殺人鬼とシャイな女子高生の体が入れ替わった!? 大林宣彦ワールドの過激な進化『ザ・スイッチ』

殺人鬼とシャイな女子高生の体が入れ替わった!? 大林宣彦ワールドの過激な進化『ザ・スイッチ』

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2021/01/15
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内気な女子高生の体が、なんと連続殺人犯である中年オヤジの体と入れ替わってしまった。殺人鬼の心を宿した女子高生は、陰険な教師やいじめっ子たちを次々とぶっ殺して回る。死体の数が増えれば増えるほど、観客の気分も爽快に。大林宣彦監督の名作『転校生』(82)などでおなじみの“ボディスイッチ”もののスプラッター版となっているのが、クリストファー・ランドン監督の『ザ・スイッチ』(原題『Freaky』)だ。B級映画ならではの軽快なホラーコメディとなっている。

ランドン監督は『ハッピー・デス・デイ』(17)と続編『ハッピー・デス・デイ 2U』(19)のヒットメーカーとして知られている。『ハッピー・デス・デイ』は女子大生が誕生日に殺され、目が覚めると誕生日の朝に戻っているというタイムリープものの秀作だった。女子大生にはまるで見えないビッチなヒロインが、死んで生まれ変わる度に、友達想いの“いいヤツ”に変容していく様子にキュンとさせられた。本作も自己評価の低い女子高生が快楽殺人鬼に変身し、楽しげにチェンソーを振り回す姿に魅了される。

説明が不要なほどシンプルな物語だが、一応触れておこう。女子高生のミリー(キャスリン・ニュートン)は母親と姉との3人暮らし。家を出て大学に進学したいが、父親を亡くしてからアルコール依存症になってしまった母親に気兼ねして、進学のことは言えずにいた。地元の警察署に勤める姉・シャーリーンは快活な性格だが、そんな姉に対してもミリーはコンプレックスを抱いている。不満を口にすることなく、ミリーはいい子ちゃんキャラを通してきた。

内向的な性格が災いし、高校ではいじめの標的にされていたミリー。同じクラスの男子に憧れているものの、もちろん告白する勇気はない。アメフト大会の帰り道、迎えに来るはずだった母親は酔っ払って自宅で爆睡中。ひとりぼっちでいたミリーは、不気味なマスクを被った殺人鬼に襲われるはめに。

ところが、殺人鬼に刃物で刺された瞬間、世にも不思議なことが起きた。翌朝、見知らぬ廃工場で目が覚めたミリーは、自分の体が中年オヤジ(ヴィンス・ヴォーン)になっていることに気づく。オーマイガッ! この中年オヤジこそ、世間を騒がせている連続殺人鬼ブッチャーだった。

一方、ミリーの体を手に入れたブッチャーは、ルンルン気分でミリーの通う高校に登校する。いつもオドオドして伏し目がちだったミリーが、真っ赤な革ジャンを着て、目をギンギンに輝かせて現れたので学校中が騒然となる。いつもはミリーに冷たい男子生徒たちが、危険な匂いを振りまくミリーに群がり、「今晩、パーティーに行こうぜ」と言い寄ってくる。おいしいカモたちが向こうから集まってくれる、うれしい展開。思わず舌舐めずりする殺人鬼ミリーだった。

主人公の心と体が入れ替わってしまうボディスイッチものは、新垣結衣と舘ひろしが入れ替わる『パパとムスメの7日間』(TBS系)やメグ・ライアン主演映画『キスへのプレリュード』(92)などがあるが、やはり最高傑作は大林監督の『転校生』だろう。男子中学生の一夫(尾美としのり)と女子中学生の一美(小林聡美)の心が入れ替わることで、思春期の2人はお互いのナイーブな内面や男女間の生理的な違いを理解することになる。

