
土器について解説する熊本大学の小畑弘己教授(デジタルミュージアムから)
古代人が土器を作る際に粘土のなかに混入した植物や昆虫の痕跡から農耕の起源や古代の暮らしを研究している熊本大学の小畑弘己(おばたひろき)教授らの研究グループがこのほど、研究成果をまとめたデジタルミュージアムを開設した。小畑教授らはこれまで「縄文時代末にすでにイネが伝来していた」「外来種といわれていたクロゴキブリが縄文時代以来の在来種だった」といった新発見を発表しており、X線CTスキャナーなど最新の調査方法で判明した成果が豊富な画像を使って分かりやすくまとめられている。

デジタルミュージアムで公開されている土器の中にあった種子などの3D画像
小畑教授によると、縄文土器は形や装飾から「型式編年」というものさしのようなものがあり、いつのどこの土器か正確に分かるという。これまで土器の研究は形や装飾のほか表面に残った煮炊きの残留物や鉱物の成分などを中心に進められてきた。しかし、新しいアプローチとして土器の表面などに残る植物や昆虫の跡「土器圧痕(あっこん)」を調べる手法や土器を作る際の粘土に紛れ込んだ植物や昆虫をX線CTスキャナーや人工知能(AI)を使って調べる方法が登場。炭素年代測定も加え、小畑教授らは土器の中に眠っている古代の情報を〝掘る〟新たな研究に取り組んでいる。
こうした研究は「土器を掘る・22世紀型考古資料学の構築と社会実装をめざした技術開発型研究」として令和2~6年度の文部科学省の科学研究費助成事業に採択され、考古学のほか植物学・昆虫学・農学・薬学・化学など多分野の研究者が協力して、これまでに発掘された日本各地の土器を改めて調査してきた。同事業期間の前半を終えたことから、これまでの研究成果をインターネット上のデジタルミュージアム「土器の中のタネ・ムシが描く縄文人」として公開。3D画像やビデオなどを使って一般向けに分かりやすく紹介している。
ミュージアムでは①土器圧痕で発見されたダイズの種子が縄文時代前期~中期にかけて集落の大規模化と歩調を合わせるように大型化していることから、約7000年前に栽培が開始された②数百個もの種子が入った土器が見つかったことから、作物の豊穣(ほうじょう)を願って土器を大地に見立ててタネをまく播種(ばんしゅ)の疑似行為(儀礼)が行われたのではないか③害虫コクゾウムシが500匹以上練りこまれた土器はコクゾウムシをクリの化身にみたて、クリの豊穣を願って混入したのではないか-など農耕の伝来や古代人の暮らしについて興味深い考察が掲載されている。
小畑教授は「土器のなかをX線でのぞくと、まさにワンダーランドが広がっている。〝土器を掘る〟研究はこれまでの考古学者が見えなかったものを見えるようにする22世紀型の考古資料学といえます」と話している。デジタルミュージアムのURL(https://dokiwohoru.jp/frmDefault.aspx)