成田凌と前田敦子による異世界不倫物語『コンビニエンス・ストーリー』の魅力

成田凌と前田敦子による異世界不倫物語『コンビニエンス・ストーリー』の魅力

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2022/08/06
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8月5日より映画『コンビニエンス・ストーリー』が公開されている。

三木聡監督・脚本作品は直近で『大怪獣のあとしまつ』が阿鼻叫喚の酷評の嵐となったことが記憶に新しい。個人的に同作は2022年のワースト映画(現時点で決定)であり、観ながら失望が怒りへ、やがて憎しみへと変わっていき、最後には虚無となる感情の流れが今でも思い出せる唯一無二の作品だった。現在はレンタル配信が行われているので、ぜひ仲の良い友だちと一緒に観て、一緒にマジギレしながら語り合うなどして楽しんでほしい。

しかしながら、今回の『コンビニエンス・ストーリー』はストレートな意味でちゃんと面白い。三木聡監督はもともと『亀は意外と速く泳ぐ』(2005)や『転々』(2007)などシュールな笑いを打ち出した作品で評価されており、比較的あの頃に近い「三木聡ワールド」を楽しめる内容に仕上がっていたのだ。具体的な魅力を記していこう。

『世にも奇妙な物語』的な異世界もの×危険な不倫サスペンス

あらすじは「売れない脚本家が、霧の中で佇むコンビニに迷い込み、なぜか乗って来たトラックが消えてしまい帰れなくなってしまう」というシンプルなもの。成田凌演じる主人公ははっきりと「異世界」へと迷い込んでおり、その奇妙なシチュエーションからドラマ『世にも奇妙な物語』や『トワイライト・ゾーン』を連想する方も多いだろう。

その異世界で最初に出会うのがミステリアスな女性に扮した前田敦子であり、さらにその夫であるコンビニオーナーが底知れぬヤバさを醸し出す六角精児というのも面白い。成田凌は「何かがおかしい」夫婦を相手にして「しどろもどろ」になっていく。そして前田敦子は憂いを帯びつつもエロティックな雰囲気を醸し出し、2人の関係は危険な不倫にまで発展していくのである。

下世話な言い方をすれば「狂気的な夫がすぐ側にいる中での不倫サスペンス」でもある。巻き込まれ体質の成田凌、もはや妖艶な前田敦子、「こいつの逆鱗に触れると殺されるかもしれない」ことが徐々にわかっていく六角精児という三角関係そのもの、クセの強いキャラに完全にハマった三者三様の演技を大いに楽しめるはずだ。

成田凌と前田敦子それぞれの特性が生かされた役

成田凌はクズ人間から善良な青年まで幅広くこなせる俳優であり、良い意味での「やさぐれ感」「ものぐさ感」が演じる役に反映され、母性本能をくすぐるような魅力もプラスされる方だ。失礼な言い方で恐縮だが、今回の「なし崩し的に不倫関係になっていく」ダメな役に、その俳優としての特性が大いに生かされていたように思う。

前田敦子もまたダメ人間から可憐な女性まで演技の幅の広さがあると同時に、また失礼な言い方で申し訳ないが「常に居心地の悪さを感じてそう」な印象も、今回の夫に対して「実は冷めている」役にはピッタリハマっていた。ギラついた狂気を見せていく六角精児との掛け合いそのものがスリリングかつ「そんな夫とは別れようよ」と思えるのは、前田敦子その人が魅力的でもあるからなのだろう。

思えば、『大怪獣のあとしまつ』の問題は、「怪獣の死体をどう処理するか」という科学的な考証や政治上の軋轢などの「リアルさ」が期待されるメインのプロットと、三木聡監督印のシュールな笑いや「え? 何この状況?」となる不条理劇と全く、噛み合っていないことだった。その上、繰り出されるギャグのほぼ全てが短絡的かつ不快で、しかも本筋といくらなんでも関係がなさすぎると、監督の作家性が見事にマイナス方向に働いてしまっていたのだ。

だが、今回の『コンビニエンス・ストーリー』では、「山奥の霧の中になぜかコンビニがある」「その中に妖艶な人妻がいて不倫関係に」「その夫から敵意を感じるし何なら殺されるかも知れない」とう不条理サスペンスが中心に据えられているので、主人公が状況に困惑する様がそのまま物語と密接に絡んでいる。

しかも、『コンビニエンス・ストーリー』での「何言ってんだこいつ?」と思いたくなるギャグ的な言動は、笑いよりもその不条理な状況でこその意味不明さのほうが打ち勝つため、ホラーとして怖くなる。「笑いと恐怖は紙一重」と言うが、今回は三木聡監督のシュールな笑いという作家性が「不条理ホラー」へも転換して、完全にプラスとなっていたのだ。そのギャグのほとんどは物語と関係ないものの、数自体は多くない。その中ではコンビニオーナーの「趣味」は訳がわからなすぎてマジで怖いし、とある「名前」に関するギャグが「あるポイント」で伏線回収されるのは悔しいけど笑ってしまった。

思えば、今回の『コンビニエンス・ストーリー』の中心にある「不倫」「三角関係」という要素は『大怪獣のあとしまつ』にもあった。酷評ポイントがいくらでも思い浮かぶ同作において、その三角関係そのものは興味を引くものであったので、三木聡監督は今回もその面白さを打ち出そうと画策していたのかもしれない。

普遍的な人生訓が込められている?

本作の企画および原型となる物語を考案したのは、映画評論家のマーク・シリング。彼によると、もともとのアイデアは「東日本大震災が起きた時に、東京のあちこちのスーパーの棚が空っぽになった中で、コンビニが砂漠の中のオアシスみたいな存在になったこと」から発展し、「世の中がコンビニ一軒になってしまえば、その中だけで生活できるのではないか?」と考えたことがきっかけになっているのだそうだ。また、ダンテの『神曲』も参考にしており、劇中の異世界は天国でも地獄でもない「煉獄」をイメージしているという。

「煉獄にある何でも揃うコンビニ」という舞台は象徴的だ。売れない脚本家の主人公はそこに迷い込んで、脚本の執筆作業は今までにないほどにはかどり、外界との連絡も取れるし、何よりコンビニには食糧も水も何でもあるので「ここだけで生きていける」状況になっている。あまつさえ、エロティックな人妻からは性的なアピールもされて(彼自身にも彼女がいるので)W不倫の関係にもなる。それ自体は特殊中の特殊であるし許されないものだが、実は「思いがけない」状況で「人生の選択」に迫られるということ自体は、普遍的なことなのではないか。

事実、劇中には「人生の重要なきっかけは咄嗟にやってくる。そんな重い足取りでやってくることってそんなにないですよね」や「人生あまり、期待しない方がいいですよ」といった人生への哲学的な言及がある。脚本の執筆作業に悩む主人公の姿は、そのまま三木聡監督に重なって見えるので、作り手の思想がストレートに表れている作品と言える。

そして、クライマックスからラストは、観る人によって解釈が分かれる、これぞ不条理劇であり三木聡イズム!という着地になっている。安易な結末に落とし込まない結末からも、「人生ってままならないな」といった、やはり普遍的な人生訓を思い知らされるだろう。

『コンビニエンス・ストーリー』

出演:成田凌、前田敦子、六角精児、片山友希、岩松了、渋川清彦、ふせえり、松浦祐也、BIGZAM、藤間爽子、小田ゆりえ、影山徹、シャララジマ
監督・脚本:三木聡
企画:マーク・シリング
c)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

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