「世界最強」の米空母艦隊が中国相手に役に立たなくなる危機

「世界最強」の米空母艦隊が中国相手に役に立たなくなる危機

  • JBpress
  • 更新日:2021/11/26
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かつて米海軍と海兵隊が使用していた艦上長距離攻撃機A-6イントルーダー(写真:米海兵隊)

(北村 淳:軍事社会学者)

米国国防総省は、先日公表したいわゆる中国軍事力レポートにおいて、艦艇保有数が355隻を超えた中国海軍が数量的に世界最大の海軍の座を占めるに至ったと深刻な危惧の念を表している。

米海軍の戦闘用艦隊に投入される艦艇数は、11月16日現在、294隻である。アメリカ海軍の戦力再興を目指した前トランプ政権は、米海軍の主要艦艇数を355隻以上に拡大することを義務化する政策を打ち出した。

ただし米海軍やシンクタンクなどの海軍戦略関係者からは、常識を覆すスピードで戦力拡大を続ける中国海軍や、復活しつつあるロシア海軍を念頭に置くならば、目標が355隻では少なすぎ、500隻は必要であるといった意見も少なくなかった。

結局、米当局が掲げた355隻という目標値はあっという間に中国海軍が達成してしまい、米国防総省の推測では2025年には中国海軍の主要艦艇保有数は少なくとも420隻に達するものとされている。これまで米軍情報筋やシンクタンクによる中国海軍戦力予測が常に過小評価であったため、場合によっては450隻に迫るかもしれない。

いずれにせよ、米国防総省は、艦艇数において米海軍が中国海軍に抜き去られ数量的に世界最大の海軍の座を中国に明け渡してしまっている状況を、対中戦力の低下として大いに警鐘を鳴らしているのである。

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中国海軍脅威論への「恐れすぎ」という批判

このような米軍当局の中国海軍脅威論に対して「恐れすぎ」と批判する専門家も少なくない。そのような立場を取る人々は以下のように主張している。

「たしかに艦艇数は追い越されたことは事実である。しかし、総トン数では中国海軍がおよそ200万トンであるのに対して米海軍はおよそ450万トンと倍以上である。すなわち、いまだに米海軍のほうが、より長い距離を航行でき、より多くの武器を搭載でき、より汎用性の高い戦闘能力を有する大型艦をはるかに多数保有しているのだ。中国海軍に後れを取っているわけではない。

たとえば、中国海軍と直接対峙する太平洋艦隊だけでも、それぞれ75機の各種航空機を積載できる原子力空母を5隻、航空機と共に海兵隊部隊を積載する強襲揚陸艦を6隻保有している。それに対して中国海軍は40機以下の各種航空機しか積載できない空母を2隻(間もなく3隻)と強襲揚陸艦を2隻(間もなく3隻)である。要するにパワープロジェクション能力(戦力投射能力:自国の領土外に戦力を輸送・展開する能力)においては、いまだに米海軍が中国海軍を圧倒しているのである」

過去5年は総トン数でも中国海軍が優位

このような米海軍優位の指摘に対して、かねてより(5年以上前より、人によっては10年以上も前から)「決して中国海軍を侮ってはならない」と警鐘を鳴らし続けている対中警戒派かつ対中強硬派は、次のように反論している。

「総トン数ではたしかに米海軍が優勢であるが、今となってはそのような指標はさしたる意味を持っていない。なぜならば、過去5年間に建造された軍艦だけに絞って比較すると、空母や強襲揚陸艦の建造を開始したうえ大型水上戦闘艦をアメリカの4倍のスピードで量産している中国海軍のほうが、総トン数でも勝っている状況だからだ。

それだけではなく、過去10年間にわたって新型艦艇を大量に誕生させている中国海軍と比較すると、アメリカ海軍艦艇は老朽化が目立ってきている。メンテナンスや修理のバックログや対応能力も、強大なローマ帝国がヨーロッパ全域に張り巡らした道路網を維持できなくなってしまった状況のように、危機的状況に直面している」

パワープロジェクション能力が大幅に低下

それら以上に問題なのは、自他ともに世界最強とされてきたアメリカ海軍の原子力空母を基幹とするパワープロジェクション能力も、投射距離(空母から航空機で攻撃可能な距離)自体が大幅に低下しているという現実である。

たとえば1997年まで米海軍が運用していた艦上長距離攻撃機A-6イントルーダーは、爆弾を満載した状態で800マイル、爆弾と外部燃料タンクを組み合わせた状態で1200マイル以上をカバーすることができた。しかし、米海軍当局はA-6の後継機A-12調達計画を捨て去り、戦闘半径500マイルにすぎないF/A-18スーパーホーネットに全面的に依存することになった。また、新鋭のF-35B(海兵隊仕様)の戦闘半径は400マイル、F-35C(海軍仕様)は625マイルである。

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中国軍に対してF-35では攻撃半径が短すぎる(写真:米海軍)

これに対して、中国軍は地対艦弾道ミサイルや極超音速滑空体まで含んだ多種多様の接近阻止用対艦ミサイルによって、東シナ海や南シナ海に接近してくる米空母艦隊を撃破する態勢を強化している。そのため、米空母艦隊は少なくとも1000マイル以上の投射距離を確保しなければ、中国本土のミサイル発射装置や航空関連施設それに沿岸域の艦艇・航空機を攻撃することができない。

このような状態にもかかわらず、米海軍当局は長距離攻撃能力を有した航空機の開発に着手していない。

早急に航空母艦や強襲揚陸艦に1000マイル以上の投射能力を持たせない限り、米海軍が誇ってきた空母艦隊は、台湾や南シナ海それに東シナ海などにおける紛争地をめぐる中国との通常兵器の衝突を抑止し、必要な場合には勝利するための貢献を全く望めないことになる。

北村 淳

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