
板倉俊之 撮影/片岡壮太
芸人・板倉俊之の独特な世界観は多くの人から支持されている。お笑いコンビ・インパルスで極上のコントを生み出してきた才能は小説家としても花開き、小説デビュー作の『トリガー』は各方面から絶賛。6冊の作品を世に送り出した。開設した自身のYoutubeチャンネルも人気を博している板倉さんにとっての重要な変化「THE CHANGE」とはなんだったのだろうか?【第5回/全5回】
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お笑いコンビ・インパルスを結成し、早25年。大人気番組『はねるのトびら』のレギュラーとして活躍し、作家としての才能も開花。サバイバルゲームやハイエースといった趣味の面でも絶大な支持を受けてきた板倉さんだが、一流のコント師としての評価は揺るがない。そんな板倉さんに起こった芸人を始める前と後での変化、「THE CHANGE」について話を聞いてみた。
「やっぱり充実感はまったく違うと思いますよね。芸人を始める前はガソリンスタンドでバイトしていたんですけど、舞台でネタをやってウケたときに“バチン”とくる感覚がすごいんですよ。自分が作ったからこれを味わえたんだっていう感覚と、バイトでマニュアルがある中での仕事をこなしていくっていうのとでは、全然違うなっていうのは思いました。
だから“自分ならでは感”が強ければ強いほど、たぶん快楽が上に行くんじゃないかなと思うんですよね。俺じゃなくてもいいなっていうところにいるより、自分がいなかったら存在してないものを知ってしまうと、なかなか戻れないかもしれないですよね」
板倉さんが舞台で味わった「バチンとくる感覚」。それを初めて感じたのはいつ頃のことなのだろうか。
「最初に舞台に出て笑いが取れたときですかね。もう、とにかくメチャクチャ嬉しかったのを覚えています。あ、でもこれはインパルスの話ではなくて、最初に組んでいた現在のロバートの秋山と馬場とのトリオの話なんですけど。このあたり、ちょっとややこしいんですよね。
一番強烈なのは、単独ライブだったかもしれないです。自分たちで考えて自分たちしか出演しないっていうので、責任を負いながら上演した一番最初の単独ライブの充実感はとにかくすごかった。単独ライブって準備とかすごく大変なのに、芸人がそれでもやり続けるというのは、あれ以上の快感がないからなんですよ、おそらくは」
反応が直にくるってのが良い
板倉さんをして「あれ以上の快感がない」と言わしめる単独ライブの魅力。それがどんなものなのか重ねて聞くと、芸人ならではの舞台と客席の関係が浮き彫りになってきた。
「反応が直にくるってのが良いんですよね。お客さんが喜んでるのを実感できるのが。逆にミュージシャンがバラード歌ってる時って、お客さんが静かに揺れてるだけだったりしますけど、あれは芸人には耐えられないんじゃないかなと思いますよ。“今大丈夫? 受けてる?”って思っちゃって。
アップテンポの曲とかでみんながワーってやってたらちゃんと届いてるってわかるじゃないですか。バラードの時、たぶん不安になるだろうなって思うんですよ。確信が得られないっていうか、DVDとかで見ると感動してる女の人の顔とかが映るから、そういうのがあれば違うんでしょうけど」

板倉俊之 撮影/片岡壮太
笑いとそれ以外のステージアクトにはたしかに大きな違いがある。音楽や演劇ではじっくり静かに楽しむという時間があってもよいが、お笑いにとって静まり返るということは、そのまま“ウケていない”ということになる。この緊張感を抱えながら、それでも芸人は舞台に立ち続けていく。
様々な「THE CHANGE」を繰り返してきた板倉さん。これからも新しい魅力を世の中に発信し続けてくれることだろう。
■プロフィール
板倉俊之(いたくらとしゆき)
1978年1月30日生、埼玉県志木市出身。NSC東京校4期生で、同期の堤下敦と98年にお笑いコンビ・インパルスを結成。『爆笑オンエアバトル』や『エンタの神様』など数々の番組で活躍すると、2001年から始まった伝説の番組『はねるのトびら』のメンバーとしてお茶の間の人気者となる。最近ではYoutubeでハイエースによる一人旅などの趣味を生かした、その名も「板倉 趣味チャンネル」を開設し多くのファンを獲得。また2009年には処女小説となる『トリガー』を上梓。現在までに小説6冊を世に送り出し、作家としても才能を発揮。23年8月に最新著作として自身初のエッセイ集『屋上とライフル』(飛鳥新社)を出版。
THE CHANGE編集部