立場の違う2人がお互いの役割を交換することで、それまで気づかなかった新しい視界が広がっていくのが、このジャンルの面白さだ。心理療法や犯罪者の更生プログラムなどで用いられるロールプレイ(役割療法)に通じるものがある。感情の吐き出し方が分からずにいた女子高生ミリーは、殺人鬼と体が入れ替わることで感情を思いっきり爆発させることを覚える。それまで周囲の意見に従ってばかりいたミリーだが、事件をきっかけに内面にも変化が生まれていく。

ミリー役を演じるキャスリン・ニュートンも大変身を遂げる。自己主張できない女子高生から、欲望の赴くままに暴れ回る悪女へとスイッチする。華奢な女の子だと舐めてかかったヤツは、次々と頭をカチ割られることになる。もちろん衣装やメイクの違いもあっての変身だが、同じ女優が演じているとは思えないほどの別人格となっている。与えられた役が変わり、意識が切り替わることで、行動や言葉遣いだけでなく、顔の表情まで大きく変わっていく。『名探偵ピカチュウ』(19)で新人記者役をそつなく演じていたキャスリンにとって、絶好のステップボードになりそうだ。

殺人鬼ブッチャー役のヴィンス・ヴォーンは、米国内で大ヒットした『ウェディング・クラッシャー』(05)や『ハニーvs.ダーリン 2年目の駆け引き』(06)などに主演した人気コメディアン。おっさん俳優のヴィンスが、心は女子高生になって「いや~ん」と女の子走りで逃げ惑う。スプラッターホラーなのに、思わず爆笑してしまう。ミリーの憧れの男子との、ラブシーンまで用意されている。キャリアの長いヴィンスにとっても、女子高生役は初めてだろう。心は女子高生なおっさん役を、ヴィンスは楽しんで演じている。配役のシャッフルは、作品全体に新鮮さをもたらす。キャストにとっても、貴重な体験となり、演じがいがあるに違いない。

はたして、おっさんとなったミリーは、殺人女子高生となったブッチャーから体を取り戻すことができるのか。元の体に戻るための制限時間は24時間。物語後半、心と体が入れ替わった2人が対峙することになる。自分の肉体から離れ、他者になったことで初めていろんなものが客観的に見えてくる。

内気なミリーをずっと悩ませてきたコンプレックスを、ずばり指摘してみせる女子高生の体に宿ったブッチャー。だが、殺人鬼の体を持つミリーも、それまでの臆病な女の子ではなくなっていた。お互いの意識が入れ替わった自分の肉体と戦うという、世にも奇妙な珍バトルが繰り広げられる。肉体から生まれてくる抑えがたい感情もあり、また意識していても思うように体が対応しないというもどかしさもある。自分の欲望に正直になれたという点に関しては、ミリーは殺人鬼ブッチャーに感謝してもいいかもしれない。

ボディスイッチものとなる本作は小林聡美&尾美としのり主演作『転校生』、『ハッピー・デス・デイ』はタイムリープものの先駆作『時をかける少女』(83)と、クリストファー・ランドン監督は大林監督の「尾道三部作」のうち2作をうまく現代的なセンスで蘇らせたことになる。おそらく大林監督の蒔いた映画的遺伝子は、細田守監督の劇場アニメ『時をかける少女』(06)、新海誠監督の大ヒットアニメ『君の名は。』(16)などを介して海外に今なお広まりつつあるのだろう。そう考えると、チェンソーを笑顔で振り回すミリーは、大林監督が故郷・尾道で撮ったヒロインたちと遠縁の関係にあると言えなくもない。

さよなら私、さよなら俺。殺人女子高生ミリーが、とても愛おしく思えてくる。

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『ザ・スイッチ』

監督・脚本/クリストファー・ランドン 脚本/マイケル・ケネディ 製作/ジェイソン・ブラム

出演/ヴィンス・ヴォーン、キャスリン・ニュートン、セレスト・オコナー、ミーシャ・オシェロヴィッチ

配給/東宝東和 近日全国ロードショー

(c)2020 UNIVERSAL STUDIOS

https://theswitch-movie.jp

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