中田敦彦の失敗、アメリカザリガニ、吉田尚記、タイムマシーン3号らの挑戦から考えるアバターの可能性

中田敦彦の失敗、アメリカザリガニ、吉田尚記、タイムマシーン3号らの挑戦から考えるアバターの可能性

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  • 更新日:2021/05/05
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生身の人間がアバターを使うとはどういうことなのか。中田敦彦のアバター活動宣言と撤回は、特にVTuber界の大きな話題となった。アバターを断念した中田、活動をつづける芸能人、それぞれの事情をアバターで活動するライター・たまごまごが考える。

中田敦彦、アバター化の顛末

YouTubeで活動している中田敦彦が、今年の3月12日に「2021年4月から顔出しを引退する」と発表し話題になった。「アバターで活動する」というのだ。
そして4月3日、実際に動くアバターでの動画授業を開始。「すぐ慣れるこの顔に」と発言し、顔を出さずに活動することへの熱意を語った。

中田敦彦の一大決心はネタではなく本気だった

アバター化した中田敦彦の動画

そして4月5日、前言撤回動画がアップされた。顔出し引退を辞める、今までどおりやります、とのこと。早い。たった2日の出来事だった。

速攻の撤回の中には、たくさんの気づきがあった

機能型商品ではなくてエンタメ型商品だった

彼が真剣に顔出し引退を考えていたのは、ちゃんとデザイナーに依頼して動くアバターを作っていることからもわかる。しかし「失敗だった」と判断し、即時引き上げることにしたようだ。

アバター化後の動画はすこぶる不評。低評価が多くつき、再生数も半分近くまでがくんと下がった。
撤回のフットワークの軽さは、エンターテイナーとして、またYouTuberとして見事なものだった。ファンの意見を受け止めつつきちんと分析を入れ、一連の出来事自体をエンタメにしてしまった。

本人はアバター化したこと自体は「失敗」とは言っているものの、今回の試みはタレントのアバター化実験としては大いに価値のあるものになった。彼自身アバター化したことで、視聴者の「中田敦彦が観たいというニーズが満たされてない」ということを理解し、自身を「機能型商品ではなくてエンタメ型商品だった」という結論を導き出している。

今回の中田敦彦の手法と、アバター化活動で成功している人の考え方で何が異なるか比較すると、アバター化の意義が見えてくる。
アバターで既存のものを隠すか、アバターで新しい幅を広げるか、の違いだ。

アメリカザリガニの進出

アメリカザリガニはアバター化で大成功している芸人だ。松竹芸能の公式ページには実写のふたりと、VTuberとしてのふたり、両方が登録されている。
特に平井善之は「アメザリひらい」として、尋常じゃない数のVTuberのコラボに出演している。忍者VTuberの朝ノ瑠璃とは、ニコニコ生放送での番組やラジオ配信を行っていたこともある。ボケもツッコミもできる役回りとして引っ張りだこだ。

VR空間内でVTuber朝ノ瑠璃と番組を進行する、アメザリひらい

現在では今までのモデルから一新され、ダンディな初老の男性としてのアバターを使用している。初見だと声以外で平井善之だとわかる人はいないだろう。

ナナメさんが生み出してくれた新しいひらいはこちらです🦞🦞 #アメザリひらい新モデル pic.twitter.com/DOLqM25LW4
— アメザリひらいVTuber (@amezari_hirai)
April 18, 2021
from Twitter

VR漫才のような凝った配信を行ったり、そうかと思えばアバターを使ってただ雑談をしたりと、かなり自由に使いこなしている。

VR空間ならではの漫才を行ったアメリカザリガニ

アメリカザリガニがアバター化したのは、VRの世界に自身が飛び込んで活動する、という目的がはっきりしていたからだ。もともとニコニコ生放送やYouTubeでオタクカルチャー配信への出演は多かったふたり。2018年にバーチャル漫才を披露し、2019年にはVTuberが集まる『NHKバーチャルのど自慢』に出演している。新たにVTuber文化にアプローチするため、それに沿う衣装をまとった、という感覚だろう。

アバターを時と場合に応じてフットワーク軽く便利に活用していること、新しいバーチャル文化へのリスペクトを持って他のVTuberに接していることで、多くのVTuberファンの支持を得て成功しているアバター化の例だ。

吉田尚記の挑戦

ニッポン放送のアナウンサーである吉田尚記は、ラジオパーソナリティや司会業や作家業と忙しい人物のひとり。オタク文化に詳しい彼が2019年2月にラジオ番組『ミューコミ+プラス』でアバター化することを発表した。
現在では一翔剣(命名は輝夜月)としてアバターを使った活動をしており、VRchatやclusterやバーチャルキャストなどVR空間でのインタビューやVTuberとのコラボ配信を行っている。

