、勝手に想像する時間でもありました」と振り返った。

夫の加地さんが腕を振るう料理は、画面を通してもおいしさが伝わってくる。実際に味わった田渕Dは「いい調味料を使っているわけではないのに、すごくおいしいんです。キャベツも全部手で千切りして、ハンバーグのソースがびっくりするくらいうまいんですけど、どうやって作ってるのかを聞いてみたら『玉ねぎを寝かせてるんだよ』って、ものすごい手間を掛けてるんです」といい、多くの人を魅了する味には、やはり裏側での努力があるようだ。

二丁目の人たちをクインに引き寄せるのは、こうしたりっちゃんのキャラクターや加地さんの料理に加え、“適当な感じ”があると分析。

「普通のお店だとちゃんと接客しようとしてるから、料理が出てくるのが遅いと、ちょっと気になるし、ウーロンハイがすごく濃いと替えてほしいけど、クインはどこか適当な部分があるからなぜか許せちゃう(笑)。他の店なら、食べ終わったら早く帰らなきゃいけない感じだけど、『おまえ、まだ1時間電車ないからいていいよ』って言われるし、好きなときに来て、好きなもん食べて、好きなときに帰るというのができることが、すごく心地いいんだと思います」

●苦楽を共にしてきた夫婦からにじみ出る“戦友感”

加地さんはりっちゃんに対して、「もう一度付き合うとしても、りっちゃんと付き合うね」「本当にかわいい人だよね」と、なかなか日本人男性が言えない妻への愛の言葉が直球で次々に飛び出すが、普段は営業中ずっと厨房にいるため、「店に通ってる人は、こんなにしゃべる人なんだと皆さん驚くと思います」という。放送ではカットされているが、毎週一緒に体操教室に通うおしどり夫婦だ。

番組ではそんな2人の仲睦まじい関係性が伝わってくるが、そこには50年以上店を切り盛りしてきた“戦友感”もにじみ出ている。

「かつては、ヤクザが乗り込んできたり、組同士でビール瓶の投げ合いをやったり、食い逃げが流行ったりと、街が荒れていた時期も経験している2人なので、一緒に店を守ってきたという思いが確実にあると思います」

○■自宅取材は頑なに拒否「そんな姿は見せねえ」

りっちゃんが客に対してたしなめるように、田渕Dも取材中は「いっぱい怒られました(笑)」とのこと。そうした中でも、夫婦の自宅の取材を試みたが、最後まで入れてくれることはなかった。

田渕Dがその理由を聞くと、りっちゃんから「美空ひばりはステージ上の姿は見せるけど、ステージ以外の姿を見たことがねえ。私はクインがステージだと思ってる。家ではただのヨタヨタおばあちゃんだから、そんな姿は見せねえ」と、プロ意識を覗かせる言葉が返ってきたという。化粧も装飾品も、クインに立つときの一種のキャラクターになるためのものだといい、店を辞めたら「化粧もしたくねえし、宝石も売りたい」と言っているそうだ。

来年夏に店の賃貸契約が更新を迎えることから、年齢も考えて閉店を検討している。「やはりどこかで覚悟を持って店に立っているんです。営業時間を考えても、体に良いことをしているとは思ってないから、いつ倒れてもおかしくないという覚悟がどこかにあるんだろうなと感じて、老いというのは残酷だなと、今回の取材を通してちょっと思いました」。

店を継ぎたいと声をあげる常連客もいるそうだが、この夫妻がどのようにクインの歴史に幕を下ろすのか「やっぱり気になりますね」という田渕D。今後、プライベートでも通いつつ、行く末を追っていくつもりだ。

改めて、長年取材してきた“夜の街”の魅力を聞くと、「基本的に、すっごく面倒くさいんですよ(笑)。みんな酔っ払ってるから、昼間に会うと『昨日何しゃべったか覚えてないからカットしてほしい』なんてざらにありますし。でも、そうやってお酒を飲みながら話すから、すごく仲良くなるんです。今回のクインも、最初にビール瓶20本飲んだところからスタートしてるんで、他のお客さんからも『こいつは飲めるやつだ』という認識になっていて、その後も飲みながら取材しました。これが手法として正解なのか、いまだに分からないです(笑)」というが、そうした姿勢だからこそ、1人の客としての自然な目線でクインの人間模様が映し出されている。

中島優

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