退陣説チラつく中、ワクチン接種加速で総選挙に自信深める菅首相

退陣説チラつく中、ワクチン接種加速で総選挙に自信深める菅首相

  • JBpress
  • 更新日:2021/06/14
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菅義偉首相。6月1日参議院厚生労働委員会で(写真:つのだよしお/アフロ)

新型コロナウイルスワクチンの接種スピードが上がっている。総務省は6月2日、高齢者への接種が7月末までに終わると回答した自治体が98.7%に上ったと発表した。わずか1カ月前、自治体窓口への予約殺到など、さまざまなトラブルが起こっていたが、行政実務をこなすフェーズに入ればそれほど心配はない。菅義偉首相はコロナ対策に手ごたえを感じ始めているようで、今秋に行われる衆院選での「勝利」にも自信をのぞかせているという。

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「コロナ対策」以外の政策にも邁進する首相

「例の件、進みましたので」

6月初旬、ある業界団体の幹部の携帯電話が鳴った。菅首相からの着信だった。懸案だった業界の政策案件について、前向きな報告があったというのだ。産業政策について、菅首相が団体幹部や経営者らと直接電話でやり取りすることは珍しくない。

菅首相は現在、月内発表予定の「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)に強い関心を寄せている。自ら内容面の詳細な確認も行っているという。

コロナ後を見据えた「グリーン成長戦略」の仕込みにも余念がない。首相官邸ホームページには「グリーン社会の実現」「2050年カーボンニュートラル」「政府が環境投資で大胆な一歩を踏み出します」との言葉が躍る。

6月11日から始まるG7サミット(主要7カ国首脳会議)でも、コロナや五輪だけでなく、安全保障についても積極的に取り上げる見通しだ。コロナ対応だけで消耗しているかと思いきや、そういうわけではないようだ。

「順調にワクチン接種が行われている。早ければ8月ぐらいから、国内旅行の募集状況は一気に回復するだろう」

6月上旬、ある大手旅行会社の幹部はこう語った。年末年始にはワクチンがほぼ行き渡り、ホテルや旅館は予約できなくなるだろうとの予測も示した。海外旅行に関しても同じような傾向とのことで、都内の中堅旅行代理店は年明けの以降、高所得者層を対象にした欧州方面のツアー企画準備に入っているという。

ワクチン接種のスピードアップは、あらゆる分野に好影響をもたらす。日本経済にとってこの上ない朗報であり、菅首相にとっても待ちに待った吉報となる。

確かに現在は、外食産業の壊滅的危機に有効な策を打てているとは言えず、東京五輪開催に対する国民の不信感も根強く、政権運営は綱渡りだ。

それでも、内閣支持率は低くても30%台前半にとどまっており、高ければ40%前後を維持している。政権が瓦解するような気配は全くなく、党内の雑音も少ない。このままワクチンが行き渡り、東京五輪を小規模で手堅く開催できれば、菅政権は完全に息を吹き返す。

総選挙、自民は10~20議席減程度か

もっとも、これだけ国民に「自粛」を要請し、怨嗟の対象になっている菅政権だ。永田町には正反対の見方もある。政界関係者の中には今秋の衆院選の情勢について「自民党は30~40議席減らす。菅首相は退陣だ」と見る者が実は多い。理由を問うと「菅首相では選挙は戦えない」「五輪強行が裏目に出る」「政治とカネの問題も大きい」といったものがほとんどだ。

ならば数字を大まかに点検してみよう。

衆院の定数は465、過半数は233。現在の自民党の議席数は277(議長含む)である。仮に45議席減らせば単独過半数を割る。この場合、菅首相の退陣は確実となる。

ただし、45議席減のシミュレーションは難易度が高い。まず、立憲民主党の小選挙区での公認候補者数(内定含む)は5月上旬時点で約210人。全小選挙区(289)の7割程度である上、過半数(233)にも届いていない。衆院選まで残り3カ月余でどこまで擁立できるかにもよるが、自民党から45議席以上を奪える勢いはなく、その環境も整っていない。内閣支持率や世論の動向だけで45議席が減るほど選挙は単純ではない。小選挙区制では候補者数が党勢の基数となる。

自民党は公明党に譲る9選挙区を除く280選挙区のうち、5月上旬までに265を固め、さらに複数候補が公認を目指す選挙区が7もある。空白区はごくわずかにとどまっており、臨戦態勢に入っている。

選挙実務に通じた野党関係者は、

「立憲民主党は今の状況では、風が吹いても140議席程度しか取れない。候補者が少ない。『かかし』を立てて初めて比例票が増える。内閣支持率が今後上がることを考えれば、自民党は悪くても20議席減ぐらいではないか」

との認識だ。

総裁選→衆院選のシナリオ

「衆院選で勝利すれば総裁選の必要はない。すなわち無投票だ」との意見が、自民党内で表面化してきたのは今年1月下旬である。いわゆる「衆議院選を総裁選前にやり、総裁選は無投票で済ませる」という構想だ。

9月末に自民党総裁の任期が切れる。党員投票の日程や衆院議員の任期を勘案すると、「9月6日告示、9月18日投開票」の線がある。菅首相は状況次第では、総裁選に正面から挑み、党員投票を通じて党を活性化させ、その勢いで衆院選に臨むだろう。安倍晋三前首相、麻生太郎副総理兼財務相が対抗馬を立てる構えは現時点ではなく、岸田文雄氏らと再び総裁選を行えば圧勝するとみられる。

なお、筆者は昨年12月、任期満了、衆院解散、いずれの場合でも、衆院選投開票は10月17日であると予測した。今もこの予測は変わっていない。最近は先に触れた「無投票の総裁選」を前提に「10月10日説」もささやかれ始めているが、むしろ筆者はこの「17日」が軸だと思っている。

(参考)来年の総選挙、菅首相の本命は「10月17日」
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63346

菅首相主導で「政治日程」を組めるのは、繰り返しになるが野党の弱さにある。6月16日の国会会期末に向け、立憲民主党は内閣不信任案の提出を検討しているものの、踏み切れない公算が大きいだろう。即時の解散を迎え撃つ覚悟があれば流れも変わるが、現状はそういう雰囲気ではない。

菅政権が防戦一方でありながら政権を維持し、野党が低迷している背景には、ワクチン接種に否定的な姿勢がある。立憲民主党の枝野幸男代表は5月26日のラジオ番組で「菅首相はワクチン頼みだ。ワクチン頼みでない抑え込みに舵を切らないとだめだ」と厳しく批判した。国民が熱望しているのは全世代へのすみやかな接種である。世論をつかめていない野党に菅政権は常に助けられていると言える。

来年の参院選を乗り切れば長期政権

菅首相の試練は、むしろ来年夏の参院選である。コロナが一定程度収束した局面で、どれだけ経済状況が好転しているかがポイントとなる。衆院選で敗北して首相が辞任した例は、自民党に限っていえば過去40年間で1993年と2009年の2回しかない。しかも、いずれも政権交代である。それに対し、参院選の敗北で首相が退陣した例は1989年、1998年、2007年と3回もある。鬼門は参院選なのだ。

自民党内に目を向けると、不安材料はやはりキングメーカーである安倍前首相の動きである。菅首相が台湾へのワクチン提供を迅速に決定したのは、安倍前首相を意識した動きとの分析もある。親中派の二階俊博幹事長ではなく、親台派の総帥である安倍氏との距離の詰め方は絶妙だ。二階、安倍の二大実力者をうまく“扱い”ながら、菅首相は長期政権を視野に入れていると見るべきだろう。

紀尾井 啓孟

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