『ミューコミVR』では、VR空間を駆使した配信番組を行っている

自身のYouTubeでの『ミューコミVR』では、VR空間からアバターを用いて情報を発信している。画像やアイテムや背景など、VR空間なので自由自在に動かせるのが印象的だ。
吉田尚記は顔出しの活動自体も辞めてはいない。あくまでも新しい発信手法の模索としてつづけている例だ。

声優とVTuberのコラボレーション

小野友樹はYouTubeでの活動でも基本的には顔出しをしている声優だ。しかし昨年半ばくらいから、にじさんじのベルモンド・バンデラスや黛灰、ホロスターズの夕刻ロベルや律可らとコラボが増えていくうちに、VTuberアバター「バチャゆー君」を使用するようになった。

律可とオンラインセッションを行った「バチャゆー君」こと小野友樹

女体化できちゃう自由度の高さが楽しい

小野友樹がVTuber文化を好んでいることも、アバターを用いて好き勝手できるのを楽しんでいることもよく伝わってくる。女性化アバターをわざわざ作っちゃったこともある。

彼にとってのアバターは自分の表現であり遊びであると同時に、VTuberと並ぶときのドレスコードのようなものでもある。人間と並ぶときはきちんと顔出しをしており、VTuberと一緒にやる際は自身もバーチャルアバターを活用して、同じ目線であろうとする。この姿勢は声優ファンにもVTuberファンにも好感度が高かった。

声優ファンとVTuberファンは必ずしも被っているわけではない。小野友樹が積極的に「バチャゆー君」であちこちに顔を出していることで、双方のファンが行き来して新しい幅を広げているのが、コメント欄やツイッターの感想から見ることができる。

にじさんじとタイムマシーン3号

VTuber事務所として巨大な核のひとつになっているいちから株式会社の「にじさんじ」は、自社の企画に他の著名人を呼ぶ際バーチャルアバターを付与し、話題性を盛り上げるのに成功している。

AbemaTVで放映されていた『にじさんじのくじじゅうじ』では、タイムマシーン3号のふたりが司会として抜擢された。その際レギュラーのにじさんじライバーたちは、3Dモデルでバーチャル空間に登場している。それに合わせてタイムマシーン3号のふたりも、3Dモデル化された。

おもしろいのは関太が女性キャラクター「天川さくら」になっていたことだ。元の顔とのギャップ自体がギャグとして笑えるのだが、番組が進むにつれてだんだんとそのぽっちゃりかわいい姿に人気が出てきて、ファンからかわいいと言われ始めた。実際天川さくら自身も「関」と呼ばれることを拒否し、少しずつ動きもおしとやかに変化して違和感がなくなっていった。運営側の遊びが視聴者の楽しみ方とピタッとハマった例だろう。

関太の「バ美肉」である天川さくらがかわいくて評判になった

にじさんじの公式チャンネルでは、倉本美津留が「ミラクルプロデューサー:クラもとミつル」としてアバターをまとって登場する『もっとミラクル!にじさんじ』という番組が配信されている(有料会員限定)。

にじさんじのライバーがやりたいことを「クラもとミつル」と台本なしでトークし、もっとおもしろいミラクルを起こそう、と現実的に探っていく内容だ。
クラもとミつルの姿はイケメンな奇術師のようで、かなりぐりぐりと動いてライバーに話しかけることができる。あくまでも一緒に夢を叶える水先案内人は「クラもとミつル」なので、倉本美津留本人は登場していない、というスタンスだ。
思いもしないようなかたちで、夢だと思っていたことを現実にしていく彼の行動力は、アバターと相まって本当に魔術師のように映る。

隠すことはプラスかマイナスか

YouTubeの登録者数1億人超えのPewDiePieは、普段は自分の姿を映しているYouTuber。しかし今年の頭にアバターを利用して動画を投稿したことがあった。

FaceRigの基本アバターを用いたもの

AR技術を用いた、顔を伏せた配信

これは「アバター化」というよりは「顔出ししない場合再生数は減るのかの実験」というほうが近く、いろいろな種類のアバターをとっかえひっかえ使用していた。結果としてアバター定着はしなかったようだ。それよりもトップYouTuberがアバターでの配信文化を意識した、ということ自体が大きな時代の変化だ。

