「誰とでも仲良く」親の教育が少年に起こした悲劇

「誰とでも仲良く」親の教育が少年に起こした悲劇

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/09/23
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親の「よかれと思って」が招いた悲しい結末とはーー(写真:mits / PIXTA)

親が「よかれと思って」実践している声かけ・子育てが子どもの未来を呪ってしまっている――。そう語るのは、元法務省でこれまで1万人の犯罪者・非行少年を心理分析してきた犯罪心理学者の出口保行氏。出口氏の最新刊『犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉』は、そんな実例をまとめた子育ての解説書になっている。

本記事はその中から、「みんなと仲良く」という言葉についての解説を抜粋。大人の世界では仲良くない知人も当たり前に存在する。それにもかかわらず、大人は子どもに「仲良くしなさい」「友だちができて偉い」と言ってしまいがちだ。知らず知らずのうちに、子どもに「きれいごと」を押しつけていないだろうか。非行少年に限らず、どんな家庭でも気をつけておきたい注意点と解決策を解説する。

※本記事に出てくる実例はプライバシー等を考慮し一部改変しています。

責任感が爆発してしまったワタルが向かったもの

ワタルはごく普通の中学2年生。成績は中くらいで、クラスの中ではみんなと仲良く付き合い、のけものにされたりいじめられたりしたこともありません。部活はサッカー部。小学生の頃から地域のスポーツ少年団でサッカーをしており、レギュラーポジションを獲得していました。

そんなワタルの悩みは、自己主張ができないこと。両親からは「みんなと仲良くしてね」と言われ続けてきたので、人の顔色をうかがうのが常となり、自分の意思表示をする前に「人はどう思うだろう」と考えてしまいます。

小学生のとき、サッカーチームでおそろいのユニフォームを作りたいと両親に話したところ「出しゃばらなくてもいいんじゃない」と言われたことがきっかけで、思ったことを言うのが怖くなりました。

その後も、何か提案しようとすると「○○君ちの意見も聞いてからにしないと」などと否定され続けました。こうしてワタルはやりたいことがあっても「どうせうちの親は賛成してくれないだろう」と考え、積極的になれなくなっています。

中学2年生になって、小学校時代から苦手なシンジと同じクラスになりました。シンジは自分の意見を持っていてハッキリものを言うリーダータイプ。同じサッカー部では次期キャプテンと言われています。シンジは何かにつけてワタルにつっかかり、「言いたいことがあるなら言えよ」とけしかけてくるのでした。

「いや、別になにもないよ……」

衝突を避けようとするワタルがかえって気に障るのか、シンジの行動はエスカレート。サッカーのプレイ中にわざと足をひっかけてきたりします。ワタルのストレスはたまる一方で、部活も休みがちになっていきました。

「何か悩みがあるんじゃないか?」

放課後の教室でぼんやりしていたとき、ちょっと不良っぽくてかっこいいミツヤが声をかけてきました。ミツヤは運動会では応援団長をつとめるタイプで、みんなが一目置く存在だ。ワタルははじめて心の内を明かします。

「本当はシンジが嫌いなんだ。でも、親にそんなことは言えないし、誰にも言えなくて」

「なんで親に言えないの?」

「みんなと仲良くできない子はダメなんだって。弟も見てるからって」

「そっか……。オレは嫌いなヤツがいてもいいと思うけど」

ワタルは話を聞いてくれたミツヤになつくようになりました。ミツヤから「今度一緒に万引きしない?」と誘われたときは、悪いことをするというより「ミツヤ君と秘密を共有する」という感覚が強く、躊躇せずに誘いにのったのです。

実はミツヤは万引きの常習犯です。

お金に困っているわけではありませんが、スリルを楽しむためにゲーム感覚で万引きを繰り返していました。最初はひとりでやっていましたが、さらなるスリルを求めて仲間と盗んだものの量を競うようになっていました。

メンバーの中では「盗ったものは売らないよ。量を競争するゲームなんだし。あとで返せばいいんだから」などと非行の正当化もされています。実際、読みもしない雑誌や本を盗んで、ただ家に積んでいるのです。

そしてワタルもミツヤの仲間数人と大型書店で本を万引きし、それが常習化していったのでした。

「みんなと仲良く」のウラにあるもの

ワタルは両親から「みんなと仲良くしなさい」と言われ続けたために、自己主張ができずストレスをためていました。両親は「協調性が大事」という価値観を持っていたようです。この価値観自体は何も悪くありません。

ただ、すべてにおいて協調性を優先し、ワタルの気持ちを聞かなかったのが良くありませんでした。「みんなと仲良く」=「個性を抑えろ」というメッセージになってしまっていました。ワタルにとって決定的だったのは、「チームでおそろいのユニフォームを作りたい」という希望を親に伝えたとき、「出しゃばるな」と言われたことです。「自分の希望を言ってはいけないのだ」と思うようになってしまいました。

