ドイツ人上司に「目標管理が緩いのでは?」返ってきた意外な答え

ドイツ人上司に「目標管理が緩いのでは?」返ってきた意外な答え

  • JBpress
  • 更新日:2021/06/11
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(写真はイメージです/Pixabay)

日本より年間労働時間が日本より300時間短く、時間当たり生産性が1.4倍高いドイツ。ドイツ人の日々の働き方は日本人とどう違うのか? 隅田貫氏(メッツラー・アセットマネジメント シニアアドバイザー)は1985年からドイツで暮らし、2005年にドイツの老舗プライベートバンク、メッツラー社フランクフルト本社に日本人として初めて入社した。隅田氏が目の当たりにした、生産性の高いドイツの働き方のリアルを著書『ドイツではそんなに働かない』(角川新書)から一部抜粋・再編集してお届けする。(JBpress)

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変えることに躊躇しない

私がメッツラー社に入社して程なく、当主である11代目のフリードリッヒ・フォン・メッツラー氏に初めて挨拶に行きました。

ドイツで330年以上(当時)も続くプライベートバンクの創業者一族です。きっと広い部屋に高級そうな絨毯が敷き詰められ、天井からはシャンデリアが下がり、大きなソファセットなどのインテリアも高価なものばかりなのだろう・・・そう思っていた私は、部屋に一歩足を踏み入れた途端、拍子抜けしました。

普通の会社の小さな会議室並みの広さの部屋で、秘書の机もそこにありました。絨毯は敷かれておらず、デスクや本棚のほかは客を迎えるソファセットがあるだけ。どれもシンプルで使いこんであり、とても老舗企業のトップが使っているとは思えない簡素な執務室だったのです。余計なところにはお金を使わないドイツ人らしいな、と感じました。

入社した挨拶をすると、彼は次のように言いました。

「われわれにとって大切なことは、あくまで独立性です。どこからも買収されないし、どこも買収しない。会社が誰のものかという議論は気にしなくてよい。安心して、顧客のために良いと思うことがあれば、すぐに行動してください」

そこで私が「わかりました。さっそく明日から今のことを肝に銘じて頑張ります」と答えると、当主はちょっと意外そうな表情をして、「なぜ、『今日から』と言ってもらえないのでしょうか」と言いました。私は「わかりました、今日から頑張ります」と慌てて言い直しました。

何百年も続く伝統のある銀行であっても、変えることに躊躇しないのです。もちろん守るべき伝統もありますが、時代に合わせて変えなければいけないものは変える。そういうカルチャーは日本ではなかなかないかもしれないと感じました。

自分でかなりの部分を決断

私がメッツラー社から学んだことの一つは、「現場の自由度」の高さです。

日本の会社に勤務していたときは、自分一人の裁量で判断できることにはかなりの制限があり、上司を含め、関係の本部等に“逐次”と言っても過言ではないほど報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)を求められました。その結果、結論・判断が示されるまで相当な時間が必要になることも少なくありませんでした。

そのような環境から、メッツラー社に入社した途端、自分でかなりの部分を決断できる状況に変わりました。

最初はプレッシャーも感じましたし、躊躇しました。しかし、徐々に慣れていくと「こんなに仕事をやりやすい環境はないな」と思うようになったのです。

同僚は上司が不在だったときに、「今日は俺が判断するよ」と言い、実際に顧客から連絡が来たときも、「それはこうしましょう」と話を進めていました。日本だったら、「今日は上司が不在なので、相談をして明日以降にご連絡いたします」と伝えることが多い場面です。

翌日出社した上司は、同僚の進めた案件について報告を受けても、何も言いませんでした。これも日本ではあり得ません。たとえ部下の進め方が正しかったとしても、「何で俺に何の相談もなく話を進めたんだ!」と上司は怒り心頭に発するでしょう。

それは結局、責任を負うのを避けているのかもしれません。何かトラブルが起きたときに責任を取らされたくないから、自分が関知しないところで行動されたら困ると考えるのでしょう。

日本では仕事を管理するつもりが、人を必要以上に管理することになっているのかもしれません。

「圧力」をかけない上司

管理の典型例が、「ノルマ」の設定です。私のいたドイツの会社でも、ノルマというか、計数目標は当然あります。ただ、計数目標だけでいたずらに社員を追い込む光景は見たことがありません。

日本の企業に勤務していたころは、目標設定→業務遂行→定期的な進捗状況確認→状況把握、分析、反省→対応協議、遂行→定期的な進捗状況確認→・・・といったサイクルで、常に計数目標の達成状況がチェックされ、状況によっては「叱咤激励」が飛ぶことも珍しくありませんでした。

メッツラー社に入社してしばらくしたとき、尊敬するドイツ人の上司(私を採用してくれた方)に思い切って質問しました。

「目標管理がすこし緩いのではありませんか。もっと定期的に進捗をチェックしていかないと、目標必達は難しいのではありませんか?」

そのときの上司の答えは、今でも忘れられません。

「スミタさん、あなたの言われることはよくわかります。私も日本で10年近く仕事をした経験がありますから。私の地位、立場からすれば、そのようなことはいとも簡単です。今からでも、すぐにできます。でも、私はそのような圧力をかけたり管理をしたりは決してしません。なぜなら、たちまち『できない理由』が数えきれないほど上がってくるだけだからです。私が知りたいのは、どのように前に進むかであって、前に進めない理由ではありません。そのような圧力では社員の士気は上がりません」

目から鱗が落ちる思いでした。

確かに会社の規模や経営実態に応じて、目標管理や社員の士気向上への方策はさまざまです。ただ、私は「北風政策」ではなく「太陽政策」で社員の士気向上を図る上司の考え方に心の底から共感し、意欲を新たにしました。

部下に考えさせ、リードをとった行動を促す。いちいち報告を求めない。

自主性を重んじるこうした環境は、生産性を上げるにはとても大切な点です。

実際、私の上司は“超”のつく多忙な日々を送っていました。フェイス・トゥ・フェイスで直接話をする機会など1カ月に2~3度あればよいほうです。でもお互いの信頼があれば、まったく問題ありません。メールもあります。意思疎通は十分可能です。そのため、報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)は、日本の会社時代から比べると極端に減りました。それでも十分ビジネスは進みます。

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ドイツではそんなに働かない』(隅田 貫著、角川新書)

自主性が育てば、ムリ・ムダな労働時間がなくなり、生産性も上がります。

もちろん、部下の自主性を育てるには、「ただ、任せておく」だけではことは前に進みません。

部下の不安にも寄り添いながら、距離を上手くとることではじめて、自主性が育まれ、士気向上、そして生産性向上へつながります。

隅田 貫

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