「菅案件」のヤバすぎる現実...政府が総掛かりで「西之表市」を攻撃する日

「菅案件」のヤバすぎる現実...政府が総掛かりで「西之表市」を攻撃する日

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/02/24
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防衛省は馬毛島(鹿児島県西之表市)への米空母艦載機離発着訓練(FCLP)の移転と自衛隊基地設置の計画を進めるため、訓練の騒音や工事に関する環境影響調査(アセスメント)の手続きを始めた。

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上空から見た馬毛島=筆者撮影

1月にあった西之表市長選挙で「計画反対」を訴えて再選された八板俊輔市長は「大変遺憾だ。地元の理解は得られておらず、これ以上、計画を進めるべきではない。このタイミングで、施設整備につながる環境影響評価を開始するべきではない」とあらためて反対の意思を鮮明にした。

八板氏は「いま国がやるべきことは、一度立ち止まり、地元と真摯に向き合うことだ」と述べ、環境影響評価の手続きをいったん停止するよう求めた。近く防衛省を訪れ、直接、馬毛島での計画の中止を求めることにしている。

防衛省はアセスメントについて「地元に詳細な説明をするために必要な調査」とし、計画をまとめた書類を公開する手続きを始め、4月1日まで郵送やメールなどで意見を受け付けるとしている。

西之表市の所有する馬毛島の土地は1%にも満たないのに対し、99%以上の土地を取得した防衛省は強気だ。

今後、4年間の八板氏の市長在任中に新基地建設の既成事実化を進める一方で、八板氏が反対を撤回しない場合、基地の新設にともなって支払われることになる米軍再編交付金や環境整備費をストップする荒技に出ることが予想される。

つまり、4年後に八板氏の3選が困難になるよう仕向ける挙に出かねないのだ。

「民主主義国の日本でそんなことできるはずがない」。あなた今、そう思いましたね。

実例があるのです。

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防衛省が地元に示した馬毛島の基地化案=防衛省の資料より

「世界一危険な基地」をめぐって

沖縄県にある米軍普天間基地の名護市辺野古への移設をめぐり、2010年2月の名護市長選挙で稲嶺進氏は「移設反対」を掲げて初当選した。

普天間基地は宜野湾市の中心部にあり、「世界一危険な基地」と呼ばれている。このときの名護市長選挙は、辺野古への移設が「唯一の解決策」と主張する安倍晋三政権に対し、「移設反対」を訴える翁長雄志知事率いるオール沖縄の「代理戦争」と位置づけられた。

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〔PHOTO〕gettyimages

稲嶺氏の当選を受けて、防衛省は早速、意趣返しに出る。同年12月に総額16億円の米軍再編交付金を「不交付」とすることを決め、名護市に通知した。

小中学校の新設や市道、体育館、公民館の整備など12事業に充てることを決めていた名護市は困惑。急きょ、円高・デフレ対策でできた地域活性化交付金を使い、それでも足りない約10億円を起債や基金の取り崩しでしのいだが、2事業は断念さぜるを得なかった。

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防衛省が地元に示した再編交付金によって可能となる事業=防衛省の資料より

稲嶺氏はその後、市役所各部の予算に枠をはめて歳出を抑制。誘致企業も増えたことで市の財政は持ち直し、2013年度には過去最高額の一般会計当初予算を編成できるまでになった。政府の「兵糧攻め」は不発に終わった。

2014年1月に稲嶺氏が再選されると、「次の一手」を模索していた安倍政権の沖縄基地負担軽減担当でもある菅義偉官房長官は15年10月、移設予定地周辺にあたる久辺3区(辺野古、豊原、久志)の区長を首相官邸に招き、年度内に補助金を直接支出することを伝えた。

名目は「再編関連特別地域支援事業補助金」。3区にそれぞれ1300万円を上限に補助することで「地元の同意」を際立たせ、移設計画に反対する沖縄県と名護市の梯子を外そうというのだ。

だが、3区は単なる自治会組織に過ぎず、区長は公職選挙法に基づく選挙で選ばれたわけではない。そんな住民の団体に年間1000万円を越える国費を提供するのは異例中の異例といえる。

「地方自治の分断であり、財政法上も問題があるのでは?」と問われた菅官房長官は「政府として、久辺3区と懇談会をしながら決定した。全くおかしくない」(2016年1月13日午後の定例記者会見)と正当性を主張。お得意の「問題ない」「ご指摘はあたらない」との話法でかわした。

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防衛省が地元に示した補助事業=防衛省の資料より

菅氏による「アメとムチ」

ところが、2018年1月の名護市長選挙で稲嶺氏が移設に理解を示す候補に破れると、政府は一転して3区への補助金制度を廃止。稲嶺市政以前と同様に名護市に対して再編交付金を支払う仕組みに戻している。

あまりにもわかりやすい「アメとムチ」。国策に反対する首長にはムチを振るい、言いなりになる首長にはアメをしゃぶらせる。それが安倍政権の官房長官だった菅氏のやり方である。