ワタルは一見、みんなと仲良くできており、学校生活に問題はないように見えます。しかし、シンジを嫌い、仲良くしたくないという悩みを抱えています。大人からすれば大したことないように思えるかもしれませんが、本人にとっては大問題です。部活を休みがちになったというのは、ワタルからのSOSです。この頃の様子は確実に違ったはず。

両親がそれに気づいて話を聞いてあげることができればよかったのですが、声をかけたのは万引き癖のあるミツヤでした。はじめて本音を聞いてもらえたことで一気に仲が深まり、あっというまに万引きグループに入ったのです。

周囲の反応をうかがう子は、自己決定力が弱い

「普通の子がなぜそんな非行を」とまわりは驚いたのではないでしょうか。でも、自己主張することを許されずに、周囲の反応をうかがいながら生活している子は、自己決定する力が弱いのです。人に合わせることは得意でも、人を批判的に見ることができないので、「これは悪いことだからやめておこう」という判断もできなかったのです。

みんなと仲良くできるのは理想かもしれません。しかし、大人が子どもに向かって「仲良くしなさい」というとき、そのウラには大人側の都合が隠れていないでしょうか。トラブルが起きたら面倒くさいことになる、だから仲良くしておいてほしい。こういった大人側の都合で言っていることは子どもにもわかります。そして、自分は大事ではないのだと感じます。

子どもだって仲良くしたいと思っているでしょう。でも、そうできない理由があるから困っているのです。仲良くできないなら、どうすればいいのか考えようというスタンスで話を聞くのがいいのです。

今回の事例では、ユニフォームの提案があったときに、まずは話を聞いてあげるべきでした。「どうしてそう思うの?」と考えを聞いたうえで、「お父さんやお母さんは、まわりの人の意見がどうなのかが気になるんだ」「意見がまとまらずにこの話が長引くと、ワタルがサッカーに集中できなくなるんじゃないかと心配してるんだ」というように、親の考えも話せばいいのです。

最終的には親の考え通り「今回はやめておこうか」となったとしても、ワタルは自分の意見を言ってもいいんだと思えるはずです。

また、シンジと仲良くできない悩みをワタルは親に話すことはできませんでしたが、もし相談してくれたなら、とにかく話を聞くことです。頭ごなしに「仲良くしなさい」なんて言ったら最悪です。「そんなヤツと付き合うのはやめなさい」と言うのも同じようにダメです。親が指示することではないのです。

さらに言うと、「私が話をつけてくる」と相手の親や学校に言いに行くのも解決になりません。子どもに頼まれたならともかく、親が勝手に話を進めれば、子どもは気まずいに決まっています。

心理的距離のとり方を学んでいく

身のまわりにいる人が好きな人ばかりだったらいいのですが、そうでないことだって多いもの。嫌いな人がいるのも普通のことです。

好き嫌いの感情をなくすことはできません。大切なことはそれを認めたうえで、嫌いな人とどう付き合うかです。そのときにカギになるのは「心理的距離のとり方」です。

物理的には近いところに嫌いな人がいても、心理的に距離をとって付き合えばストレスが少なくなります。極端な話、「近くにいても、心は何億光年も先の星」というくらい遠いつもりで、当たり障りなく付き合えばいいわけです。

……と言うのは簡単ですが、実際には非常に難しいのがこの「心理的距離のとり方」です。相手がいるので、こちらがいくら距離をとっても相手がつめてくるかもしれません。すると、それに引っ張られてこちらも近い距離で考えてしまう。結果として、ストレスをためることになります。

以前、ご近所トラブルを起こしていた方の心理分析を担当したときの話です。その方は毎日のように鍋を打ち鳴らして騒音を出し、ゴミをまき散らして住宅街を汚していました。近隣住民からは総スカンをくらい、ますます迷惑行為がひどくなります。

心理分析をすると、実は近所の人と仲良くしたいという気持ちからこじれていたことがわかりました。仲良くしたいと思って話しかけたのが、無視されたとか誤解されたという些細なトラブルになったのがきっかけです。その方は仲良くできないつらさを受け入れられず、迷惑行為として表出させてしまったのです。

その方にしても、トラブルとなったご近所さんにしても、心理的な距離をうまくとることができていれば大きな問題には発展しなかったことでしょう。近所に住んでいるわけですから、もちろん物理的には近く、しばしば顔を合わせることになります。

しかし、心理的距離が遠ければ相手のことはさほど気になりません。顔を合わせたら挨拶をし、困っている様子があれば声をかける。そのくらいの距離感であればお互いに心地よい関係性になれます。やり取りの中で自然に距離が近くなることはありますが、どちらか一方が急に濃厚な人間関係を求めて距離をつめて親密になろうとしたりすると関係がうまくいかなくなります。