ひろゆきこと西村博之も、中田敦彦のアバター化の話題に乗って、アバターを使った配信を行ったことがある。これはあくまでも「配信時にアバターでどこまで表情が出せるか」の実験だったようだ。ちなみに使用しているのはバーチャルアバターを動かすツール「FaceRig」の最初からついているアバターのひとつ。結果としては、ファンからはギャグとして捉えられたようだった。

【ひろゆき】顔出し辞めるの難しいのか実験。kwakを呑みながら。2021/04/07 M20

PewDiePieもひろゆきも、声と顔のイメージが一致しているがゆえに、違和感がものすごい。顔がコンテンツとして定着しているからだ。

おそらくまったく知らないVTuberが最初からこのアバターのこの声で話していたら、(人気が出たかどうかはともかく)違和感なくすんなり受け入れられただろう。そもそもVTuber文化より遥か前から、アバターイラストを用いて顔出しせず、トークや歌を披露する配信者は無数にいる。

「最初から顔出しをしない」ということ自体は、創作コンテンツのデメリットにはならない。ずっと真夜中でいいのに。、ヨルシカ、Eve、Ado、さよならポニーテールのようなアーティストは大ヒットソングを多数生んでいるが、アーティストの顔は基本出さず、MVはアニメーション等だ。そもそも自身のキャラクター性を売るわけではない場合、音楽を純粋に聴いてもらう際の邪魔にすらなるので出ない、という人もいる。

ゲーム実況者も顔出ししない人がほとんどだ。アイコンはあるものの、自身の顔は基本的に画面に映さない。見せるべきは顔ではなく、ゲームプレイのおもしろさとトークだからだ。

その点、大手実況者であるガッチマンが、それまでは動画では顔出しをしようとしていなかったにもかかわらず、バーチャルアバターを制作して3Dでの活動を開始したのは大いに話題になった。VTuber「ガッチマンV」としてのキャラ売りと、顔を出さないゲーム実況者「ガッチマン」の両輪で現在は活動しており、どちらも大成功。意外と被っていないVTuberファンとゲーム実況者ファンの両方にウケている。

10年来ガッチマンは姿を出さないゲーム実況者として活動しつづけている

「ガッチマンV」というアバターを用いてソロ配信やVTuberコラボも精力的に行っている

すでに顔出しをしてデビューしたタレントの場合、その人の「顔」を見つづけてきた視聴者からしたら、突然のアバター化は「顔」という情報が突然減ってしまったマイナスに見えてしまうのも事実だ。PewDiePieもひろゆきも中田敦彦も、みんな顔と動きも含めて1タレント・1キャラクターとして見ている。本人たちは「顔に頼らないコンテンツを提供しています」という自信があっても、ファンは「その人が話しているから観たい」と感じてしまうものだ。

身を守るリテラシーとして

たとえば中田敦彦のアバターも、VRchatに入り込むとかVR空間で講義を行うとかで使用するとしたら「新しい中田敦彦の顔」としてプラス要素になったはずだ。本人がアバター化を決意した際に言っていたように、生身ではできない表現ができるのがアバターの強みだ。

現在VTuberが増えつづけているのは、最初から自身の姿を見せず、自分の理想の姿で活動ができるからだ。性別を変えたい、人間ではなくなりたい、好みの見た目になりたい、物語を作りたい、というミラクルを叶えることができる。新たな活動でより都合がよくなるための衣装だ。今までの活動と別の人格で使い分けたい、という願いもこれで叶う。

中田敦彦は「失敗」とは言ったものの、彼が警鐘を鳴らした1点は頭に留めておきたい。「顔という個人情報」「デジタルタトゥー」の危険性だ。
彼は冒頭で挙げた動画でこう語っている。「プライバシーの問題ってよりヘビーになってきてる」「全員がカメラを持って全員が写真を撮って全員がツイートできる時代になってるじゃないですか。発信して顔を出して名前を出してやるリスクってけっこう大きい」

今は配信者がめちゃくちゃ増えている時代。大人も子供もホイホイと顔を出しできてしまう。インスタグラムやツイッターのみならず、今はスマホ1台で簡単にライブ配信ができるアプリが山ほどある。
一般人の子供たちは、顔を情報コンテンツとするタレントではない。身を守るためのリテラシーとして、顔を隠すアバター文化は教育を通じて、あるいは有名人の活動を通じて、浸透していってほしい。そしてアバターになれば、より新しいVR・AR体験ができる時代は、すぐそこまで来ている。

『サマーウォーズ』で、普段PCを使わなさそうなおっちゃんたちもアバターを持っていたシーンを思い出す。『どうぶつの森』でSNS的にオリジナルアバターを使う感覚が今の世代にはすでに身についているのだから、そこまで難しい話ではないはずだ。

たまごまご

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