【小説】敗戦から五日後...三好勢と畠山勢の戦いの行方

【小説】敗戦から五日後...三好勢と畠山勢の戦いの行方

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  • 更新日:2022/05/14
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【前回の記事を読む】【小説】突然の凶報に動揺する中、向けられたのは疑念の眼差し

永禄五年(西暦一五六二年)

久米田の敗戦から五日後、義長様を総大将に儂ら三好勢は勝龍寺城を立ち、飯盛城の北二里、淀川を隔てた摂津の鳥養に布陣した。

「今村慶満様、ご着陣」

慶満率いる細川氏綱様御家来衆が参陣した。

「吉成信長様、ご着陣」

実休の遺臣吉成信長が散り散りになっていた遺臣らを糾合して参陣した。

「松山重治様、ご帰陣」

松山重治が飯盛城から戻り、本陣に顔を出した。

「ただ今戻りました」

「おぅ重治、ご苦労であった。して、父上の御様子はいかがであった」

義長様は、まず長慶様の安否を気遣った。

「飯盛の御屋形様は、肝が据わってござる。

実休様が討たれた日も連歌会の最中であったそうで、隣席の客が『芦間にまじる薄一むら』と詠んだ時に御屋形様は実休様の戦死の報に触れたそうですが、顔色一つ変えることもなく『古沼の浅きかたより野となりて』と詠み付けて称賛されたという。

その後、御屋形様は実休様の死を客の皆様に告げられ、客の谷宗養様、里村紹巴様らに早く帰るよう勧めたそうです」

重治は、陣内の緊張感を解(ほぐ)すかのように、あえて明るい声で飯盛城の長慶様の様子を参集した諸将の前で物語ってみせた。

「ほんに我が御屋形様は肝の太いお方じゃ。それなら飯盛城は心配ござるまい」

変事にも動じない長慶様のご様子を思い浮かべながら、儂は感心して聞いていた。

「父上の御様子は相(あい)わかった。して、父上の御指図は……」

「飯盛城に籠城し、畠山勢を引き付けておく。飯盛城は二月(ふたつき)や三月(みつき)くらいはもつゆえ、充分に兵を集めてから後巻きに攻め寄せよ、との御指図でございました」

畠山勢は凡そ四万の大軍をもって、孤立した飯盛城を囲んだが、鳥養の三好の陣にも池田長正、伊丹親興、有馬村秀、能勢頼道、塩川長満などの摂津の国衆が続々と参陣してきた。

「内藤蓬雲軒様、ご着陣」

鳥養に布陣してから一月(ひとつき)後、蓬雲軒と号した甚介が丹波から参陣した。

「兄者、元気そうじゃのう。たいそう御出世されたそうで、鎧も太刀もかなり値(ね)の張りそうな物を着けておられる。御立派に見えますぞ」

「からかうな。甚介に言われると、何やらこそばゆいわ」

少々嫌みに聞こえるが、これが甚介流の祝意の表し方だと儂は承知している。

「よう来てくれた。丹波の仕置きはキツかろうに……」

「おうよ。小蝿どもがブンブンと煩(うる)そうて敵(かな)わぬ」

甚介は減らず口を叩いた。

甚介が参陣した二日後、凡そ四万の畠山勢は二度にわたり飯盛城に総攻撃を仕掛けたが、長慶様の守りは堅かった。

気掛かりだった大和国については、筒井、井戸、十市、箸尾などの国中(くんなか)衆に加え、沢、秋山、芳野の宇陀三人衆もこぞって河内に出張り、畠山勢に加わっているため、大和国内は平穏であると、松永派の柳生宗厳から知らせがあり、安堵した。

鳥養に布陣してから二月(ふたつき)も経つと、四国勢が遠来し、儂ら三好勢は五万の大軍に膨れ上がった。四国勢の諸将は皆、頭を丸め、安宅冬康は宗繋と号し、篠原長房は岫雲斎怒朴と号し、淡路衆・阿波衆を率いて三好実休の弔い合戦に臨んだ。

畠山勢は四万の大軍であったが、鳥養の三好勢がそれを上回る勢いを見せると、飯盛城包囲の後巻きにされるのを嫌って動き始めた。

「申し上げます。畠山勢が城の包囲を解き、南下を始めた模様」

物見が伝えて来た。

「若殿、いかがいたしましょうや」

「霜台は如何にみる」

そう問う義長様の御姿は、もはや若かりし頃の長慶様に生き写しで、その眩さに目を細めながら儂は応じた。

「退くと見せかけて、我らが淀川を渡河するのを見図って反転し、寄せ返して来るやも知れませぬ」

なぜならば、渡河する軍勢はその無防備な状態を敵に晒すことになるからである。

「私もそう思う。ただし、渡河の準備だけはしておこう。全軍に渡河の支度をいたすよう申し伝えよ」

伝令が散っていった。

だが儂らの心配を他所(よそ)に畠山勢が反転攻撃することなく、大軍は静かに南の高屋城方面へと退いていった。それを見極めた儂ら三好勢は全軍で淀川を渡河し、飯盛城に向かった。

「伝令っ伝令っ。御屋形様の御指図でござる」

飯盛城からの早馬が言うには、

「私への挨拶など要らぬ。早う畠山勢を追え」

とのことであった。

児玉 望

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