このように、バランスをとることができずにエスカレートしていくご近所トラブルは多いです。「顔を見るのもイヤだ!」とストレスを爆発させるのは、心理的距離が近すぎるのです。

さまざまな人間関係を経験してきた大人は、このバランスをとるのが上手です。相手に合わせるのでなく、かといって相手を変えようとすることもなく、ちょうどいいコミュニケーションをとることができます。

一方、経験の少ない子どもにとっては難しいことです。だからこそ、失敗もしながら経験を増やしていくことが重要です。

ワタルにとって、苦手なシンジとどう付き合っていくかは、良い学びにもなったはずです。これも親が指示をするのではなく、本人が考えることが重要です。「シンジが嫌いだ」という相談があったなら、話をよく聞きながら「どうしてだと思う?」「相手はどう思っていると思う?」というように子どもが自分で考えるためのサポートをすることです。

きれいごと教育の問題点

「みんなと仲良く」のようなきれいごとを押しつけると、必ず問題が出てきます。実際にはできないので、ギャップに苦しむからです。子どもは「みんなと仲良くできない自分はダメだ」と思ってしまいます。「みんなと仲良く」と言っている大人ができていないのだから、不信感にもつながるでしょう。

「嘘をついてはいけない」もそうです。

詐欺のように人を騙して不当に利益を得たり、嘘をついて相手を傷つけたりするようなことはしてはいけません。しかし、誰しも小さな嘘ならついたことがあるはずです。「私は嘘をついたことがない」なんて言ったら、それこそ大嘘ではないでしょうか。

人を傷つけないためにつく嘘もあります。自分を守るためにつく嘘もあります。嘘は全部ダメだと言ってしまえば、実際に嘘をついてしまったときに困ることになります。一度ついた嘘を訂正することができず、嘘を重ねなければなりません。

日本テレビ『ザ!世界仰天ニュース』の中で私がコメントをした事件のひとつに、「見栄を張りたくてついてしまった小さな嘘が…可愛い後輩の命を奪う」(2022年4月19日放送)というものがありました。

事件を起こしたのは、面倒見がよく、後輩から慕われることの多かった30代の男。感染症がきっかけで足を失い、仕事ができなくなったところから始まります。男が足の手術で病院に入院中、仲良くなった大学生がいました。大学生は、この優しく面倒見のいい男を慕っていろいろ話しかけてくれます。

あるとき男はこの大学生に対し見栄を張って、「ネットビジネスで稼いでいる」と嘘をついてしまいます。本当は、ネットビジネスに手を出したものの、失敗して借金を抱えているというありさまです。

最初は小さな嘘でした。しかし、これを訂正することができず、嘘に嘘を重ねることになります。大学生が「バイト先なくなっちゃったんですよ」とお金に困っていることを話すと、「じゃあ、うちの仕事手伝う?」と何の根拠も実態もないことを言ってしまう。

にっちもさっちもいかなくなり「この後輩を殺すしかない」と思い詰めます。そして、10歳以上年下の大学生を殺害して財布から9万円を奪うという強盗殺人を犯し、無期懲役の判決がくだされました。

「自分の人格が否定される」という恐怖心

この男を実際に心理分析したわけではありませんが、類似した多くのケースを見て感じるのは、小さな嘘も「訂正したら嘘つき呼ばわりされるだけでなく、自分の全人格が否定される」という恐怖心を持っているということです。

「ごめん、かっこつけたくて嘘ついちゃった。本当はネットビジネスで失敗して、借金があるんだ」と言えればよかったのに、そんなことをしたら自分が全否定されてしまうように感じている。歪んだ自己顕示欲がその背景にはあるのです。

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要するに、こういう人は自分に自信がありません。仲良くなった相手も、おごってあげたり仕事を紹介してあげたりしないと、その人に好きでいてもらえる自信がないのです。

この例からもわかるように「嘘をついてはいけない」とだけ教えられた子は、遅かれ早かれ苦しむことになるでしょう。「あれは嘘でした、ごめんなさい」と言えることが大事です。間違ったら修正すればいいのです。誰しも間違うことはあるのだし、間違ったからといって人格的な価値が下がるわけではありません。

嘘を告白し、訂正するのには勇気がいります。もし子どもが「嘘でした、ごめんなさい」と言えたらその勇気を褒めていいと思います。

また、大人が嘘をついたとき、適当にごまかせば不信感につながります。「こういう理由で嘘をついてしまいました。ごめんなさい」と伝えたほうがいいのです。

(出口 保行:犯罪心理学者)

出口 保行

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