【サイトカイン】見えない免疫物質「驚愕の実力」

【サイトカイン】見えない免疫物質「驚愕の実力」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2023/11/21
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ウイルスや細菌などの病原体がどのように感染を起こして、からだはどのようにして、それらの病原体に対抗しているのでしょうか。病原体から体を護る「免疫」の働きとしくみをご紹介していきます。

今回は、サイトカインについて、整理してみましょう。アレルギーをお持ちの方ならご経験がある方もいるかと思いますが、医師の説明や解説本などで、「IL-○」「INF-××」といった物質名に出会います。いずれもサイトカインの1つなのだそうですが、いったいどのような違いがあって、体の中でどのように働くのでしょうか。サイトカインの色々を、わかりやすく解説してもらいました。

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*本記事は、ブルーバックス『免疫「超」入門』から、内容を再構成・再編集してお届けします。

体にウイルス侵入! そのとき、何が起こっている?

私たちの体には、感染に対するさまざまな防御機構が備わっています。病原体が体内に入るとそのシステムが働き始めるのですが、時期の早いものから、バリア障壁、インターフェロン、自然免疫、獲得免疫、免疫記憶です。

このうち、一つ目のバリア障壁は、いわば水際対策で、粘膜の上皮細胞や皮膚の角化細胞がしっかりシールされ、病原体を侵入させないようにします。さらに粘膜組織は、粘液を分泌することによって病原体を洗い流します。たんや唾液、涙も、病原体を洗い流す働きがあります。くしゃみや咳も、肺に入りそうな病原体を吐き出すバリア障壁といえます。

バリア障壁の一部は、主に免疫細胞が出す「サイトカイン」というタンパク質によって制御されています。サイトは「細胞」、カインは「作用する物質」を意味します。サイトカインは細胞間情報伝達分子の総称で、たくさんの種類があります。

サイトカイン

サイトは「細胞」、カインは「作用する物質」の意味

免疫細胞が出すタンパク質「細胞間情報伝達分子」の総称で、たくさんの種類がある

例えば、インターロイキン22(IL-22)というサイトカインは、細胞間のシールを強化し、細胞から抗菌作用のある分子を分泌させます。IL-13は、粘液をたくさんつくらせます。インターは「間」、ロイキンは「白血球由来」を意味します。

1960年代に、「ある免疫細胞が産生する、ある生理活性物質を単離することに成功した」とする猛烈な数の報告がありました(単離とは、さまざまな物質が混ざり合った中から特定の物質だけを分離すること)。そして発見者がそれぞれに、生理機能をもとに名前を付けたため混乱が生じました。

例えばIL-6の場合、B細胞分化因子、B細胞増殖因子、インターフェロンβ2、肝細胞刺激因子……と多くの名前が付けられ、後にすべて同じものであることがわかりました。

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インターロイキン1が、細胞膜の細孔から分泌される様子をイメージした立体模型図 photo by gettyimages

それだけインターロイキンは多様な生理機能を持つということですが、同じ物質がいろいろな名前で呼ばれていると混乱します。そのため1979年に開催された国際会議で、発見された順に数字を振っていき「インターロイキン-X」(Xは数字)とする、と整理されました。現在40くらいまであります。

インターロイキン

インターは「間」、ロイキンは「白血球由来」の意味

免疫細胞が産生する生理活性物質で、多様な生理機能を持つサイトカインのひとつ

サイトカインには、インターロイキンのほか、インターフェロン(IFN)や、赤血球をつくるエリスロポエチン(EPO)、成長ホルモン、細胞を呼び集めるケモカインなど、さまざまなものが含まれます。

インターフェロンがウイルスに負けない細胞をつくる

バリア障壁でいくら侵入を阻止しても、ウイルスが気道や肺の上皮細胞にくっついて細胞内に潜り込んでしまうことがあります。このとき最初に働く防御の武器が、サイトカインの一種であるインターフェロンです。

細胞は、ウイルスが細胞内に潜り込んだことを感知すると、インターフェロンをつくって細胞の外に放出します。「ウイルスがすぐ近くまで来ているぞ」と、周りの細胞に警告を発するわけです。インターフェロンは、まだ感染していない細胞に作用して、細胞を「ウイルス抵抗状態」にします。

ほとんどの生物の遺伝情報はDNA上に書き込まれており、DNAが複製することで子孫に遺伝情報を伝えます。また、DNAを鋳型にしてRNAがつくられ(転写)、RNAの情報をもとにタンパク質がつくられる(翻訳)ことで、生命現象が具現化されます。

コロナウイルスの場合、細胞内に侵入すると、ウイルスのRNAの複製が始まります。また、RNAの情報をもとにウイルスを構成するタンパク質がつくられます。複製されたRNAとつくられたタンパク質が一緒になり、新しいウイルスが次々と組み立てられていきます。そうして増殖したウイルスは、細胞の外に放出され、別の細胞に侵入していきます。

ウイルスに感染すると、感染細胞から放出されたインターフェロンによって、周りの細胞の中では、RNAを分解する酵素や、ウイルスを構成するタンパク質の合成を抑制する因子などが誘導されます。このようなウイルス抵抗状態になった細胞に潜り込んでもウイルスは増えることができず、感染が拡大しません。

