レイは85歳。妻に先立たれた孤独な男性だ。ひとり暮らしをしており、2つの州にそれぞれ家を持っていて、それらを日常的に行き来している。
レイの息子と娘は、父が詐欺師たちに個人情報とお金を渡していることを知り、ひどく動揺した。オンラインで魅力的な女性たちの投稿を目にした彼は、やりとりを始め、恋愛関係に発展する見込みがあると思い込んだのだ。
レイは現在、初期の認知症と診断されている。だが、高い教育を受けてきた彼は聡明で、狡猾と言ってもいいくらいだ。自分では何の問題もないと思っているが、どう見ても、金銭面での判断能力はひどく衰えている。
恋愛をほのめかす女性たちはやがて、彼に会いに行きたいので、飛行機のチケット代をギフトカードで送ってほしいと頼んできた。彼はギフトカードを送った。もちろん、その後で女性たち(あるいは、女性として投稿していた人物たち)は消えてしまった。
だが、レイは被害経験から学ぶことなく、何度も同じ手口に引っかかった。レイの息子は、恋愛を匂わせる投稿は、実際にはサイト上の写真を流用したボットによるものだと考えている。その可能性はありそうだ。だが、詐欺被害で20万ドル(約3000万円)以上を失ったあとも、レイはいまだに、「もっと気をつければ」、次こそは騙されたりしないと考えており、子どもたちにもそう言い張っている。彼の言葉を、子どもたちは信用していない。
子どもたちはもちろん、父を守りたいと考えている。彼らはまず、後見人制度について、法的な助言を求めた。その結果、父は、心理士が実施する検査を受けることに同意した。繰り返すが、レイは聡明な男性だ。高い学歴と豊富な経験をもつ人物である場合、たとえ初期の認知症を患っていても、検査結果を正常の範囲に収められることがある。検査の結果に、州裁判所が後見人の必要性を認める根拠となる要素は何もなかった。
レイは、重度の障害があるわけでもなければ、自力で生活できないわけでもない。こうして、後見人という選択肢が消え、子どもたちは、彼をネットにあふれかえる詐欺師から守る別の方法を見つける必要に迫られた。
説得を重ねた末、レイはアシステッド・リビングホーム(高齢者向けのケア付き住宅)への体験入居に同意し、子どもたちは胸をなで下ろした。彼らは条件のいい物件を見つけ、施設側も3カ月の体験入居に同意した。
施設がレイに家具を貸してくれるので、彼はいまのところ、2つの自宅のどちらかを諦めて入居する決断を下す必要がない。詐欺に遭いやすいというレイの問題が、必ずしもこれで解決するわけではないが、彼の社会生活は、以前に比べて大いに充実するだろう。
全米アシステッド・リビング連盟(ALFA:Assisted Living Federation of America)によれば、アシステッド・リビング・コミュニティの性別構成は、女性が男性の7倍であり、レイはきっと気に入るはずだ。子どもたちが言うように、彼はハンサムで、異性に積極的だ。その上、アシステッド・リビングには、以下のような利点も彼にもたらすだろう。
1. 見守りのある環境で暮らせる。毎日の服薬を忘れていないか見てもらえる上、食事付きで、買い物や料理、掃除をする必要がない。一人暮らしをしていた時、彼はそうした家事が疎かになりがちだった。
2. レイの子どもたちは、必要があればスタッフと毎日連絡を取り合うことができる。彼の様子を尋ね、コミュニティに溶け込めているかを確認できる。彼の好きなことを伝え、彼が退屈や孤独を避けられるように手助けすることも可能だ。
3. レイの家族は、彼が詐欺師にお金を送らないように方策を練る必要がある。ひとつの手は、True Link(トゥルーリンク)の機能制限付きプリペイド・クレジットカードだ。このカードなら、ギフトカードなど特定の商品を購入できないよう設定できる。レイの娘は委任状を持っていて、カードに紐付けされた口座に一定額の入金をする法的権利は彼女にある。このことも役に立つはずだ。
教訓
レイのために計画すべきことは、まだたくさんある。高齢の家族が何らかのタイプの認知症と診断されたら、「金銭的判断能力は真っ先に衰え、その進行は速い」ということを知っておくべきだ。
お金に関する論理的思考能力の低下は、必ずしも標準的な認知機能検査で検出できるとは限らない。レイのケースからわかる通り、彼は、検査で測定された能力については正常の範囲に収まっていた。検査は、金銭的判断能力や論理的思考能力に、特に的を絞ったものではないのだ。20万ドルの詐欺被害は、おそらく認知機能検査よりも的確に、彼の金銭的判断能力を示す良い例だろう。
高齢の親が詐欺のターゲットにされている兆候を発見したら、家族は保護のための対策をできる限りとる必要がある。