星空観測の“穴場”を探せ、衛星データで「密」回避

星空観測の“穴場”を探せ、衛星データで「密」回避

  • JBpress
  • 更新日:2021/02/22
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人の少ない「穴場」で星空を眺めるためのアプリ「星みくじ」の開発が進んでいる。(写真提供:アミュラポ)

宇宙ビジネスのベンチャー企業が、衛星データを用いて「密」を避けた観光を可能にする個人向けアプリの開発を進めている。世界に遅れをとる日本の宇宙産業において、一般消費者向けビジネスは市場拡大に寄与するだろうか。

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行政や企業向けの宇宙ビジネスはあるが・・・

世界の宇宙ビジネス市場規模は2016年の時点で36.9兆円(モルガン・スタンレー調べ)。一方、日本の市場はこの3%の1.2兆円とされ、小ささや遅れが指摘される。2030年代を過ぎると世界市場は約3倍になると予測されるが、日本は目標ベースで「30年代早期に倍増」(宇宙基本計画)と勢いがない*1*2。

特に市場がまだ成立していないに等しいのが、一般消費者向けビジネス(BtoC)だ。宇宙ビジネスは長年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの国立機関向けや、地図サービス業などの民間企業向けにほぼ限られてきた。

そうした中、一般消費者向けビジネスの胎動が生じている。

個人向け、星空観測の「穴場」教えるアプリ

情報通信技術を用いた宇宙体験コンテンツの制作などを事業とするアミュラポ(東京都新宿区)は、衛星データから星空観測の「穴場」を見つけ、個人利用者に周辺の穴場スポットをアプリで教えるサービス「星みくじ」を開発している。

穴場を教えるまでの仕組みは次のようなもの。星空観測の妨げとなる夜間光や雲の多い場所を衛星データで特定し、それ以外を観測可能場所とする。その中から、利用者の現在位置情報と、ランダム機能を利用し、その利用者に適した観測場所を穴場としてピンポイントでおすすめする。

たとえば、「車で1時間圏内」と選択したら、あとは観測場所をおみくじのように「星みくじ」に選んでもらう。「密」回避のため、おすすめする穴場が重ならないようにするアルゴリズムの導入も検討している。

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「星みくじ」の仕組み。衛星データを解析し、星がきれいに見える位置を特定し、ユーザーに情報提供する。(資料提供:アミュラポ)

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宇宙IoTのビジネスコンテストを契機に

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アミュラポのメンバーの小林寧々さん。法政大学理工学部機械工学科4年。(写真提供:アミュラポ)

「星みくじ」の開発は、宇宙規模でIoT(モノのインターネット)活用を想定したビジネスコンテスト「Tokyo Moonshot Challenge」(シスコシステムズと慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科共催)への応募をきっかけとしたもの。プレゼンテーション審査などを経て2020年10月に優秀賞が決まった。

メイン提案者である同社メンバーの小林寧々さんは、「マイクロツーリズムへの関心が高まる中、密を避けつつ近場でアウトドア観光できるためのツールを実現できたらと取り組んできた。個人消費者向けのサービスである点に新規性を打ち出した」と話す。

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アミュラポ代表の田中克明さん。早稲田大学でロボット技術の研究により博士号(工学)取得。2020年3月に同社を創業。(写真提供:アミュラポ)

今後、シスコ東京本社(東京都港区)内ショーケースでの展示を経て、2021年4月以降にウェブ版のアプリを公開する予定だ。

収益性の確保が課題となりそうだが、代表の田中克明さんは、「将来的には、おすすめ穴場の周辺にある飲食店やホテルなども案内して売上マージンを得たり、このコンテンツを駆使したツアーパッケージを開発するなどして、収益化をめざしたい」と話す。

NTT東日本が地域活性化へ協業を探る

アミュラポは「NTT東日本賞」も受賞した。電話やインターネットに次ぐ第三の柱としてデジタル事業に注力するNTT東日本は、アミュラポとの協業の将来性などを期待し、賞の授与を決めた。同社の下條裕之さんは、「エンタメ要素をビジネスに採り入れる発想は私どもには少ない。その補完性を重視した」と話す。

同社の顧客の大多数は各地の中小企業や個人だ。地域活性化という方向性も、「星みくじ」に見られるアミュラポのローカリティ重視の姿勢と一致した。「センサーなどの虫の目データと人工衛星などの鳥の目データの組み合わせで、豊かな地域社会を実現したい。さまざまな協業の仕方を探っていく」(下條氏)

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NTT東日本賞のトロフィーを渡す下條裕之氏(左)。東日本電信電話株式会社(NTT東日本)デジタルデザイン部担当課長。2019年にデジタルデザイン部を発足させ、同年7月よりデジタル技術戦略やデジタル人財育成や、宇宙IoTの推進などを担当。

日本は「宇宙利用大国」目指す小国

日本が「自立した宇宙利用大国」となることを目指し、2020年12月に改訂された宇宙基本計画では、「宇宙を推進力とする経済成長とイノベーションの実現」を宇宙政策の具体的アプローチのひとつとしている。

その主な取り組みに含まれているのが「異業種企業やベンチャー企業の宇宙産業への参入促進」だ。内閣府や経済産業省は、民間による宇宙産業振興を目指した取組との連携などを通じ、宇宙ビジネスの事業化を支援すると謳う。総務省も、宇宙産業への新たな参入や関係者間の連携などを促進すると意気込む。

国がこうした取り組みを掲げるのは、まだ異業種企業やベンチャー企業の宇宙産業への参入が進んでいないことの裏返しでもある。世界には1000超の宇宙ベンチャーがあるが、日本では40社ほどとされる。現在の「小国」感は否めない。

ビジネスの成否はこれから

宇宙ベンチャー支援への人びとの支持は強い。NTTデータ経営研究所が2020年10月に実施した「宇宙に関する認知度・関心度などについてのアンケート」では、宇宙産業におけるベンチャー企業への支援をすべきかを聞いている。「支援すべきだ」は全体で83.4%。中でも15〜19歳では男性98.2%、女性92.4%と高かった*3。

宇宙ベンチャーの課題も期待もある中、個人消費者向けの宇宙ビジネスは、世界的にも未成熟の状況といえる。まとまった収益が望める国立機関向けや民間企業向けのビジネスに比べると、一般消費者向けビジネスには不確定要素が多く、収益性確保の算段を立てるのは難しそうだ。

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コンテストで発表したビジネス像。BtoCとBtoBを組み合わせることで収益化を目指し、地元の事業者との連携を強める考え。(資料:アミュラポ)

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だが、情報通信技術の発展により、衛星データと地上ネットワークを連携させるプラットフォームは整備されてきている。発想や工夫次第では、地球観測データなどの宇宙由来情報資源から、個人にとっての快適性や娯楽が誕生する可能性はある。

「利用できる情報資源は増えてきている。これら資源と自分たちの知見をもとに、宇宙産業の市場拡大に貢献していきたい」(田中氏)

ベンチャー企業が踏みだそうとしている「小さな一歩」は、宇宙産業にとっての「偉大な一歩」となるか。成否はこれから決まる。

*1:総務省 宙を拓くタスクフォース(第6回) 資料6-5「宇宙産業の市場予測」
*2:宇宙基本計画(令和2年6月30日閣議決定)
*3:NTTデータ経営研究所「宇宙施策に関する意識調査」

漆原 次郎

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