
チェコ側の国境駅、リフコフ駅(筆者撮影)
4年ぶりにチェコとポーランドを訪れた。その際にポーランドのヴロツワフからチェコの首都プラハまで、3列車を乗り継ぐローカルな国境越えをした。
もちろん、ガイドブックには載っておらず、外国人観光客は皆無であったが、長距離列車よりも快適な旅となり、意外な印象を受けた。ここで、ヨーロッパのローカル線を使った国境越えの旅を紹介したい。
チェコ、ポーランド・ヴロツワフの概要
最初にポーランドのヴロツワフとチェコの概要を確認しておきたい。ポーランド、チェコは共にヨーロッパの中央に位置し、ポーランド人、チェコ人ともスラヴ系西スラヴ人の国だ。ヴロツワフはポーランドの南西部に位置する主要都市であり、下シロンスク地方の中心都市である。人口は約60万人だ。
ヴロツワフは第2次世界大戦後にポーランド領となり、それまではドイツ領であった。そのため旧市街には13~16世紀に建てられたドイツ風の建物が多く残り、ドイツ語を聞く機会も多い。
ヴロツワフからチェコの首都プラハまでの距離は約200kmだが、間にスデーティ山脈があり、約300km先のベルリンと比較するとプラハとの結びつきは弱い。
筆者は飛行機の都合もあり、ヴロツワフからプラハまで戻る必要があった。せっかくなので、高速バスではなく列車の旅を選択したわけだが、2023年9月現在、ヴロツワフ―プラハ間の直通列車は存在しない。実は2019年12月にチェコの鉄道会社「レオエクスプレス」がヴロツワフ―プラハ間にて週末運行の特急列車を運行していたが、新型コロナウイルス感染症により、現在は休止中である。余談だが、ヴロツワフからベルリン行き国際列車は存在する。

ヴロツワフ発リフコフ行き列車(筆者撮影)
グーグルマップで調べるとドイツ経由のルートも表示されたが、筆者はスデーティ山脈越え、すなわち山越えのローカル列車の旅を選択した。コースとしてはヴロツワフから普通列車でチェコ側の国境の町、リフコフ駅まで行き、同駅でウースチー・ナド・オルリーチー行き普通列車に乗り換え。ウースチー・ナド・オルリーチー駅はチェコ東西を結ぶ幹線に位置するため、急行列車でプラハ本駅まで戻るコースだ。
ヴロツワフ中央駅8時17分発のリフコフ行きに乗るわけだが、ヴロツワフ―リフコフ間の普通列車はポーランド鉄道ではなく下シロンスク州立鉄道が運営する。
本線の優等列車よりも快適
8時頃にホームに上がると、すでにリフコフ行きの電車が入線していた。週末ということもあり、ホームには登山に向かう若者が目につく。電車はポーランドの車両メーカー・ネヴァグ(Newag)社製の45WE形だった。デビュー年は2017年で、列車は4両編成で構成されている。車内は2列+2列のシートが並ぶ。座席横にはUSBプラグもあり、車内案内表示器も備え、ポーランド語がわからなくても大丈夫だ。2014年にヴロツワフを訪れた際に見た旧型電車とは雲泥の差だった。
8時17分に出発した電車は南へ向け、リフコフ駅を目指す。しばらくすると女性車掌による検札があった。ポーランド鉄道よりも下シロンスク州立鉄道の車掌のほうが丁寧な印象を受ける。筆者が乗車した日は8月中旬ということもあり、ポーランドでも30度を超す真夏日であった。一方、車内は新型車両ということで、冷房の利きもよく、実に快適。正直なところ、冷房の利きがイマイチだったチェコからポーランドへの国際客車列車よりも数段、快適な旅であった。