新型コロナでも実証された「驚きの実力」

図「インターフェロンによるウイルス増殖の抑制効果」は、培養容器に細胞を入れ、インフルエンザウイルスを接種して3日ほど放置し、染色した結果です。生きている細胞は染色され(紫)、死んだ細胞は染色されないため白く抜けます。最上段を見ると、接種したウイルス量が多くなる(右)ほど、白く抜けていることがわかります。

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インターフェロンによるウイルス増殖の抑制効果

ウイルスが増殖し、多くの細胞が死んでしまったのです。中段と最下段はインターフェロンを培養液に添加したもので、どれも色が付いています。

ウイルスの増殖が抑えられて、細胞は生き残ったのです。最右列を見ると、加えるインターフェロンの量が多いほどウイルスの増殖を抑制する効果が大きいことがわかります。

実際にインターフェロンは、新型コロナウイルスに感染した場合に重症になるか軽症で済むかに関わる重要な因子であることが、4万人以上のデータを用いた大規模な遺伝子解析から明らかにされています。これは重症になった人と軽症だった人の遺伝子を比較して違いを探すというもので、インターフェロンに関連する複数の遺伝子に違いがあることがわかったのです。

重症化と相関がある遺伝子は、ほかにもいくつか発見されています。有名なのは、ABO血液型を決める遺伝子です。O型の人はほかの血液型の人より重症化しにくいことがわかりました。

インターフェロンに対する抗体で重症化

また、重症化した人ではインターフェロンに対する抗体ができる例が多いことが報告されています。自分自身の分子に対する抗体の場合、「自己抗体」と呼びます。

インターフェロンに対する自己抗体ができると、インターフェロンの作用が阻害され、重症化するリスクが高くなるのです。こうしたことから、インターフェロンは感染初期における防御として重要な働きをしていることがわかります。

ところでインターフェロンは、日本人と馴染みが深いサイトカインです。物質としては、1950年代に長野泰一博士、小島保彦博士によって世界で初めて発見され、「ウイルス抑制因子」と命名されました。遅れて発見したイギリスの研究者が、ウイルスの増殖に「干渉(Interference)」することから、「インターフェロン」と名付け、残念ながら、そちらの名前が世界的に広まり定着してしまいました。

インターフェロンの遺伝子を世界に先駆けて単離したのも、谷口維紹(ただつぐ)博士、長田重一博士でした。彼らの成果をもとに、遺伝子組み換えインターフェロンが実現しました。このインターフェロンは、C型慢性肝炎の治療薬として使われていました。ただ現在は、良い飲み薬ができたので、あまり使われていません。

さらに、細胞がウイルスの侵入を感知してインターフェロンをつくらせるウイルスセンサーとして働くRIG-1というタンパク質を世界に先駆けて発見したのも日本人で、藤田尚志博士です。

インターフェロン

ウイルスの増殖に「干渉(Interference)」することから「interferon」と名付けられた。

病原体(ウイルス)などの増殖を抑制するサイトカインのひとつ

インターフェロンは、まだ感染していない細胞をウイルス抵抗状態にして防御する一方で、免疫系の多くの細胞に作用して、さまざまな病気にも関係します。

例えば、先の記事で解説した自己免疫疾患では、全身性エリテマトーデスなどでインターフェロンが慢性的に作用し続けることで悪化することが知られており、インターフェロンの作用を阻害するモノクローナル抗体が治療に使われています。

サイトカインは、広い意味ではインスリンなどの内分泌性ホルモンも含みますが、狭い意味では免疫応答に関与するインターフェロン(IFN)やインターロイキン(IL)などを指し、それでも100個以上存在します。

サイトカインは、おおまかに、マクロファージなどの自然免疫系細胞から産生される炎症性サイトカインと、ヘルパーT細胞などの獲得免疫系細胞から産生されるT細胞サイトカインに分かれます。これらに加えて、赤血球をつくるエリスロポエチン(EPO)や白血球をつくる顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)など造血に関係するサイトカイン(造血因子とも呼ばれます)もあります。

T細胞サイトカインは、先の記事〈免疫を担う「T細胞」…じつは、排除すべき相手で「役割が分担」されていた〉で紹介した1型ヘルパーT細胞(Th1細胞)、2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)、17型ヘルパーT細胞(Th17細胞)が産生するサイトカインです。それぞれ、病原体の種類に応じた異なる免疫細胞を活性化し、目的の病原体を排除するように働きます。

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3種類のヘルパーT(Th)細胞

では、炎症性サイトカインは、どのように働くのでしょうか? じつは、この炎症性サイトカインが過剰に分泌されると、やっかいな事態も生じます。続いて、この炎症性サイトカインの観点から、免疫をのしくみを見てみたいと思います。

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ウイルスなどの病原体がどのように感染を起こし、免疫がどのように働くのか、その複雑なしくみを、基本から正しくわかりやすく解説します。アレルギーのメカニズムや期待されるがんの免疫療法についても取り上げます。

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