離婚届オンライン化にある「手続きが簡単」以外の大きなメリット

離婚届オンライン化にある「手続きが簡単」以外の大きなメリット

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2020/10/19

政府が婚姻届と離婚届の押印の廃止を検討している。離婚問題に詳しい弁護士の理崎智英氏は、「押印廃止でオンライン化が進めば、本人確認が厳格化されるだろう。そうすれば、手続きが簡単で便利になるだけでなく、婚姻届や離婚届を勝手に届け出されるというリスクも減る」と指摘する――。

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写真=iStock.com/takasuu※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

電子証明書の提出が検討されている

菅内閣の発足後、河野太郎行政改革担当大臣が陣頭指揮をとって、主に迅速性の観点から、行政手続の押印制度を廃止する動きが活発になっていることは皆さんもご存じかと思います。

この度、法務省は、婚姻届と離婚届についても押印制度を廃止する方向で検討していることが明らかになりました。なお、署名については、維持する方向のようです。

婚姻届や離婚届の押印が廃止されて手続がオンライン化されると、本人確認が厳格になり、なりすましによる届出は大幅に減ることが期待されます。

報道によると、婚姻届や離婚届の提出にあたっての本人確認のために、押印に代わり電子証明書を提出することが検討されているようです。電子証明書は、マイナンバーカードを保有し、かつ、暗証番号を知らなければ発行されないので、本人が第三者にマイナンバーカードを渡したうえで、暗証番号まで教えなければ、なりすましによる提出は防げます。

もっとも、総務省によると、マイナンバーカードの普及率は全国で約19%(2020年9月1日時点)にとどまっていることから、婚姻届や離婚届の提出をオンライン申請のみにすることは難しいでしょう。

婚姻届や離婚届の押印は廃止するにしても、それに代わる本人確認としてマイナンバーカード以外の方法を用意する必要があるでしょう。本人確認の方法は自治体によって異なるとは思いますが、たとえば、運転免許証やパスポート、健康保険証の提示を求めることなどが考えられます。これらの方法は完璧ではありませんが、押印だけで済むのに比べれば、大きな前進といえます。

「知らぬ間に結婚や離婚をしている」ことはあり得る

現在の法律では、婚姻届及び離婚届には、「届出人が、これに署名し、印をおさなければならない」と規定されていることから(戸籍法29条)、現在は、婚姻届については婚姻しようとする当事者二人の署名捺印が必要とされ、離婚届についても離婚しようとする当事者二名の署名捺印が必要とされています。また、婚姻届、離婚届ともに、証人二名の署名捺印も必要です。

もっとも、婚姻届、離婚届ともに、実印(印鑑登録されている印鑑)ではなく、認印で構わないとされているので、一方の当事者が他方の当事者になりすまして押印して、他方の当事者に無断で婚姻届や離婚届を提出することも理論上は可能です。

そして、役所の戸籍係としては、婚姻届や離婚届に押印されている印鑑が、本人のものであるかどうかまで確認はしないので、他人に無断で提出された婚姻届や離婚届であっても、受理され、戸籍も変更されてしまいます。

そのため、自分の知らない間に勝手に誰かと結婚していたり、配偶者と離婚していたりする、といった事態も発生し得ることになります。

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写真=iStock.com/PeopleImages※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

無効を認めてもらうにはかなりの労力と時間が必要

婚姻届を無断で提出するというケースはあまりないと思いますが、私が過去に担当した案件では、配偶者に無断で離婚届を提出されてしまったが、自分は離婚したくないのでどう対応すれば良いか、といったご相談やご依頼を何度か受けたことがあります。配偶者から繰り返し離婚を求められていたが、相談者は離婚に応じなかったところ、無断で離婚届を提出されてしまった、というケースです。

配偶者に無断で離婚届を提出してしまう場合としては、早く離婚して別の人と再婚したいといった場合や、同じ戸籍から早く抜けたいといった心理的な嫌悪感に基づく場合があると思います。

無断で他人の印鑑を使用して婚姻届や離婚届を提出することは、有印私文書偽造罪(刑法159条1項)・同行使罪(刑法161条1項)、公正証書原本等不実記載罪(刑法157条1項)に該当する犯罪行為です。有印私文書偽造罪・同行使罪の法定刑は3カ月以上5年以下の懲役、公正証書原本等不実記載罪の法定刑は5年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります。

2016年6月、50代の妻が夫を装って離婚届に署名押印し、市役所に提出したとして、有印私文書偽造・同行使罪、電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪の疑いで逮捕された事例もあります。市役所は窓口への届出が夫婦そろってではない場合、もう一方に通知を出しています。当時、夫婦は別居状態でしたが、通知により夫が離婚届の提出に気づいたことから発覚したそうです。

法律上は、婚姻も離婚も、双方当事者の意思に基づく必要があるので、一方の当事者が他方の当事者に無断で婚姻届や離婚届を提出したとしても、そのような婚姻や離婚は無効です。

ただし、自動的には無効になるわけではないので、婚姻や離婚の無効を認めてもらうためには、婚姻無効や離婚無効の調停や裁判を経る必要があり、かなりの労力と時間を要することになります。先ほどのケースも、その後民事訴訟を経て離婚の無効が確定しました。

なお、無断で婚姻届や離婚届を提出されたことにより精神的な苦痛を被ったということで、無断で提出した人に対しては、慰謝料を請求することができますし、離婚の慰謝料を算定する場合には、増額される要素となり得ます。

「知らぬ間に離婚」で財産分与が請求できなくなることもある

勝手に提出された婚姻届や離婚届を無効にせず、そのままにしておくことのデメリットは計り知れません。

婚姻届に関しては、仮に相続が発生した場合には、知らない人に自分の財産を相続されてしまう(配偶者は必ず法定相続人となるため)といった事態が発生します。また、夫婦間では、「日常家事債務」といって、一方が日常生活のために負担した債務は、他方も連帯して責任を負うことになるため(民法761条)、ある日突然、自分のところに知らない請求書が届くといった事態が発生することもあります。

離婚届に関しては、夫婦間に子がいる場合、離婚届の親権者を相手に指定されることで親権を失ってしまいます。また、離婚から2年が経過すると、財産分与(婚姻生活中に夫婦で協力して築き上げた財産を、離婚の際にそれぞれの貢献度に応じて分配すること)を請求する権利を失ってしまいます。財産分与請求権の時効は離婚から2年間であるためです。

婚姻届、離婚届ともに、第三者や配偶者により勝手に提出されることを防ぐため、役所に対して不受理の申出をすることができます。具体的には、自分の本籍地がある市区町村に「婚姻届不受理申出書」あるいは「離婚届不受理申出書」という書面を提出することになります。この申出さえしておけば、自分が知らないところで勝手に婚姻届や離婚届が提出されるといった事態を完全に防ぐことができます。

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理崎 智英(りざき・ともひで)
弁護士
1982年生まれ。一橋大学法学部卒業。2010年、弁護士登録。福島市内の法律事務所を経て、現在は東京都港区の高島総合法律事務所に所属。離婚・男女問題に特に力を入れている。
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理崎 智英

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