レオエクスプレスが運営する普通列車がリフコフ駅に入線(筆者撮影)
ほぼ定刻の10時30分頃にリフコフ駅に到着した。チェコ側の国境駅とはいえ、山間にあるちょっとした乗換駅といった感じだ。ここで、ウースチー・ナド・オルリーチー行き普通列車に乗り換えるわけだが、ホーム上には筆者のような乗り換え客が列車の到着を待っていた。10分ほど待って、小ぶりな新型ディーゼル車が入線した。前面には「leo express」と表記されている。実は2019年からレオエクスプレスがリフコフを含むパルドゥビツェ地方にあるローカル線の輸送を引き受けているのだ。レオエクスプレスにはチェコと近隣諸国を結ぶ国際列車というイメージがあるだけに、ディーゼル車の前面を見た際は驚いた。
ウースチー・ナド・オルリーチー駅で急行列車に乗り換え、プラハ本駅に到着したのは13時頃。ヴロツワフから約5時間の列車旅であった。
もう少し下シレジア州立鉄道を深掘りしたい。下シレジア州立鉄道は地域のローカル輸送を担うべく、2009年に設立された州立の鉄道会社である。ポーランドでは2009年にポーランド鉄道の地域輸送部門が地方自治体に譲渡されている。その結果、国内の鉄道輸送は長距離旅客輸送がPKP(ポーランド鉄道)インターシティー、地域間旅客輸送がポルレギオ(Polregio)、そして地域内旅客輸送が各地方自治体が運営するというわけだ。
下シレジア州立鉄道は積極的に新車の投入を進めている。筆者が乗車した45WE形が最新形式と思いきや、実は最も新しい車両は2022年から導入を進めているポーランド車両メーカー・ペサ社のElf 2の48Wec形だ。新車の導入にあたっての資金は自社だけでなく、EUからの支援も得ている。たとえば、2020年9月にペサ社に発注した際は自社資金、EU、そして下シロンスク州からの融資により、計1億4500万ズウォティ(約50億円)を用意した。
また、サービスもきめ細かい。昨年から始まったサービスとして、自転車専用貨物車両サービスが挙げられる。これは旅客列車の最後尾に最大38台の自転車が載せられる貨車を連結するというもの。利用者は出発30分前に予約を済ませ、15分前に自転車を乗務員に渡す。下シレジア地方はサイクリングが盛んで、貨車サービスは主にサイクリング愛用者をターゲットとしている。下シレジア州立鉄道によると、この貨車サービスはポーランドで初の試みだという。
あくまでも、車窓からの印象だが、各駅ともきちんと看板が整備されており、想像以上に良い鉄道会社だった。SNSを見ると、ヨーロッパ旅行において、その国を代表する鉄道会社が叩かれる投稿が目立つが、下シレジア州立鉄道のような鉄道会社に出会うと印象が変わることだろう。
ローカル線から観光路線へ成長か
2023年9月現在、ヴロツワフ―プラハ間には直通列車は存在しないが、来年冬には大きく変わる。

ドイツの雰囲気が感じられるヴロツワフの旧市街(筆者撮影)
なぜなら、2024年12月からヴロツワフ―プラハ間にてレオエクスプレスの特急列車が復活するからだ。既に予定ダイヤは発表されており、ヴロツワフ―プラハ間の所要時間は約4時間で、1日4往復が運行される予定だ。使用車両は現在使用しているスイスのシュタッドラー社製のフリート(Flirt)型で、車内は日本の特急列車と比べ遜色はない。
プラハはあらためて説明するまでもなく、人々を魅了する古都だ。一方、ヴロツワフはプラハと比較すると地味だが、ユニークなシルエットをした旧市庁舎やフレスコ画に圧倒されるヴロツワフ大学講堂など見どころが多い。まだ、外国人観光客が少ない分、落ち着いた雰囲気を保っていることも特徴だ。往路はレオエクスプレス、復路はローカル列車のように、ヴロツワフとプラハをセットにした鉄道旅行は楽しい旅になるに違いない。
(新田 浩之:フリーライター)
新田 浩之