都電荒川線、函館市電など路面電車「流し撮り」 プロの鉄道写真家がこだわる3つの“秘訣”

都電荒川線、函館市電など路面電車「流し撮り」 プロの鉄道写真家がこだわる3つの“秘訣”

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  • 更新日:2022/08/06
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飲食店二階の窓から約40パーミルの学習院坂を下る都電を狙った。明治通りを行き交うバスやトラックが都電と被ぶらないことを念じてシャッターを切った。学習院下~面影橋 キヤノンEOS-1D MarkIV EF24-105mmF4L IS (58mm) 1/100秒f11 ISO100(撮影/諸河久:2012年4月7日)

1960年代、都民の足であった「都電」を撮り続けた鉄道写真家の諸河久さんに、貴重な写真とともに当時を振り返ってもらう連載「路面電車がみつめた50年前のTOKYO」。前回は坂路を利用した「浮かし撮り」の話題を紹介した。今回から路面電車の走行感を強調する鉄道写真の代表的なテクニックである「流し撮り」のノウハウを解説しよう。

【諸河カメラマンが撮影した函館市電やとさでんなど貴重な「流し撮り」はこちら(計5枚)】*  *  *

「流し撮り」とは走っている被写体(路面電車)を画面の中で止めて、周辺の景色を流してしまう撮影テクニックだ。路面電車の走行感を強調した印象的な作品表現ができる。

いっぽう、近年普及したLED仕様の行き先表示器を装備した路面電車では、車体を写し止めるために必須な1/500秒などの高速シャッター速度を選択すると、LED表示文字が切れたり、欠けたりする現象が発生するようになった。1/125秒や1/60秒の遅いシャッター速度を選択し、今回の流し撮りや次回紹介する「露光間ズーム流し撮り」のテクニックを応用すれば、車体を写し止めたうえにLED表示文字もしっかり再現できる。

■二つのケースの「流し撮り」

流し撮りを大別すると二つのケースが考えられる。

A. 撮影者は静止していて、路面電車の進行方向に向けてカメラを構え、腰を回転させるようにしてシャッターを切る。

B. 路面電車と同じ方向に走る電車や自動車の中からカメラを構え、シャッターを切る。

両者のうちでAのケースが一般的な流し撮りといえよう。Bのケースは被写体の電車を並行して走る電車や自動車などで追いかけながら撮影する方法だ。いずれの場合でも遅いシャッター速度で路面電車の動きを同調させると走行感に溢れた作品をモノにできる。

冒頭の写真は、Aのケースによる流し撮りで、都電荒川線(東京さくらトラム)学習院下付近を早稲田終点向けて快走する7000型を狙った。画面手前の荒川線と並行する明治通りに沿った飲食店の二階からデジタル一眼レフのシャッター速度を1/100秒にセットし、進行方向である車体右側運転台付近にキッチリ同調させている。

次のカットはBのケースによる流し撮りで、走り去る函館市電(現・函館市企業局)のレトロ電車「ハイカラ號」の後部を同速度で走る自動車車内から1/30秒のシャッター速度で撮影。周囲の景色の流れがAのケースと大きく異なることに注目されたい。

■「流し撮り」成功の秘訣

本稿ではAのケースによる流し撮りの考察を進めて行こう。流し撮りは以下の1~3の手順で撮影しよう。

1. 定められたフレーミングの中で流し撮りする被写体(路面電車)の動きを見極める。

2. カメラを構えた腰をゆっくり回転させ、ここと思ったところでシャッターを軽く押す。

3. 腰の回転は止めずにそのまま続ける。

「流し撮りをするぞ!」と力まず、肩の力を抜いた自然体で撮影することも成功の秘訣だ。

筆者が路面電車の流し撮りに挑んだのは1968年頃で、流し撮りの入門書や自然体で撮影する教示などは皆無の時代だった。

次の写真が横浜市電の単車をモチーフに流し撮りした一コマ。被写体の見極めが甘かったことと、流し撮りを意識して力んでカメラを回転させたことなどが相乗して、習作とはいえ、稚拙な結果だった。

■動きを掴みやすい中望遠レンズ

フレーミング中の路面電車の大きさを同一とした場合、レンズの焦点距離が長いほど見かけ上の電車の動きが遅くなるから、広角レンズより標準レンズ、標準レンズより中望遠レンズの方が路面電車の動きが掴み易くなる。

次の写真は、旧JR富山港線をLRT化した「富山ライトレール(現・富山地方鉄道)」岩瀬浜行きのLRV(ライト・レール・ビークル)を被写体にして、デジタルカメラに装填したズームレンズを70mmにセット。フレーミングの中で先頭部運転台辺りの動きを見極め、カメラを構えた体を軽く回転させて流し撮りした。電車の速度が高かったために、1/60秒のシャッター速度でもかなりの走行感が描写できた。

晴天に恵まれた富山ライトレールの開業初日は溢れんばかりの乗客が押し寄せ、各電車は満員の盛況だった。家並の背景には冠雪した立山連峰が写っている。

■シャッター速度の選択

流し撮りのシャッター速度の選択は、遅いシャッター速度になるほど電車と同調する範囲が狭まり、流し撮りの成功率が低下する。絶対モノにしたい「ここ一番」のシャッター速度は1/125~1/60秒の選択をお勧めする。

最後の写真がダイヤモンドクロッシングで有名な土佐電気鉄道(現・とさでん交通)のはりまや橋交差点で、失敗を恐れず1/4秒の遅いシャッター速度で流し撮りした一コマだ。ファインダー内で電車の前頭部を凝視しながら、腰の回転を滑らかにしてシャッターを切った。この速度になると車体への同調範囲が極端に狭くなり、辛うじて前面の連結器の辺りに同調してくれた。

真横からの流し撮りに成功したら、斜め前や俯瞰からの流し撮りにも挑戦してみよう。苦手意識のある人でも、近隣の路面電車を標的にして流し撮りの反復練習をすることが肝要だ。フィルムの時代と違って、デジタル撮影なら流し撮りの結果がすぐに判明するから、早期にコツが呑み込めるだろう。

■撮影:2012年4月7日

◯諸河 久(もろかわ・ひさし)
1947年生まれ。東京都出身。写真家。日本大学経済学部、東京写真専門学院(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。鉄道雑誌のスタッフを経てフリーカメラマンに。著書に「都電の消えた街」(大正出版)、「モノクロームの軽便鉄道」(イカロス出版)など。2022年6月に「EF58 最後に輝いた記録」をフォト・パブリッシングから上梓した。

※AERAオンライン限定記事

諸河久

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