そうだすとれば、菅首相が西之表市に対して、どう出るのか想像が付く。

FCLP関連施設の建設は、米軍再編の一貫なので進捗状況に応じて防衛省から再編交付金が支払われる。しかし、名護市の例をみると「移設反対」を主張した結果、支払いは打ち切られ、理解を示す住民に直接、カネを手渡す禁じ手まで繰り出した。

その前例から、反対の姿勢を貫く八板市長に対しては、なりふり構わない「兵糧攻め」に出るのは確実だろう。

防衛省のやり口はもっと醜い…

もっと醜い防衛省のやり口を挙げよう。

馬毛島をFCLP訓練に使う予定の空母艦載機は、もともと神奈川県の厚木基地に配備されていたが、2006年に日米合意した米軍再編に基づき、山口県の岩国基地への移転が決まった。

2008年1月の岩国市長選で「受け入れ反対」を表明した現職の井原勝介氏は防衛省から年間35億円にのぼる市庁舎建設費の補助金を止められ、国と協議すると訴えた新人の福田良彦氏に敗れた。

福田氏の当選後、防衛省は市庁舎の補助金支払い再開を表明。さらに山口県と岩国市が開発に失敗した愛宕山を米軍住宅用地として買い取り、米軍再編交付金で小学生以下の医療費無料化を実現させて福田市政を全面的に支えた。

福田氏が再選に挑戦する直前の2011年12月、防衛省は市の要望に応え、基地周辺整備事業の名目で2億4000万円かけて市内全小中学校の教室にエアコンを設置することを決めた。

これまでは騒音に悩む基地周辺の学校が対象だったが、騒音とは無縁の学校も対象になった。全校にエアコンが入ったのは山口県では岩国市だけだ。前職の井原氏も立候補した翌12年1月の市長選では、エアコン設置を含め、4年間の実績を強調した福田氏が圧勝した。

福田氏が3選を目指す直前の2015年12月、防衛省は「日米両政府で合意した」として、岩国基地の滑走路を利用する岩国錦帯橋空港の発着便について、2往復4便の拡大を発表した。

増枠を求めていた福田氏は報道陣に対し、防衛相から直接、電話で連絡があったことを強調し、翌月の市長選では増便を含む2期8年の実績を掲げて新人候補を大きく引き離し、3選した。

おわかりだろうか。

空母艦載機の「移設反対」を訴えた井原氏に対しては補助金を打ち切り、容認派の福田氏を全面的に支える露骨な「アメとムチ」。防衛省が福田氏を支え続けたのは、米政府との間で合意した空母艦載機の移転を実現する必要があったからだ。

そして福田市政3期目の2018年3月、戦闘機など61機の岩国移駐が実現した。元から配備されていた戦闘機などと合わせて米軍機は約130機に増え、岩国基地は沖縄の嘉手納基地を抜いて「東洋最大の米軍基地」になった。

その結果、岩国市の状況は一変した。

防衛省による「兵糧攻め」が始まる

空母艦載機が移駐した初年度の2018年度、基地に隣接した住宅地では新幹線の車内に相当する70デシベル以上の騒音を8668回計測。2019年度は9293回とさらに増え、滑走路が沖合に移設された10年度以降で最多となった。

艦載機が空母とともに長期の航海に出ている間は騒音が大幅に減っており、騒音の主な発生源が空母艦載機であることは明らかだ。隣接する広島県や島根県は戦闘機の訓練飛行ルートの直下にあり、騒音の被害は両県にまで広がっている。

政府の意に沿う市長を支援する見返りとして、絶えがたいほどの基地負担を地元に押しつける防衛省。米軍の意向を最優先し、「反対」を訴える市民を力でねじ伏せる権力の乱用ぶりは、名護市と岩国市にはっきり現れている。

次は西之表市、となるのではないだろうか。

八板市長は昨年10月、馬毛島のFCLP施設に反対する理由を文書で公表した。

「私は、今回の訓練施設の設置によって失うものの方が大きいと考えます」とし、「基地経済に依存しない町づくりを推進することにこそ、持続可能な社会への希望があります。将来にわたって島の子どもたちが安心して生活できる島を築くことが、今を生きる者の責任であると、私は考えます」と結んでいる。

住民の安全安心を確保する義務がある市長として、至極まともな考え方だろう。しかし、強権的だった安倍政権を継承する菅首相は、おそらく許さない。馬毛島へのFCLP移転計画は菅氏が官房長官として深くかかわった「菅案件」でもあるからだ。

西之表市に対し、菅首相の意向を忖度する防衛官僚が「兵糧攻め」に出るのは確実だろう。馬毛島の問題を西之表市の問題にとどめてはならない。民主主義国であるはずの日本の政治家がいかに専制国家の指導者のように振る舞うのか、心ある人々は注視し、声を挙げるべきである。

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